イアイアの実・モデルニャルは地雷案件すぎませんか? 作:露木曽人
俺の名はハウト。
フォーマル・D・ハウト。
イアイアの実・モデルクトゥグアの能力者だ。
前世では冴えない高校生だった俺は、学校帰りに突然青信号なのに突っ込んできたトラックに轢かれて死んでしまった。
だが死後、神様を名乗る美少女に出会い、転生させてもらえることになったのだ。
マジかよ、と思ったが、事実だ。
こうして俺はワンピースの世界に転生させられた。
本当は剣と魔法のファンタジー世界がよかったのだが、この際贅沢は言うまい。
『君はこの世界で何をしてもいいし、何もしなくてもいい!君は に自由だ!さあ、君の 物語を僕に見せておくれ!できれば派手に引っ掻き回してくれると嬉しいな!そうでもしてくれないとあの子、 からね!』
子供の頃からイアイアの実の能力で島では敵なしの強さを誇った俺は、全ての覇気を使えることが判明し、ついでに六式も体得して、海賊狩りとして活動するようになった。
楽して大金を稼ぐには懸賞金が一番だったからだ。
子供らしからぬ子供ということで島では恐れられ周囲から迫害された俺は、十五歳になったある日、たかだか島にあった山をちょっと焼き尽くして軽く地形を変えてしまったぐらいで両親からもバケモノ扱いされてしまったのをきっかけに島を出た。
腹いせに島を火の海にしてやろうかとも想ったのだが、俺は優しいので勘弁してやることにした。
今まで誰のおかげで海賊たちから島が守られていたと思ってやがるんだあの恩知らずどもは。
まあいい、精精俺がいなくなった後で後悔するがいいさ。
島を出た俺は途中、ヒューマンショップをひとつ潰した。
天竜人や奴隷制度なんてものが、見ているだけで不愉快だったからだ。
奴隷たちは全て逃がしてやったのだが、そのうちの三人が俺の下で働きたいと言い出したので、しょうがなくOKしてやった。
「えへへ!ご主人様のためなら私、命だって惜しくないです!ご主人様は、ただの奴隷に過ぎない私を対等な人として扱ってくれました!」
ひとり目はイアイアの実・モデルハスターの能力者、ウィンディだ。
ウィンディは緑の髪の毛と緑の瞳を持つ美少女で、風を操って空を飛んだり、鎌鼬や真空波で敵を斬り裂くことができる。
そして、まさかのイアイアの実の能力者だった。
この世界にはイアイアの実が他にも沢山あるのだろう。
俺はイアイアの実の能力者を集め、フォーマル海賊団を結成しようと決めた。
「ご主人たまあ!なでなでしてほしいニャ!ご主人たまの敵は、みーんなアリスが殺してあげるニャ!」
ふたり目は、ネコネコの実・モデルチェシャの能力者、アリスだ。
アリスは紫の髪と紫の瞳を持つ美幼女で、透明になったり空中に浮かんだりすることができる。
気質が猫なのでものすごく甘えん坊なのが玉に瑕だが、実は子供の頃から殺人マシーンとして育てられた恐るべきジェノサイダーなのだ。
俺の前ではただの可愛い子猫ちゃんだけどな、はは!
