女性を性処理道具扱いしたい。そんなサディスティックな欲求を持つ男にも、人並みの良心があった。

1 / 1
星を数えさせるためのハイエ

 俺にとって女とは性欲処理の道具だ……と叫んだとしても、きっと俺は救われない。それは、叫ばずとも分かりきっていることだろう。

 よく冷えた冬の夜だった。

「大丈夫ですかぁ?」

 公園のトイレで吐いていると、間延びした女の声が、個室のドアを超えて耳に入ってきた。

 考えるよりも先にドアの上を見上げても、ホラー漫画じゃあるまいし、そこには誰もいない。けれどその代わり、ドアの下の隙間からは、ヒールの物であろう尖った靴先が見えた。それがピンク色をしているように見えたのは、俺の頭がおかしいせいではない。

「あぁ……?」

 いわゆる公衆トイレなんか何年ぶりに使ったのか分からないし、酒も回っている。そのせいで男女の入口を間違えたのかと、嘔吐の苦痛が尾を引く中で、俺は一瞬焦った。

 が、ここへ来た時、確かに男性用の小便器が並ぶ様を見たことを、俺はすぐに思い出して、それじゃあ頭がおかしいのは向こうの方かと理解する。

「大丈夫ですかぁ」

 入ったことのない店の暖簾(のれん)を潜るような自信の無さが、戸を引く自分の腕に現れる。死んでしまいたい、という気持ちが、いつもより少し多めに胸の中にあった。

 視界を隔てていた汚らしく軽い壁を一枚取り払ってみると、そこに立っていたのは美女だった。

「大丈夫じゃねぇよ……」

 亡者のような、怨霊のような声が俺の喉から出て、返事の内容に寄り添う。

 よく見ると、俺を心配しているかのように錯覚させようとしているかもしれないその美女は、絶世の……というほどの物ではなく、俺を救いに来た女神のようでもなく……、性欲処理の道具らしくもなく、ただどこかで見たことのあるような、探せば見つかるくらいの美人だった。

 ……というか、さっき同窓会で見た女に似ている。俺は、だから同一人物ではないことを確認するために、彼女のことを舐め回すように見てしまった。そのあとから、視姦という言葉が脳裏を過ぎったものだから、それは完全に手遅れだった。

「大丈夫じゃなさそうですね」

「あぁそうだよ……そう……」

「助けてあげましょうか」

「あぁ……?」

「助けてあげましょうか?」

「……何から?」

「さぁ、何からでしょうね」

 全てを知っているんじゃないかという風に、見透かしたような雰囲気で、その女は俺に向かって微笑んだ。……俺は昔、子どもの頃、この女に会ったことがあるのかもしれない。そうでなければ彼女は、どうして俺に微笑むというのだろうか。

 それとも、いつだって無視できないほど重要なことにこそ、理由なんて存在していないものなのだろうか。

 胃酸に焼かれた喉と、冷たい空気の中に居ながらくらくらする頭と、泳ぐ目線と、自棄になった心で、俺は……救いを求めることにする。が、求めても求めなくても、結果は変わらないだろう。俺が救えない俺を、どうして頭のおかしな女が救えるというのか。そんなことは、あり得ないのである。

 ……しかし、だからこそ救われたいのだ。俺は「どうして」への答えが欲しくなった。目の前の女が俺に微笑む理由も、頭のおかしな女が俺を救える理由も、俺が知らない場所に確かにあるのだと証明される様を見てみたい。見てみたい、いわゆる希望というやつを。

 けれど、一方で、俺は何もしたくない。得られない物を得ようとして、苦痛だけが手元に残ることには、もう耐えられないから。

「助けたいならボランティアだろ」

「はい?」

「俺を助けたいなら、……うっ」

 再び込み上げる嘔吐感。返事の前にどうしても「あっ」が付くコミュニケーション障害者のように、俺がそれを便器の中に吐き出せたことは反射によるものだった。

 肩で息をしながら水を流す。そこで鳴る音が俺を諭しているようだった。「もう帰った方が良い」と。

 何もかもが余計なお世話だった。

「俺は返せる物なんか何も持ってない。助けたければ、無償で助けろ」

「いいですよ」

 明るい声で、二つ返事でそう言うその女に、カチンと来る。見透かしたような微笑みが、まだその女の顔にあったからだ。

「じゃあ、だったら、裸になって見せろ、ここで!」

「はい」

「……は?」

 二つ返事で、実際に、彼女はこちらの要求に従おうとした。

 服の裾に手をかけた彼女の手を、骨その物みたいに細い手首を、俺は咄嗟に掴んでしまう。慌ててそれを離した時には、その慌てること自体も、当然すでに手遅れだった。

 俺がなんと言おうと、俺は初対面の女性を不躾に見定めて、煽って、触れてしまった。……いや? けれどそれを言うなら、彼女がなんと言おうと、彼女がいるこの場所は男子便所じゃないのか? おかしいのは向こうの方だ。そうだろう。

「湊さん。今日はもう帰った方がいいですよ」

 手首をさすりながら彼女が言う。よく見ると、掴んだ感触が骨のようだっただけで、彼女の手首はただ見るだけなら、それは普通の人間の手首だった。

 ……どうして俺の名前を知っているんだ?

