イアイアの実・モデルニャルは地雷案件すぎませんか?   作:露木曽人

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第10話 しゅやく は おくれて やってくる

こんにちは、凡人系小市民聖女ニアです。

 

突然ですが、私は暴力が嫌いです。

 

痛いのも苦しいのも辛いのも嫌です。

 

できる限り怪我や病気や死は回避したいし、できれば目の前で誰かが傷つき血を流すところも見たくはないんですよね。

 

だって、嫌じゃないですかそういうの。

 

 

ジャンプ漫画の世界で何言ってんだお前と思われるかもしれませんが、実際そこで生きている身としては堪ったものではありません。

 

病院に行けば元通りにくっ付けてもらえるからさ、今すぐ君の指を切り落としてよ!と包丁を手渡されて、はいわかりましたとあなたならやれますか?私には無理です。

 

 

同様の理由で、海軍に捕まりたくもありません。

 

逮捕歴なんて残ってしまったら、私のまっさらな経歴に瑕がついてしまうではありませんか。

 

私は誰に恥じることもなく堂々と、お天道様の下を歩く人生を歩みたいんですよ。

 

ですがまあ、時としてやむを得ない場合というものも確かに存在します。

 

 

 

「俺はハウト!フォーマル海賊団の船長、懸賞金2億ベリーの賞金首、フォーマル・D・ハウト!君を助けに来た男だ!」(ドン!)

 

「ええと、そうなんですか?その、初めまして」

 

「悪い!今は説明している時間が惜しい!みんな!やっちまえ!」

 

突然目の前で巻き起こった火柱が、教会を消し炭にしながら凄まじい熱気を放ちます。

 

うーん、これがイアイアの実・モデルクトゥグアの能力ですか。

 

怖ろしいですね。

 

それ以上に恐ろしいのは、その能力者である彼なのですが。

 

 

一応、入港する海賊たちの情報は逐一チェックされていますので、彼の経歴は一通り把握しています。

 

持つべきものは諜報網ですね。

 

幼い頃から海賊狩りとして名を馳せ、十五歳の時、生まれ育った島を追放。

 

以後海賊に。

 

ヒューマンショップを潰し、解放した奴隷たちを仲間に。

 

 

うーん、これは紛うことなきオリ主ですね間違いない。

 

それも、厄介なタイプの主人公さんです。

 

船員が全員美少女というだけでもかなり怪しい感じなのに、こちらをカルト宗教と決めつけて一方的に攻撃、しかも、私のことを露骨に性的な目で見てくるのも頂けません。

 

 

 

「お嬢ォ!」

 

「「お嬢様!!」」

 

「おっと!邪魔はさせないよ!」

 

「ご主人たまはアリスたちが守るニャ!」

 

「身の程を弁えてくださいまし」

 

こんなこともあろうかと、教会にいた皆さんには彼らが来る前に避難しておいてもらってよかったです。

 

またですかーみたいな感じで着々と避難慣れしていくせいで、すっかり軍隊ばりのスピーディな集団行動ができるようになっていく教徒の方々は逞しいですね。

 

 

ちなみにダゴンさん、ロスさん、シャンタークさんは私の特に敬虔な信徒っぽい信仰を捧げてくださっているので、イアイアの実によってニャル様の加護という名の呪い、ゲフンゲフン、バフがかかっており、クトゥグアの炎にもある程度の耐性を得ていますが、過信はできません。

 

 

これから戦闘になりそうなので、イアイアの実の能力で彼らに"刻印"を五重に付与しておきましょう。

 

これで攻撃力の底上げが地味に行われます。

 

オイラは聖女!だからね、是非もないですね。

 

実はまだ1凸だなんて言えません。

 

 

 

「あはははは!あなた程度じゃあ私に近付くこともできませんよッ!!」

 

「トロい!トロいトロいトロすぎるニャッ!!あんたみたいな図体だけのデクノボー、アリスのスピードの敵じゃないニャァ!」

 

「お気の毒に。あなたは仕えるべき主を間違えてしまった」

 

イアイアの実・モデルハスターの能力者が作り出した風の刃で、一方的にズタズタに切り刻まれていくダゴンさん。

 

斬り落とされた両腕がどさりと落下するのがとても痛々しい。

 

 

ネコネコの実・モデルチェシャの能力で透明になった少女にものすごいスピードで翻弄され、全身に蹴りを叩き込まれていくロスさん。

 

脳筋系巨漢キャラは噛ませ犬の運命なんだよォ!とでも言わんばかりに。

 

 

トリトリの実・モデルスワンの能力者が、空を飛びながら両手で連射する二丁拳銃の弾を、二振りの刀で斬り落としていくシャンタークさん。

 

石川五右衛門ですかあなたは。

 

 

 

「さあ今のうちに...え?」

 

