百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで   作:流石ユユシタ

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38話 テレパシー

 北海道についた……うぅ、腰が痛い。飛行機で少し酔っちゃうし……幸先が悪い感じがする。新千歳空港には

 

 だが、寒いだろうと厚着をしてきたのは正解だったな。ベルトコンベアーから流れてくる荷物を取り外へ出る。冷たい風が吹き抜ける。

 

 

「おおー!! 寒い!」

「体温が違うわね……」

「寒いッス」

「うちと全員ハグしようっか?」

 

 

 さて、先ずは旅館に荷物を置きに行こう。そして、一旦昼食をゆっくり取って千歳水族館に行って、旅館で美味しいもの食べて就寝。

 

 明日は空港で美味しいも食べて流れで帰宅。

 

 プランはばっちりだ。さて、行こう。

 

 

「じゃあ、先ずは荷物を近くの旅館においてこよう」

 

 

 俺が先導になって歩き始めると四人はついてくる。四人共リュックを背負って縦一列に並んで歩いている。偉い、横ではなく縦。他の通行人の人の事も考えているあたり偉い。

 

 

 

 十分ほど歩いて大きな旅館にたどり着いた。部屋は姉妹たちと俺の二つ。畳が敷いてあり外の景色も良く見える三階にある部屋だ。チェックインをしつつ部屋を最低限だけの荷物を持って旅館を後にした。

 

 

◆◆

 

 

 

 うち達は大きな旅館に背負っていた衣類などが入ったリュックを置いた。置いたらすぐに隣の部屋のお兄さんと合流して外に美味しい物を食べに行くのだ。

 

 

「むふふ、夜は皆でトランプだ」

「秋姉はトランプが好きっスね」

「皆でやるのが楽しいからな!」

 

 

千秋はリュックからトランプを取り出してニヤリ。確かにトランプは楽しいからね。それにしても相変わらずお兄さんの気遣いは徹底していると思う。部屋二つってお金もかかるのに。

 

年頃とか理由はあるんだろうけど、距離感を無理に詰めない。そこに、無理をしなくてもいいんだと言う安心感が生まれる。

 

うち達はお世話になっているの事が頭にある以上、感謝は常に持っている。だが、お兄さんがそれを強制することは無いし、大袈裟な感謝などもすると一言挟む。

 

無理せずに普通に限りなく近い境遇を演出をしてくれている。これは誰にでも出来る事ではないとうち達は知っている。

 

そして、普通の愛情と生活。普通な家族の想い出。これを与えてくれることに変化があるのは当然なのだ。

 

 

「千春! 早く行くぞ!」

「うん、そうだね……」

 

千秋の無垢な笑顔を見て自然と自分も笑顔になる。千秋だっていつも笑顔だけでも闇を抱えている。誰よりも元気で活発な彼女は正に光そのものだ。うち達は何度も救われている。

 

千秋は何を考えているのだろう。姉でも分からない事がある。その笑顔の下には……こんなことを考える場面ではないのに……

 

複雑な思考をしてしまうのは、そういう事を出来るのではなく、そういう風になってしまったからなのか。

 

姉である自分がそれを出来ると言う事は……

 

 

「全く、我は腹が減っているだ! とっとこハムスターのように行くぞ!」

 

 

千秋がうちの手を取った。引っ張り外に無理に出してくれる。部屋の外にはお兄さんと千夏と千冬が待って居てくれた。

 

「よし、上手い海鮮食べにいこうぜ。もう、調べはついてるんだ」

「千冬凄く楽しみでス……」

「私だってそうよ」

「我もだ! 千春もそうだろ!?」

「……うん」

 

……幸せである事は普通でない、当たり前でないと知っている。何度も思う。だが、今は素直に余計な事を考えずにお兄さんに付いて行こう。何処まで素直になれるか分からないけど……

 

折角旅行に来たのだから。

 

 

◆◆

 

 

 

