百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで   作:流石ユユシタ

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30話 縄跳び

 冬休みが終わり学校が始まるとすぐにとあるイベントがある。それは縄跳び記録会である。

 

 

 前飛び、後ろ飛び、二重飛び。三つの飛び方でそれぞれ得点を稼いでその合計点上位三つが賞を貰える。

 

 前飛び五分飛べたら5点、後ろ飛び五分飛べたら5点、二重飛び五十回飛べたら5点。前飛びだけは例外として五分飛べて満点だったとしても引き続き飛び続け最後まで飛んだ人をまた別の賞として表彰すると言う。

 

 

 去年は一時間とんだ人が居たらしい。凄いな。と素直に感心した。だが、そんな異常ともいえるような記録をいともたやすく超えてしまいそうな猛者が一人いる。

 

 

「はーははははっ、これが我の(ウィップ)の実力」

 

 

一組と二組、二つのクラスの生徒が体育の時間に体育館で縄跳び記録会の練習をしている。その中に明らかに断トツで軽やかに飛ぶ千秋。

 

 二重飛びが終わらない。一人だけ五十回を裕に超えても飛び続ける。前飛びはこれ以上飛ぶと次の授業に響くので強制終了。体育終わりに挨拶をするために整列をする。千秋の額には僅かに汗が。元気いっぱい。この年になると頑張ることが恥ずかしいとか思う人が居る中でぶっちぎりの一位を取る。

 

 流石千秋。他人に流されない芯の強い女の子だ。

 

 

 

「千秋、凄いね」

「まぁな。カイトが買ってくれたこのなわ……ウィップの力のおかげでもあるが」

 

千秋の手にはピンク色の縄跳びがあった。うちの手にもちょっと遠くで整列している千夏と千冬の手にも同じ色の縄がある。お兄さんが冬休みに買ってくれたのだ。

 

冬休みのお便りを読んで他にも必要な物を買いそろえてくれた。千秋はそんなお兄さんに良い報告をしたいようだ。

 

記録会で一番になり、褒めてもらい、夕食はハンバーグ。そんな事を考えているらしい。

 

 

「千秋ちゃんって凄いな」

「確かに」

「スゴ~イデスネ」

「ふん、あれくらい俺だって」

 

周りでも千秋の凄さに驚きを隠せない人が多いようだ。西野は何やら思う所があるそうだがそんなことはどうでもいい。

 

うちも千夏も千冬も頑張ったけど千秋には及ばない。姉は一番にならないといけないからこっそり練習をしようと心に誓った。

 

だけど……千冬が少し心配だな。運動が苦手であまり飛べていなかったように見えてしまった。それを気にしているんじゃないかとも感じた。

 

後で、出来るだけ早く話したい……

 

 

 

◆◆

 

 

 

「ああー。千秋飛びすぎ。ドンだけ飛べば気が済むのよ」

「……そうっスね」

 

 

体操着から私服へと着替えた夏姉が呆れたように愚痴をこぼした。席に座り頬杖を突きはぁとため息も溢す。

 

「私、秋と比べたら全然飛べなかったわ」

「千冬もっス……全部一点くらい……二重飛びなんて0……」

「あ、ああ、そ、そうだったの……私も似たようなものだし、運動なんて出来なくても将来意味なんて無いしさ……まぁ、元気出しなさいよ……」

 

 

千冬は全く飛べなかった。沢山の人が飛ぶ中で真っ先に縄に引っかかってしまった。全然、飛べなくて周りの落胆と言うべきか嘲笑と言うべきなのか。特に男子の運動が出来る生徒の馬鹿にするような笑いが聞こえてきた。

 

 

今は秋姉を称える声。

 

「千秋ちゃんって凄いんだね」

「うん、びっくり」

「千春って奴も結構飛んでたな」

「あいつら姉妹らしいぜ。全然飛べてないけど」

「千冬なんて二重飛び一回も飛べてなかったしな。本当に姉妹か? 全然違うじゃん」

 

 

 

姉妹とは顔も似ていて、苗字も同じ。比べやすい。

 

「なによ、アイツら。勝手に比べるなんて」

「しょうがないっスよ……それが姉妹と言うものなんスから……」

「そうかもしれないけど……」

 

 

