イアイアの実・モデルニャルは地雷案件すぎませんか?   作:露木曽人

45 / 53
第2D話 FILM NIGHTMAЯE PART 9/B

「ゴムゴムのォー、ピストルッ!!」

 

「火拳ッ!!」

 

エースとルフィは、海賊たちを蹴散らしながらドリームタワーを目指し走っていた。この騒ぎの目的が聖女ニアの誘拐ならば、必ず敵はそちらに現れるはずだからだ。

 

「おい逃げろ!!麦わらのルフィだ!!」

 

「あのエースの幽霊もいやがる!!勝てっこねェ!!」

 

「ん?何だ?逃げてくぞあいつら」

 

「気にすんなルフィ!!それよか、急ぐぜ!!何だか無性に、嫌な予感がしやがる!!」

 

立ち止まっていたルフィが、再び走り出そうとしたその時。

 

「あの!!」

 

「ん?」

 

兄妹だろうか。幼い子供がふたり、ルフィの足元に縋ってきたのだ。

 

「お兄ちゃんたち、すっごく強いんでしょ?」

 

「お願い!!聖女様を守ってあげて!!ベリーが必要なら、代わりにあたしの宝物、あげるから!!」

 

ニャルラト正教会のシンボルマークである五芒星が模られたペンダントを首から提げたふたりが、涙を浮かべながらルフィに懇願する。

 

少女の方は、首から提げていたそれを外し、ルフィに差し出してきた。きっと、少女にとっては何よりの価値のある宝物なのだろう。

 

「おいお前ら!!何やってるんだ!!海賊に話しかけるなんざバカな真似はよせ!!死にたいのか!?」

 

どうやら、兄妹の父親らしき若い男が全力で走ってきて、ふたりをひったくるようにルフィから引き剥がす。

 

「お兄ちゃん、お願い!!」

 

「お願い!!聖女様を守ってェ!!」

 

男はルフィのことが恐ろしくて堪らないとばかりの怯えた表情で、しかし子供たちを守るために必死で逃げ去っていく。

 

「行こう、ルフィ」

 

「...ああ」

 

返しそびれたペンダントをポケットにしまい、先を急ぐ。道中、ルフィは逃げ惑う島民や観光客の中に、大勢の正教徒たちの姿を見た。

 

「ニア様!!どうか我らをお守りください!!」

 

「ニア様、どうかご無事で!!」

 

「パパァ、聖女様、大丈夫だよね?」

 

「ああ、きっと大丈夫だ!!ダゴンさんやロスさんたちがきっと守ってくれる!!」

 

無力で、無責任な人間たちだった。他力本願で、自分で守りに行こうという気概も度胸もない。だが、一途に聖女の無事を祈っている。そして、ルフィは気付く。彼らは戦わないのではなく、戦えない者たちなのだ、と。

 

戦う力も碌に持たないけれど、家族を守ろうと頑張る父親。恐怖に震えながらも、五芒星のペンダントを握りしめ、祈る子供たち。泣きじゃくる赤ん坊をあやす母親、自らの店や家を開放し、避難所として受け入れをする者たち。

 

 

誰もが戦っていた。相手は、敵ではなくとも。弱者が、寄り添って生きているのだ。力なき者たちが、力を合わせ、聖女に祈りと感謝を捧げながら、生きているのだ。

 

「なあエース」

 

「何だ?」

 

「俺、何であの女が聖女って呼ばれてんのか、ちょっとわかった気がする」

 

「奇遇だな。俺もだ」

 

ニっと笑いあって、屋根伝いにタワーへと急ぐふたり。そんなふたりを、その端がほんの少しだけ、橙色に滲んだ三日月が、見下ろしていた。

 

 

 

「悪ィ!!遅くなった!!」

 

「遅いわよルフィ!!」

 

「それに...エース!?」

 

ようやく到着したルフィとエースの姿に、麦わらの一味が喜びと驚きを露にする、船長が来れば百人力だとばかりに。

 

「お久しぶりねムギちゃーん!!」

 

「ボンちゃん!?生きてたんだな!?」

 

「あったりまえでしょーッ!!このあちきが簡単に死ぬとでも思って?オカマはしぶといのよーうッ!!」

 

エースほどではないが、まさかこの島で会えるとは思ってもみなかった相手との再会に、喜びを分かち合う。そんな時だ。

 

「皆さん!!争いを、やめてください!!」

 

島中に設置されたモニターに、大聖女ニアの憔悴した顔が映し出された。どこか、というより、完全に体調が悪そうな様子で、それでもカメラに向かって叫び続ける。

 

「私には、ゴールド・ロジャーの幽霊を呼び出すことはできません。私が呼び出せるのは、この世に戻ってくることに同意を得られた人たちだけ。ロジャーさんには、たった今この世に戻ってくることを断られました!!」

 

懸命な叫びに、誰もが手を止め、モニターを見上げる。

 

「だから、もうこれ以上、皆さんが争う必要なんてないんです!!どうか戦いを、やめてください!!」

 

それは、ルフィたちに、かつてあったアラバスタでの戦いを思い起こさせる、そんな叫びだった。

 

だが。

 