「私、ハイエっていいます。一緒に帰りましょう、湊秋人(みなとあきひと)さん」

 

 

 

 

 

 

「それで昨日は何をしていたの?」

 ハイエと名乗った日本人顔のその女は、あの夜帰り着いた自宅で死に行くように眠った俺に、「湊くんって呼ぶから、ハイエって呼んでいいよ」と言ったきり、馴れ馴れしくなった。

 俺は朝になって起きてから風呂に入って、出てきてから、ハイエがここに住み着こうとしていることに気が付いた。けれどいつだって問題の発見は、解決策の発見より遥かに簡単で、その簡単なことの方が、同時に限界であることばかりなのだから嫌になる。俺は彼女にかけるべき言葉を、自分の人生の中から掘り起こすことが出来そうにもない。

 彼女の口から出てくる一言一言に含まれているだろう意味を、表面の薄皮程度の範囲でしか理解できない。昨日は何をしていたかなんて、なぜ今そんなことを聞くのだろうか、分からない。

「昨日……?」

「何もなければ人間は吐かないでしょ?」

「あぁ……」

 家の外でスズメが鳴いている。夜になる頃にはそれは、タイヤがアスファルトの上を転がる音に変わっているだろう。

「昨日は、同窓会があった」

「同窓会かぁ」

「飲みすぎたんだ」

「どのくらい飲んだの?」

「どのくらい……」

 昨晩どれくらい飲んだのか。努めて思い出そうとすると、夢と上手く区別出来ないような、どこか現実離れした記憶が断片的に飛来する。カメラを斜めに構えて揺さぶったような、不愉快な記憶が……。

「ビールを二杯……二……三……? 三……いや二……二か、二杯飲んだ」

「あら、お酒弱いんだ」

「そんなことは……」

 主張の根拠として見やると、台所のシンクには空のワインボトルが立っていた。そのボトルというのはペットボトルだ。思い出すまでもなく、それは自分が飲んだ安酒の残骸であると分かる。その隣にはラベルを剥がされて空になった、形からして茶か水であろうリットル単位の四角いペットボトルも置いてあった。まだ濡れている。

 それらの残骸から目を背けると、自宅……つまり客間も何もないワンルームの貸家には、やはり女がいる。ハイエと名乗ったその女のそれは、ハンドルネームか何かなのだろうか。別に女と部屋で二人になること自体は初めてではないが、警察のお世話になったことはない。そして永遠にそうでありたい。だけどもしも今、ハイエの行方を探している彼女の身内がいたりすれば、俺はいったいどうなるだろうか? 何せ彼女は頭がおかしいのだ、あり得ない話ではない。

 これからどうすればいいんだろう……。と面白くもないことを考えている間、ハイエは微かに笑みを浮かべていた。自分の余裕をひけらかすような微笑みを。

「お酒に弱くないなら、どうして吐いていたんだろうね」

「さぁ……? 知らないな。自分の体のことだからって何でも分かるわけじゃ……」

「でも分からないと、湊くんを助けられないよ」

「……は?」

 助ける? なんで? 俺を?

 ……頭痛がしてきた。昨日は同窓会の席以外で酒など飲んでいないのに。

 昨日、そうか昨日は、昨日はおかしな女が、ハイエが俺に言ったんだ。助けてあげましょうかって……。

 そうだ! 彼女は確かにそう言っていた! 言って、服を脱ごうとしたんだ、このイカれた女は。

「心が読めるんだ、私」

「は?」

「湊くん、女の人にコンプレックスがあるでしょう?」

「ない」

 女にコンプレックスのある男が、初対面の女を家に上げて、朝から呑気に風呂になど入れるものか。

 そう、初対面の女。初対面の女が、心を読めて、俺に女性へのコンプレックスがあると言っている。俺の家の床にぺたんと座っている。それは、俺の頭がおかしくなったせいではない。おかしいのは彼女の方だ。

 けれど、他に誰がそう思うだろうか? 仮に事件性がなくても、ハイエの存在を人に話す日は来ないだろう。

「考えていることが全部分かるわけじゃないけど、なんとなくのことは分かるんだよ。明日の天気は言い当てられるけど、明日がどんな日になるのかまでは分からない……みたいな」

「何の話だ……?」

「私の魔法の話」

「…………」

「いよいよ頭のおかしい女だなんてひどーい」

「……インチキだ」

 何にせよ、いよいよ頭のおかしい女であることには間違いあるまい。

 万人に当たることを言えば占いは当たる。ハイエに人並みの客観的視点があるなら、自分がまともだとは認識されないことくらい分かっていて当然だ。心を読む魔法など存在しない。

「信じる信じないは自由だよ。けど私には湊くんのコンプレックスが分かる」

「なぜ」

「なぜって、湊くんが助けてって言うから」

「言ってない」

 俺は誰にも助けてくれなんて言ったことはない。そんな馬鹿なこと……他力本願なんて、したことはない。

 昨日のことをよく思い出してみても、それは確実にそうだった。

「あー、言ってなかったっけ」

「……言ってない」

「そっか。まぁ、それもどっちでもいいや。ところでこれに穴を開けてもいい?」

 ハイエはビニール袋をつまんで言った。どこから取ってきたのかは知らないが、まぁどうせこの家にあった物だろう。

 何を考えているのか分からない問いに、返せる物はため息しかなかった。するとそれが肯定的な意味合いに受け取られたらしく、ビニール袋はハイエの手によって、爪楊枝でぷすぷすといくつかの穴を追加されていく。

 それが空気穴だと分かったのは、彼女がビニール袋を頭から被ったせいだった。

「試しにこうしてみれば、私のことがただの道具に見えたりしない?」

「……インチキだ」

 それは、むなしい抵抗だった。

 口から出るその言葉とは裏腹に、ビニールの中に正真正銘の超能力者が入っている……ということを俺は理解してしまう。シワだらけの白い袋の下で、そいつは今も微笑んでいるに違いない。全てを見透かしたような顔をしているのだ。