女性の体に、勝手に触ってはいけません。

 

たとえどんなイケメンであろうとも、初対面の男にいきなり髪や手に触れられたら気持ち悪いだけです。

 

覚えておきましょう。

 

ただしイケメンに限る、というのは童貞の妄言です。

 

イケメンだろうが何だろうが、許されないものは許されません。

 

 

ドサリ、と彼の腕が塩になりました。

 

というか、私がしました。

 

あまりこういった直接的な戦闘には及びたくないのですが、仕方がありません。

 

彼を野放しにしておくと、原作が崩壊しかねないとわかってしまった以上、私の平穏無事な生活のために、申し訳ありませんが、ここで仕留められてください。

 

 

 

「ごめんなさい。あなたを野放しにしておくのはちょっと...というかだいぶ...かなり危険そうなので、私が言えた義理じゃないのですが、本当にごめんなさい。どうか、恨んでください」

 

ああ、嫌だ嫌だ。

 

彼の体が、塩と化して崩れていく。

 

目の前で、ひとつの命が尽きていく。

 

私が、彼を殺すのだ。

 

悍ましい。

 

命を奪うという行為は、何度やっても慣れない。

 

偽善者と、人は私を罵るだろう。

 

ならば、あなたもやってみるといい。

 

 

保健所に行って、犬でも猫でも引き取って、実際に殺してみるといい。

 

刃物で解体?電子レンジに放り込む?死ぬまで靴底で踏みにじる?ペットショップで餌用に安売りされているモルモットを、生きたまま靴底で踏み潰してみるといい。

 

ああ嫌だ嫌だ、想像するだけでも気持ち悪い。想像したくもない。そんなこと、やるのも見るのも嫌だ。人として、あるまじき行いだ。

 

あなただって、嫌でしょう?そんなこと、したくはないでしょう?私も同じだ。ワンピースの世界の住人だろうが、悪魔の実の能力者だろうが、私は人間だ。

 

たとえSAN値が尽きていようとも、感性はどうしようもなく人間であり、人間を辞めたいとは思わない。

 

私は、平然と誰かを殺せるような人間にはなりたくない。

 

殺すのも、殺されるのも、嫌だ。肉が潰れる感触が嫌だ。吐き気を催す血の臭いが嫌だ。だから塩を選んだ。せめてもの次善策だ。泥だとちょっとアレだったので、塩にした。血も出ず、肉もちぎれず、骨も削げない方法で...私が、人を殺すのだ。

 

 

 

ああ、神様。本当は、誰を傷つけることも、誰に傷つけられることもなく、生きていたいのに。

 

 

天竜人?あれはノーカンだから。

 

真夏に部屋に入ってきた蚊や、特殊召喚された黒光りするGをSATSUGAIしても特に良心の呵責には苛まれないのもまた人間なのでセーフ!

 

 

 

『ワオ、君って凄いチャレンジャーだったんだね!まさか初手であの子に挑むとは思わなかったよ!ま、それなりに面白かったけど、ちょっと展開がありきたりすぎて食傷気味だったから、残念ながらここでオシマイってことで!』

 

 

 

どこからともなくニャル様の高笑いが木霊する。

 

あ、あなたの差し金だったんですね。

 

何て迷惑な。

 

いえ、迷惑じゃないニャル様とかそれはそれで逆に怖いですけど。

 

 

 

「ご主人様!」

 

「ご主人たまァ!」

 

「主様ッ!」

 

先程とは逆の立場で、彼のクルーたちが、全身塩になって、洋服だけを残して砕け散ってしまった彼を悲痛に呼びます。

 

そして私の手には、悪魔の実。

 

いやね、想ったんですよ。

 

黒髭さんがヤミヤミの実の能力で、グラグラの実の能力をパクっていたじゃないですか。

 

 

それってつまり、悪魔の実の能力というのはあくまでも目に見えないがそこに独立して存在している代物であり、能力者が死ぬと世界のどこかにその身が新しく生まれるというのは、その目に見えない能力が何らかの果実に宿ることで変質することで生まれるのではないか、と。

 

 

で、実際にやってみたら、できました。

 

イアイアの実・モデルニャルの冒涜的能力で、能力者の体から流出していく悪魔の実の力っぽい要素を無理矢理凝縮。

 

能力者の心臓を触媒に、かき集めた悪魔の実の力の素を注入!

