イアイアの実・モデルニャルは地雷案件すぎませんか? 作:露木曽人
快晴の青空。穏やかな波。ゴーイングメリー号の上で、ルフィは目を覚ました。
「みんな!?どこだ!?」
「落ちつけ、といっても、難しいか」
「おっさん!!」
周囲を見渡しても、仲間たちはどこにもいない。代わりに、甲板にひとりの男が立っていた。ダエモン・サルタン。あの聖女の伯父である、海軍中将だ。
「時間がないので手短に伝える。今、君は私が作り出した夢の中にいる」
「...夢?」
「そうだ。私が食べた悪魔の実、イアイアの実・モデルアザトースの能力は、現実と夢の境界線を操る力だ」
ルフィが初めて彼と戦った時、ベッドの中に飛ばされたのは、本来ならば、『麦わらのルフィは空中庭園に不法侵入し、撃退される夢をただホテルのベッドの中で見ていた』ことになるはずだったのだ。だが、能力は中途半端にしか効かなかった。
恐らくは、覇王色の覇気の影響なのかもしれないが、今大事なのはそこではない。
「昔、ニアが教えてくれた。イアイアの実・モデルニャルの能力は、夢を現実に投影する力みたいなものだと」
死者が幽霊となって蘇る。そんな都合のいい夢物語が現実になるはずがない。だが、なるのだ。イアイアの実・モデルニャルの力ならば。その奥底には邪神からの精神汚染というとんでもない災厄が潜んでいたが、それでもこの世界の枠組みの中に成り立つ悪魔の実であることに変わりはない。
「開眼、ドリームエンド。文字通り、どんな夢も終わらせる一撃だ。いかな悪夢とて、所詮はただの夢ならば、夢はいつか覚めるもの。あの邪神が好き放題に現実の上から塗り潰した悪夢は終わり、世界は元の姿を取り戻すだろう。それを、君に託す」
「俺に?」
「ああ。本当は海賊の力など...いや、違うな。あの子を助ける役目を、伯父としては他の誰にも渡したくなどなかったのだが...どうやら、君でなければならないようだ」
ルフィはポケットから、光る五芒星のペンダントを取り出す。この光が、無力な子供のちっぽけな祈りの力が、海底に揺蕩うメリーの魂を、ここへ導いてくれた。
「もう長くは持たない。君に、この世界の未来を託す。頼む、どうかあの子を...世界を、救ってくれ」
次第に、青空が赤黒い闇に呑まれていく。海も、血のように赤く汚染されていく。サルタンの姿が、塩となって崩れ去っていく。
「ああ、任せろ!!」
手は、あった。脚も。勇気も、希望もだ。
「行こう!!メリー!!」
うん!!と、力強い声が聞こえたような気がした。
「オオォオオ!!どうして、どうしてアタシの思い通りにならない!?アタシは神様だぞ!?神様気取りの能力者なんてちっぽけな虫けらとは違う!!正真正銘、本物の神!!それなのに!!なんで能力者の一匹ごときにィ!?」
目や口が大量に生えた悍ましい触手を全身から生やした邪神が、ゴーイングメリー号の形をした光の塊から顔を庇うように後ずさる。その中から、両手に光を纏ったルフィが飛び出してきた。
「神様ってのは、人を救うもんだ!!人を救わねェ神様が、どこにいるってんだ!!」
「知ったことか!!お前ら人間の小賢しい屁理屈など!!」
光ごと、拳を握りしめる。
「なァあんた、炎が嫌いなんだってな?」
「だったら、とびっきりの炎をご馳走してやるよ!!」
「エース!!サボ!!」
光に導かれ、エースの魂が、この暗闇の中で、精神だけの存在として、無限に繰り返される悪夢の中を彷徨わされていたサボが、それぞれルフィの拳に己の手を重ねる。それは、邪悪なる愉悦の神が唯一苦手とする、炎。穢れを焼き尽くす、浄化の炎。
