イアイアの実・モデルニャルは地雷案件すぎませんか?   作:露木曽人

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第6話 まさかの原作キャラが帰っていきましたの巻

「...ステ、ラ?」

 

「久しぶり、テゾーロ」

 

 

神はいた!ただし、邪神だがな!そんなわけで、おはようございます。

 

朝だろうが夜だろうが救いの聖女業に勤しむニアです。

 

前回、金持ちどもが集まる夜会でまさかのギルド・テゾーロ氏にバッティングしてしまった私は、どうしたもんかなーと悩んだ末に、テゾーロさんに全てを丸投げすることにしました。

 

 

1.私の能力は死者の魂を一時的に仮初の肉体に宿すことができるということ。

 

2.そのため復活した死者は生前の本人であること。

 

3.ただし、復活した彼女は年を取らないこと。

 

4.この島から出ると能力の射程圏外になるため、彼女が肉体を維持できず塩の柱になって砕け散ってしまうこと。ただし、出張可。

 

 

もちろん上記全てが真実ではありませんが、満更嘘でもないので、虚実織り交ぜて彼にとって納得のいく理由を告げ、実際にステラさんに出てきてもらえば、あとはもう細かいことなんか気にならなくなるぐらいのインパクトで考える余地なんかぶっ飛んじゃいますから、なし崩しですよ。

 

上手く適当な嘘を並べて誤魔化して帰ってもらってもよかったのですが、さすがにねえ、痛むんですよねえ良心が。

 

映画版のテゾーロさんは、失くしてしまったものを追い求め続け、それでも絶対に満たされることのない飢えや渇きに苦しみ、自罰的に、自虐的に、苦しんでいる姿がとても痛痛しくて。

 

 

他人を傷つけているはずなのに、実は何より一番自分を傷つけてるような人って、やっぱり見ていて辛いじゃないですか。たとえ悪党だったとしても、やっぱりそこに至るまでには色色な理由があったわけで。

 

そんなわけで、教団本部聖女の間という名のただの事務所にて、念願のステラさんとの再会を果たし呆然自失のテゾーロさんとステラさんを残し、私たちは一時退室します。

 

 

「こうして実際目にすると、凄いわね。あなたの能力」

 

 

さすがにあの状況であの部屋に残る、という選択肢は取れなかったようで、一緒に退室してきたバカラさんがどこか遠い目をしながら呟きます。

 

そういえば彼女、テゾーロさんに好意を寄せていたんでしたっけ。

 

そんな彼女が今の状況に何を思うかは、言うまでもないでしょう。

 

 

「これであなたたちは、テゾーロにとんでもない恩を売った」

 

「そうですね」

 

「彼のあんな顔、初めて見たわ。私たちにはあんな顔、一度も見せたことはなかった」

 

「そうですか...飲みます?」

 

「ええ、頂こうかしら」

 

 

護衛のロスさんにお願いして、持ってきてもらったのは極上のワインだ。

 

彼女からしてみれば、飲まなきゃやってられないだろう。

 

惚れた男が心底惚れていた女が戻ってきた。

 

それも、死の国から。

 

実際彼女が出てくるまでは、どうにも胡散臭いだとか、どうせ詐欺だろうみたいな空気を漂わせ、限りなく半信半疑だったテゾーロさんが、あんな顔になったのですから。

 

 

たとえ仮初の存在であったとしても、彼にはもう、ステラさんを手放すという選択肢は取れないでしょう。やっぱり現物を目の前に出してしまうと、強いんですよね。一度与えられてしまったら、もう奪われることに耐えられない。

 

まして一度喪失してしまっている方々は、喪失の痛みに苦しみ嘆きながらここまで来ているわけですから、なおさらです。

 

ひょっとしたらワンチャン別離を告げて過去に決別するかも、とも思っていたのですが、あれはもう無理でしょうね。

 

愛というのは、とかく人を変えてしまうのだと痛感します。

 

 

「不思議ね。嬉しいような、悔しいような、寂しいような、悲しいような、でも、やっぱり嬉しいような。不思議な気持ち」

 

 

本気で誰かを好きになったこともない、青臭い小娘に過ぎない私程度では、彼女の胸中をお察しするのもおこがましく、ただ消えていくワインを眺めながら、扉を閉めていても隣室から聞こえてきてしまう慟哭に想いを馳せます。

 

そんなわけで、テゾーロさん襲来事件は幕を閉じました。

 

 

「世話になったな」

 

 

テゾーロさんとしてはもう金なんぞ要らねえ、俺はステラとふたりで静かに生きていく、みたいな感じでしたが、さすがに世界の富の20%を持つ男がいきなり表舞台から消えたら世界経済は大混乱になるでしょうし、何より金がなければ彼女を守ることもできないことに思い至ったのでしょう。

 

 

憑き物が落ちたようにすっきりした爽やかスマイルで、ステラさんと大事そうに腕を組みながら、帰っていきました。

 