 ……昨日の夜からはるばる、あの頭痛が戻って来た。

 

 

 

 

 

 

 俺には人並みに性欲がある。俺には人一倍コミュニケーション能力に障害がある。子どもの頃はそうではなかったが、気が付いた時には、女性と話すと眩暈がするようになっていた。

 同窓会に出席した日、子どもの頃に知り合った相手となら普通に話せるだろうと思ったが、見当違いだった。ダメだった。何もかもダメだった。俺は動機に矛盾して、誰にも話しかけられなかった。ひとまずは、友達というほどの間柄でもなかった男子の輪の中に入って、大勢で話す分にはなんとかなったが、俺は誰にも話を振らなかったし、一対一の会話もしなかった。

 そして、子どもの頃に何度か話したはずの女子の方から俺に声をかけてきた時、俺は、眩暈で脳まで揺れた。だからそこから逃げ出して、それで……。

「……あぁ」

 ハイエは消えていた。気が付いた時には俺は一人だった。窓から差し込む朝日を受けながら、ひゅー……と過呼吸気味な息の音を聞いて、それはそうだろうと我に返る。

 昨日は偶然、何かがおかしくなっただけだった。やはり俺はもう、女性とコミュニケーションを取ることが出来ない。ハイエとかいう女に本当に心の内を読まれたことで取り乱した俺には、いつ彼女が消えたのかさえも分からなかったけれど、取り乱した自分のまわりから人が消えること自体は、まったく珍しくもないことだ。

 大体、ハイエという女の存在さえ、夢だったんじゃないか? 人間、頭がおかしくなくたってそのくらいの夢は見られる。昨日寝落ちした俺は、だから、今初めて起床したんじゃなかろうか?

 

「試しにこうしてみれば、私のことがただの道具に見えたりしない?」

 

 ……ビニール袋に隠されて、首から上が見えなくなった華奢な人間から、女の可憐な声がしていたことを思い出す。つまり彼女はあのビニールを麻袋に見立てたのだろう。映画なんかでよく見かける、拉致された人間が被せられるような麻袋を。あるいはその袋の上に別の女の写真でも貼り付けてしまえば、エロ漫画なんかにもよく出てきたりする最低なシチュエーションが完成する。

 笑い話にもならないが、俺はその手の人権侵害の手法に詳しい自負がある。性的な行為の、非人道的なやり方を多く知っている。

 調べたからだ。それが必要だと思って、趣味がてら、多くの知識を手に入れた。だけどそれは無駄なことだった。だからハイエも消えた。

 俺は、女を性欲処理の道具にしたい。したくてしたくてたまらない。なのに、それがどうしても出来ない。実行しようと思えない。現実的に可能不可能という話ではなく、気持ちの問題としてそもそも踏み切れない。

 ……そう、矛盾だ。

「九時か……」

 時刻は午前の九時を少し過ぎていることが、時計を見ると分かる。今日は土曜日だから何もしなくていいことだって、カレンダーを見れば分かる。問題は……。

 ……問題は、自分の性欲に定休がないことまでもが、視線を下に向けるだけで分かってしまうことだった。袋で顔を隠した女の姿が、頭の中から離れない。

 まあ、俺がどのような想像をおかずにしたところで、それを咎める人は誰も、

「落ち着いた?」

「ッ!?」

 口から心臓が飛び出るかと思った。

 ガチャリという音を立てて玄関の扉が開き、そこに立っていたのはハイエだった。

「とりあえずリカバリーの方法は分かったね。物理的に離れればいいんだ」

「お前……」

「消えちゃったかと思った?」

 俺の目を見てから、あははっ、と面白そうに笑う。返事は必要ないようだった。靴を脱いで図々しく上がり込んでくる。

「待ってる間に少し考えたんだけど、やっぱり前言を撤回しようと思うんだ」

「はぁ……? 前言……?」

「湊くんのことをボランティアで助けるって言ったけど、やめた」

 アニメ映画に出てくるヒロインみたいに、彼女の人差し指の先が鋭くこちらに向けられて、それは高らかに宣言される。

「湊くんを助けることには、湊くんにも協力してもらいます。頑張って一緒に幸せになろう!」

 指さしに使っていない方の拳がグッと握られて、前向きなやる気を表現していた。……そういった物はいつだって、同時に強制力を表現しているのだと、俺は知っている。

 その女をここから追い出す方法は、やはり自分のシケた人生の中からでは見つけ出せなかった。また少しくらくらしてくる。この女はいったい何なんだ……?