さてさて、俺達はとある海鮮の料理が有名な食事処に来ている。何故、俺がここを昼を食べる場所に選んだかと言うと単純にネットの評判が良いからだ。しかも、ザンギとか海鮮以外の食べ物を食べられるらしい。沢山の美味しい物を食べると言う経験にはうってつけだろう。

 

 

「いらっしゃいませー、ご予約はされていますか」

「はい。予約した、黒です」

「……あー、例の変な名字の……コホン。ご案内しまーす」

 

 

おい、苗字の事に触れたな。まぁ、それくらい良いだろう。

 

「ゴクリ、美味しそうなにおいがするぞ」

「千冬は大ネズミでも小ネズミでもないっスけど……思わず口に涎がたまるっス……」

「ね、ねぇ、春。今日何食べても良いのよね?」

「良いと思うよ。お兄さんもそのつもりで連れてきてくれたんだから」

 

 

どうやら、四人も食べたくて仕方ないようだな。俺もだけどね。

 

個室の部屋に案内されると五人で机を囲んでメニューと睨めっこ。部屋は座布団が敷いてある和風の部屋だ。他の部屋と隔離されているからか自然と解放感が生まれる。

 

 

「カイトカイト! これ、この刺身セットとザンギと豚丼、頼んでも良いか!」

「ああ、全員好きな物を好きなだけ頼んでくれ」

「「「「おおー」」」」

 

全員の驚きと嬉しさの声。これを求めていた。さて、俺は余り頼まずで良いかな。四人が沢山頼んで食べきれなかったりしたら店の人に悪いからな。それを俺が食べよう。

 

「ええっと、私は……ピザもあるんだ。いやでも海鮮が」

「千夏、両方で良いんだぞ」

「じゃ、じゃあ……両方で」

「千冬は……この刺身定食……」

「それだけでいいのか? エビフライとかあるぞ」

「そ、それもお願いしまス……あの、断じて千冬は食いしん坊ではないので! そこは分かって欲しいでス!」

「分かってるさ」

 

千春はメニューを眺めているけど、あまりこれと言って注文は無いな。千春の事だから俺と同じ残り物とか考えているのかもな。

 

「千春はどうする?」

「うちはこのミニミニ刺身にします」

「それだけじゃ、足りないだろう。サバの味噌煮とかマグロのから揚げとかあるぞ。姉妹が残したらそれを食べるとか考えているのかもしれないがそれは俺の役目だ。純粋に頼みたいのを頼むといい」

「……じゃあ、今お兄さんが言った二つを……」

「分かった」

「……ありがとうございます。お兄さん」

「どういたしまして」

 

やはり、残り物の事を考えていたな。と思いながら注文の為にボタンを押して、店員を呼ぶ。

 

 

「はいー。ご注文をお伺います」

「えっと、これとこれと、これとこれとこれと、これとこれとこれ。あとこれとこれとついでにこれこれこれをお願いします」

「はい。では注文を繰り返させていただきます……これとこれと、これとこれとこれと、これとこれとこれ。あとこれとこれとついでにこれこれこれ。でよろしいでしょうか」

「はい、それでお願いします」

「少々お待ちください」

 

 

あの店員さん、さてはベテランだな。注文繰り返しが途轍もなくスムーズだった。

 

 

「お腹空いたー」

「まぁまぁ、秋姉すぐくるっㇲよ」

「こんなに頼んで良いのかしら?」

「大丈夫、千夏気にしすぎだよ」

 

 

まぁ、注文してから料理が来るまではじれったくて落ち着かないよな。

 

「カイトは何を頼んだの?」

「俺はカニの茶わん蒸しと伊勢海老の刺身だな」

「おおー……茶わん蒸しと伊勢海老の刺身……カイト、シェアしよう!」

「いいぞ」

 

千秋は本当に素直で食べることが好きなんだな。しかも食べても全然太らないと言う神体内特性だし。

 