比べるし、自身でも勝手に比べてしまう。周りは比べるのをやめてくれない。知っていた。これが世間であると。

 

 

「あんまり気にしすぎじゃダメよ?」

「勿論っスよ……」

 

 

夏姉はそう言ってくれる。でも、再び思うのだ。自分に何もない。姉妹との差を周りからも自分でも諭されると急に寂しくなったりする。

 

自分が一番飛べなかった。周りから、自分は才能が無くて姉妹との繋がりを疑われるのが辛い。

 

特別が良いと再び欲が出てくる。自分はそれだけで居るだけで特別だと魁人さんは言った。その言葉に元気を貰ったけど、本当にそうなのかと疑いを持ってしまう。

 

本当の特別とは誰もが届かない圧倒的な物を持っている人ではないのかと。ただそこに居る、それだけでは特別とは言えないのではないか。多分、周りはただ居るだけでは特別だなんて思ってくれない。

 

 

 改めて思う、自分は無能ではないかと。姉妹で唯一特別ではないのではないかと。

 

 

「千冬、アンタ大丈夫なの?」

「ダイジョブっス……」

 

 

 いやだ、そんな風に思いたくない。自分だけ違う、仲間外れのような疎外感を感じたくない。周りからも自分でもそう判断したくもないしされたくない。今からでも縄跳び記録会まで時間がある。

 

 

 秋姉に並べるように……春姉に並べるように、夏姉に並べるように。運動では絶対に勝てないと分かっている。ならば、少しでも近づかないと。ここまで秋姉に運動に勝った事はない。

 

 春姉にも一度も勉強で勝った事がない事を思い出す。

 

 自分には……何も出来ないのか……何も超えられないのか……そう考えると自分の弱さを強く感じた。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

デスクワークに勤しんでいると宮本さんに話しかけられた。いつもいつもお気遣いありがとうございますと言う心境しかない。

 

 

「魁人君、最近四姉妹はどうなの?」

「皆、良い子です。気遣いもしてくれますし……」

「そう……あ、前に自分に劣等感を感じてる子が居るって言ってなかったっけ?」

「そうですね。ただ今は落ち着いている感じもしますが」

「でも、子供っていや、大人もだけど何度も似たような悩みを持ってしまうのよ。そう言うのって自分とかではどうしようもないから気になったら声をかけることをお勧めするわ」

「ありがとうございます」

 

 

 

そう言って宮本さんは去って行った。確かにそうだな。一時期よりは落ち着いてるし、毎日楽しそうに生活もしてくれてる。だからと言って以前の悩みを再び持たないと言う理由にはならない。

 

あの子はまだ悩みを解決できてない。俺が言った以前の言葉は綺麗ごとで悩みの解決を引き延ばしただけだ。目の前の壁に登ることが出来ない尻込みしてしまった少女を立ち上がらせただけなんだ。

 

そこに居るだけで、産まれたそれだけで特別だなんて正直に言ってしまえば嘘に近い。

 

俺はそうであって欲しいと、きっとそうだろうと思ってはいるが周りはそんなことはない。常に人と人の才能や結果を比べて忖度をし、評価を下すもの。

 

それに気づいたときに俺の言葉はどうしようもなく薄いものになってしまうだろう。人は周りを気にする。世間を気にする。

 

それらが知らず知らずのうちに自身への評価になってしまうこともある。

 

 

何か、千冬に言ってあげた方がいいのだろうか。でも、それで気分を害してしまったり、平気で平穏だったのに再び想起をさせて波風を起こすのはどうなんだろうか。それは……

 

良くないだろう。冬休みも楽しくて、ここまでも楽しい。それだけで良いのではないか。

 

……それに何を言えると言うのか。以前のような薄い言葉が今度も響いてくれると言う確証はない。

 

千冬は俺に心を許してくれつつある。そんなことをして離れられるのも正直言えば嫌だ。

 

仲良くなりつつ、家族になりつつある和を崩したくはない。

 

 

それならば……だが、逃げで良いのか? でも……

 

 

全く思考が進まない。どのようにアプローチを掛けるべきか分からない。何もかもが分からず淡々と仕事こなすだけ。

 

そうこうしているうちに定時になってしまった。

 

 

◆◆

 

 

 

