百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで   作:流石ユユシタ

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感想等ありがとうございます。目を通させていただいています。


20話 最後の日は荷物が多い

 うち達は四年生、二学期最後の小学校生活を終えてバスに乗っていた。小学校最後の日は荷物が沢山ありいつもより疲れる。

 

 

「冬休みは宿題が多いから嫌なのよね……」

「だが、ワークは答え見れば二時間で終わるぞ」

「確かに。いかに早く答えを写すか、違和感なく写すかそこが問題ね。算数は途中式の計算が無いと怪しまれるから気を付けないと」

「確かに!!」

「いや、それじゃ宿題の意味がないっスよ」

 

 

 千夏と千秋が前で冬休みの宿題をいかに早く終わらせるか話している。今は自由。そして、冬休みが始まる。やれることもやりたいこともあるから、宿題なんて足枷は早々に外したいのだろう。

 

 だが、真面目な千冬はそれを止める。前で座る二人に後ろから会話に混ざる。

 

 

「宿題って自分の為にやるものっス。だから、ズルとかは絶対にやってはいけないっス。特に二人は……その、もう少し勉学に励まないと……ね、ねぇ? 春姉?」

「……そうだね。ズルはダメかな?」

「ええーー? 面倒くさいぞ」

「そうよ、バレなければ良いのよ、所々適当に間違っておけば実際にやったリアリティでるし」

「あ、二人共千冬が言ってることを全く理解していないっスね……」

「二人共、しっかり宿題はやろう……ね。 じゃないと分からない問題をうちが教えてあげられなくて姉の威厳を見せる機会が減っちゃうから」

「春姉もかなり私的な理由……」

 

 

 答えを写すなんて言語道断。姉と妹のコミュニケーションの場が減るのだけは勘弁だ。

 

「とにかく、二人共宿題は答え写すの禁止。その代わり、うちが付きっきりで教えるから。勿論千冬も」

「あー、千冬は全部自分で」

「そんなこと言わないで。分かる問題も分からない問題もど忘れした問題も全部聞いても良いんだよ?」

「え、遠慮しておくっス……」

「そう……」

「あ、そんな悲しそうな顔しないで欲しいっス……わ、分からない所あったら春姉に聞くっス、それで……」

「うん! 任せておいて!」

 

 

うちの体から無限のエネルギーが湧いてくるようであった。妹達と落ち着いた環境で出来る宿題とは素晴らしい。

 

 

千冬は苦笑いをしながらも会話が途切れるのを見計らって窓の外を眺める。窓の外には灰色の雲から雪が町並みに降り注いでいた。

 

「……」

 

千冬は何も言わずにただ、外を見ている。何を考えているんだろうか。最近、こういう感じの千冬をよく見る、もどかしそうに何かを探しているような……

 

「それにしても西田は最後の日まで我に突っかかってきたな」

「西田?」

 

西野じゃなかったっけ? まぁ、どっちでもいいけど。そいつが今日も千秋に絡んできたのだ。今年最後の体育の時間。最後だからと先生がやりたいスポーツをやって良いと言うのことでアンケートでドッジボールをすることになったのだ。

 

『おい! 俺の勝負しろ! 馬鹿!』

 

例の如く西野の煽り。ああいうのカッコいいと思っているのであれば間違いである。小学四年生。そろそろ通じない時期が来るだろう。

 

まぁ、そんなこんなでドッジボールが始まり、それで千秋は無双をした。

 

その後の給食でもやたら絡む西野。

 

 

「へぇ、そんな奴がいるのね」

「そうだ。そんな奴がいるのだ」

「……ふーん。それってもしかしてアンタの事が好きなんじゃないの? その西田って奴」

「はぁ? どうしてそうなる? 仮に好きだとするなら何故煽ることをする」

「アンタには分かんないか。このウニのジレンマが……」

「どういう意味だ?」

「好きな相手にはついつい意地悪をしてしまうのが小学男子らしいわよ」

「それ何処ソース?」

「冬が読んでた恋の本」

「ぴゅえ?!」

 

千冬……こ、こここここ恋してるの? まさか、そんな……いやでも、もしかしたらうちの思っている恋とは違うかもしれない。もしかして故意? それとも鯉? の可能性もある。

 

千冬が千夏に本の事を話されると窓を向いていたはずの顔がギョッとする。

 

「ほう? 千冬よ。恋の本を読んでいるのか?」

「え!? あ、いや、え? 偶々手に取ったのがそれってだけで……その……」

 

 

どうして、そんなに顔が赤くなるの? その反応は犯罪の故意についてとか、魚の鯉についてじゃないよね。ええ!!? こ、恋の方で確定じゃん。

 

ち、千冬、一体だれに恋を……

 

「それ、どんな本なんだ? 我に見せてくれ」

「そ、それはちょっと……」

 

恥ずかしそうに両手の人差し指を千冬は合わせたり、離したりしている。うん、全世界にこの可愛さを伝えたい。

 

って違う。今は千冬の恋の相手を知らないと

 

