百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで 作:流石ユユシタ
俺が千冬と話をして彼女に夕食でも持って行こうと一度リビングに戻る。リビングでは千春が千夏と千秋の顔を眺めていた。俺に気づくと彼女はこちらに目を向ける
「どうでしたか?」
「少し、元気は出たって言ってくれた……俺が気を遣われたのか、そこら辺は分からないんだが……」
「そうですか……多分、それは嘘ではないと思います。ありがとうございます。お兄さん」
「どこまで、俺が役に立ったか分からないが……一応どういたしまして。それで千冬が夕食食べるって言ってるけど一緒に食べるか?」
「もう少し、時間をおいてあげたいので今はいいです。千夏と千秋ももう少し寝かせて……」
「「パチッ」」
千春がそう言うとタイミングよく二人の目が開いた。二人は千春の太ももから頭を上げて周りを見る。千夏は俺を見て千春の背に隠れる。千秋は俺を見たが直ぐに周りを見渡す。千夏も背に隠れながらも周りを見渡して二人して千冬を探す素振りを見せた。
「千冬なら大丈夫。お兄さんが話を聞いてくれたら元気出たんだって……」
「そうかッ! ありがとうカイト!」
「……ありがとうございます」
「ああ、まぁ、そんなお礼言われるほどの事じゃ……どういたしまして」
千秋と千夏がお礼を言ってくれる。素直にお礼は貰っておこう。
「じゃあ、飯だな! カイト、夕食はなんだ!」
「肉じゃがだな」
「そうか! きっと千冬も喜ぶぞ! カイトのご飯は食べると元気が出るからな!」
そう言われると普通に嬉しい。しかし、どうするんだろうか。4人で食べるか、時間を置くか。
千春に目を配ると彼女は僅かに考える。複雑そうな顔をして考えているとリビングのドアが開いた。誰が来たのかなんてすぐにわかる。そこには千夏や千秋のように目元を腫らせた千冬が居た。
千秋は元気が出たと信じてやまないから、直ぐに駆け寄る。
「おお! 千冬! 元気出たのか!」
「ごめんなさいッス秋姉。心配かけて……」
「気にしてないぞ! お姉ちゃんだからな!」
「夏姉もごめんなさいッス……」
「私も心配かける時あるし、気にしなくていいわ」
「……春姉もごめんなさいッス」
「うちもごめんね……何も言うことが出来なかった。長女なのに……」
「そんなこと」
「もう、互いに謝ったんだからもういいな! ご飯食べよう!」
「そうだね……一度謝ったんだからしつこくしなくてもいいね」
「そうっスね……」
千秋が険悪になりそうな会話に入り込み会話を止める。そして、そのまま良い笑顔で俺の方を向いた
「カイト! ご飯お願い! あー、お腹空いた~! そうだろ!?」
「そうっスね」
「うちも」
「私も」
「良し、じゃあ、準備するから待っててくれ」
俺はいつも通りトレイに料理を乗せる。トレイは千春だが乗り切らない物は姉妹で分担して持っている。
そして、そのまま4人は再びお礼を言って部屋を出て行った。4人が2階に上がって行く音が聞こえる。このまま部屋で4人でご飯を食べるのかと思ったが今度は階段を下る音が聞こえてきた。
誰が再び戻ってきたのだろうか。気になってドアに注目すると来たのは千冬だった。
「魁人さん……」
「千冬。どうした? 箸が足りなかったか?」
「そうじゃないっス。その、さっきはありがとうございました。千冬、あんなに熱い言葉を言われたのが姉妹以外では初めてで、そのとっても嬉しかったッス……えっと、その、抑えられない感謝と言うのを伝えたくて、でも、姉たちの前だと恥ずかしいから、だから……お礼を言いたくて、来たッス」
若干、しどろもどろになりながらも彼女がそう言った。俺は全然良いことを言えなかったが僅かでも彼女の為になったのであればよかったと思う。
「あー、どういたしまして。何かあればまた聞くからな」
「はい、その時はお願いするッス……じゃあ、この辺で。あ、あといつも美味しいごはんありがとうございまス……」
「おう、いつも残さず食べてくれたありがとうな」
彼女はちょっとだけ笑って一礼すると再び上に上がって行った。
俺に何が出来たのか良く分からない。
あの時、もっと良いことを言えたはずだが何も言えずに綺麗事しか言えなかった。共感をしてあげたりするべきだったのかもしれないが彼女の人生での苦悩や葛藤は俺が分かるはずがない。
それを分かったふりなんて出来ない。千冬の事を知っていたはずなのにそれなり以下の事しか言えず、つまり、何も出来なかった。