年頃の女の子はちょっと妬む特徴だよな。

 

「あ、じゃじゃあ、千冬も……」

「勿論だ」

 

 

元々、沢山の種類の料理と食べて欲しいから四人と被らない料理を選んだんだ。千夏と千春は何も言ってこないが流れで二人にもあげれば問題は無いだろう。

 

 

「お待たせしましたー、豚丼でーす」

「はいはいはーい! 私! じゃなくて我です!」

「熱いのでお気をつけてー」

 

 

店員さんは流れる海の波のように去って行った。千秋は早速割りばしを割った。そして、チラリと周りを見る。

 

「千秋、先に食べて良いぞ。皆も良いか?」

 

俺が三人に聞くと千春たちは頷いた。

 

「いただきます! あーむっ、……おいひぃ」

 

 

……俺も今度豚丼作ろう。

 

 

「この、豚の油のうまみのとタレがすげぇ」

 

 

千秋って美味しそうに食べるな。その姿を見ていると自然と見ている方も腹が減る。ラーメン特集のテレビ番組を見ているときにラーメンが食べたくなるような物だ。現に千夏と千冬と千春が食い入るように見ている。

 

 

「ご、ごくり、そ、そんなに美味しいの? 私も豚丼に……」

「千冬もなんだかお腹が……」

「千秋、可愛いぃ……」

 

 

千秋は自然と人の視線を惹きつけてしまうからな。こうなってしまうのは当然だ。

 

「千秋、折角だから姉妹全員でシェアしたら良いんじゃないか?」

「おおー。確かに!」

 

 

そう言って千秋は箸で豚とご飯を挟み千夏の口元に持っていく。

 

「ほれほれ、あーんしろ」

「……あ、あーん。モグモグ、ごっくん……お、おいひぃ」

「ほれ、千冬」

「あーん……もぐもぐ、ゴックン……おいひぃ」

「ほれ、千春も」

「あーん、もぐもぐごっくん。美味しい。タレが深いね」

 

 

計画通り。基本的にシェアが目的なのだ。千春の好きな物も見つかる、もしくは生まれる可能性も高い。それすら考慮に入れているのだ。

 

「カイト! あーんして」

「良いのか?」

「うん!」

 

 

千秋が俺の席の近くまであーんをしてくれている。これは考えていなかったが素直に好意は貰っておこう。

 

 

「……旨いな。この豚丼」

「もっと食べるか?」

「いや、後は千秋が食べるといい。だけど、この後にも料理が控えてるからな」

「うん」

 

 

そう言って千秋は席に座り再び満面の笑みで豚丼を食べ始めた。すると、丁度に店員さんが。

 

 

「刺身定食とエビフライお待たせしました!」

 

 

千冬が頼んだ奴だな。千冬のテーブル前に豪華な食事が並ぶ。だが、千冬は直ぐに自分では食べずに俺の元にたっぷりとタルタルソースを付けたエビフライを小皿によそって持ってきた。

 

 

「か、魁人さん……あ、あーん……して欲しいっス……」

 

 

箸を持った手が僅かに震えて、恥ずかしそうに目線を下に落としながらもこちらにチラチラと視線を送る千冬。

 

「い、いいのか?」

「も、勿論っス……」

「じゃあ……これも旨いな。ありがとう、千冬」

「い、いえ……あ、あとでその魁人さんも千冬に……い、いえ、何でもないっス」

 

 

千冬が顔を真っ赤にして席に戻った。

 

「ねぇねぇ、我にもエビフライちょうだーい」

「私も食べたーい」

「わ、分かってるっスよ……」

 

 

千秋と千夏に挟まれて急いでエビフライを切り分ける千冬。しっかり者で優しくして賢い女の子と言うのが伝わってくる。

 

……どうしよう、チラチラとこっちを見て逸らす彼女に俺はどうしていいのか分からず、水を口に運びながら少し目線を上げたり下げたりを繰り返していると、

 