「なんだ? そんな恥ずかしい本なのか?」

「そうじゃないっスけど……」

「まぁ、良い……話を戻そう」

「そうね。西田って奴は秋、アンタが好きだからそう言うことをしてるんじゃないか説を私は提唱するわ」

「ふむ、その心理がいまいちわからん。好きなら優しくするんじゃないのか? カイトみたいに」

「小学生男子限定の心理よ。まぁ、小四になって未だにそんな子供じみたアピールはどうかと私は思うけどね。あ、でも小四で厨二のアンタと同じか。案外お似合いだっりして」

「イヤ。だったらカイトの方が百倍良い」

「!?」

 

追究から逃れられてホッとして視線を足元に下げていた千冬が、急に顔を上げて千秋を見る。

 

「どうしたのよ? 冬?」

「いや……なんでもないッス……」

 

もしかして……お兄さんが……千冬の想い人なの!?

 

 

◆◆

 

 

 夕食はどうしようか。コロッケ、トンカツ、とかはちょっと時間がかかるからな。昨日は野菜炒め、一昨日はつくね、ならば今日は……どうしよう。二学期学校頑張ったな記念で豪華な料理でも、でももうすぐクリスマスがあるしあんまりカロリーが高い物が高頻度に夕食と言うのは良くないのでは?

 

 まぁ、アイスくらいなら買って行っても良いかな。餅のアイスを四つ買おう。

 

 

 雪が降り続けるそんな中で車を走らせる。道路がコンクリート色から雪の白に染まっている。

 

 スリップしたら嫌だな、ブレーキ効かなかったらどうしよう。昔は雪が好きだったけど今では嫌いとは言わないが苦手意識が付いてしまった。

 

 いつもよりスピードを少し落とすか。

 

 アクセルを緩めて、帰路のカーブ要所要所でブレーキをいつより多めに踏む。

 

 その為に少し、いつもより10分ほど遅れて家についてしまった。

 

 

「お帰り! カイト!」

「ただいま……今すぐご飯作るからな」

 

 

千秋が出迎えてくれる。いや、なんて可愛い。仕事で溜まっていた疲れが回復してしまう。聖女や僧侶と言っても過言ではない。

 

家の中に入るとすぐに階段が目に入るのだが上から千冬と千夏がひょっこり顔を出している。

 

「魁人さん、お帰りっス……」

「お、おかえりなさい……」

 

 

千冬は最近懐いてくれるからな。お皿を運んでくれたりもしてくれる。千夏とは凄い話せるわけじゃないが以前より話せている気がする。

 

つまり、ここまで順調に娘たちと仲良くなれている。何をするにも信頼とは大事だ。パパになる為にも大事だ。

 

いつか、皆で笑いあえる日常を……

 

な、なんだ!? この視線は!?

 

肌を刺すような強烈な視線。視線の方向に目線を向けるとリビングのドアからひょっこり顔を出している千春の姿が。

 

ピンクの髪が可愛い、碧眼も可愛い。だが、可愛いはずの眼が凄い怪しむような視線を向けている。

 

姉妹が取られてしまうのではないかと思っているんだな? 大丈夫だ、そんなつもりはない。

 

姉妹と獲ろうとか考えていない、ただ、だだ……ただパパになりたいだけだ! そこをしっかりと分かってもらおう。

 

夕食を作って、丁度良く時間が空いたらそのことを話そう。今日は麻婆茄子にしよう。

 

 

例の如く、数分で作り上げて四人は自室で食べる。

 

 

そして、俺はリビングでテレビを見ながら一人で食べる。やっぱり皆で食べるのは難しい気がするな。四人なら十分かみ合って楽しいんだろうが、俺が入れば上手く接することのできる千秋とかは大丈夫そうだが、千夏はそうじゃない。そうなると場を崩すことになる。

 

違和感のある食事は楽しくない。五人で食べるのはもうちょっと先になるかな。あ、千夏と言えば今日一分間何を話そう。

 

笑わせたくて昨日は饅頭怖いを話してみたけど、反応イマイチだったし。

 

『次はお茶が怖いって言うんだ』

『へぇ……そうですか』

 

 

あんまりそう言うのは子供は好きじゃないよな。食べ終えて食器を片付ける。そこで丁度、千秋と千冬が二階から持ってきた

 

「魁人さん、ご馳走様っス」

「カイト、ご馳走様」

 

ふむ、この組み合わせは珍しい。いつもなら千春が誰かと一緒に……いや、後ろに隠れているな。

 

隠れているつもりなのか、ドアの方で頭を出してる。

 

 

「カイト、カイト! 聞いてくれ、今日学校でな! 西田が……」

 

 

食器を受け取ると千秋が学校の事を話してくれる。あれ? 何気に千秋から学校の事を話してくれるのって初めてじゃないか?

