イアイアの実・モデルニャルは地雷案件すぎませんか? 作:露木曽人
「怯むな!!行けェ!!どうせ聖女を捕まえりゃいくらでも生き返られる!!おら死ね!死ぬ気で行けよオメエらァ!ギャハハハ!!」
「うおォー!!親分バンザアァーイ!!」
絡め取り、絞めて吊るしてぶら提げて。
ディープワン海賊団船長、深淵のダゴンは黙々と死ぬ気で、本当にこの戦いで死ぬ気で襲いかかってくる海賊どもを蹴散らしながら、大聖女ニアの誘拐を目論み、ドリームアイランドを襲撃しようとやってきた海賊船を制圧していく。
最近、こういった無謀な輩が増えた。
海賊たちの間で、命の価値が、軽くなったのだ。
どうせ死んだところで、ニャルラト正教会に行けばいくらでも復活できる。
やり直せる。
だから、気軽に命を投げ捨ててしまう。
バカは死ななきゃ治らないどころか、死んでも治らないバカが異常増殖してしまった。
「ぐわァ!?」
「船長!!ジョンの奴が!!」
「お前たちは下がっていろ」
「すまねェ!!」
死兵というのは、厄介だ。
銃で撃たれようが、手足を切り飛ばされようが、脳内麻薬の過剰分泌するままに、狂った笑みを浮かべながら殺しにかかってくる。
ディープワン海賊団のクルーに弱者はいない。
だが、鼠とて死んでも構わないから傷のひとつも刻んでやろう、と死狂うならば、猫の耳を噛みちぎるぐらいはやる。
負傷したクルーたちを庇うように、またひとり、海賊を絞殺し、敵の船のメインマストに吊し上げていく。
ブラブラと、熟した果実の如く潮風に揺れるいくつもの死体。
「チィ!!こんの役立たずどもがァ!!うォいテメェ!!俺様を誰だと思ってやがる!!おそれ多くも懸賞金1億8000万ベリーの」
「桁が、ひとつ足りん。お嬢様の身柄を狙うならばせめて...10億8000万になってから来るべきだった」
「そげぶッ!?」
口から、耳から、鼻から、口に出すのも悍ましい場所、穴という穴から。
ズルズルと高速で侵入してきた半透明の紫の触手が、敵船長の体内を貫通し、違う穴から飛び出してくる。
ブラリと空中に持ち上げられたその巨体に、もはや意識は残っていないようだ。
「ディープ・ショット・ライジング...鮫の餌と、どっちがマシだったかな」
「う、げェ!!」
「ひいィ!?」
「何だよアレェ!!」
そんな冒涜的な死に様を目撃してしまった敵の海賊たちが、瞬く間に戦意を喪失し、悲鳴を上げて失禁したり、嘔吐したり、気絶したり。
逃げ出そうとして海に落ちたり。
あまりにも凄惨すぎる惨状に、敵のみならず味方でさえも、悲鳴を上げて目を逸らす者は少なくない。
「ニャルラト正教会十箇条。その3...命は大切にしましょう」
その大切な命を脅かす奴が来たら、総員徹底抗戦の構えで。大切な命は、全力で守るべし。
駆除しても、駆除としても、聖女の身柄を狙う輩はいなくならない。
能力目当て、身代金目当て、教団が持つ権力目当て、地位目当て。
限りない欲望の赴くままに、海賊どもが跋扈する時代。
お嬢様の前では吸わないようにしている煙草に火をつけ、ダゴンはその甘く苦い煙を、口から吐き出した。
「皆さん!!どうか目を覚ましてください!!死んだ人間は、生き返らないのです!!あの偽りの聖女に騙されてはいけません!!あの女の本性は、ただの人殺し!!私の大切な人もあの女に殺されました!!私はあの女を絶対に赦しません!!」
ニャルラト正教会の教徒たちが大勢暮らす、ドリームアイランドの居住区。
その大通りで、朝も早くから大声を張り上げる一団がいた。
その先頭に立ち率先して声を張り上げているのは、何故かメイド服を着て、背中から翼を生やした銀髪の美女だ。
だが痛々しいことに、その右翼が2/3ほど切り落とされている。
「そもそも死者を無理矢理蘇らせて操り人形にするなど、人として絶対に赦されざる暴挙ではありませんか!!死者は死者のまま安らかに眠るべきでしょう!!このままでは世界中が動く死体だらけになってしまいます!!そうなってからでは遅いのですよ!!」
「うるせェ!!」
「今何時だと思ってやがんだ!」
「帰れ帰れェ!!」
反ニャルラト正教派。
ここ2年で大聖女ニアとニャルラト正教会の知名度が上昇するに比例し、その数を増した過激派集団。
ニャルラト正教会の教会を襲撃し、関連施設を爆破し、教徒も、無関係な一般人もお構いなしに、正義のためと叫んで爆発する過激派テロ集団。