「あなたに絶対の忠誠を誓います。一介のメイドに過ぎないこの私を、対等なひとりの人間として扱ってくださったのはあなたが初めてです、主様」
三人目は、トリトリの実・モデルスワンの能力者、アンジェだ。
アンジェは銀の髪と銀の瞳を持つ美女で、まさかのメイドさんだった。
なんでも前の主人に、銀の髪なんて老婆みたいで気持ち悪いとヒューマンショップに売られたらしい。
そんな経緯があったせいか自分の能力にかなりコンプレックスがあったみたいで、初めて背中から翼を生やした時は見ないでください!と怯えていたが、綺麗だよ、天使みたいだ、って言ったら号泣してしまった。
チョロインかよ。
三人を仲間にした俺は、適当に歯向かってくる海賊どもをぶちのめしながらアラバスタを目指すことにした。
お目当てはビビだ。
俺はワンピの女キャラの中ではビビが一番好きだった。
だから、彼女と結婚したい。
もちろん相手は王女様だから、無理なのはわかってる。
そこで、クロコダイルを俺がぶっ飛ばして恩人になれば、その恩で結婚させてもらえるのではないかと考えたのだ。
ルフィには悪いがビビは譲れない。
そんなわけでフォーマル海賊団は一路アラバスタを目指すことにした。
本当はベローナも仲間にしたかったのだが、スリラーバークに寄ってる暇はないので後回しだ。
ビビと結婚したら、彼女を船に乗せてグランドラインで新婚旅行をするつもりだから、その時に仲間にしよう。
「ご主人たまあ!なんか金ピカのお船がいるニャ!」
「え?マジ?」
まさかのグランテゾーロだった。
なんでこんなとこウロウロしてるんだよ!と思ったが、冷静に考えればこれはチャンスだ。
世界中の富の20%を独占してるテゾーロをぶっ飛ばして有り金全部俺のものにしちゃえば、手っ取り早くビビと結婚できるかもしれない。
クロコダイルぶっ飛ばすよりは大変かもしれないが、イアイアの実の能力があれば楽勝だろう。
なんせ神の炎だからな。
メラメラどころかマグマグだって消し飛ばせるほどの炎なのだ。
俺がその気になれば地球を丸ごと焼き尽くすことも可能であることはここだけの秘密だ。
「おいマジか!こんなところにいるなんて!」
そしてグランテゾーロに上陸した俺はさらにびっくりした。
ニャルラト教。
メチャクチャ怪しい名前の教団の支部がグランテゾーロにあった。
しかも、聖女とか呼ばれてる教祖がとんでもなく美少女だった。
俺の仲間たち三人も結構な美人だが、それが霞むレベルの美少女だった。正直、ビビとかどうでもよくなるレベルで目を奪われた。
危ない危ない、ビビは俺の嫁だからな。結婚する前から浮気とか男として最低だろJK。
どうやら彼女はイアイアの実・モデルニャルの能力者らしい。
全てのイアイアの実の能力者を仲間にすると決めた俺にとっては、未来の仲間というわけだ。
そんな彼女はどうやらカルト宗教に狂った狂信者どもに囚われてしまっているらしかった。
大変だ、俺が助けてやらないと。
そもそもこの手の転生ものにおけるカルト宗教なんてのは大概が碌なもんじゃないと相場が決まっている。
どうせお布施とか言って信者から無理矢理ベリーを巻き上げて豪遊しているに違いない。
潰さねば(使命感
それに、彼女はとんでもなく美少女だから、仲間にしたら俺のハーレム要因にしてあげてもいい。本命はビビだけど、でも人はパンのみに生きるにあらず。
たまには米やラーメンが食べたくなる日もあるだろ?
ビビは王族だから、王が後宮作って妾を持つことにも理解があるはずだし。
問題なのは嫉妬深いウィンディたちだけど、俺に捨てられたくなければ我慢するだろう。俺は女のギスギスしたのは嫌いだから、仲よくしてほしい。百合アニメぐらいのゆるふわほのぼの具合で頼む。
「俺はハウト!フォーマル海賊団の船長、懸賞金2億ベリーの賞金首、フォーマル・D・ハウト!君を助けに来た男だ!」(ドン!)
「ええと、そうなんですか?その、初めまして」
「悪い!今は説明している時間が惜しい!みんな!やっちまえ!」
俺はマグマグの実がぬるま湯に思えるぐらいの火柱をぶちかまし、教会を跡形もなく消し飛ばしてやった。
「お嬢!ォ!」
「「お嬢様!」」
「おっと!邪魔はさせないよ!」
「ご主人たまはアリスたちが守るニャ!」
「身の程を弁えてくださいまし」
慌てた信者どもが駆け寄ってくるが、まあ彼女たちの敵ではないだろう。
俺はあいつらが戦ってるうちに彼女を連れ出そうとその手を握ろうとして、できなかった。
「さあ今のうちに...え?」
ドサリ、と俺の手が、塩になって崩れ落ちたからだ。
悲鳴を上げようとして、声が出ないのは、顎が塩となって崩れ落ちているからだと気付いた。
彼女を見ようとして、眼球が塩に変わった。
突然の浮遊感は、足が爪先から潮になっていっているせいで、立っていることができないと気付いた時にはもう、手遅れだった。
「ごめんなさい。あなたを野放しにしておくのはちょっと...というかだいぶ...かなり危険そうなので、私が言えた義理じゃないのですが、本当にごめんなさい。どうか、恨んでください」
『ワオ、君って凄いチャレンジャーだったんだね!まさか初手であの子に挑むとは思わなかったよ!ま、それなりに面白かったけど、ちょっと展開がありきたりすぎて食傷気味だったから、残念ながらここでオシマイってことで!』
薄れゆく意識の中で俺の、潮になってしまってもうないはずの耳に届いたのは、俺をこの世界に転生させた、美少女女神の愉快そうな笑い声だった。