千冬は本当に元気になったのだろうか。気を遣っているだけなのではないだろうか。
難しいな……
◆◆
4姉妹は以前のように楽しそうに話すようになっていた。夕食を食べお風呂に入り、その時に僅かだが様子を見えた。
目元が腫れていたが4人共笑顔だったので良かったなと思う。
そのまま4人は2階に上がって行った。お風呂から上がったところも見たが既に千秋と千夏は欠伸をしていたからグッスリだろうな。
一人、リビングでソファに座っていると千冬との会話を思い出す。千冬、大丈夫かな。元気になったのか。これからも悩んでしまうのかと考えると気が気がじゃない。音のないリビングで考えていると再び誰かが下の降りてくる音が聞こえる。
「お兄さん」
「千春、どうした?」
降りてきたのは千春だった。
「もう一度お礼を言いたくてありがとうございました」
「ど、どういたしまして……でも、そんな気にしなくてもいいぞ? 何度も言うがあんまり大したことは言っていないんだ」
「そんなことは無いですよ。うちはどんな話をしたのか具体的な所まで聞いてはいませんけど千冬が元気になったのは間違いなくお兄さんのおかげです。千冬は姉妹の中の特別しか知らなかったけど、お兄さんと話して色んな特別があるって分かったからもう一度頑張ろうって思ったんだと思います……多分ですけど……」
「そうか……」
「お兄さんにとっては大した事のないと思っていたとしても、千冬には今までにない大きなものだったのではないかと……」
「そういう事なのか……難しいな……」
「そうですね……」
そういう事があるのか……難しいな。本当に難しい。逆もあると言う事だよな。俺の何気ない発言が傷つけることもある。そうはならない様にするのが大前提だけど、俺も完璧じゃない、言葉の意味の食い違いなどで傷つけることもある。
下手にトラウマに関わったりしても……余計な事だった場合もあった。千冬が偶々上手く行っただけ……なのかもしれない。
自分のトラウマとかってあんまり触れて欲しくない事もあるだろう……
……考え過ぎてしまった。千春を待たせている。
「……ああ、すまん。つい考えてしまった。お礼は受け取ったからもう寝てくれ。わざわざありがとう」
「いえ、こちらがありがとうございました。おやすみなさい」
「おやすみ
彼女の階段の上がる音が聞こえた。千春も疲れているだろう。今日はゆっくり休んでほしい。
俺は……洗濯や明日の準備もある。いつまでも座っていられないと俺はソファから腰を上げた。
◆◆
昨日は姉達と少し溝が出来てしまいかけたが、魁人さんと話してそれを修復できたと同時に何か大きな物を得ることが出来た気がする。
ランドセルが軽くて視界と頭の中がクリア、非常に体の調子がいい。姉達とも昨日の事が嘘のように気軽に楽しく話せる。
自分を、千冬を特別だと言ってくれた。それだけの言葉と事実があるだけでこんなにも違うのだと驚いてしまう。
「ねぇ、昨日、アイツと何話してたのよ」
「え?」
教室の一角、窓側の一番後ろの席で座っていると夏姉が千冬に昨日の事を聞いてきた。魁人さんとの会話は誰にも言っていない。昨夜の夕食の時に秋姉にも聞かれてもお茶を濁すようにしたから気になっているのだろう。
「あー、まぁ、世間話的な感じっス……」
「ふーん。で?」
「で? って言われても……」
「どんな世間話だったのって聞いてるの。昨日も誤魔化すし、姉の私にも言えない事なの?」
「あ、いや、そんなこと……無いっスけど」
「じゃあ、何? 元気が出るような事言われたんでしょ? もしかして、魔法ステッキとか買ってくれるって言われたりとか?」
「それは流石に違うっス……」
夏姉はどうして昨日千冬が落ち込んでいたのは分からない。分かっているのは春姉だけだと思う……。
昨日、真っすぐに特別と言ってくれた時……行って貰えた時……
「アンタ、顔赤いけどダイジョブ?」
「へ、平気ッス……」
「なら、良いけど……あ、それで昨日の……」
夏姉が聞いてくるのを流したり、誤魔化したりしながら思った。
きっと、姉妹である以上、誰かに比べられることがあるだろう。自身で比べてしまう事もあるだろう。
それで一人ぼっちと思うかもしれない。寂しいと思うだろう。
姉たちは特別であると言う認識は変わらない。それに何度も悩むだろう。
一生、悩むかもしれない。
でも、自分を特別と言ってくれる人が居てくれるだけで少しだけ、未来が明るく見える気がした……