私は二階のベランダからこっそりと妹の冬の様子を秋がうかがう。私は隠れて報告を聞くだけ。春も近くで見ているらしいが何も言えずにただ黙っている。

 

冬は必死に二重飛びの練習をして、何度も縄を脚に引っ掛ける。

 

 

「ねぇ、冬はどうなの?」

「ずっと、縄跳びの練習をしてる……」

「そう……秋、アンタはどう思ってるの?」

「……分からない。我の縄跳びが原因ならそれは……でも、謝るのと余計に変な気分にさせる気がする。今度から縄跳びで手を抜いても同じ……だから、何も分かんない」

「……そう。春もこういう時には傷つけまいと行動して何も出来なくなっちゃうし」

 

 

……私の言葉も冬には届きにくい。超能力とか色んな事情があるけど。一番は私はあまり姉妹との繋がりについては悩みがない。

 

冬の感情を深く理解をしているわけではないのに下手に分かっている風を装うのが一番危険だ。

 

 

――お前に何が分かる

 

そう、きっと思われる。体験したことのある人にしか、似たような境遇を受けたことがある人しか分からない物がある。

 

 

 もし、私が冬に超能力って無くても有っても変わらない……なんて言われたらきっと その場で胸倉を掴んでしまうだろう。

 

 

 これって……姉妹である私や秋、春にはどうしようもないのではない事だと思う。もし、この状況を打破出来て冬を良い方向を導けるとするなら魁人さんが一番可能性がある。

 

 以前のテストの時もそうだった。あの人がきっと何かを言った。

 

 

 姉妹ではどうしようもない、出来ない事を関係のないあの人だから何か変わった。いや、違う。それだけじゃない。きっと何かあったのだ。冬の心を揺さぶる何かが。

 

 言葉だけじゃない。才に悩む冬と魁人さんの何かがマッチしていた。これもきっと理由であるはずだ。

 

 

 だから、今回もどうにかしてくれるのではないかと期待をしてしまっている。

 

 

 外が徐々に暗くなり始めた。冬の縄の回す音がずっと聞こえてくる。春の偶に気遣う言葉が聞こえてくる。

 

 

 秋のどうしたらいいのか分からない。ただ、見ているだけで歯がゆさを覚える心が感じ取れる。

 

 

 ただ、何も出来ずに隠れていると車のエンジン音が聞こえてくる。車は駐車していつもの日常に組み込まれている優しい声が耳に届く。

 

「ただいま……縄跳びの練習か?」

「はいっス、もうすぐ記録会があるっスから」

「そう、だったな……何か、あったんじゃないか?」

 

 

魁人さんは何かを感じ取ったように冬に疑問を持ちかける。

 

「……魁人さん、一つ聞いてもいいでスか?」

「なんだ?」

「姉妹って比べられるものっスか?」

「……そうだな。だけど、姉妹だけじゃない、世の中の大体の人は比べられるだろうな。学校で誰かになんか言われたのか? それとも、周りの比べる声が聞こえてきたのか?」

「……はいっス」

 

 

以前なら惚けていたであろう冬は自分から疑問を持ち掛け、相談する。きっと、冬は魁人さんに聞いて欲しかったのだろう。ずっと外で練習をしていたのはただ、記録会に向けて練習をするだけじゃない。誰よりも速く会って話をしたかった。

 

 

「なるほどな。それでまた、自分が大した事のない空っぽだと感じたのか?」

「……はい」

「そんな事は無いと俺は思うんだがな。でも、人それぞれ感じ方もある。何か良いことを言ってあげたいが……そうだな……前に俺が言った事は覚えてるか?」

「覚えてまス……」

「……そうか。覚えてはいるのか。だが、周りの評価は時に考え方も変えたり、するからな……」

 

 

ふと、魁人さんの溢した言葉に私は違和感を持った。私だけじゃない姉妹全員が持ったはずだ。

 

今の言葉はまるで自分の経験のような話し方だったからだ。

 

「魁人さんもそういう事があったんスか?」

「え? どうしてそう思ったの?」

「何となく……」

「……そうか。まぁ、当たりだが……とは言ってもそんな千冬とは境遇とか違いすぎるしな。多分千冬の方が苦労人だし」

「……もし、よければその話……」

「聞きたいのか?」

「……」

「そうか。そうだな……これで何か変わるわけじゃないと思うが何かのきっかけになれば……」

 

