イアイアの実・モデルニャルは地雷案件すぎませんか?   作:露木曽人

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こちらの連載が一区切りついたら今度は個性:対魔忍を生まれ持ってしまった少年を主人公にヒロアカ小説でも書いてみようかなと考えている作者です。
『入試倍率300倍がなんぼのもんじゃい!!こちとら感度3000倍やぞ!!』みたいな奴(なお一番最初に感度3000倍の餌食になるのは入試で出てくるあの巨大ロボの模様

試しに読み切り書いてみました。よければ読んでみてくださいな
https://syosetu.org/novel/250265/


第22話 地雷を踏んだらさようならそしてこんにちは

「サルタン中将殿!!テロリストどもの引き取りと留置が完了したでェあります!!海軍本部への護送艦への引き渡しは明々後日の一〇〇〇を予定とのことであります!!」

 

「そうか、ご苦労だったなホルモン大佐」

 

「いいえ!!何のこれしき!!」

 

反ニャルラト正教派を名乗るテロリストたちがドリームアイランドを襲撃し、孤児院や学校を狙った無差別テロを仕掛けてから数日後。

 

猟犬部隊と諜報部隊の連携により確保されたテロリストたちの大半はしかし、正当防衛により返り討ちにされ亡き者に。

 

 

 

辛うじて生き残った者たち、意図的に生き長らえさせた者たちはいわば、ニャルラト正教会から海軍への貢ぎ物であると言える。

 

 

 

元より、過激派テロ組織への対応は海軍の仕事だ。

 

海軍が何もしていない間に勝手に正教会の方で片を付けておきました、ではお話にならない。

 

軍の面目丸潰れ、とチョンワチョンワする羽目になる将校たちへの、聖女なりの気遣いとも言える。

 

 

 

「やれやれ、ようやっと本部との話がついたわいな」

 

「ゴーント中将」

 

肩を揉みながら入室してきたのは、ここ海軍支部でサルタン中将に並ぶ権威を持ち、ニャルラト正教会の13教徒にその名を列ねるゴーント中将だ。

 

"夜の騎士(ナイトオブナイト)"の異名を持つ彼は、この手の政治的駆け引きを得意としており、ダエモン家絡みのゴタゴタの解決にも協力してもらっている。

 

 

 

「やァれやれ、どこもかしこも面子、面子とまァ面倒なこって。わしゃやっぱり支部長ぐらいが性に合っとるわィな」

 

「致し方ありません。新生海軍には予算も時間も余裕もさほどないのです」

 

「大海賊時代、新世代か。わしらのように、ただ静かに老後の隠居生活を楽しみたい年寄りからすれば、まったくいい迷惑じゃわい」

 

ロジャー亡き後最も海賊王に近い男と言われた白ひげがあの頂上決戦で逝き、一挙に四皇の一角にのし上がった黒ひげが七武海を脱退。

 

その影響により、あれから2年経った今でも、この海はどこも荒れに荒れている。

 

 

 

どいつもこいつも、海賊浪漫を掲げ、力ある者こそが全て!!と言わんばかりのやりたい放題だ。

 

 

 

自由に生きる、というのは、やりたい放題他人に迷惑かけて、自分勝手身勝手に、好き勝手に生きることではないのだということを、理解している海賊がどれだけいるというのだろう。

 

 

 

これではロジャーも、草葉の陰で泣いているのではないかと、大聖女様に頼んで確認してもらいたくなるぐらいには、今の世の乱れ方はゴーント老にとっては憂うべきものである。

 

 

 

彼はニアに頼んで生き返らせてもらった、若き日に亡くした妻の幽霊とそれなりにラブラブな隠居生活を送ってはいるが、だからといって子供たちや孫たちがどうでもいいというわけではない。

 

孫は何より可愛いし、子供たちも大事だ。

 

 

 

だからこそ、いつ海賊に殺されました、何て訃報が届きやしないか不安になってしまう。

 

とはいえ、結婚したり仕事に就いたりして、この海に散らばっていった彼らにはそれぞれの人生があり、心配だからドリームアイランドに引っ越してこい、と強要することは躊躇われた。

 

 

 

「こうなったらえェと、誰じゃったか。例の、ニア様がご執心の」

 

「麦わらのルフィですか」

 

「そうじゃったそうじゃった。

 

その麦わらとやらに、さっさと海賊王になってもらって、この大海賊時代に終止符を打ってもらうのが一番手っ取り早そうなんじゃがなァ」

 

「それはどうでしょうね。ひとつなぎの大秘宝...何とも、厄ネタの臭いしかしませんから」

 

「ガビーン!!じゃな!ファファファ!!」

 

彼は聖女ニアの狂信者ではなく、正しく敬虔な教徒であった。

 

乱れ荒れたこの力なき者が大勢泣くこの世の中で、海軍では救えない者たちを救い上げ、そっと手を差し伸べる紛うことなき本物の聖女。

 

 

 

まあ、本人は少々アレな性格をしているというか、結構イイ趣味しとるのゥ、と、悪趣味陰険クソジジイ、と周囲から陰口を叩かれがちなゴーントをもってしてヤベェ小娘感を漂わせているものの、完璧に本物を演じ通せばそれは本物と何が違う?と、人は優しい嘘には率先して騙されたがるものだ。

 

 

 

よもやあの年頃の娘っこに海軍の目を欺くための、カムフラージュとしての愛人役を頼まれるとは思いもよらなんだゴーント中将である。

 

普段の思春期青少年どもの憧れをそのまま具現化したような清楚な仮面はどこへやら。

 

 

 