 

くっ、嬉しいじゃないか。パパレベルがワンランク上がった気がするのは気のせいか? いや、間違いではないだろう。

 

 

 

 

「それで千夏が……」

 

 

ふむ、話を聞くと西田と言う奴が家の娘に暴言を吐いたり、ちょっかいをかけてくると。それが好きの証拠ではないかと言う事か。

 

先ずその西田に千秋を馬鹿呼ばわりしたことに憤りを感じる。だが、確かにそれが思春期特有の行動とも思える。

 

「成程、確かに千秋の事が好きなのかもしれないと言う可能性があるな」

「な、なんと!?」

「あ、いや確定じゃないぞ? もしかしてと言う話だ」

「そうだとして、何故意地悪をするのだ? その心理が分からない」

「うーん……男子って子供みたいなものだから、そう言う事やって気を引きたいんじゃないかな? 中学校でも女子の気を引きたくてワザとオーバーリアクションをとったり、話声を大きくしたりしたりする奴らは多いし」

「へぇ……そうなのか……」

「まぁ、あくまで可能性の話だ。色んな人が居るからな。これだけで決めつけるのは早計と言わざるを得ない。取りあえずのその西田君がどうしても嫌なら俺が学校の先生にチクると言う手もある」

「嫌には嫌だが、特にどうでも良いと言う意識もある。よく分からないから放置することにするぞ。明日から冬休みだし会わないし」

「そうか。千秋がそう言うならそれでいいが何かあれば直ぐに俺がチクるからな」

「おお、心強いな!」

 

 

 

子供のころか先生に何かを言うのが少し恥ずかしくもあったり、同時にあとでチクリ屋などの汚名を言われることもあったが大人になって考えればそれが一番効果的でもあったんだよな。

 

だが、そう言う事をすると若干クラスで浮いてしまうものでもある。千秋がまだ平気と言うのであればそれは使わない方が良いんだろうな。

 

 

さて、折角だ。千冬も居るんだし何か学校での出来事聞いても良いかもしれない。

 

「千冬はどうだった? 二学期?」

「あー、そうっスね……千冬は特にこれと言った事はなく……っスね」

「そうなのか」

「で、でもドッジボールで一回だけ男子が投げたボールをキャッチできたっス!」

「YRYNだな」

「えっと、どういう意味っスか?」

YRYN(やるやん)。凄いって意味だ。俺が作った」

「おおおー、カッコいいな! 我も今度それ使う!」

「あー、そういう……どもっス……」

 

 

ギャグのセンスも今日は冴えている。娘とのコミュニケーションが未だかつてない程に取れている。いずれPAPA(パパ)に慣れるかもしれない。

 

……だけど、千秋と千冬。両方から懐かれてはいるんだが何というか懐かれ具合が妙に違うような。子育てって難しいな……

 

 

千秋と千冬は少し話すと二階に戻って行った。すると入れ替わるように千春が入ってくる。一緒だった妹が取られてしまうと思うと寂しさや色んな感情が出てしまうものだ。それは良い傾向。

 

欲を出せる環境であると言う証明だから。この子は基本的に自分の感情を殺す。だから、俺はもっと我儘になって欲しい。

 

「千春、安心してくれ。姉妹をとったりしない。俺はパパを目指しているからな」

「……いえ、そういうわけじゃ」

「そうか。まぁ、ならいいんだが……何か不満があるなら言っていいんだぞ」

「……その……お兄さんに言う通り取られちゃうのが少し寂しかったのかもしれないです……」

「そうか。だよな。だが安心しろ。俺は絶対に取らない。寧ろパパだ」

「は、はぁ? ありがとうございます?」

「どういたしまして」

 

 

丁度いい、千春にも学校の事を聞いてみよう。悩みがあるかもしれない

 

「話は変わるが学校で悩みとか無いか?」

「千秋が可愛すぎるとかですかね」

「そうか……他には?」

「千冬と千夏が可愛すぎて男子達にちょっかいを掛けられないか不安です」

「うーん、まぁ、そうだな。千春がちょっかいを掛けられないのか?」

「うちはそう言うのとは無縁です」

「そんなことはないと思うぞ。千春も含めて四人は何処に出しても恥ずかしくないからな」

「……ありがとうございます」

 

 

あ、もしかして変な意味に捉えられたりしてないか。……心配し過ぎだな。逆にそんな風に考えてしまう俺が気持ち悪いと思えなくもない。

 

昔からのヘタレ思考の癖が未だに抜けていない。

 

 

もっとパパとしてちゃんとしないと。

 

「それじゃあ、うちはこの辺で失礼します。ありがとうございました」

「おう、こちらも話してくれてありがとうな」

「……はい」

 

千春はそう言って部屋を出て行く、だが去り際に再び口を開いた

 

「お風呂なんですけど、その、迷惑かと思ったんですけど洗わせていただきました……」

「ッ!? マジで!? ありがとう!」

「そう言ってもらえると嬉しいです。お兄さんにはお世話になっているのでこれくらいは」

「ありがとう、千春。助かった」

「……どうも」

 

 

そう言って今度こそ彼女はリビングを去って行った。うん、普通に嬉しい。俺はそのままお風呂を沸かしに行った。寒い冬の日のお風呂掃除は僅かに憂鬱だ。だが、今日はそんなことはなくスイッチを入れるだけ。非常に暖かく爽快な気分で会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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