「はい、カニの茶わん蒸しと伊勢海老の刺身お待たせしました」

 

俺の料理が到着した。

 

「カイト! あーんして」

「あ、ああ。そうだな」

 

茶わん蒸しとスプーンですくって千秋の口元に運ぶ。

 

「あーんっ、んー、美味しい! 刺身頂戴!」

「いいぞ」

 

箸で透明なエビの刺身を醤油に潜らせて口元へ。

 

「んー! 美味しい! あとで我もするからな!」

「ありがとう」

 

 

入れ替わるように千冬が恥ずかしそうに近くに正座して座った。

 

「じゃ、じゃあ、最初は茶わん蒸しだ……」

「あ、ありがとうございまシュッ……まス……あ、あーん……おいひぃれふ……で、でス……」

「じゃあ、今度は刺身だ……」

「……美味しい……魁人さんありがとうございまスッ。あとでまた……」

 

そう言って再び席に戻る千冬……恥ずかしそうながら期待するような視線を気付かないふりをしてしまった。

 

 

俺は……

 

 

今は……止めておこう。

 

 

俺は刺身と茶碗蒸しを二つの小皿に取り分けて、千夏と千春の元へ。

 

 

「良いんですか?」

「いいんだ、千夏。気にせず食べてくれ」

「ありがとうございます……」

 

 

千夏は箸で刺身を食べて顔を幸せに染める。

 

「お兄さん、ご厚意頂きます」

「おう」

 

 

千春もエビの刺身は嬉しそうに食べてくれてたので良かった。

 

 

◆◆

 

 

 

お昼は沢山の種類の料理を食べられて大満足。ただ、案の定、全てを食べきる前にお腹が満腹になってしまったがそこはお兄さんが綺麗に平らげてくれた。

 

千冬が間接キスだと、小声で言っていたのは内緒だ。

 

昼食をとった後はサケのふるさと千歳水族館で観光である。新千歳空港駅から千歳駅まで電車で乗って徒歩十分ほどで到着する場所だ。当り前だが魚が沢山いて飽きない。そしてただ見るだけでなく色々なことが出来る。例えば現在千秋が水槽に裸足を入れてくすぐったそうにしている。可愛い

 

 

「すげぇ、これ、ドクターフィッシュ! あ、うふ、くすぐったい……」

 

 

これはお兄さんから借りたスマホで連写するしかない。ボタンを長押しして只管に可愛い千秋をメモリに納める。

 

「春姉、ほどほどにした方が」

「可愛い千冬もパシャリ」

「あ、今のは消してほしいッス! 魁人さんの携帯に残るならもっと、眼をパッチリに開きたいッス!」

「……うん、じゃあ、もう一回。はい、チーズ」

「……ど、うスか?」

「可愛い。あとは尊いとか」

「加工って出来るっスかね……」

「する必要ないよ」

 

 

少しだけ、お兄さんが羨ましいと感じてしまった。そういうお兄さんは千秋の側にいながらもこちらを視界に入れている

 

「ねぇ、春! あっちに世界の魚ゾーンがあるんだって!」

 

千夏も楽しそうにしててよかった。そして、可愛い千夏をパシャリ。

 

「お兄さんに言ってくるから待ってて」

 

千秋とお兄さんが体験ゾーンから帰ってきた。

 

「お兄さん、世界の魚の方に」

「行きたいんだな。よし、行こう。その前に千春ちょっとスマホ良いか?」

「はい」

 

お兄さんにスマホを渡すとそのままうちにスマホのレンズの裏面を向ける。

 

「撮って良いか?」

「え? あ、はい……」

「はい、チーズ」

 

 

パシャリとシャッター音が鳴った。お兄さんは画面を向ける。そこには何とも言えない表情のうちの写真があった。千夏と千秋と千冬とは比べ物にならない。

 

