イアイアの実・モデルニャルは地雷案件すぎませんか?   作:露木曽人

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第2B話 FILM NIGHTMAЯE PART 7/B

海賊、赤ひげ&青ひげブラザーズの襲撃から遡ること少し前。兄、エースとの突然の再会に、涙腺が決壊してしまったルフィは、思う存分泣き続け、そしてようやく少し落ちついた頃。

 

「そっか、俺が死んだ後、色々あったんだな」

 

「うん」

 

話したいことが山積みだったはずなのに、上手く言葉が出てこない。話せたことといえば、サボが生きていたことや、メラメラの実を食べたこと。教官として残ったものの、ガープがあの決戦を機に海軍を辞めたこと。

 

それから、エースが気にしていたその後の白ひげ海賊団のことや、黒ひげ一味のことぐらいか。

 

「俺が死んでも、親父が死んでも、変わらず海はそこにある、か」

 

エースがいた。目の前に、まるで本当に生き返ったみたいに、そこにいる。メラメラの実の能力だって、使えるらしい。

 

『本当は駄目らしいんだけどな、特別、だとよ』

 

民家の屋上に座ったふたりは、目の前にそびえ立つ高い高いタワーと、青白い三日月を見上げる。あの空中庭園で、今も祈りを捧げているという聖女の悪魔の実の力によって、エースは黄泉の国から帰ってきたらしい。

 

エースだけじゃない。この島にいる大勢の人間たちの、大切な故人たちが、今夜、この島に戻ってきている。年に一度、一夜限りの死者と生者が一緒になって楽しむ祭り。

 

「なあエース、俺たちと一緒に冒険しねェか?きっと楽しいぞ!!」

 

「そうしてェのは山々なんだが、無理だな。あの聖女さんから遠く離れちまうと、俺の魂は黄泉の国に逆戻りだ」

 

「じゃあ、あいつ仲間にしよう!!そうすりゃ」

 

「無理だ。言われただろ?この祭りは、年に一度の特別だって。朝になりゃ、どの道俺たちは消えちまう。そうさせないために、ルフィ...お前、あの聖女さんを、無理矢理誘拐するつもりか?」

 

「...なんで!!」

 

なんで、とルフィは叫ぶ。世の理不尽を嘆きながら。なんでうまくいかないのだろう。なんで彼女は仲間になってはくれないのだろう。なんでエースは死んでしまったのだろう。きっと、その全てがごちゃ混ぜになった複雑な想いが、ルフィの心をかき乱していく。

 

「なんで、か。きっとそいつは、誰もが感じる心の痛みなんだろうよ」

 

死とはいつだって唐突で、理不尽なものだ。今日の朝飯の時まで一緒になって笑いあっていた仲間が、午後には死んでいるということもザラにある。何も海賊に限った話ではない。だからこそこの島には、大勢の取り遺されてしまった者たちが集う。

 

ニャルラト正教徒というのは、そういった人間たちの集まりなのだ。死者の幽霊とともに、この島で生きるか、死者に別れを告げこの島を旅立っていくか。

 

あるいは、聖女が囚われの身であったならば、話は違ったのかもしれない。あの海軍将校が彼女を利用しているだけの、どうしようもない悪党であったならば、あいつをぶっ飛ばして聖女を仲間に勧誘することができたのかもしれない。

 

だが、ルフィはその目で見てしまった。伯父の身を心から案じる少女の、心配そうな表情を。あの瞬間こそ、正しく悪いのはルフィの方だった。

 

彼女は自分の意思であそこにいる。ルフィがどれだけ粘り強く誘っても、決して仲間にはならないだろう、と理解できてしまうほどの信念をもって。もし仮にその信念を穢すような真似をすればきっと、エースは二度と、自分の前に現れてくれなくなるに違いない。

 

 

 

『気を強く持ちなさい。さもないと、あの島から出られなくなるかもしれない』

 

今になって、ロビンに言われた言葉の意味が痛いほどによくわかる。

 

「俺はな、ルフィ。今はもう、ただの亡霊さ。俺は死んだ。俺の旅は、あそこで終わったんだ」

 

「...」

 

「だから、お前たちとは行けない。冷てェ兄貴で、悪ィな」

 

「...ううん」

 

男には、誰しも自分だけの航路がある。自分の意思で、自分の力で、選び続けるただひとつの航路が。ルフィの往く道と、エースの往った道は、違うのだ。

 

「俺さ」

 

「ああ」

 

「エースと、サボと、一緒に、旅がしたかったなァ...」

 

「そうだな。俺も、そう思うよ」

 

斜め屋根に仰向けに寝転がり、三日月を睨みつけるルフィの瞳から、ボロボロと涙がこぼれ落ちる。その直後であった。

 

「何だッ!?」

 

『ギャーッハッハッハ!!お前ら聞けェ!!聖女の身柄はこの赤ひげ&青ひげブラザーズが頂くッ!!」

 

「あの女に海賊王ゴールド・ロジャーの幽霊を呼び出させりゃあ、俺たちがラフテル一番乗りだーッ!!』

 

突如、夜空で何かが大爆発し、島中に響き渡るような濁声が、一際巨大な海賊船に備えつけられたスピーカーを通じて垂れ流される。

 

『皆様、ただいま海賊の襲撃が発生しております。直ちに近隣の建物内へと避難し、慌てず騒がず落ちついて、事態が鎮圧されるまでしばらくお待ちください。決してパニックにならず、冷静に避難を開始してください』

 

「海賊!!」

 

「あいつら、せっかくの祭りを邪魔しやがって!!」

 

一瞬、ルフィは、自分のせいだろうか、と幻視した。聖女を無理矢理さらってでも、エースと一緒にいたいという、心の奥底に押し込めたばかりのはずの強い気持ちが、見苦しく心の中から飛び出してきてしまったのか、と。

 

だが、即座にかぶりを振る。そんなはずがない、アレは、ただの海賊だ。ルフィの脳裏に、中将サルタンの不機嫌な顔が思い浮かんだ。聖女は、あの女は、いつもこんな目に遭っているのだろうか。だとしたら、あの男の海賊嫌いも理解できる。

 

「行くぞ!!ルフィ!!」

 

「エース!!」

 

ルフィが動き出すよりも先に、エースが高く夜空に舞い上がった。

 

「モタモタすんな!!たった一夜限りの祭りなんだぜ?楽しまねェでどうするよ!!」

 

「...ああ!!」

 

一緒に旅をするのは無理でも、今ここで、一緒に戦うことはできる。

 

ドリームタワー、その麓へ。兄弟が駆け出していく。

 

 

 

『行ってきな』とベルメール。『仲間が待っているんでしょう?と』ソラ。『かっこいいとこ見せておくれよ!!』と息子の背を押したは、バンキーナだ。

 

『頑張って!!』とくいなに見送られ。『死んじまった人間より、まだ生きてる人間を助けてやんのが医者の仕事だろ?』とヒルルクに微笑まれ。

 

『乗る人間がいなきゃ、船が泣くぜ!!』とトムに肩を叩かれ、オルビアに『しっかりね』と抱き締められ。『野郎ども!!戦いだァ!!』とやる気満々のルンバ―海賊団とともに。

 

麦わらの一味はそれぞれ、海賊たちと戦うために駆け出していく。集え、麦わら帽子の旗の下に!!

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