 

隠れている私には冬の返事が聞こえないがコクリと頷いたのだろう。きっと秋は共感をしたいんだろう。自分だけではないと思いたい。それを何となく感じた魁人さんは軽い感じで話し始めた。まるで大したことではないと言わんばかりに。

 

 

「昔さ、俺バレーボールやってたんだよね。あ、中学の話ね」

「……そうなんスか……」

「そうそう、あの時、どうしてもレギュラー入りたくてさ。毎日必死に練習をしたんだ。夜に練習とかしたくて顧問の先生とか校長先生とかに頼んで特別に練習沢山した。九時くらいまで毎日やってたかな? 後は体幹とか、その他もろもろ、動画サイトで上手い人のプレー見たり……まぁ、でもそれでもレギュラーにはなれなかったけど」

「え? そんなにやったのに……」

「うん。俺って試合に出ると緊張しちゃったり、元々センスが無かったりでどうしてもレギュラーにはなれなかった。俺より全然練習もしてないセンスのあるやつはレギュラーだったけど」

「……」

「でさ、周りが言うんだよ……アイツ才能ないのに練習して意味ないって。他の奴の方が出来るんだからって」

「……」

「まぁ、その後色々あって、バレー部をやめたんだ。それで高校でもう一回バレー始めて公式戦一回目でやらかしてお終い。と言う話だ。色々省いて言ったけど要するに俺はその時に諦めてしまった。自分は凡人で周りには才能がある奴らばかり。大したことない存在で今までやってきたこと全部が意味ないって」

「……何か、すいません。変なことを言ってしまって」

「ああ、いや気にしないでくれ。俺が話したんだ。それで、境遇は違うけど言えることがある。今後、生きてくうえで絶対に比べられる。その度にきっと千冬は壁にぶつかるんだと思う。今もそうだろ? 何度も同じ壁が立ちはだかる」

「……はい」

「……でも、覚えてくれ。誰かが千冬の頑張りを見てくれている。そして、俺はそれを見て千冬を特別だと思ってるし三人に負けない才能も有ると思ってる」

「え……?」

「何度も頑張ろうとする姿勢、悩んでも立ち上がって向って行くなんて普通出来はしない。一緒に生活して千冬が掃除とか片付けとかコマ目にしてくれてる事に気づいた。勉強も誰よりもしてる。朝早起きしてちょくちょくやってるだろ? 単語帳作って夜一人で英単語勉強してるだろ? 図書室からも色々勉強の本も借りてる」

「……」

「成功者は皆朝に色々やってるデータがあるって言うしな。継続して工夫して頑張り続けるって凄い事だ。少なくともそれが出来る奴は俺はあんまり聞かない。千春も千夏も千秋もしてない事を千冬はやってる。それが特別じゃなくて何が特別なんだ?」

「……ッ」

 

 

 冬の息を飲む声が聞こえた。冬が何よりも求めていた。誰でもない人からの自分だけの個性の指摘。何気ない会話にそれが混ざっていた。

 

 

「もし、それでも自分が劣ってると思っているなら千春を勉強で抜かしてみよう。千秋より縄跳びを飛んでみよう」

「そんなこと……出来るわけないっㇲ……」

「弱気になってしまう気持ちはわかる。でも、今頑張ってるのはどこかに一番になりたいと言う気持ちがあるからだ。俺も分かるんだ。そこだけは。例え無理だと分かっていてもレギュラー発表の時はつい思ってしまう。もしかしたら自分がレギュラーに選ばれるのではと。人は期待してしまうことは知ってるからな」

「……もし、無理だったら? 現実にはどうしても超えられない壁があるっス」

「子供の内は夢を持って進んでいこう。夢の無い現実を知るのは大人になってからで十分だ。千冬は凄くて才能ある特別な女の子だ。やればできる子だ!」

「……」

「……」

「……」

「あ、あの、なにか言ってくれないと俺もどうしていいか……」

「あ、すいませんッス。ただ、ちょっと嬉しくて」

「そ、そうか?」

「はい……頑張ろうって思えて、一人じゃないって思えて、同時にみんな一緒だなって思えたから」

「うん……なら良かった……実は途中から俺も何話してんだかわからなかったんだけど……それなら良かった」

「え?」

「嘘だ。ちゃんとパパとして娘に言う事を筋道立てていたぞ……うん。それより、丁度いい、折角だ。縄跳びの練習をしよう」

 

