イアイアの実・モデルニャルは地雷案件すぎませんか? 作:露木曽人
こんばんは、空島編で一番好きなキャラは空の主、大蛇ノラちゃんなニアです。
角界ガエルのヨコヅナちゃんももちろん好きです。というか、ワンピースに出てくる動物たちはみんな短い登場ながら抜群のインパクトで強く印象に残るので大体みんな好きですね。
激闘の空島編を終えて、さらにパワーアップして地上に戻ってきたルフィくんたちは現在、デービーバックファイトの真っ最中。
そんな最中、私たちニャルラト教団も新たな局面を迎えようとしていました。
「準備はいいですか?皆さん。くれぐれも短気は起こさないように。よろしいですね?」
「ああ」
「うっす」
「仰せのままに」
デービーバックファイト編が終わり、物語がウォーターセブン、引いてはエニエスロビーへと移っていくと、物語は本格的に激化していきます。
そしてスリラーバーク編後、作中最大のターニングポイントとなるエースさんの公開処刑が執り行われるのです。
彼の死がもたらす影響は計り知れません。
中でも特に、偉大な大海賊である白髭さんの死後、ロジャーを生き返らせろと迫ってくる集団とは別に、今度は白髭を生き返らせてくれと迫ってくる集団が加わってしまえば、もはや平穏無事な生活など夢のまた夢。
そもそもエースさんの処刑からして、死んだけど聖女ニアの力で生き返りましたー!!なんてことになったら目も当てられないと、海軍が天竜人たちの怒りを買うことを承知の上で、本格的に聖女ニアの抹殺に動き出してもおかしくはないのです。
私たちに取れる対策は、大まかにふたつ。
ひとつは、大人しく殺されてしまうこと。
聖女ニアが死んでしまえば、教団は崩壊します。
なので、生け贄用の私が犠牲になって、聖女ニアは死んだことにして、名前と顔を変えて別の島でひっそりと生きていく道。
これはニャル様があまりよい顔をしなさそうなので、できれば選びたくありません。
今なら『まあ、ほどほどに楽しませてもらったし、もういいかな?』と打ち切りエンドで許してもらえる可能性もありますが。
元より飽きっぽい神様なので、私の人生という名の物語がひとつふたつ潰えたところで、他にも沢山の世界線をお持ちのようですから私が思っているより気にもしないかもしれません。
もうひとつは、天竜人たちを利用する方法です。
聖女ニアは天竜人の奴隷であり玩具なので、世界政府や海軍にとって都合の悪いことはしないから大丈夫、とアピールする作戦。
こうすれば天竜人たちの庇護下に身を置けるので、迂闊に手出しをされることもありません。
そんなわけで、私たちはこちらの作戦で行くことにしました。
布石は早い段階から打っておいてこそ効果があるのです。
エースさんが死んだ後に慌てて根回しをしようとしても遅すぎるでしょう。
頑張れ頑張れ私、私はやればできる子、だったらいいなあ。
「グズグズするなえ!」
「はい、申し訳ありません」
現在私たち、聖女ニアとその護衛二名、彼女に付き従う執事一名は、なんとか聖という名前の天竜人の奴隷として、色んなパーティに出席しています。
もちろん、なんちゃら聖は死人であり、体が塩でできた操り人形なのですが、生前の人格をそのまま再現させてあるため特に不審は抱かれていません。
当然、作戦を邪魔されては困るので、あちこちに話は通してあります。
ものすごく仏頂面のダゴンさんや、いつも通りの笑みを絶やさないプロフェッショナル執事シャンタークさんはいいとしても、たとえ演技だとわかっていても、ぞんざいに扱われる私に今にもブチギレてしまいそうなロスさんは特に危なそうですし。
敵を欺くにはまず味方から、の精神で、彼らに黙ってじっと耐える聖女ゴッコをしてもよかったのですが、暴発されるぐらいならばいっそネタばらしを事前にしておいた方が危険はありませんしね。
「おやおや、これはこれはワイマール聖。遠いところわざわざのお越しに感謝致します」
「ふん、薄汚い金の亡者めが。わえに近付くなえ。金属臭くて敵わん」
「はは、これは手厳しい」
「ところで、そちらの女性が噂の?」
「ふん、下々民にしては少しばかり見栄えがよかったでな、わえの奴隷にしてやったものを、芸のひとつもできんつまらぬ牝よ」
「あっ!」
あ、この天竜人そんな名前だったんですね。
天竜人に突き飛ばされた私が、パーティ会場の床に転がるのを、周囲の客たちは恐る恐る半分、いやらしい目半分で眺めています。主に前者が女性、後者が男性ですね。自分があんな目に遭わされたらと思うと、と青褪めている女性陣に対し、男性陣は自分がもし天竜人の立場になったら、みたいな感じで盛り上がっているようで、作戦は上々といったところでしょうか。
清廉潔白で純情可憐な美少女が、醜い天竜人の男に玩具のように、奴隷のように好き勝手に弄ばれているのを見て、男なら反応してしまうのも無理はありません。
嫌悪感を抱く男よりも、いやらしい目を向ける男の方が多いのも、まあこのニアちゃんのAPP19という人外の美貌であれば納得でしょう。
まるで天使のような聖女様が、ブ男に甚振られ嬲られる姿を遠巻きに、恐る恐る目撃してしまっている幼気な少年たちの性癖が歪んでしまわないことを願わずにはいられません。
おっと、ここいらでちょっとサービスとして、倒れた拍子にナイトドレスの胸元を大きくはだけさせ、生足もやや気持ち露出しておきましょう。恥辱のせいか怒りのせいか、やや頬を上気させ赤らめさせておくことも忘れずに。悔しい、でも逆らえない、私が逆らったらみんなが、みたいな表情がポインツです。
サービスサービスゥ!