「チィ!?ここは一旦逃げッ!?」
グラリ!!と突如として暗闇が揺れ、邪神がバランスを崩し、転びそうになり、寸でのところで踏ん張る。
「親父!!」
あの時見せしめに作り出されたまま放置されていた白ひげの塩像が、ニィ、と、一瞬だけ笑ったように、エースには見えた。だが、それを確かめる間もなく、その姿が形を失い、サラサラと崩れ去っていく。
「ゴムゴムのォー!!メラメラ・ガトリングッ!!」
炎と、光。太陽の如く眩く輝くルフィの拳が、邪神の体を、闇そのものを、機関銃のように殴りつける。
「何...だと...!?この私が、人間ごときにィー!?」
「人間の底力を、ナメんなァー!!」
ルフィの...いや、ルフィたちの放った渾身の炎拳にぶっ飛ばされた邪神の体が、血染めの月へと吹っ飛んでいく。やがて激突したそれは、悍ましいこの世界を覗き込む邪神の目を潰し、崩壊させていく。
そして一瞬の後、空に青空の穴が空いたかと思うと、真っ赤な暗雲は一気に晴れ、そして。そこには青空と、青い海とが、どこまでも広がる、いつもの世界が戻ってきたのだった。
「なあエース」
「ん?」
「やっぱ俺、三人で冒険したかったよ」
「ああ、俺もだ」
「俺だってそうさ」
爽やかな潮風が吹き抜ける海辺の草原。いつの間にか朝が来ていたのだろう。東の空から昇る朝日に照らされ、エースの体がゆっくりと半透明になっていく。
エースを真ん中に、左右にルフィとサボ。精魂尽き果てたように、大の字に寝転んだ三人は、手を繋いだまま青空を見上げていた。
「なあルフィ」
「うん」
「なれよ、海賊王。お前なら、きっとなれるさ」
「...ああ!!もちろんだ!!」
「サボもさ、革命軍、頑張れよ。どんな道だって、俺、応援してっから」
「...おう!!」
閉じた目の眦から、涙をこぼし、ニシシ、と笑いあう三人。
そして。再び目を開けた時、そこにはルフィとサボの、ふたりしかいなかった。
推奨EDソング
『Memories』
「皆さん、この度は本当にありがとうございました。何とお礼を言っていいか」
「あー、いいのいいのそういうのは。感謝はベリーか宝石でお願い!!」
「もちろんです!!ではあのお神輿の上に飾られている、時価10億ベリー相当の私の黄金像を」
「いやーアレは何か呪われてそうだからいらねェ!!」
「お黙りウソップ!!」
肉体を乗っ取られていた聖女ニアは、邪神の支配から解放された。邪神の悪影響が消えたことで、肉体・精神面ともにかなり負担が軽減されたらしく、今後二度とあのような暴走を招くことはないだろう、とのことだ。
あの真っ赤な闇に呑まれた島民たちは全員、悪夢にうなされはしたものの、特に後遺症もなく夢から覚め、朝を迎えたらしい。まるで悪い夢から覚めたように、壊れた建物も、全て元通りになっていた。
「世話になったな、少年。君のことは忘れない。君のような海賊が、この海にはまだいるのだということを」
「こっちこそ、ありがとなおっさん!!」
「フォフォフォ!!あのサルタンがよもや海賊を見逃すとはのう!!」
「ヨホホホホ!!ところで聖女様、お別れの前にパンツ見せて頂いてもヨロブヘッ!?」
「図に乗るな」
サルタン中将とゴーント中将は、捕縛した海賊たちを海軍本部へと引き渡すため、しばらく島を留守にするそうだ。妙に騒がしい大佐がタイムが!!タイムがァ!!とブツブツ呟いているが、そんなにも出航時間が迫っているのだろうか?
