イアイアの実・モデルニャルは地雷案件すぎませんか?   作:露木曽人

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第1E話 銀魂気取りのサブタイ寒いと思う香具師挙手ノ

「お母...様」

 

「十年...よく、耐えてくれましたね、しらほし」

 

「ッ!!...お母様!お母様!お母様ァッ!!」

 

「ごめんなさい、ごめんなさいしらほしッ!!」

 

母として、王妃として、そして、魚人・人魚たちを日の当たる場所で生きていけるようにするため、戦い続けた革命者として。

 

その命燃え尽きるまで同胞を、そして人間を信じ抜いた彼女にとって。

 

十年、約束を守り通した娘への感謝への気持ちと、それと同じだけの申し訳なさが、爆発してしまったのだろう。

 

 

彼女の意志は、ようやく実を結んだ。

 

歓喜と、それから、感謝と。

 

オトヒメの遺志を継いで、憎まないための戦いに身を投じてくれた家族。

 

麦わら帽子の海賊たちの力添えを借りて、結実した悲願。

 

 

 

「母上!!」

 

「母上様!!」

 

「本物...なのだな」

 

母を抱き締め、娘を抱き返し、抱擁しながら号泣する母と妹の姿を見つめながら、三人の王子たちもまた、呆然とその眦から、滂沱の涙を溢れさせる。

 

 

 

「ありがとう、フカボシ、リュウボシ、マンボシ。わたくしは心より、あなたたちを誇りに思います。さあ...いらっしゃい」

 

「ッ!」

 

「ですが母上様」

 

「我々は、その...もう幼子でもありませぬし...」

 

「フフ...いくつになっても、大人になっても。あなたたちは変わらず、わたくしの可愛い子供。さあ、来ないなら、こちらからいきますよ?」

 

「ッ!!」

 

「「母上様ァー!」」

 

堪らず堰を切ったように駆け出した三人の息子たちの巨体を優しく抱きとめ、涙ながらに笑顔を浮かべる王妃オトヒメの魂。

 

その肉体、偽りの塩柱であろうとも、その心、真に偽りなし。

 

「おお...おお...ッ!!オトヒメェー!!」

 

リュウグウ王国国王ネプチューンは、そんな家族全員を強く、強く抱き締め、その喜びの雄叫びを、王国中に響かせた。

 

 

 

 

 

皆さんこんにちは、美しいものに癒やされている聖女ニアです。

 

本当はもっと彼女たちの再会を見守っていたいのですが、これ以上部外者がここにいるのも野暮でしょう。現実逃避は程々に。

 

そんなわけで、いい加減腹を括って戦わなければ、目の前の、現実と。

 

 

 

「よう、聖女様とやら、近くまで立ち寄ったついでに、遊びに来てやったぜ?」

 

「これはこれは。ようこそ、ドンキホーテ・ドフラミンゴ様」

 

そう、まさかのドフラミンゴさん襲来イベントが発生してしまいました。

 

1A話で、諜報部の部隊長に就任したシャンタークさんがドフラミンゴさんの襲来を事前察知するという超ファインプレーを見せたというお話を覚えていらっしゃいますでしょうか?そんなわけで、来ちゃった(震え声

 

しかも、まさかのドリームタワー最上階に直接着陸するという方法で。

 

いきなり地上666mの建物に最上階の窓からいきなり海賊が入ってきたら、か弱い淑女としては怯えて悲鳴を上げるのが正解なのかもしれませんが、聖女はナメられたら仕舞いだってよく言いますし。

 

 

 

「アポイントメントはお持ちではないようですが、本日はどういったご用件でしょうか?」

 

「フッフッフ、このおれ相手にこれっぽっちもビビらねェ、か。噂通り、大したタマじゃねェか」

 

ほんと、何しに来たんでしょうね?裏社会のドンとしては、最近やたら急増長したカルト宗教が目障りだからサクっと潰しに来たか、もしくはこのおれがお前らをもっと有効活用使してやるよ!!しに来たのか。

 

いずれにせよ、こちらとしてはあまり係わり合いになりたくはないのですが。

 

 

 

「へェ?」

 

七武海、ドンキホーテ・ドフラミンゴ。

 

天竜人であり、イトイトの実の能力者。

 

その能力で、他人をマリオネットのように自在に操るという恐るべき海賊です。

 

今も、私の体を操ろうと、一瞬で大量の糸を私の体に撃ち込んだ。

 

けれど、その全ての糸が解れて、バサリと潮になって落ちてしまった。

 

 

 

「立ち話もなんですから、お茶でも如何ですか?いい茶葉が手に入ったんですよ」

 

