イアイアの実・モデルニャルは地雷案件すぎませんか? 作:露木曽人
「ヨホホホホホホ!!」
「おらァ酒ァ!宴だァ!!」
「高らかに歌えェ!!」
「そォら、みんな踊れェ!!」
ピンクスの酒を大合唱しながら、ルンバ―海賊団のクルーたちが、歌って踊って、大いに盛り上がる。
「いいぞー兄ちゃんたち!!」
「もっと歌えー!!」
イートインスペースはさながら宴会場のような盛り上がりを呈していた。酔っ払った男が、女が、島民が、観光客が、子供が老人が、みんなで一緒くたになって大盛り上がりだ。
その輪の中心にいるブルックは、ここぞとばかりにギターを掻き鳴らし、亡き仲間たちとの奇跡の合奏、大合唱に、ドクロを、アフロを震わせる。
「ヨホホホホ!!楽しいですねェ皆さん!!」
「そうだぜブルック!!俺たちに湿っぽいのは似合わねェ!!」
「俺たちゃ泣く子も笑うルンバ―海賊団!!」
「どうせなら、思いっきり再会の喜びを噛み締めろォ!!」
どういう理屈か、いや、理屈などどうでもいいのだ。その頭蓋骨から滂沱の涙を流しながら、ブルックは笑う。歌う。最期の最期、死のその瞬間まで、陽気に歌うことを貫いた男たちが、祭りの夜に楽しい歌声響かせて、それにつられた生者たちも加わって、大合唱の輪が広がっていく。
曲はもちろん、ピンクスの酒だ。
「ねェ、ゾロ」
「何だ」
大合唱が続く広場から少し外れたところ。民家の外壁に背中を預けて立つゾロと、その隣でしゃがんでいるくいな。いきなりの再会に、度肝を抜かれたのも束の間。彼女にどう接してよいのか、珍しくゾロは迷っていた。
「戦ってみない?」
「バカかオメェは!!いきなり何言い出しやがる!!」
「酷いなァ。私だって一応、剣士なんだよ?ゾロがどれだけ強くなったのか、気になるじゃん」
その迷いを吹き飛ばすような突然の発言に、反射的にツッコミを入れてしまう。
「まァ、バカだよね。自分でもわかってるもん。ゾロはあれから大人になって、修行して、きっとすっごく強くなった。あの頃のまんまの私なんかじゃ、とてもじゃないけど相手にならないことぐらい、わかってるよ」
「...そうかよ」
「ねえゾロ、もしもだよ?もし私があの時死ななかった、きっと今頃は、ゾロよりずっと強い剣士になってたかもしれない」
でも、そうはならなかった。くいなは不慮の事故で自宅の階段から転落死してしまい、死んでしまった。死者にIFはない。子供のままのくいなと、大人になったゾロ。
不意に、くいなの目から涙が溢れ出す。
「ねェ、ゾロ。きっと、世界一の大剣豪になってね。私、信じてるから。ゾロなら絶対、世界で一番強い剣士になれるって」
「お前に言われるまでもねェ。俺は、世界一の大剣豪になる男だ」
「うん...うん!!」
ゾロは涙を拭う幼馴染みの横顔を見ないようにしてやりながら、夜空に浮かぶ三日月を、そびえ立つドリームタワーを見上げながら、想う。
あの日の誓いを胸に、ここまでやってきた。これからも、自分たちの旅は続いていくだろう。ならばその道行に、泣き虫女との約束がもうひとつぐらい増えたところで、大した荷物にもならねェだろう、と。
「お待たせしました。こちらバラティエ流ビックリジャンバラヤとイーストブルー風ブイヤベース。それに季節の野菜たっぷりミートローフでございます」
「んー!!美味しーいっ!!」
ややきまり悪い再会になってしまったものの、気を取り直して、久しぶりにサンジの手料理を食べたい、という母ソラの望みを叶えるため、サンジはサウザンドサニー号へと母を連れて戻ってきていた。
「立派なコックさんになったのね、サンジは」
「ああ。心の底から、親父と呼べる人に拾われてな」
「...そっか」
サンジが振る舞ってくれた、王国の宮廷シェフたちの腕にも全く引けを取らない美味なる手料理を頬張りながら、ソラはほんの少しだけ寂しそうに笑う。家族であったとしても、否、家族だからこそ、許せないことがあった。それだけだ。