誰だよお前、と一瞬思ってしまった私は悪くないです。

 

 

これからは表向きは今まで通りに君臨しつつも、ステラさんと寄り添って生きていくことでしょう。

 

バカラさんがどうするつもりなのかはわかりませんが、彼女なりに考えてこれからのことを決めるでしょうから、私が口を挟むことではありませんね。

 

 

もし仕事が必要ならうちで雇いますよ、とは伝えましたが、あの様子を見る限りでは、しばらくグランテゾーロを離れるつもりはなさそうですが。

 

いつか恋心に終わりを告げられたらその時は、新しい恋が見つかるといいですねと願うばかりです。

 

 

そして最大の問題点だった、私がいないと彼女が仮初の肉体を維持できない問題ですが、これは新しい私をグランテゾーロに常駐させてもらうことで解決することにしました。

 

ついでにニャルラト教のグランテゾーロ支部も作らせてもらい、そこで遊興三昧の生活を送らせてもらおうという魂胆です。

 

「それじゃあ、よろしくお願いしますね私」

 

「任せて私。たぶん時系列的にはかなり先のことになると思うのだけれど、フィルムゴールド実況中継を楽しみにしていてください」

 

 

いいなー私も一生カジノで遊んで暮らしたーい!!と一瞬思いましたが、冷静に考えたらそもそもが全員が全員私なので、カジノで遊んで暮らす私もここで聖女やってる私も、現在過去未来全てに散らばった私もみんな私なので、さほど大した問題ではありませんでした。

 

 

「お嬢様、ギルド・テゾーロ氏より電電報が届いておりますが」

 

 

「すぐに読みます」

 

 

さて、ニャルラト教は怪しげな秘密教団ですが、利権が絡む以上、タダで死者蘇生っぽい奇跡を起こしてあげるわけにはいかない、というのが教団幹部たちの見解であり、私もそれに関しては納得できます。

 

タダより高いものはないですし、何より奇跡のありがたみが薄れちゃうという幹部たちの言い分は、まあまあ理解できますからね。お金のない人々からは無理に毟り取ろうとしてもどうしようもないので、代わりにニャルラト教徒になってもらうことで手を打っていましたが、お金持ち相手ならば遠慮はいりません。

 

 

そんなわけでテゾーロさんには、教団に対する幾ばくかの出資と、いざという時の後ろ盾になってもらうこと、そしてこれは私の個人的なお願いなのですが、世界中からイアイアの実やイアイアの実の能力者についての情報を集めてもらうことにしました。

 

 

そんなんでいいのかよ、と拍子抜けといった風でしたが、あまりがめつい真似をしすぎるのはNGという私の個人的な方針と、正直テゾーロさんにお小遣いをもらわなくとも十分成り立つだけの資金繰りができているので、そこまで必要ないんですよね、お金。

 

 

こういうカルト宗教の幹部というとお金に狂った人間が多いという印象があるのでしょうが、ニャルラト教はあくまで私の能力ひとつに依存した団体なので。

 

テゾーロさんだってステラさんが目の前で塩の柱になって砕け散ってまで私を裏切りたいとは思わないでしょう?と言うと、納得してくれました。

 

 

それにほら、ワンピ世界には天竜人とかいう特大の厄ネタがありますから。

 

今のところもしドリームアイランドに天竜人たちが来たら、その都度皆殺しにしてから死体を復活させて、操り人形にすることで対応しているのですが、トラブルというのはどこからやってくるかもわからないですし?

 

問題というのは、起きてから対処しても遅いのです。問題が発生する前にあらかじめ手を打っておく。天竜人相手なら良心も傷まないのでご安心です。え?もし善良な天竜人がその中にいたらどうするのかって?善良な天竜人...いるんですかね?ドフラミンゴの親御さんみたいな?あれはレアケース中のレアケースなのでは...?

 

 

私の目標はあくまで原作イベントを生鑑賞しつつ、平和とはかけ離れたこの世界で、平穏無事に生きていくことです。

 

権力者になりたいとも思いませんし、お金だって必要になった時に必要な分だけあれば問題ないので。

 

まして海賊王の座なんて全く興味ないですし。海賊王に私はなる!なんて盛り上がる自分自身を想像してみましたが、無理がありました。

 

なので、ステラさんと静かに平和に生きていければそれでいい、みたいになったテゾーロさんとは利害が一致しているので、この際ある程度腹のうちを明かして、手を組むことにしました。

 

面倒な天竜人関係の厄介な問題に関しては私が、私の手の届かない部分に関しては彼が。それぞれフォローしあう形で、なんとかしていければなと。今後もよきビジネスパートナーとして付きあっていきたいものです。

 

願わくば、平穏を。

 

どうか波風立たない生活を。

 

まあ、ニャル様が私の動向を眺めて楽しんでいる以上、そんなの絶対無理なんですけどね。

 

ははっ!


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