「いィや、気遣いは無用だ」

 

コンコン、と扉がノックされます。

 

 

 

「どうぞ」

 

「ご歓談中に失礼致します」

 

入室してきたのは、大聖女ニアに仕える老執事シャンタークさん。

 

 

 

「粗茶ですが」

 

よろしければ、と、ふたり分の紅茶とお茶請けのチョコレートビスケットを完璧な所作で用意し、失礼致します、と退室する彼の姿を、サングラス越しに眺めているドフラミンゴさん。

 

今頃、内心ではアレコレ自分の能力が利かなかった理由を考えていらっしゃることでしょう。

 

 

アポなしで突然聖女の部屋に乗り込んできたわけですから、彼としては聖女の護衛が駆け付けてくることぐらいは織り込み済みでしょう。

 

先程の『気遣いは無用』というのはつまり、『お前の執事、もう俺の操り人形だから助けに来れねえぞ』という脅しだったわけですね。

 

 

で、操り人形になったせいでこの部屋には入ってこれないどころか悲鳴も上げられないはずのシャンタークさんが、平然と入ってきてしかも、ドフラミンゴさんに刃を向けるでもなく平然と退室してしまったこと。

 

これは結構彼の関心を買ってしまう行為です。

 

 

 

「フッフッフッフッフ!!なるほどなるほど。

 

お前たちが平和ボケの腑抜けた連中だったらこのおれが便利に使ってやろうと思ったが...いいぜ。

 

お前たちを、取引相手にする価値がある連中と認めてやる」

 

「取引、ですか?生憎、うちは叩かれても埃の出ない、クリーンなイメージで売っておりますので、違法薬物や人造悪魔の実といった、後ろ暗い代物には手を染められないのですが」

 

「お前、そっちが本性か?いいね、お前の薄ら寒い聖女面には虫唾が走ってしょうがなかったが...こっちの方がまだ、苛立たずに済む」

 

天下のドフィ様がまさかの『この俺様相手にビビらねェどころか興味がねェだなんて...おもしれー女』ムーブですか?と一瞬思ってしまいそうになりましたが、元より七武海で国王陛下で海賊で売ってる賢帝暴君ドフラミンゴさんです。

 

 

彼に限った話でもなく、この海では自分に怯えたり媚び諂ったりしない人間にいい印象を抱くのはむしろよくあることですので、今はお前の教団俺のものされなくてよかったと安堵しておきましょう。

 

 

 

「あんた、どうせ俺が七武海を抜けるっつゥ話も掴んでるよなァ?」

 

「ええ、まあ」

 

「だったら話が早い。ダゴン、っつったか?お前のとこの子飼いの海賊一匹、"俺の代わりに七武海の椅子に座らせてやる"っつったら、どうする?」

 

それはダメェ!!と咄嗟に叫んでしまわなかった自分を褒めてあげたいです。

 

なるほど、なるほど?

 

ローさんとの取引によって、七武海を辞め、ドレスローザ王国の国王を引退することとなった、と表向きにはそう発表することにしたドフラミンゴさんですが、ここぞとばかりにそれを利用してこちらに詐欺を仕掛けに来るとはさすがですね。

 

解任された重役の後釜が実は、解任された奴の息のかかった部下だった、なんてことは、どこの世界でもよくあることです。まして七武海は海賊の多くが憧れるわかりやすい特権階級。

 

あの七武海ドフラミンゴさんから直々にその後継者に指名された、なんてことになったら、並みの海賊であるなら我が世の春が来たァ!とばかりに舞い上がってしまうのも無理はないでしょう。

 

 

最初はニャルラト正教会と大聖女ニアを傀儡にして隠れ蓑にしつつ利用してやろうと思ってここへやってきたのでしょうが、存外"やる"ことに気付き、共犯者として取引しようじゃないか、と。ドフラミンゴさんとのお話し合いの中身を要約すると、こういうことになります。

 

 

 

「ドフラミンゴさん」

 

「...おう」

 

「わたくしの予想では、王下七武海は恐らく、"近く解体される"でしょう」

 

「...へェ?」

 

原作を知らなければ、何を馬鹿な、と一笑に付されるだけだったでしょう。七武海は四皇に対抗するための海軍にとっての要であり、同時に世界の均衡と秩序を守るための抑止力。それをわざわざ手放すなんて、敵の目の前で自分から利き腕を切り落とすようなものです。

 

ですが、私たちにはここまでの実績と、イトイトの実による支配から逃れた、という紛れもない事実がある。

 

大事なのは、考える時間を与えないこと。

 