 

 

 

 

 

 

「やりたいことが出来ない。どうすれば出来るようになるのかも分からない。その気持ちと辛さはよ〜く分かるよ」

 いかにも悲痛さを感じ取っているような顔をして、ハイエが白々しくもそう語る。その白々しさは、まともな悩みなんかない人間でなければ出せないものだ。

 女性と話すことで起こる目眩や体調不良は、どうもハイエが相手だと普段よりも軽傷で済むらしい。俺にもそれがそろそろ分かってくる。……なぜそうなるのかといえば、それはおそらく「期待」があるせいだった。

 心を読み、常識から逸脱したことばかりする彼女は、俺の思う「女」や「人間」とは別の生き物かもしれない、そんな期待が。……あるいは、見下しているのだろうか。頭のおかしな人間を、ただ単純に。

 どちらにせよ、俺の脳みそがそれでいいと言うなら、それでよかった。普通に会話が出来ること、それに越したことはない。

「女の人を性処理道具扱いしたい、めちゃくちゃにしちゃいたい。そんな気持ちは男の人にとって、きっとそんなに珍しい物ではないけど、湊くんの場合はちょっと違うよね」

「…………」

「君は、そうしたいのに、いざやってみると怖くなってきちゃうタイプだ」

「だったら何だよ」

 心を読む魔法とやらは本物であり、こちらの考えていることはどうやら深層心理までお見通しになるらしい。詳しいところまでは読み切れない……というようなことを言っていた気もするが、あれは謙遜だったのだろうか。……誰にも理解出来ない力を謙遜して何になる?

 とにかく、何の質問もされないうちから、俺の悪趣味な性癖は全てバレているようだった。……頭痛が悪化する。胃液の上ってくる感覚まで現れてきた。

 けれど、まだ耐えられる範囲だ。

「そして君はそのことですごく苦しんでいる」

「別に……」

「ううん、そのことだけじゃなくて、例えばまわりからの目にも苦しんでいるはずだよ。……自分の心中が誰かにバレてしまったら、女性を道具扱いしたいとはなんて醜い欲望だ、とか言われるんじゃないかって」

「それはそうに違いないのだから仕方ないだろう」

 むしろそうでなければ、「いざやってみて怖くなる」なんてことはあり得ない。怖くなることにはそれなりの理由がある。どう言い繕っても、自分の醜さを知ることは怖いものだ。

 ハイエの言うことは全て当たっていた。彼女の言う通り、俺は自分がやりたいと思っているはずのことを、なぜか自分自身の心が原因となって、出来ないままでいる。そのことで苦痛を感じてもいる。アレルギー患者の気持ちはこんな物なのかもしれない、と思うことがよくある。美味しいのに食べられない、好きなのに近付けない、それと同じだと。

 ただアレルギーと違うのは、それを口に出して誰かに相談することさえ出来ないということだ。自分の中にある欲求が、ほとんど犯罪衝動なのだということをよく理解しているからこそ、誰に相談することも出来なければ、実践することも出来ない。だから確かに、苦しい。精神的な何か、酸素濃度のような物が、常に薄く感じる。

 だけどその苦痛は、勝手に心の内を読まれてしまうことの苦痛と比べるなら、どちらが大きいだろうか。正直、似たり寄ったりだ。

「ううん、苦しまなければいけない人なんて、この世に誰一人としていないよ。だから私は、湊くんが安心して女性を……つまり私を道具扱い出来るように、いろいろとサポートをして行きたいと考えてるの」

「それが、つまり……あれか?」

 空気穴の開いたビニール袋を指さす。顔を隠し、首から下だけの肉体を求める、お手軽な人権侵害のためのアイテムを。

「うん、あれはプランA」

「A?」

「そうだよ。例えば湊くんは、オナホールを使っている時に怖くなることはある?」

「……答えなきゃダメか?」

「心の中でもいいよ」

 言われて、はっきり思う。「くそったれ」。心を読めるのなら、それなのに質問の形を取るのは、どう考えたって悪趣味だろう。

「つまり湊くんは、心の底から道具だと思っている物に対しては、自由に振る舞うことが出来る。道具の道具らしさは君を苦しめない、そうでしょう? 反対に言えば、湊くんを苦しめるのは、人の人らしさだっていうこと」

「その人らしさってやつを、どうにかしようって……? そのビニールで」

「そう、このビニールやあらゆる手段を使って、私から「人らしさ」を消す方法を探すんだよ。好き勝手に扱っても良心が痛まないような道具を手に入れて、湊くんが幸せになるために」

「……やっぱり頭がおかしいんだな」

 正直、想像は出来る。むしろ夢にまで見ることだ。創作(フィクション)の世界には五万といるような、女を手酷く扱うことに何の躊躇もしない男たち。俺も心の底からあんな風になれたら……と願ったことは数え切れない。

 が、願えば叶うことなんて、この世にはほとんどない。何を願っても心中はずけずけと読み透かされて、何を願っても頭のおかしい女はこの家から出ていかなくて、何を願っても俺は幸せになんかなれない。苦しさの原因は他ならぬ俺の中にだけあって、俺が俺である限り、いつまで経っても救われない。

 けれどもそれはそう、むしろこんな欲求を持っていながら、一応は普通の人間として生活させてもらっているだけでも、ありがたく思うべきなのだろう。他人に対するどんなに残忍な欲求を思い描いても、それを頭の中から出さなければ許されるというのは、寛大なことだ。

「そうかな。顔を隠すくらいじゃダメだったけど、きっと必ず、湊くんにとっての人らしさを消す方法が見つかるよ」

「見つかるわけないだろ」

 人らしさを消すということが何事なのか、この女は理解していない。顔を隠してセックスすることがその全てなら、確かに出来る人には出来るだろうけれど、そうではないのだ。

 俺の中に確かにある醜い欲求の、片鱗を見せてやろうと思った。だからハイエの目を見る。それからハイエの首筋を見る。それからハイエの胸を見る。脚を見る。手の指を見る。体の至るところに目を向ける。

 視界に入ったそれらはどれも、男が望むがままの理想的な形をしているように思えた。ハイエという女は、はっきり言って、男の劣情を誘う肉体を持っている。……そしてそれは、大抵の女に対しても同じことが言えるのだ。