「やっぱり姉妹だな。同じ位可愛いぞ」

「……それは」

「嘘でもなんでもないさ。さて、世界の魚ゾーンにいこう!」

「おおー!」

 

 

千秋が腕を天に向ける。うちは何とも言えない気持であったが皆で水族館を歩いているうちにその気持ちを忘れてしまった。

 

 

 

◆◆

 

 

 うち達は今、露天風呂に入っている、。

 

 

 

 楽しいと時が過ぎるのは速いと言うのは本当のようだ。水族館での時間なんて最早秒であったのではないかと感じたが実際は三時間以上のようでかなり驚いた。

 

 千秋が帰りたくないと駄々をこねる姿にもどかしさを覚えたが、お兄さんが旅館での夕食があると言う話を聞いた途端に帰ると切り替えた千秋の姿に……素直で可愛いと言う印象しかなかった。

 

 旅館でビュッフェスタイルの夕食を食べてそのままお兄さんと一旦別れて、露天風呂と言う今に至る。

 

 

 お湯が暖かくて本当に気持ちいい。

 

 

「はぁ、このお湯気持ちいいっス……」

「すぴー」

「ちょ、秋! お湯の中で寝るな!」

 

 

千冬が顔を綻ばせてお湯の中でほっこりしている。バスタオルを体に巻いているが胸部が前より盛り上がっている。千夏と千秋もそれは同じだ。心身共に大人に近づいている証拠だろうか。

 

今日一日、楽しみまくって疲れたと言う理由とお湯が気持ち良すぎと言う二重の理由で千秋は寝てしまった。いそいで千秋の体を支える。千夏が肩をトントン叩き千秋を起こす。

 

千冬もトントンと千夏とは反対の肩を叩く。

 

「ん?」

「起きるっスよ」

「ん……朝?」

「いや、風呂っス」

「風呂で寝るとか……まぁ、あれだけ騒げば当然ね」

 

 

ちゃぷちゃぷと水面をはじく音が聞こえる。湖の妖精もとい、うちの妹達が楽しげに風呂場で話す姿はいつまで見ていてもあきない。

 

白くてもちもちな肌が美しい。触っても良いだろうか。

 

 

周りの女性客さんたちも千秋たちを見てここは温泉ではなく、妖精の泉ではないかと勘違いしているんじゃないかと思う。

 

 

「秋が危ないし、そろそろあがりましょう」

「そうっスね」

「んー……」

 

 

千秋がもう眠くて眠くてしょうがないようで、早足に脱衣所に向かう。濡れた体を拭いて、旅館で用意してくれた浴衣を着て、髪を乾かし荷物を纏めて脱衣所も出る。赤い暖簾の先にお兄さんも浴衣を着て待って居た。

 

「お兄さんお待たせしました」

「いや、全然待ってないぞ……千秋がもう眠くて仕方なさそうだな」

「はい。今日が楽し過ぎて体力を使い切ってしまったようで」

「じゃあ、早い所寝た方が良いな」

「んー、トランプぅー……や、やりたい……」

 

 

トランプがやりたいようだけど今にも寝てしまいそうな千秋。お腹がいっぱいで温泉に入って体温も常温以上、今日一日楽しみまくったのだから眠くて仕方ない。

 

 

「トランプはまた今度な」

「んーんー、今日やる……」

 

部屋まで千秋の手を繋いで一緒に歩き、部屋の前でお兄さんと別れる。

 

「魁人さん、今日はありがとうございまス」

「ありがとうございました」

 

 

千冬と千夏がお兄さんにお礼を言った。お兄さんは気にするなと笑う。

 

「お兄さん、本当にありがとうございました」

「早めに寝るだぞー」

 

そう言ってお兄さんは部屋のドアを閉めた。千秋が瞼をこすってトランプトランプと言うが布団に寝かせて掛布団をかけて頭を撫でると数秒で寝息を立ててしまった。

 