『うるせーェ!!今更ロジャーが出てこようがこなかろうが関係ねェ!!』

 

『野郎ども!!あの女を手に入れろォー!!』

 

うおおおおォーッ!!と、一際すさまじい怒号とともに、海賊たちが死力を振り絞って突っ込んでくる。どうやら、聖女のあまりの美貌が、下劣な男たちの目を欲望で曇らせてしまったらしい。

 

『そんな...』

 

先程よりもさらに青褪めた表情を最後に、モニターが暗転する。島には再び、いや、先ほどまで以上の、大混乱が襲いかかる。

 

「だから言ったのだ。海賊相手に話しあいなど無駄だとな」

 

「サルタン!!」

 

「それに...サボォ!?」

 

「何でお前が!?」

 

ドリームタワーの巨大なガラス扉から出てきたサルタン中将に声をかけるゴーント中将。そして、サルタンとともに姿を現したまさかのサボの登場に、ルフィとエースが目を見開く。

 

「ニャルラト正教会は、政府に対しても海軍に対しても海賊に対しても、常に中立を貫いている。革命軍にとって、それは無視できない脅威だ。だから、俺が交渉役に派遣された。...まさかこんなところで会うとは思わなかったよ。ルフィ、それに、エースも」

 

「サボ、なのか!本当に生きてたんだな!!」

 

「ああ!!」

 

ガッチリと、硬く抱きあうエースとサボ。本来では叶わなかったはずのふたりの兄の再会に、ルフィの涙腺も緩む。だが、泣いている暇はない。まずは、目の前の敵を片づけなければ。

 

「行くぞルフィ!!サボ!!あの海賊船を、沈める!!」

 

「ああ!!遅れんなよ!!ふたりとも」

 

「イヤッホー!!」

 

「革命軍のお手並み拝見といくか。お前たち、兵を下がらせろ」

 

飛び出していったルフィ、エース、そしてサボ。三人を見送ったサルタンは、ダゴンたちに指示を飛ばしていく。

 

「行くぞ!!合わせろよ!!」

 

「ああ!!」

 

『火拳!!』

 

ごう!!と夜の海に、水平線の彼方まで届きそうな炎が巻き起こる。エースとサボ。本来ならば両立しうるはずのない、ふたりのメラメラの実の能力者同士の、まさに一夜限りの夢の共演。

 

聖女略奪のため、集った海賊船、ざっと999隻が、業火に呑まれ瓦解していく。海賊たちが、大慌てで海に飛び込んでいく。

 

「ゴムゴムのォー!!ピストルッ!!」

 

「うわ!?何だテメェら!?」

 

「どっから現れやがった!!」

 

そして、残る一隻の一際巨大な海賊船。赤ひげ&青ひげブラザーズの船に、港から一気に飛び移るルフィ。そんなルフィの体にしがみついて、一緒にやってきたエースとサボ。

 

決着は、一瞬だった。三兄弟の圧倒的な力の前に、なすすべもなくボコボコにされていく海賊たち。勝負にすらならない一方的な戦いは、一瞬で終わった。

 

 

 

『ルフィ!!』

 

拍子抜けしてしまうぐらい、至極あっさりと海賊船の大軍を撃破した三人がタワーに戻ると、仲間たちがわっと出迎えてくれる。手土産にと持ち帰ったのは、ロープでグルグル巻きにされた赤ひげ&青ひげブラザーズの身柄だ。

 

「麦わらのルフィ...借りができたな」

 

「いいって!!気にすんなよ、おっさん!!」

 

ルフィとサルタン。ふたりの男が真っ向から退治する。年齢も、体格も、立場も境遇も違うふたり。だが、その間に昼間あったような険悪なものはない。これが映画か何かであったならば、エンディングに突入する絶好のタイミングであっただろう。

 

劇場版の主題歌とスタッフロールが流れ、その横で麦わらの一味と死者たちが、お祭りを楽しんでいるイラストが流れてきたのだろう。

 

丁度、そんな時だ。

 

パチ、パチ、パチと。小バカにするような拍手が鳴り響き、誰かがタワーの入り口から歩いてくる。

 

「はーいここまでの茶番ごっくろーさーん。めでたしめでたし、ハッピーエンドってワケね。それじゃ、アタシって一体何?ホラー映画のCパートとかで出てくる、次回作の復縁っぽい後味の悪さ演出担当のわき役って感じ?」

 

「あん?誰だお前?」

 

「ニア、様?」

 

それは、大聖女ニアのようでありながら、全く違う。

 

美しいしらうおのような肌は小麦色に染まり、清らかな銀だった髪はケバケバしい金色に変色してしまっている。おまけに清楚な白のワンピースはビリビリとはしたなく破られ、豊満な胸は今にもこぼれ落ちてしまいそうだったし、鼠径部も丸見え寸前の危うさだ。

 

リンゴのようであった赤い唇は、血の滲んだような紅へと色づき、冒涜的に発光する紫の光が、アイシャドウやタトゥーのように全身に絡みついている。聖女とは似て非なる何か。それが、愉悦に歪んだ笑みを浮かべ、狂ったような哄笑を、高らかに響かせる。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。