 元々卑しいその劣情をぶつける時に、相手を人間だとさえ思わなければどんなことが起こるのか。想像の世界だけでも今すぐ見せてやろうか。

 ……と、俺は思ってやったのに、目の前にいる「心を読める女」が、それでどうして笑っていられるのかが分からない。俺のような人間を前にして、なぜ余裕ぶっていられるのか。

 ふふっ、ありがとう、とハイエは言った。くそったれと再び思って、それを無視する。

「あのな、人は、人なんだ。何があってもな。首から下の体だけを求めたとしても! そっちは「人間扱いされていない」と思うかもしれないが、こっちからすればれっきとした人間なんだよ!」

 いくら「命は命だ」と考えようとしても、人の命とそれ以外の命は別物だ。どう扱ってもどう思い込んでも、人間は道具ではなく人間だ。これは変えられない。

 頭のおかしな女に話しかけられなくたって、夜の街に現実的な金額を注ぎ込むだけで、合法的に、数分間だけ女性を性処理の道具扱いすることは出来る。けれども、俺にはその合法性をもってしても、人を道具扱いすることが出来なかったのだ。それくらいは経験している。

 どんな合意の上で、どんな扱いをしても、人はいつも人なのだ。人は人以外の何物にもならない。道具にはならない。

 ……その時のことを思い出したら目眩どころか、本格的に吐き気が立ち込めてきた。妄想の中では鬼畜を演じていても、生身の人間の姿を目にした瞬間から、結局何も出来なくなったあの時のことを……。

「世の中にはひどいことする人がたくさんいるよね」

 スッ……と唐突に微笑みを消し去って、ハイエが言う。

「心無い言葉、心無い行動。嘘、暴言、暴力……相手を傷つけるようなことをする人が、たくさんいるよね」

「なんだ急に……?」

「どうしてそんな人たちがいるんだと思う?」

「知るかよ……」

 確かにそういう奴らはいる。性的興奮とは無縁の理由で人をゴミのように虐げる輩だっているにはいるだろう。だけどそんなことは、こと更に騒ぐようなことではないはずで。

「人ってそういう物なんだろ。どうしても何も」

 それ以上の理由なんてない。俺だって「どうして自分は、女性を性処理道具扱いしたいと思ってしまうのだろう?」なんて、そんなナンセンスなことに思いを馳せたりはしない。それはもう、そういう物だから、それで納得するしかないのだ。生まれつきのことを「なぜだろう?」と考えてもどうしようもない。

 醜悪な人間の存在する理由は、全てそれと同じだ。そして世界に多くの善人がいる理由も、それと全く同じである。だからこそ、この世界は地獄にならずに済んでいる。

「湊くん。人はね、他の人が自分と同じ「人間」だってことが、分からないんだよ」

「はぁ……?」

「だからひどいことが出来るんだよ。湊くんが言う通り、人はみんなそうなの。生まれた時からなぜかそう」

「……仮に、そうだったとしたら何なんだ」

「湊くんだって人なんだから、きっと自分と他人は違うってことを理解出来るよ」

「どういう意味だよ。そりゃ自分と他人は違うだろうけど、それでも人は人だろ」

「違うよ。だって湊くんは自分と同じような人を見つけたら、私みたいに声をかける?」

「…………」

 考えるまでもないことだったが、それがなんだというのだろうか。

「他人は理解出来ないことばっかり言って、理解出来ないことばかりする。まるで自分とは全然別の生き物であるみたいにね。……「人間」は自分一人だけだって、湊くんにもいつかきっと分かるよ」

 そう言って、言葉の内容に相応しくない柔らかな微笑みを、全てを見透かし包み込むように目を細めて、彼女は俺に向けるのだった。

「さて、それじゃあプランBに移ろうか。善は急げって言うからね」

「善……」

 そんな物はこの場にはない。俺の中にも、彼女の中にも、この家の中は邪悪ばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 露出されたその白い肌は、外気に晒されていること自体が間違いであるようにさえ思えた。永遠に保たれるべき何かが、外に触れるだけで、今にも穢れていくかのように。

「どう?」

 片手で服の裾をまくって、無防備に腹部を見せるハイエ。彼女はもう片方の手にマジックペンを持っている。それは油性の黒色だった。

 彼女の無防備な腹部が、陽の光も知らないような危うさを持ったまま、呼吸のたびに小さく動いている。膨らんではしぼんでを繰り返すそこに、太い線で文字が書かれていた。まともな人間であれば、声に出すこともはばかられるような言葉が。

 ……つまりそれは、例えば性処理便器だとか、そういう類の単語だった。それがいくつも書かれている。器用な彼女が、自分で書き込んだ物だった。

「どうって……」

「人らしさっていうのは、視覚から打ち消すことが出来るんじゃないかなって。でも「隠す」ばかりじゃあ芸がないでしょ?」

 言いながら、彼女はビニール袋も被った。出来ることは全てやる……そんな意志を感じる。

 空気穴が空いているとはいえ、ビニール袋は呼吸のたびに微かに音を立てて蠢いた。彼女が酸素を取り込むたび収縮するそれは、理屈によらず死を予感させる。

 心を許した犬のように、ハイエは腹を見せたまま寝転がり、それからロクに動かなくなった。もちろん死んだわけではない。それは呼吸の様子が知らせている。

「…………」

 眼前にあるものは、まぁ、人間扱いされていないことを示すには、十分な絵だったように思う。生活の中で偶然、例えば路地裏で、今のハイエのような姿をした女を見れば、そこで何が起こっていたのかはほとんど悟ることが出来るだろう。

