イアイアの実・モデルニャルは地雷案件すぎませんか? 作:露木曽人
「すっ!!げえェー!!」
「何じゃこりゃあ!!」
「壮観ね」
『皆様、ようこそ世界に名だたる夢の島、超高級五つ星リゾート、ドリームアイランドへ!!現在この島では、年に一度の夢の感謝祭、ドリームカーニバルを開催しております!!どなた様も心行くまでお楽しみください』
白亜の海門を潜り、屋内式の港のあちこちに設置されたスピーカーから響き渡るテケテケとした可愛らしい少女のアナウンスが木霊する。
ドリームアイランドはその名の通り、夢のような楽園だった。島全体がまるでひとつの巨大な遊園地にでもなったかのような、豪華で豪奢で煌びやかな世界だった。
近代的なリゾート風建築物と、美しい常夏のリゾートビーチが見事に調和している。恐らく景観を損ねないように計算して設計されているのだろう。軒並み背丈の低い建物が居並んでいるからこそ、島の中央にそびえ立つ、巨大な高層タワーの存在感が際立っていた。
五つ星リゾートを自称するだけのことはあり、右を見ても左を見ても、入港待ちの巨大な船、船、船。海賊船から大型の豪華客船、民間の商船まで様々である。
「ダーッハッハッハ!!この俺様が律義に順番待ちなどやってられるかァ!!野郎ども、他の船をぶちのめせェ!!」
「きゃあ!?」
「おいおい何だァ?」
いきなり、乱暴な操舵で隣の船にぶつかろうとした一隻の海賊船が爆発した。うおおおお!!と歓声が上がり、ドックの天井から現れた紫色の半透明のロープのようなものに掴まった、真っ白な制服を着こんだ海賊たちが、統制された動きで船を制圧していく。
『なお、島内での不法な海賊行為におかれましては世界政府より特殊治外法権認定を頂いておりますニャルラト正教会の名の下、厳しく取り締まらせて頂きます。どなた様もルールとマナーを守って楽しくお過ごしくださいますよう、ご協力をお願い致します』
「おい!!ディープワン海賊団のお出ましだぞォ!!」
「見ろ!!"深淵のダゴン"だ!!」
「キャー!!ダゴン様、素敵―ッ!!」
海軍ばりに洗練された統率で、あっという間に暴れた海賊たちを制圧してしまった白き海賊たちの船長と思しき男の姿が、ルフィたちの目にもはっきりと見えた。
年齢は四十代ぐらいだろうか。海賊というよりは、どちらかというと海軍将校に近い雰囲気を醸し出した、強面の男が丁寧に整えられた赤ブドウ色のラウンド髭をさすり、白い海賊服とコートを潮風にはためかせている。
「誰だ?あいつ!!」
「深淵のダゴン。懸賞金3億1000万ベリーの賞金首ね。この島は彼らの縄張りみたい」
新聞の合間に挟まっていた手配書を眺めながら、ナミが答える。だがたかが3億ぽっちならば、大した敵ではないのかもしれない、と彼を侮る者は、麦わらの一味の中にはいなかった。
「クソ!!たかが3億ベリーぽっちの木っ端海賊が俺様にたてつきやがって!!後悔させてやるぞ!!俺様はがっ!?」
「連行しろ。お嬢様のお膝元で騒ぎを起こす不届き者は、この俺が許さん」
うおおおお!!とディープワン海賊団の鮮やかな制圧戦を見物していた観衆たちから、拍手喝采が沸き起こる。縄張りというのはつまり、島の守り手だ。何らかの条件を代償に、庇護下に置き、外敵から守る。
そのはためく白いコートの背中に刻まれているのは、ニャルラト正教会のシンボルである、やや歪な五芒星だ。それを背負っているということはつまり、彼らがニャルラト正教会の正教徒であることを意味する。
即ち、大勢の信者たちが住まうこの島において、彼らは正しくヒーローであった。
「おい!あれ見ろよ!!」
「あいつ、海軍のゴーント中将だろ?何で海賊と仲よくしてんだァ!?」
ディープワン海賊団の手から海軍の戦艦へと護送されていく海賊たちを肴にしていたどこかの船の海賊たちが、興奮したようにまくし立てる。アルコールでも入っているのだろうか。
彼らの視線の先では、ダゴン船長と海軍中将、"夜の騎士(ナイトオブナイト)"の異名を持つ老中将が、素知らぬ顔で会話をしているのがよほど衝撃的だったのだろう。