ここぞとばかりに、一気にたたみかけますよ。

 

 

 

「麦わらを...麦わらのルフィを、あなたが叩き潰した後。その時にこそ、わたくしどもの答えをお返し致しますわ」

 

「フフッ!!どいつもこいつも、麦わら、麦わらか...!!どうやらあいつには、本当に何かがあるのかもな?」

 

ええ、海賊王になる男ですから。

 

 

 

「お嬢様ァー!!」

 

「あん?」

 

さて、来ましたね。

 

 

 

「おのれドンキホーテ・ドフラミンゴ!!レディのお部屋に許可もなく侵入するとは!!紳士として許せないでェあります!!」

 

「誰だ?アイツ」

 

「ホルモンさんですね。海軍大佐で、ダエモン・サルタン中将の直属の部下の。わたくしの...何でしょう?部下でもなければ彼は教徒でもありませんし、まして仲間と呼べるほどの間柄でもなく、友人と言えるほどの交友もない...さりとて赤の他人にしては結構よく会いますし...知人の方、でしょうか?」

 

「何とォ!?」

 

 

海軍大佐"横取り"のホルモン。

 

別名コバンザメ、ハイエナ、寄生虫。

 

私が言っているのではありません、海軍内でそう呼ばれていたのです。

 

 

彼は『何故かはわかりませんが』とても間が悪く、『本人は善意で命を懸けて仲間や上官を救っている』というのに、『結果として手柄を横取り』する形になってしまい、それで昇進させられてしまうことが多々あったため、海軍内ではかなり冷遇されていました。

 

 

本人とてもいい人ですのに、『アイツが最後の一撃を横取りしなけりゃ今頃は俺が少佐だったんだ』とか『恩を売るためにわざと仲間を見捨てて、それで死ぬ間際に助けるとかそれただのマッチポンプだって一番言われてっから』などと嫌われてしまうのはとても辛いものがありますね。

 

 

 

そんなわけで、空回りし続ける彼を見るに見兼ねた伯父様が自分の部下に引き抜き、それが縁で彼は伯父様に多大なる恩義を抱いている、と。

 

その伯父様が、溺愛する姪っ子なわけですから、彼にとって私は大恩人の大切な姪御さんなわけですね。

 

 

 

「兄貴ビーム!!」

 

「...?何も起きねェ?」

 

ホモくんの両目から放たれたビームを咄嗟に覇気で受け流したドフラミンゴさんですが、既に効果が出ていますね。

 

普段の彼であったならば、悪魔の実の能力者が攻撃してきたにも係わらず、何も起きないことこそを即座に警戒した筈です。

 

 

 

「なッ!?」

 

そして、反撃に移ったのも束の間。

 

彼の手から飛び出してきたのは、糸は糸でも糸コンニャクでした。

 

 

 

「食らいやがれェ!!であります!!奥義ッ!!メガトン・コインッ!!」

 

「テメエッ!?」

 

そしてそのまま、地上666階のタワーの最上階の窓から落下していきます。

 

死んだかな?いえ、ワンピース世界の住人は、階段から落ちて頭を打っただけであっさり死ぬわりに、4tの金属バットで頭蓋骨が砕けるほど頭を全力フルスイングされても普通に生きてますから、きっと大丈夫でしょう。

 

 

 

「ホモさん、ありがとうございました」

 

「いえ!!お嬢様がご無事で何よりでェあります!!お嬢様に万が一のことがございましたら、サルタン中将殿に顔向けできませんので!!その...知人として、お守りするのは当然でェあります!!」

 

ズーン!!と腰が九十度曲がってしまうぐらい落ち込みながらも敬礼する彼に、ごめんなさい!!と慌てて謝罪しながら、うま味な経験値稼ぎ乙、と内心ツッコミを入れることも忘れません。

 

わざわざシャンタークさんに彼が来たら通してあげてくださいと事前にお伝えしておきましたからね。

 

 

 

「ドフラミンゴさんに目を付けられてしまわないように、わざと突き放す必要があったんです。ホモさんは、わたくしの大切なお友達ですよ!」

 

「お嬢様ッ!!何とそこまで自分のことを!!ホルモン、感激でェありまァす!!あ、手には触らないでほしいであります。自分その、ぶっちゃけ女の人はちょーーーっとだけ苦手でありますゆえ」




ガバガバの実
体のあちこちから出せるビームに触れた相手を大体数時間ほどガバにする。ホモくんはこのビームに『兄貴ビィンム』という名前を付けたらしい。ネガティブホロウと同じく、元からガバガバな人間には効果がないという弱点がある。

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