はい、これでイアイアの実・モデルクトゥグアの再誕です。

 

同じ手順で、イアイアの実・モデルハスターモ回収させていただくことにしましょう。

 

ほんっとーに気が進まないのですが、やりたくなくともやらなければならないことというのはいつの世もどこの世界でも存在しますので。

 

 

 

「気は済んだか?」

 

腕の切断面から触手を生やしたダゴンさんが、床に落ちた腕が変貌した触手とともに、一斉にハスターの少女に肉薄します。

 

切断系能力者と、切断されたら切断された分だけ触手が増殖するイアイアの実・モデルダゴンの能力者では、相性がよくなったのでしょう。

 

「ディープ・パラサイト!!」

 

こうなったら!とグランテゾーロを丸ごと壊滅させかねない危険な暴風を発生させようとした彼女の口から耳から鼻の穴から侵入していった触手が...うへえ、かなりえげつない攻撃しますねダゴンさん。

 

私、しばらくコンニャクやトコロテンが食べられなくなってしまいそうです。

 

 

 

「ちょろちょろ、ちょろちょろ、ハエみてェに、鬱陶しいッ!」

 

いい加減、チクチク蹴られることにウンザリしたのでしょう。

 

ロスさんの海楼石のブーツが、チェシャ猫少女の尻尾を踏み潰しました。

 

そのまま海楼石のメリケンサックをはめた、少女の頭よりも巨大な拳が、勢いよく振り下ろされます。

 

 

そうなんですよね、パワー系脳筋キャラはスピード系キャラの噛ませ犬というのはよくあることなのですが、その実一発でも攻撃をブチ当ててしまえば一撃粉砕できるのがパワー系キャラの強みでもあります。

 

 

例えるならば、メタルスライムがキラーマジンガ様相手にミス!ダメージを与えられない!か、もしくは1ダメージを100回やっている間に、キラーマジンガ様が会心の一撃を一発当てれば勝利、みたいな感じです。

 

 

 

「お気の毒に。あなた様は仕えるべき主を見誤ってしまった、のやもしれませぬ」

 

相手の攻撃が届かない空から、一方的に銃弾の雨をばらまく。

 

なるほど、有効な戦術です。

 

相手が空を飛べないことが前提ですが。

 

羽毛の代わりに鱗のような鋭い金属に覆われた翼で飛翔したデビル執事さんが、空飛ぶエンジェルメイドを斬り捨てました。

 

 

 

「皆さん、お疲れ様でした」

 

彼らを労いながら、私は口から鼻から耳から、体中の穴という穴から泡を噴いて気絶しているという、痛ましい少女にごめんなさい、と謝罪しながら、彼女の体を潮に変えて砕き、その体からイアイアの実・モデルハスターを取り出します。

 

 

残りのふたりは海軍に引き渡して、そちらで逮捕してもらうことにしましょう。

 

さすがに一日にふたりも殺してしまったせいで、私の精神状態がヤバいことになってしまっているんですよ。

 

嫌です、もうこれ以上誰かを殺したくはないです。

 

無理無理、もう無理!

 

「お嬢様、顔色が優れないご様子ですが」

 

「ええ、そうですね。すみませんダゴンさん、このおふたりの拘束をお願いできますか?シャンタークさんは海軍への通報と、テゾーロさんへの説明を。ロスさんはその...ちょっと気分が優れないので、ハーブティーか何かをお願いします。後片づけは、後でやりましょう」

 

「かしこまりました。

 

お嬢様、どうかご無理はなさらず」

 

「すぐ淹れるっす!畜生、こいつらぜってェ許さねェ!」

 

「こちらのことは我々に任せて、今はごゆっくりとお休みください」

 

ご存知の方もいるかもしれませんが、クトゥグアの炎はニャルラトホテプの天敵です。

 

ハウト氏が最初から殺すつもりでいきなり島外から先制攻撃を加えてきたならば、今頃壊滅させられていたのはこちらの方だったかもしれません。

 

 

強くあらなければ。

 

私の平和な生活を、私を慕ってくれる人たちを、外敵から守れるぐらいには。

 

 

 

そう決意しながら、私はクトゥグアの実とハスターの実をドリームホールにしまい込みました。

 

この技は吸い込んだものを空間転移させる技だが、出口を作らなければ四〇元ポケットよろしく便利に収納しておくことができるのです。

 

 

しかし、これでニャルラトホテプの地、クトゥグアの炎、ハスターの風と、有名どころが揃ってしまいました。

 

水を司るっぽいイアイアの実・モデルクトゥルフも、たぶんこの世界のどこかにあるのでしょう。

 

厄ネタにならなければよいのですが、たぶん無理ですよね...はァ...




イアイアの実・モデルクトゥグア
星ひとつ容易く焼き尽くす神の炎を使役できるようになる悪魔の実。多くの伝承においてニャルの天敵とされる。なので能力者次第ではとても危なかった可能性が高い。

イアイアの実・モデルハスター
星ひとつ容易く覆う規模の嵐を引き起こすことができるレベルで風を操れるようになる悪魔の実。暴風雨による津波でワンピ世界を根こそぎ海の底に沈めることも可能だった。
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