時間といえば、サボも予定よりだいぶ長く滞在してしまったらしく、一足先にこの島を経っていた。また会おう、との言葉をルフィに残して。
「お嬢を助けてもらったこと、感謝する。だが、貴様のような不埒な男をお嬢の傍に近寄らせるわけにはいかない。せめてもの礼だ。お嬢を遠くから見ることだけは許してやる」
「ふざけんなァ!!俺のどこが不埒だってんだ!!」
「全部だろ?」
「ああ、全てだな」
「否定できる要素がないわね」
「オメェの存在そのものが不埒以外の何もんでもねェだろ」
ロスは敬愛するお嬢様を守り切れなかったことがよっぽどショックだったのか、また一から修行のやり直しをするとのことだった。ありゃ猟犬というより忠犬だな、とはサンジの弁だ。
「おいジジイ、次は必ず俺と戦ってもらうからな」
「ほっほっほ。この老骨でよろしければお相手仕りさせて頂きますゆえ、その日を楽しみにしておりますとも」
シャンタークはあまり変わらない。完璧な執事というものは、表情の変化を悟らせないだけかもしれないが。少なくともお嬢様があのような破廉恥極まりない不良少女に育ってしまわぬよう、これまで以上に目を光らせねば!!とひそかに気合いを入れていたことだけは確かだ。
「野郎ども!!麦わら海賊団の出航だ!!道を開けろ!!」
ダゴンの一喝により、海門が開かれ、多くの船が道を譲るように舵を切る。今回の一件により、深淵のダゴンの懸賞金がまた上がることになったそうだ。俺はほとんど何にもしちゃいねェよ、とボヤいていたが、悪名がお嬢様のためになるってんなら何でもいい、とのことで。
「皆さん、本当にありがとうございました!!どうか皆さんのこれからの旅路に、幸多からんことを!!」
サウザンドサニー号から、ニャルラト正教会の一派が降りていく。その名前を今後も使うのかで少し話しあいが行われたそうなのだが、むしろ戒めのために名前はこのままでいく、と決めたそうだ。
「なあ、ニア」
「はい、何でしょう?」
お前、俺たちの仲間になんねェか?
喉元まで出かかった言葉はしかし、打算も何もない、いつものルフィらしい、純粋なもので。
「いんや、やっぱ何でもねェ!!元気でな!!」
「はい!!皆さんもどうか、お元気で!!」
タラップが外され、船が港を離れる。聖女たちに見送られ、サウザンドサニー号は次の島へと旅立っていく。その見送りには、みんながいた。
「じゃあなー!!」
「行ってきまーす!!」
「俺、頑張るからなー!!」
思い思いの言葉を叫び、あるいは、無言で微笑みを交わし。大切な人たちに別れを告げ、麦わらの一味の冒険は続く。まだまだ、ずっと、続いていく。
ONE PIECE FILM NIGHTMAЯE
THE END
以下自分語り
これにて映画本編完結となります。ここまで読んで頂き本当にありがとうございました。
後日オーディオコメンタリーというか裏側から見たverも書きたいと思っておりますのでもう少しだけお付き合いいただければと思います。
ほんとは映画編書くつもりなんかこれっぽっちもなかったのに、まさかまさかの映画話だけで長編になってしまって驚いたのは僕自身です。
そもそもこの話って一話だけの短編一発ネタで終わるはずだったのに、まさかの高評価や沢山の感想頂いてしまった嬉しさに書き続けて今に至りました。
それもひとえに皆さんの応援・感想のコメントのお陰です。そのお陰で最期まで書ききることができました、いやほんとマジで。
読者の意見に振り回されるようになると心配、みたいなコメントも頂きましたが、いい意味でのライブ感を得られたというか。
映画にボンちゃんとかメリーとか出す予定最初全然なかったんですよ。その手があったか!!みたいな発想を沢山頂けました。
とりまご挨拶はここまでにして、ほんとこの小説を読んでくださってありがとうございます。感謝感謝の極みであります