それでもサンジは父を、家族を、助けた。恨みよりも、本当に心から、父と呼べる人に、顔向けできる男であり続けるために。
「ねェサンジ、あなた今、幸せ?」
「まァ...そこそこ」
「そっか!!なら、いいの。あなたたちが幸せになってくれることが、私の望みだもの」
「...そうかい」
デザートもあるんだ、と、立ち上がって冷蔵庫に向かうサンジ。その表情は、食卓についているソラからは見えない。だけど、何となくだけれど。息子は、屈託のない笑顔を浮かべることができているのだろうと、そんな確信があった。
「そう...とうとう見つけられたのね、あなたの仲間を」
「ええ。みんな、いい子たちばかりよ。ちょっと賑やかすぎるけれど」
母オルビアの幽霊とこうして会話を交わすのは、これが二度目になるロビンは、あれから自分の身に起きたことを、ポツポツと語って聞かせた。一度目は、目の前で起きたことが信じられず、ほとんどパニック状態になってしまったのは我ながら不覚だったと思う。
「よかった。あなたにも、居場所が、仲間ができた。これでもう、心配することは何もない」
「本当に?」
「ええ。だって、本当に世界中を敵に回してでも、あなたを助けてくれる人たちが、そんなにも沢山いるんですもの。きっとこの先何があっても、大丈夫だって。そう、信じているわ」
島中に張り巡らされた水路の水面に映る三日月を見つめながら、悪魔の子とその母親が、笑いあう。
「何?」
その時だ。ドォン!!と巨大な爆音が轟き、どこかで爆発が起きる。そこかしこで悲鳴が上がり、誰もが何事だ!?と混乱に陥る。
『ギャーッハッハッハ!!お前ら聞けェ!!聖女の身柄はこの赤ひげ&青ひげブラザーズが頂くッ!!』
『あの女に海賊王ゴールド・ロジャーの幽霊を呼び出させりゃあ、俺たちがラフテル一番乗りだーッ!!』
島中に響き渡るような濁声が、一際巨大な海賊船に備えつけられたスピーカーを通じて垂れ流される。どうやらドリームアイランド近海に、千を超える海賊船が急接近したらしく、先程の爆発はその海賊船から撃ち出された砲弾が民家の屋根に着弾したもののようだ。
『皆様、ただいま海賊の襲撃が発生しております。直ちに近隣の建物内へと避難し、慌てず騒がず落ちついて、事態が鎮圧されるまでしばらくお待ちください。決してパニックにならず、冷静に避難を開始してください』
アナウンスに従い、お祭りを楽しんでいた者たちが悲鳴を上げながら避難を開始する。
「落ちついてください!!こちらは治安維持部隊、猟犬部隊です。皆様の身の安全は我々がお守り致します!!」
「走らないでくださーい!!この島には皆様全員が避難できるだけの十分な施設が用意されております!!」
ドォン!!ドゴォン!!と次々に撃ち込まれる砲弾が、ニャルラト正教会の管轄する治安維持部隊の応戦により、空中で撃ち落とされていく。
「神様は、いつだって全てを見ていらっしゃいます」
「だが、見ているだけだ。我々を救うのは、いつだって我々自身でしかない」
大聖女ニアは、まるで花火のように咲き乱れる爆炎を塔の天辺から見下ろしながら、そっと呟く。そんな聖女の肩を抱く、海軍中将サルタンは、ルフィに向けたものとはまるで別人のような、心優しい父親の笑みを浮かべていた。
「ご武運を」
「ああ、すぐに終わらせる。お前は何も心配せずとも大丈夫だ」
お前は、私たちが守る。サルタンの言葉に呼応するように、ダゴン、ロス、シャンターク、ゴーントが、塔の麓に集結する。
「予想通り、攻めてきたか」
「何も祭りの日に来なくてもいいだろうによォ。無粋な連中だぜ」
「逆ですよ。祭りの日だからこそです」
「昔から言うじゃろ、火を放つなら、火薬庫の三軒隣とな」
いざ、戦争の時だ。