 ……試しにそこへ触れてみた。ありていに言えば美しいその肌に、屈服したような彼女のその体に……本能のまま指を伸ばす。

 ハイエの体は、俺の接触に気付いていないかのように、何の反応も見せなかった。どうぞ自由にしてください……そう言っているかのように。

「……………………」

 俺は、標準的な人間だ。どこにでもいるような男だ。女性の腹に触れただけで満足出来るような、そんな男じゃない。

 だから、次に何をするべきかは明らかだった。上でも下でもとにかく脱がせて、つまり俺は、したいことをするべきなのだ。息詰まりながら、みぞおちの辺りまで上がった服の裾に手をかける。

 そのまま、したいようにすればいい。俺はそれを脱がせるべきなのだ。隠されるべき彼女の体の膨らみを視姦して、それ以上のこともして、何でもすればいい。俺がそうしたいから、俺がそうするために、ハイエはここに寝ているのだから。

 ……待てよ、なんでだ?

「うっ」

 胃の中身が喉まで来た。昨日あれだけ吐いて中身などあるのか知らないが、とにかくそれは本能的に押し止められた。

 彼女の腹に書かれた文字を読みながら、その内容を頭の中で反芻しながら、思う。……おかしいじゃないか。どうして彼女は顔を隠され、きっと息苦しい思いをして、屈辱的な言葉を体に書き込まれて、なのに何の抵抗もせずにここに寝ているんだ? なぜだ? 理由がないじゃないか。彼女がそんなことをしなければならない理由なんてどこにもないじゃないか。

 俺が彼女にそんな仕打ちをしていい理由は、どこにもないじゃないか。

「うえっ」

 結局、嘔吐は起こってしまった。勘違いでなければ、吐いた物が床に落ちるよりも早く、ハイエが上半身を起こして、顔から袋を取り払う様が見えた気がした。

「大丈夫?」

「……大丈夫じゃない」

「みたいだね」

 吐いたきり、呼吸が乱れて上手く息が吸えない。ハイエがどんな顔をして俺を見ているのか確認することさえ出来ない。うろたえているのか、嫌悪しているのか、真顔なのか、こんな時でも微笑んでいるのか、それともそもそも、俺のことなんか見ていないのか。おそろしくて確認できない。

 吐き気が収まらない。背中を丸めたまま、物理的に立ち直れなくなる。全部俺が悪いのに、俺がおかしな欲求を持ってるから、それをハイエで解消しようとしたから、なのに、勝手にこんな様になって、どういうつもりでこんなに苦しんでいるんだ。俺は加害者なのに。

 自分の苦しみを自分で包むように、胸に当てた手を通して自分の心臓の動きを感じながら、この体の不調をどうにかしようとしていると、ぱたぱたと軽やかな足音が聞こえて……それが遠ざかって行った。玄関のドアが開き、それから独りでに閉まったような音もした。人の気配が消えた。

 朦朧としていく頭の中に、白黒の漫画の一ページが浮かんでくる。目に悪そうなデジタルの光で描かれたそのページは、恋人を陵辱された男が、その凄惨な現場に駆けつけて、思わず嘔吐しているシーンだった。

 レイプされた恋人は身体中があちこちに折れ曲がって、全身体液に塗れ、目玉が一つ抜け落ち、黒いゴミ袋の山の中で動かなくなっていた。

 人を人と思わなくなった人間が何をするのか、ハイエは本当は知らないんだ。

 

 

 

 

 

 

 汚れた床を片付け終えると、無造作に転がるビニール袋が目に入った。握り潰すようにそれを持ち上げると、それを被っていた女のことが、その肉体に下劣な文字の書き込まれた様が、一瞬で頭の中によみがえり映って、吐き気と頭痛と目眩を……収まりかけた一切の体調悪化の残滓のような物を引き寄せた。

 思わずへたりこんで、深呼吸をする。あれは、彼女は生きていた。顔を隠され、侮辱され、無抵抗であっても、俺と同じようにずっと生きていた。全ての人間と同じように、俺が欲望を決壊させようとしている瞬間にも、彼女という人間は生きていた。

 顔を隠すことが非道徳的とされるのは、それが表情を隠すことを意味するからだという。苦痛に歪む顔も、流れる涙も、悲鳴を上げる口元も、抗議を訴え助けを求める目も、何もかも見えなくなる。見えないそれらを一切考慮しないという意思を表すから、顔を隠すことは、非道徳的な悪事その物なのだ。

 袋の下で彼女がどんな顔をしていたのか……。それを考えると恐ろしい。けれど俺はそれを考えなければならない。俺が彼女にそうさせたのだから。彼女が道具でないことは、彼女の全てがこれでもかと表していたのに。俺はあと少しで、その全てを踏みにじるところだった。

 ……いや、そうしたいのではなかったのか? 俺の望みはまさにそこにあったはず。

 女を性処理道具扱いしたい。それは、今改めて考えてみても、やはり変わらぬままの事実だった。やっぱりそうしたいと、どうしても思ってしまう。けれど、それと同時に俺は……。

「ただいまー!」

「ぃ」

 ガチャッと大きな音を立てて、背後で玄関ドアが開く。自分の喉から、窒息しそうな悲鳴がくぐもった。

「よし、復活したみたいだね」

 振り返ると、やはりそこにはハイエがいた。……やはり? 何がやはりなんだ? 彼女が俺の前に立っていることに、何も自然なことなんてない。ハイエは、ここにいない方が自然だ。初めからいない方が自然だ。心を読む力なんて、そもそも存在しないはずで、そうでなくても彼女はどう考えたっておかしい。普通なら、俺みたいな人間には近づかないことが一番じゃないのか。心が読めるならなおさら。