消毒と称して虐殺を繰り返し、『これは聖戦である!!狂った悪女ニアから世界を取り戻すための必要な犠牲である!!これも全部悪女ニアの存在が悪い!!我々だって本当はこんな酷いことはしたくないのだ!!』と声高に叫ぶ、自称・人倫の守護者たち。
「大体爆破テロで大勢殺してるお前らが言えた義理かよ!!」
「むしろニア様が殺さなきゃいけなかったぐらいの悪党って何だよ?」
「そんだけ救えねェ人間だったってことじゃねえの?」
「何ですって!?ハウト君をバカにするなんて絶対許せません!!この、クソ狂信者ども!!あなたたち、全員死刑決定です!!」
彼らは早朝から叩き起こされ、更には大聖女を侮辱されて苛立つ教徒たちに四方八方から睨まれ暴言を浴びせかけられているというのに、むしろそれが嬉しくて堪らないとばかりに、陶酔した表情で言葉を紡ぐことをやめない。
自分たちの掲げる正義に酔っていることが明白だ。
世界各地でデモや暴動を引き起こしては、その都度鎮圧されてきた彼らは、その都度恨みを募らせ、そして時たまこうして、ドリームアイランドにやってきては、島のあちこちで教徒たちに襲いかかる。
反ニャルラト正教派とは、そういった人間たちの集まりだった。
「もういいです!!言葉でご理解頂けないのならば、やむを得ません!!実力行使です!!皆さん!!動く死体だなんて冒涜的すぎる汚物は消毒しなければなりませんので!!申し訳ありませんが、これも人間としての正しい倫理を守るため!!許してくださいとは言いませゲフゥ!?」
テロリストたちの先頭に立って絶叫していたメイドの首が、ゴキリ!!とあらぬ方向にひん曲がり、そのまま沈黙する。
猛スピードで跳んできた海楼石製の砲丸が、側頭部に直撃したのだ。
「アンジェリーナ隊長!!」
「クソ!見たかお前ら!!これがニャルラト正教会のやり方だぞ!!」
「自分たちに都合の悪いことは全部こうやって暴力でねじ伏せやがる!!これが人間のやることかよォ!!」
慌てて倒れた美女に駆け寄るテロリストたち。
そんな彼らの前に、武装した一団が現れる。
「猟犬部隊だ!!」
「ロス隊長が来たぞォ!!」
その先頭に立つ巨漢の黒人隊長の登場に、教徒たちは歓声を上げようとして、戸惑った。
あんなにも激怒したロス隊長を、彼らはこれまでに見たことがなかったからだ。
歓声はすぐにやみ、戸惑いが場を支配する。
一体、奴らは何をしでかしやがったのだ、と。
「お前ら...よくも!!よくも孤児院や学校に爆弾を仕掛けようとしやがったなァ!!」
「え!?」
両手に人間の頭蓋骨ほどもある大きさの砲丸を持ったロスは、怒り狂っていた。
腸が煮えくり返っていた。
皆殺しにしてやりたいと思っていた。
というか、する。
全員、皆殺しだ。
今すぐにでもあいつら全員、心臓を抉り出して握り潰してやらねば腹の虫がおさまらない。
殺気のこもった怒声に、教徒たちの間にどよめきが広がる。
そう、テロリストたちはこのデモを目くらましに、ニャルラト正教会が運営する孤児院や、この島の学校に爆弾を仕掛けようとしていた。
幸いにも猟犬部隊と諜報部隊の連携により全ての工作員たちはひとり残らず捕縛されたものの、だからといって、はいめでたしめでたし、とはならない。
「子供たちは...子供たちは関係ねェだろォがァー!!」
ともすれば、覇気を伴いかねない怒号が、島中に響き渡る。
「な、何を言う!!罪なき子供たちに狂った洗脳教育を施すお前たちが悪いんだ!!」
「そうだ!!将来の狂信者予備軍なんぞ今のうちに消毒しなきゃ大変なことになるだろう!!」
「悪しき芽を摘むこともまた我々の、ヒッ!?」
殺気が、大爆発する。
猟犬部隊だけではない。
いつの間にか、テロリストたちを取り囲んでいた教徒たちからも、殺意が氾濫しだしたのだ。
子供を狙う。
子供を殺す。
自分の子供であろうと、よその子であろうと、絶対に赦せるはずのない鬼畜の所業。
死者の国から我が子のため、家族のために戻ってきた死者たちは当然のこと、もちろん生者たちも。
皆等しく怒っていた。
これから朝ご飯を食べさせて、学校に送り出す子供たちが、大勢殺されるところだったのだ。
自身が学校で働いている大人もいる。
既に一度、家族を亡くす痛みを知っているからこそ、その怒りは深く、大きい。
「もういい。喋るな。テメエら全員、ここで死ね」
ロスの言葉は、この場にいる全ての教徒たちの総意だ。
ニャルラト正教会十箇条、その5.人には優しくしましょう。
それができない奴には、こちらが優しくしてやる義理はありません。
美しい朝焼けの中、美しさなど欠片もない、一方的な蹂躙が始まった。