ちなみに今話しかけてきていたのはテゾーロさんです。
またテゾーロかよ、他に友達おらんのかあんた、と思われるかもしれませんが、彼の持つ権力や名声はとても有効なコネクションですので。
ちなみにこのワイマール聖、かつてテゾーロさんの愛する女性、ステラさんを購入し飽きたら殺したという例の奴です。
そのためテゾーロさんに天竜人を利用して聖女の安全を確保しよう作戦に協力してもらうにあたり、一か月ほど貸し出しました。
何度殺されても殺されても、あの世に逃げることもできず強制的に生き返らせられ、テゾーロさんの積年の恨みをぶつけられたのはお気の毒ですが自業自得なので仕方がありません。
そんなわけで、今では人格が完全に崩壊して発狂してしまい、あの世から呼び戻してもまともに会話もできないぐらいボドボドになってしまった彼を操り人形として、私たちは作戦を決行しています。
別に彼以外の天竜人でもよかったのですが、テゾーロさんへのサービスも兼ねて、ね?
本来であれば顔を見るのも業腹な恨み骨髄の憎き天竜人などたとえ操り人形であったとしても視界に入れるのも嫌かもしれませんが、一か月に及ぶサンドバッグフリー体験と、そんな憎い仇が私のようなただの小娘の奴隷未満の手駒として使い潰されていくのを見るのも乙なもの、ぐらいまではトラウマを克服してもらえたようで何よりです。
なおレンタル期間延長を既にお願いされているので、たかが一か月間延々殺し続けたぐらいでは恨みは晴れていないようですね。まあ、そりゃそうかもしれませんが。お断りする理由もないので気の済むまでお貸ししましょう。
「ふん!いつまで転がっているつもりかえ見苦しい!この、愚鈍なゴミ牝が!」
「あう!申し訳ありません、ああッ!」
ビシビシと痛みを感じない程度に鞭で小突かれて悶絶している姿をこれでもかとばかりにアッピールする私に、会場のボルテージもうっすらと上がっているようですね。
いいんですかね男性の皆さん、ご同伴の女性の方々が汚物でも見るような目であなた方を睨んでおりますが。そういった視線に女性は敏感なものですよ?
ちなみにロスさん、最初のうちはワイマール聖人形の頭蓋骨(ない)を粉砕せんばかりに睨んでいましたが、ここまで来ると逆に『何やってんすかお嬢』みたいな目で私を見てきます。
シャンタークさんの『お嬢様は何事にも一生懸命に当たられるお方なのですね』みたいな出来の悪い孫娘を見るような目が痛いです。
「お嬢様」
「ごめんなさい、ありがとうダゴンさん」
『お前もうえー加減にせーよ』みたいな感じの声色で抱き起してくれたダゴンさんにエスコートされながら、私はフラフラと天竜人に虐げられる可哀想な女アッピールに余念がありません。
こんな調子で、海軍のお偉いさんやら政府の高官やら貴族やらが集まるパーティで、連日地道な工作活動を続けていきます。今日はあっちのパーティ、明日はあっちのパーティと、色んなパーティに出席していると、何だかちょっぴりセレブになった気分ですねフフ。
とはいえいざ出席して会場でやっていることは出来の悪いお芝居なので、どちらかというと気分は学芸会で下手なシンデレラを演じる女学生でしょうか。
ああイヤやめて、およしになって、堪忍ェ。
回数をこなすごとに演技が少しずつ上手くなっていくのに比例して、露出度も上がっていっているのは別に悪ノリで悪ふざけしているわけではありません。
必要経費です。
わー紐だー。え?これ下着なの?ただの糸じゃん。え?こっちのブラは何?これマジでブラ?みたいな感じで、今まで触れたこともなかったような過激な下着を面白半分に着て遊んでいるわけでは断じてないのです。
ええ、聖女ニア様は淑女ですから。
パンティは清純な白でなければなりません。
ただ、ちょっとおしゃれにも興味のある年頃の女の子ってだけであって。
ええ。
ちなみに余談ですが、先日別のパーティでも同じように可哀想な私ゴッコに勤しんでいたところ、会場の警備に駆り出された海軍さんの中にまさかの海軍内ではそこそこの地位にいる伯父さんが混じっていて、号泣されてしまいました。
号泣しながら唇と拳から血を滲ませて、それでも会場の警備に徹する叔父様、プロですね。
パーティ後に慌てて叔父さんのところへ直行して、色色あるけど私は大丈夫だから気にしないでほんと、いやマジで大丈夫だから、と説得したところ、逆に却って泣かれるという珍事にも遭遇しましたが私は元気です。
伯父様、強く生きてくださいね。
まかり間違っても血迷って海軍に辞表を叩きつけたりはしないように。
しかし、人間は自分が信じたいものを信じたいように信じるというのが教団の信者を連れ戻しに来た部外者や伯父さんを見ているとよくわかりますね。
私が何度平気、大丈夫だと言っても、伯父さんの中では『健気な姪っ子が精一杯去勢を張って自分を心配させまいと気遣っている』ようにしか見えなかったみたいで。これは私の<説得>が低すぎて失敗してしまったのでしょうか?
まあいいです、とにかく今は頑張りましょう。
こういった地道な草の根活動がいつか巡り巡って、私たちの安寧安泰につながるならば、このニア、女優にだってなりますとも!