「ここでは海賊よりも、海軍よりも、聖女様のご威光とやらが強いみたいね」
「ああ、麗しの聖女様!!平和を愛するあなた様のその穢れなき眼にちらりとでも一瞥して頂けるならば、僕は永遠にこの島の藻屑になってしまっても構わない!!」
「あのバカ、まだ元に戻ってなかったのか」
ハートマークを乱舞させながらポエムを呟き続けるサンジに、ゾロが呆れた顔で後頭部に汗を浮かべる。
そうこうしているうちに、サウザンドサニー号の入港受付の順番が回ってきたようだ。
「ようこそ、麦わらのルフィ御一行様。わたくし、皆様をご案内させて頂きます、シャンタークと申します。どうぞお見知りおきを」
下船した麦わらの一味の前に現れたのは、ひとりの老人だった。執事服に身を包み、優雅に一礼する姿はいかにも大物に仕える人間といった丁寧な物腰だ。さりとて慇懃でもなく、醸し出す雰囲気は好々爺然としている。その腰に二振りの刀が見えてなければ、だが。
「案内?」
「ええ。皆々様方のような御高名な海賊の方々がお越しになられた際には、こうしてわたくしのような者が特別に派遣され、この島をご案内させて頂いているのです。もちろん、無料で」
「無料で?」
「ええ、無料で。追加料金などの類いも一切頂いておりません。無論、案内が不要であると仰られた場合は、このままここで失礼させて頂きますが」
無料、という言葉に、ナミの目が光る。シャンタークの視線の先には、大金持ちでもなければ一生乗る機会もないような、最高級のオープンカメ車が停車していた。
「是非!!」
「よっしゃー!!」
「すんげー高級車!!」
「俺、一番後ろの席―!!」
ナミの許可が下りた途端、賑やかにオープンカメ車に乗り込んでいく麦わらの一味。どうやら、この申し出を受けることにしたようだ。仮に騙されていたところで、ぶちのめせばいいだけだろう、と考えられるだけの実力もある。
唯一、途中で足を止めたのはゾロだった。その目は、シャンタークの腰に下げられた二振りの刀に向けられている。
「お前、結構やるクチだろ」
「ほっほっほ、お客様のご想像にお任せ致します」
シャンタークの運転にて、一路港から市街地へと続く大通りを颯爽と駆け抜けていく。見上げればそこには店、店、店。後宮レストラン街から一流ブランドが軒を連ねるブティック、エステに宝飾店にジャンクフードの屋台まで、見渡す限りのお店が立ち並ぶ。
「すん、げえええ!!」
「何だアレ、美味そうだぞ!!」
「このドリームアイランドはニャルラト正教会の本部を中心に、13使徒と呼ばれる世界中の名立たる大富豪の皆様の出資の下、近年、急ピッチで開発が進められ、世界でも指折りの高級リゾート地へと成長致しました。皆様には何ひとつ不自由のない、快適なご滞在をお約束致します」
「なあ爺さん!!目の前に建ってるありゃ何だ?」
用意されたウェルカムドリンクを一気飲みしたルフィが目を輝かせながら見上げるのは、島の中央にそびえ立つ超高層タワーだ。近隣の島からでも天気がいい日には見られるその姿は、近くで見るとより大きく感じられる。
その上部は巨大な時計塔にもなっており、島のどこからでも見え、なおかつ時間を確認することができるのだろう。
「あちらはニャルラト正教会の本部、その名もドリームタワー。その最上階には、ニャルラト正教会の教祖、世界政府より大聖女の名を賜りしニア様がいらっしゃいます」
「すんげー高さだな!!昇っていいのか!?」
「展望台までは無料で一般開放されておりますな」
「昇るぞー!!」
『おー!!』
ノリノリで拳を突き上げるルフィに、フランキー、ウソップ、ブルックが釣られて拳を突き上げたその時だ。
時計の針が正午をさし、リンゴーン、リンゴーン、と、タワーから美しい鐘の音が鳴り響く。すると、奇妙なことが起きた。それまでめいめいに歩いていた島の人間たちが、一斉に立ち止まり、タワーの方を向きながら合掌し、こうべを少し垂れ、祈りを捧げ始めたのだ。
「何やってんだアイツら?」