「なんでだ……?」

「うん?」

「何度目だ……? なんでまた……?」

 一度目、当然のように男子トイレに踏み入ったハイエ。彼女はなぜか俺の成すこと全てに動じなかった。いったい俺の心の何を読めばそんなことが出来たのだろう。二度目、俺のことが手に負えなくなって出て行ったのかと思ったら、当然のように帰ってきた。そして今、今はそう、三度目だ。三度目に、また戻ってきた。また出て行ったのに。

 どういう神経をしていたら、さっきの状況から、この家に戻ってくることを選べるんだ? 頭がおかしいんじゃないのか? 頭のおかしな男に付きまとう女は、やはり頭がおかしい。

「なんでって、助けられてないからだよ」

「何を」

「湊くんを」

「……だから?」

「うーん……なるほど? じゃあそれを話そうか」

 馴染みの友人であるかのように、無警戒に、ハイエは俺のすぐ正面にぺたんと座り込んだ。……服の下には、まだあのインク文字があるのだろうか。

 握りっぱなしのビニールは、再び床に放り捨てられた。

「湊くんは、理由が欲しいんだね」

「理由……?」

「自分が助けられる理由。何かよく分かんないけど助けてもらえるぜラッキー! ……じゃダメなんだ?」

「ダメとか、そういうことじゃない」

 雨に打たれた洗濯物の中に、むしろ余計に乾いている物があったら、誰でも「おかしい」と思うだろう。それと同じだ。理屈を解明したくなり、それが出来なければ、ひたすら不気味に思うしかない。

「私はね、湊くん。弱くてみじめで愚図で下衆で醜い下等生物である人間に、手を差し伸べる、女神様なんだよ」

「……は?」

 なんだって……?

「私が人助けをするのは当然のことなんだよ。私は善人だからね。訊ねられた道を教えるくらい当然のことなんだよ」

「……なに? なんて言った? よく分からなかった」

「分からなくてもいいよ。でも、理由があることが知れてホッとしたでしょ。女神は絶対に君を見捨てないから安心してね。君がどんな人間でも……だよ」

 言って、ハイエは一際眩しく微笑んだ。指先一つで国を滅ぼすことだって出来るような巨大な神の姿を、その笑顔の中に幻視したような気がした。

「さあ、プランCをやってみよう」

 言うが早いか、女神様は部屋の角に置いてあるベッドへ向かい、上半身だけをかけ布団の中に滑り込ませた。するとそのベッドは低い物だったから、彼女の下半身はコンセントのコードのようにだらんとベッドからはみ出て、床に放り出されることになる。

「人の形その物が良くない、ということもあるかもしれない。とりあえず上半身を隠してみたけど、これはどう? 出来ることなら壁に埋まりたかったけどね」

 そこまで言われて初めて、彼女がいわゆる壁尻を再現しようとしていることに気付いた。

 ギロチン台が首を固定するように、女体の腰部分を壁によって固定して、上半身を壁の向こう側に隔離してしまうことで、抵抗出来ない下半身を好きにしてやろうというシチュエーション。そういった概念が、十八禁な創作の世界にはよくある。

 顔を隠されるだけで表情という重要な情報を失う我々が、上半身を丸ごと隠されてしまったら、はたしてそれを本当に正しく「人間」と認識出来るのだろうか。……と、出来るだけ真剣に、生々しく、脳内シミュレーションを行ったこともある。人間らしい見た目の半分を失い、だらんと放り出された下半身だけが、自分の目の前に転がっていることを。

 俺はそれを何度も夢見た。だから分かる。今度は、試すまでもない。

「ダメだ」

 遠目に見ている分には、体調に変化はなかった。だからそのままの位置で言う。

「どうせ同じだ。どれだけ隠したって人は人なんだから。女神様だって人なんだ」

 なんとなく、ハイエの挙動を信用出来るようにはなってきた。もしも上半身が隠れた状態の彼女に手を出したとしても、彼女はこれっぽっちのリアクションも返して来ないだろうと、自称女神の異常さを信用することが出来るようになってきている自分がいる。

 けれど、問題はそうではない。それは落書きされた彼女の体に少しでも触れた時に、分かりきったことだった。

 反応がないことは、何も感じていないこととイコールではない。むしろ状況から考えて、全ての無反応は、ハイエただ一人の努力による物だと見るのが妥当だろう。それを俺はちゃんと分かっている。だから救われない。

 ハイエがどんなにイカれた女でも関係ない。俺は日常生活の中に有る道具その物に、努力を感じたことは一度もないのだ。その道具を作った人の努力を想像することはあっても、道具自体が何かを頑張っているわけではない。だって道具は人でも命でもないから。

 だから分かっている、人は道具じゃないってことも、俺はちゃんと分かっている。漫画の悪人みたいに、女なんてただの性処理道具にすぎないぜ、なんて叫んだとしても、本当はそうじゃないって頭の中で分かるんだ。

「ならプランDだね」

 布団から抜け出し、むくりとコチラを向いたハイエが、四つん這いでこちらに寄ってくる。

「喋るのをやめてみよう」

「え?」

「だって道具は君に話しかけない」

 オナホールは普通に使えるんでしょう? そんなようなことを言われたことを思い出す。……まあ確かに、道具は喋るわけもない。強いていえば決められた単純な音声を鳴らすくらいのもので。