破廉恥で薄っぺらいナイトドレスで海軍のお偉いさん方や世界貴族たちが大勢集まるパーティに参加し、熟練の商売女めいた手練手管でワタシ、このオジーチャンの愛人だからホントは頭空ッポのバカ女ヨ!!海軍の皆サーン、ワタシ無害ネ!OK?などとやらかすとは思わなんだゆえに。

 

 

 

あれからどこで知り合ったんだ、あの女の抱き心地はどうだ、今度私にも貸してくれないか、などと欲望吹き荒れる下劣なやっかみコールが海軍の秘匿回線でひっきりなしにかかってくるほどなのだ。

 

あれはお主らを騙すための演技じゃ!!彼女とは本当に何でもないわい!!と本当のことを話してしまうわけにはいかないので誤魔化しには苦労させられており、お主ら仕事せい、と切実に思う。

 

逆の立場じゃったらわしも間違いなくそうしとったじゃろうという実感があるため何も言えないが。

 

 

 

「早く平和な時代が来てくれるとよいでありますねェ。そうすれば自分も、わざわざビッグマムやカイドウといった恐るべき敵に挑まずに済むのでェありますが」

 

「おうおう、大きく出たもんじゃのォ?」

 

「平和など本当は、この世のどこにも存在しないのではないかと思えてくるよ」

 

「何じゃサルタン、珍しく気弱じゃのう?」

 

ホルモンが淹れてくれた緑茶をすすりながら、バリバリと煎餅を噛み砕くゴーントと、バキっと割った煎餅の半分を、湯飲みに浸すサルタン。

 

 

 

彼はイアイアの実・モデルアザトースの能力者である。

 

姪を守る力を得るためあの悪魔の...いや、邪神の実を食した折に、この空の果てには名状しがたい神々がおり、その神々の向こう側には違う世界が無数に散らばっていることの一端を覗いてしまった。

 

 

 

人間など所詮、広い宇宙にいくつもいくつもある銀河の中のちっぽけな空に浮かぶ芥子粒のような惑星の中の、肉眼では視認できないぐらい極小の塵芥未満の存在にすぎないことを知ってしまったのだ。

 

だからなんだ、としか思わなかったが。

 

 

 

「歴史上平和とされている時代にだって、犯罪や戦争は存在していたはずだし、それに泣かされた人間もごまんといる。この世から真に抑止力としての海軍が必要とされなくなる日が来ることは、恐らくあるまいよ」

 

「じゃが、だからといって、全てを投げ出し諦めるのもまた違かろう?」

 

「無論、その通りだ」

 

例えば、あの空に燃える太陽が、何億、何十億年かの後に燃え尽きるとしても。

 

アザトースが目覚める瞬間が、ほんの一秒後に迫っていたとしても。

 

 

 

可愛い可愛い姪のニアが、正しき歴史であれば一家揃って皆殺しにされていたはずの運命を、愉快犯丸出しの邪神が気まぐれにこの星にばらまいた悪魔の実を偶然拾ったせいで、覆したのだとしても。

 

 

 

そんなものが、私の生き方を変える理由にはならない。

 

 

 

人は死ぬ。

 

いつか必ず、あの白ひげでさえ、ロジャーでさえ死んだのだ。

 

それが早いか遅いか、原因は何か、そんなものは個人個人の誤差でしかない。

 

海賊に殺されようが、天寿を全うしようが、邪神が覚醒して消失しようが、死であることに違いはないのだから。

 

 

 

元より、人間なぞ碌でもない生き物だとわかりきっていたことではないか。

 

今更失望する理由もなく、またどうにもならないことを逐一気にして、狂っているのは暇人のやることであろう。

 

この世界は実は邪神の見ている泡沫の夢です。

 

だからどうした。

 

たとえそうであったとしても腹は減る。

 

 

 

この世界は邪神の見ている夢だから絶望しました。

 

だからもうご飯は食べません。

 

...意味がない。

 

 

 

私は忙しいのだ。

 

ニアを守らなければならない。

 

あの子が笑顔でいられるように、尽力したいと心から思っている。

 

今も昔も、その気持ちは変わらない。

 

だから、邪神や世界の真理ごときに割いてやれるリソースなぞ、これっぽっちもないのだ。

 

 

 

むしろあの子が笑顔になるためならば、精精役に立ってくれと願うぐらいだ。

 

そう告げると、あの子に力の一端を分け与えたという邪神には大笑いされてしまったが。

 

 

 

ダエモン・サルタンという男にとっては、世界など、邪神など、皆等しくその程度の存在だった。いつか死ぬまで、自分の生きたいように生きていく。それだけだ。

 

 

 

「たたた、大変です中将閣下!!」

 

「どうした?何があった」

 

「何事じゃ騒がしい」

 

ノックもせずに突然駆け込んできた海兵が、バン!!と新聞をデスクに叩きつける。

 

本来ならば罰則ものの暴挙だが、それだけの大事件が発生したということだろう。

 

「ノックもなしに上官の部屋に飛び込む。-114514点でェありますな!ワッハッハ!!」

 

のんきに笑っているホルモン大佐は放っておいて、中将ふたりの表情が引き締まる。

 

 

 

「ほォ?」

 

「これはまた、何とも」

 

ドレスローザ王国の内乱。

 

麦わら海賊団による七武海にして国王、ドフラミンゴの陥落と逮捕。

 

そして、大将藤虎の土下座。

 

 

どうやら真面目に正義の海兵さんを頑張っていようがいまいが、海軍にとってはまだまだ心安らぐ暇などとてもじゃないがなさそうだと、ふたりは揃って顔を見合わせ、ため息をつくのだった。


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