「二人も今日は早く寝よう。沢山楽しんで疲れもたまってるだろうし、明日もあるんだから」

 

そう言って部屋を暗くすると二人も布団に横になった。川の字で布団を並べてそこに横になる三人。

 

幸せそうな三人の顔にうちの心も軽くなる。

 

今日は楽しかった。このまま明日の楽しめるといいな。

 

 

◆◆

 

 

 

 

――助けて

 

 

 

――助けてッ

 

 

 

――カイトッ

 

 

 

それはいきなり頭の中に響いた。夢の中で誰かに話しかけられるような声。この声は何処かで聞いたことがあるような声。千秋だ。

 

 

俺はハッと目が覚めた。携帯で時刻を確認すると夜の十一時。今の声は気のせいなのか、いや、違うだろう。

 

テレパシー……千秋には相手の思考は読めないが自分の思考を相手に送ることが出来る能力があると断片的な情報を俺は持っている。

 

ゲームでは初めて能力が発現したときは全ての思考が両親と姉妹に流れてしまい、それを両親は気味悪がって妖怪だの化け物と罵る。

 

彼女自身も能力のコントロールが難しかったらしい。自覚無しの為に何が何だか分からずに混乱状態にも一時期陥ってしまった。その後は何とか抑制が出来るようになったらしいが

 

今のは……

 

テレパシー能力による物ではないか? 助けてと言っていたと言う事は何かあったのかもしれない。急いで部屋を出て隣の部屋に。ノックをしようとしたら、する前に部屋が開いた。

 

「カイト……丁度、今呼びに行こうと思ってた……」

 

目に涙をためて、顔を恐怖に歪ませている。いつもの笑顔では無くてただ顔を暗くしている。

 

この様子から見てテレパシーを意識的ではなく無意識で使っていたのかもしれない。超能力についてはどうでもいい。今は千秋の事をよく聞かないと。

 

 

「どうしたんだ?」

「また、怖い夢を見て……カイトと話したくなった……」

「そうか。じゃあ、話そう……」

 

 

廊下では話ずらいかもしれない。千春達が居る部屋は安心感はあるが起こしてしまうかもしれない。

 

だとするなら、俺の部屋が良いか。だけど、一人で俺の部屋は怖いかもしれないな。そこが心配だが……

 

「三人起こすしちゃうとあれだし、俺の部屋で良いか……?」

「うん……」

 

 

弱っている千秋を見ているとこちらまで心が廃れていくような気分になる。千秋は自分たちの部屋に鍵を掛けて俺の手をギュッといつもより強く掴んだ。手は震えて俯いている。

 

ゆっくり、千秋の手を引いて部屋に入る。

 

「電気はつけないで……今は顔見られたくない……」

「分かったよ」

 

 

だが、暗い部屋で全く見えないから少しだけ月明かりの方へ向かう。見え過ぎず、見えな過ぎない場所。俺だけ月明かりに当たり顔をよく見えるようにして、安心感を与えられるようにする。千秋は見られたくなくても、だからと言って真っ暗は怖いだろう。闇を相手に話をするより人の顔が見えた方が話もしやすい。そこで腰を下ろす。

 

「どんな、夢だったんだ……?」

 

 

腰を下ろしたが手は繋いだまま、なるべくプレッシャーをかけない様に俺は千秋に聞いた。

 

 

「話したくないなら、全然関係ない話でも良いんだぞ? 食べたいご飯の話とか、休み前の学校での出来事とかでも」

「……夢の話聞いて欲しい」

「分かった。ゆっくりで良いからな、自分のペースで話してくれ」

「うん……」

 

 

急かしたりするのは良くない。待つことも大事。シーンッと静けさが部屋を包んで数秒。千秋が震えながら口を開いた。

 

「また、同じような夢を見た……髪を引っ張られて、リモコンを投げられて……蹴られて頭をぶつけて……ただただ怖い夢を見た……怖くて怖くて、前より、比べられないくらい怖くて……ねぇ、カイトは私達を捨てないんだよね? 約束したよね? 私達を捨てないって……」