「正教徒の皆様は毎日正午になりますと、ああしてニア様への祈りを捧げているのです。この島はニア様のご威光によって発展した島。無論、正教徒の方々も多く住んでおりますゆえ、ああいった光景はこの島では珍しいことではございません」
突然祈りを捧げ始めた正教徒たちに驚く島外の者たち、見慣れた風な島の者たち。麦わらの一味の仲間たちも、反応はそれぞれだ。真似して合掌してみるチョッパー、くだらねえと目を逸らすゾロ、頬杖を突いて彼らを眺めているロビン。
「おや、噂をすれば」
「ん?」
「あーーー!?」
車が長い長いメインストリートを抜け、ドリームタワーの付近に差し掛かった頃。突然奇声を上げ、サンジの姿が車内から掻き消える。
「サンジくん!?」
「あそこだ!!」
白い制服に身を包んだ一団が、タワーの出入り口から歩いてくる。その先頭に立つのは、まるで顔が、全身が光り輝いているかのような美貌を持つ、絶世の美少女だった。
麦わらの一味がこれまでに出会ってきたどんな美女よりも、はるかに目を惹き付けてやまない、いっそ何かタチの悪い能力でも使われているのではないかと疑わしくなるほどに、その少女は美しかった。
流れるような白髪は毛先がうっすらと薄紫色に染まり、キメ細やかな白い肌はスベスベの実を何個食べればああなるんだと不思議に思ってしまうような美肌。
その宝石のような瞳はまるであたかもその身に銀河をひとつ宿しているかのように煌めき、艶やかな唇には思わず無意識のうちに口づけてしまいたくなる。
サンジが普段、美女を前にした時のような反応が、ナミ、ウソップ、フランキー、チョッパーの胸を襲っていた。あの色恋沙汰には疎いゾロでさえも、まるでこの世で最も美しい刀でも前にしたかのように、ほんの一瞬だけ見惚れてしまったほどだ。
この胸を焦がす熱い気持ち、ひょっとして、これが恋!?
「いやいやいやいや、そんなわけあるかァ!!」
『はっ!?』
我に返ったナミのセルフツッコミにより、魅了されていた者たちも目を覚ます。何ともなかったのはルフィと、既に一度出会っているためか、免疫ができていたロビンだけ。
大聖女、ニア。まさしく降臨とも呼ぶべき冒涜的な美しさに、たまたまタワーの近くにいた観光客たちも一斉に膝から崩れ落ちていく。
「ルルル~~~ララ~ラララ!!ああ貴女に出会えた今日というこの一瞬を僕は生涯忘れることはないでしょう。そう自身を持って断言できる、僕という男の人生は今日貴女に出会うためにあったのだ、と」
既に取り返しのつかないレベルで魅了されているサンジが、そんな聖女に空中ホバー移動でスライドしながら急接近。だが。
「お嬢に触れるな」
そんな聖女の傍に控えていた護衛の黒服が、聖女の手を取ろうと伸ばしていたサンジの手を弾いた。
「んだあテメェ!!」
「それはこちらの台詞だ!!」
男は屈強な黒人であった。照り付ける常夏の日差しを反射されるスキンヘッドは黒光りし、先祖に巨人族の血でも混じっているのか、3m近い巨体は特注であろう黒服をはち切れんばかりに内側から盛り上げている。
ヘビーポイントに変身したチョッパーよりもはるかに多くの黒い筋肉の鎧をまとった姿は、ただそこにいるだけで他者を威圧し圧倒していた。だが、恋に溺れたサンジには少しも恐ろしいものではないようだ。尤も、溺れていなかったとしても歯牙にもかけなかった可能性が高いが。
「ロスさん、大丈夫ですよ」
「しかしお嬢!」
「大丈夫ですから、ね?」
そんなゴリラのような巨漢を、猛獣遣いよろしく、笑顔ひとつで制した聖女が、悪戯っ子のようにサンジにウインクを送る。たったそれだけのことで、サンジの体が石化した。しらほし姫以来の、二度目の石化である。
そんなサンジを回収すべく、停車するオ-プンカメ車。
「皆さん、ようこそドリームアイランドへ。どうぞ、お祭りを楽しんでいってくださいね」
「大聖女、ニア」
ニッコリ笑顔を浮かべる聖女に、まるで近所で一番の美人のお姉さんに憧れる少年のように、キラキラとした眼差しを注ぐ麦わらの一味。
だがロビンだけは、戸惑うような視線を彼女に向け続けていた。