 

魁人さんはそう言って家の中に大急ぎで入って行く。

 

「あ! 千春居たのか。ただいま」

「お帰りなさい。お兄さん……それとありがとう」

「いやなに、父としてそれっぽい雰囲気を出しただけさ」

 

 

春が魁人さんに感謝の言葉を言った。

 

 

「やっぱり、カイトは良い奴で凄いやつだ。我の眼に狂いなど無かった」

「そうね……凄い人で変わった人ね」

「むっ、変わったいらない」

「褒めてるのよ」

「あ、ならいい!」

 

 

 

凄くて変わった人。いい意味で。心の底からそう思った。今時、あんなことを言える人はいない。

 

父親って……ああいう人が普通なのかな……

 

 

◆◆

 

 

 

 千冬は自分を特別だと言ってくれる人を求めていた。そして、自分にしかない物を見つけてくれる人を待って居た。

 

 その人は意外と近くに居た。

 

 

 ――はい……頑張ろうって思えて、一人じゃないって思えて、同時にみんな一緒だなって思えたから

 

 

 お兄さんも自分と同じで嬉しくて、特別だと言う事を改めて前より深く知って姉妹一緒だと気づけた。

 

 千冬は決めた。もっと、高みを目指す。勉強も運動も頑張る。春姉も夏姉にも秋姉にも負けないくらい凄くなってやる。

 

 

 「よし、千冬早速特訓だ」

 

 

 魁人さんがジャージ姿で縄跳びを持って家から出てきた。辺りはもう暗いけど千冬に付き合ってくれるらしい。

 

 

 

「先ず、二重飛びを見せてくれ」

「は、はいっス」

 

 

魁人さんは行動が速い。早速特訓が開始され千冬は縄を回して飛んだ。だが、ドンっと大きなコンクリートを叩きつける音が聞こえて縄が引っかかり一回も飛べない。

 

 

「なるほどな。大体わかった」

「え?」

「千冬は二重飛びをするときに両足の底をついてしまっている。それだと次の縄が来た時に飛べない。なるべくつま先で何度も飛ぶイメージだ。あと、縄の回しも一回飛べれば十分位の回り方で途中で回しが失速している」

「そ、そうなんスかね?」

「そうだ。あとは単純にイメージ不足だ。スポーツ全般に言えるがイメージとはすごく大事だ。よく、思い描くは最強の自分だと言うだろう?」

「そう、っスかね?」

「あれ? 違う? うーん、とにもかくにもイメージだ。そこで縄がない持ち手だけを用意した」

 

 

魁人さんの手には縄がない持ちてが二つ。それを左右の手で持ってくるくると回してつま先で何度もジャンプ。

 

「いいか。ここからひゅひゅひゅん、ひゅひゅひゅん、ひゅひゅひゅんのイメージで何度も飛ぶんだ」

「あ、はいっス」

 

 

「クスクス、何あの人……」

「面白いしかーわーいーいー」

「「……」」

 

 

通りすがりの女子高生らしき人に見られて若干、千冬と魁人さんの雰囲気が気まずくなる。

 

「ま、まぁようはイメージだ。取りあえずさっきのリズムでやってみよう。そして、イメージが出来たら普通の縄で反復練習だ。イメージを持って何度もやれば何処かでコツを必ず掴めるはずだ」

「は、はいっス」

 

 

千冬は早速、持ち手を渡されてそれを回す。イメージイメージ。つま先で飛んで何度も飛ぶイメージ。秋姉みたいに……

 

 

実戦イメトレをしながらチラリと魁人さんを見る。

 

 

――魁人さんって結構カッコいい顔してるかも……

 

 

魁人さんって好きな人とか居るのかな……? もし、居るならなんか嫌だ。居ないなら千冬が立候補を……いけない、変な事を考えている。きっとそんなはずはない。そうだ、そんなことは……

 

……いや、違う。きっと千冬はこの人に……抱いてはいけないものを……

 

 

胸がざわつく。この人の事をもっと知りたい。そう思ってしまった。

 

 

 

 

 

 


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