「そうだ。捨てたりしない。だから、安心してくれ」

「ありがとう。カイト……」

 

少し、安心したのか千秋の手の震えが収まってきた。

 

「皆、不安定なの……。アンバランスでいつ崩れてもおかしくないの。泣いたり、悲しくなったりしてもおかしくないの。今が幸せ過ぎて昔を思い出した時の恐怖は計り知れなのくてその度に心があの時に戻って怖くなるの」

「そうか……」

「私達、面倒くさい?」

「そんなことない。全然そんなことないから安心してくれ」

「……うん、安心した」

 

 

声音が落ち着いて優しそうでいつもより大人な千秋の声が響く。良かったと安心すると千秋が急に抱き着いてきた。

 

胡坐で座っていた俺の背中に手を回して、胸板に自身の頭をグイグイと押し付ける。

 

「こうさせて……」

「いいぞ」

「頭も撫でて……」

「分かった」

「名前も呼んで」

「千秋……」

「……私、カイトの事好き……」

「ありがとう……俺も千秋の事は好きだぞ」

 

 

頭を撫でながら俺も千秋の背中に手を回して、抱きしめた。千秋は再び、啜り泣きしてしまった。でも、悲しさではなく、嬉しさであると分かった。

 

「カイト。聞いて。もう、隠す意味もなくなったから」

「分かった」

「私はね……昔はこんなに笑顔でも無かったし、話すことも無かったし、自分の事を我だなんて言わなかった」

「……」

「根暗で姉妹で一番話さなかった。話せなかった。会話は最低限で、姉妹とも話すことも少なくて背中に隠れるのが普通だった。でも、昔は皆が泣いてて、空気が暗くて……何かしないと、何か変えないと思って……勢い任せで……訳分らないキャラを演じてみた。千春と千夏と千冬は最初は驚いたけど、笑ってくれた。急にどうしたのって、良く分からないけど面白いって。そんな一面があるなんて知らなかったって……その時、決めたの」

 

 

千秋が変わった話。そのきっかけは姉妹である。本当に優しい子だ。

 

 

「――私は、我は……誰よりも楽しく笑って、話して、はしゃいで、姉妹の役にたとうって。背中にずっと隠れて黙って根暗な自分を変えてようって」

「凄いじゃないか……誰にでも出来る事じゃない」

「ありがとう。そう言ってくれると嬉しい。でも、最初は姉妹の為にと思ってたけど、今では我の方が素だし、厨二病って心の底からカッコいいと思うし、自分の生き方を誇れるし、我は今の自分が好きだ」

「そうか。誰かの為に変えたことが自分の為になったんだな」

「うん。こういうの情けは人の為ならずって言うんだろ? 最近覚えた」

「そうだ、賢くてカッコいいぞ。まるで賢者だ」

「えへへ……これはカイトと我の二人だけの秘密だぞ? 三人には言ってないんだ」

「分かった」

「……他にも秘密はあるけどそれはまた今度にする。……また、話をしていいか?」

「勿論だ。明日でも明後日でも、一年後でも十年後でも話してくれ」

「……やっぱりカイトの事、大好きだ」

「ありがとう……俺もだ」

 

 

 

千秋が胸板から頭を離して俺の顔を見上げた。月の光が千秋を照らす。眼が少し腫れているが今まで見てきた中で一番だと俺は感じた

 

 

「今日はこのままがいい……このまま、ここで寝る」

「風邪ひくぞ」

「この部屋暖房効いてるから大丈夫」

「そうか。分かった……」

 

 

 

千秋は再び胸板に頭を押し付けて、体も預けて、スヤスヤと眠りについた。腰を上げて千秋を持ち上げ、布団に彼女を横にして自身も横になる。

 

 

そのまま、俺も目を閉じた

 

 




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