「これから私は喋るのをやめます。というか、動くのもやめます。湊くんからの質問にも、しばらくは一切答えません。何の返事もしません。何の反応もしません。道具らしくただそこにあるので、使いたくなったら自由に使ってください」

「ええ……」

「とりあえずそれを一週間続けてみよう。そのうち湊くんの認識も変わってくるんじゃないかな。一日中動かないザリガニを見た時には「大人しいなぁ」としか思わなくても、一週間動かないザリガニを見れば「あぁ、死んでいるのか」って気付くみたいに」

「…………」

 言いたいことは、なんとなく分かったけれども。そしてそれを想像することも出来る。ひたすらの努力によって、何をしても何の反応も示さなくなったハイエのことが、本当に生き物なのかどうか段々疑わしく思えてきてしまうことは、きっとあり得るだろう。

 だけど疑わしくなることが、消去法的に真実を照らし出してくれるわけではないことを、俺は知っている。女を性処理道具扱いしたい……そんな願望を多くの人に聞かせてみれば、聞かされた内の何人かはきっとこう考えるだろう。本当にそんなひどいことを考える人間が実在するのか? と、そう疑わしく思うだろう。だが俺の望みはここに実在するのだ。それと何ら変わらない。

 どれだけ現実離れした様子であっても、ハイエは生きた人間である。命があって、人格があって、苦痛を感じる機能がある。それは体にも心にもある。いくら彼女が道具に徹しようとしても、その人間特有の要素たちが、彼女が道具ではないことを証明し続ける。

 人らしさは消えない。踏みにじると俺に罰を与えてくるそれが、いつも全ての人間の中にある。それが消えたかのように見えたとしても、その見え方は錯覚以外の何物でもない。ハイエがいくら努力を貫いて、その錯覚を生んだのだとしても、人が人であるという事実までは消えない。故に、人の人らしさも消えない。

 本当にそれを消すことが出来るのは、もはや人が人でなくなる時しかないだろう。……けれど俺もさすがに、人ではない物で性的欲求を満たすことは出来ない。

「……あっ」

 ずいぶん遅れて、重大なことに気が付いた。

「待て、なんだ、えっ、一週間ずっとここにいる気か!?」

「…………」

「おいっ!」

 ハイエはすでに虚ろな目をして、どこか空中を見つめたまま、首を振る程度の返事さえしない抜け殻の状態になってしまっていた。

 本当は、これが彼女の目的なのではないか……? そんな気がする。大体、彼女はどこから来たのだろう。家はあるのだろうか、……ないのかもしれない。だから適当なことを言って、ここへ転がり込んで来ているのかも。そして適当なことを言って、居座ろうとしている。

「おいっ、俺はな、自分以外を養えるような余裕なんかないぞ。真剣に、金銭的にそんな余裕はないって、おいってば!」

 何度語りかけても返事はない。肩を揺さぶろうかと手を伸ばしかけて、やめた。どうせ返事はないだろうと、心のどこかで決めつけていたからだ。だったら不必要に体に触れる必要はない。

 手を引っ込めて、静止したハイエを見つめてみる。突然微動だにしなくなった相手を「何事か」と観察することは普通のことだろう。……………………それにしても本当に、さっそく無機物を彷彿とさせられてしまうくらい、時が止まったかのように、彼女はぴくりとも動かなかった。

 ……もしも飯を与えなかったらどうなるんだろう。彼女はそれでも無反応を貫くつもりなんだろうか。

「あ」

 俺は、すぐに我に返った。

 今、なんて恐ろしいことを、なんてひどいことを考えたのだろうかと、正気を取り戻した。

 ハイエは頭がおかしいけれど、それでも、俺を助けると言ってくれたのだ。それがただのイカれた女でも、他にはいない女神様なのに、どうして俺は……。

 はっ、はっ、……と呼吸が短くなっていくことを感じて、今度は俺が、逃げるように玄関のドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 プランDは常軌を逸していた。

 しばらく歩いて、気を落ち着けてから家に戻ると、生気の感じられない状態のハイエがそこにいた。……本当に少しも動いていなかった。飾られた人形が一ミリも違わぬ場所に居続けるように、彼女は硬直しきっていた。

 かといって、やはり手を出す気にはなれない。己を分かっているからだ。

 俺は昔、自分のこの醜い欲求を満たそうとすることを、相手に金を払うことで自分自身に納得させようとしていた。「こっちは客なんだ」という傲慢さを手に入れることで、俺が望むところの悪人性を手に入れることで、欲求のままに女を扱おうとしたことがあった。だけどダメだった。いざという時には、動悸に苛まれて何も出来なかった。

 同意とか、権利とか、そんな物は幻だ。幻は、俺が俺の意思で人の尊厳を踏みにじるという事実を、清廉な物に変えてくれるわけじゃない。その事実に耐えられないというのに、それでは意味がない。

 解決すべきは逆なんじゃないか。如何に良心の呵責からの抜け道を見つけだすのかではなく、如何に醜い欲求を消し去るかと考えた方が、現実的なのではないだろうか。……ということも、今まで何度も何度も考えてきたことだった。

 けれど、もしも自分の醜い欲望が消えたら、その時の俺は……俺はただ女性への興味を失うだけなんじゃないだろうか。女性とのコミュニケーションを試みれば目眩やその他の不調に邪魔されて、まともに会話することさえ出来ないような男がそこに残って、結局は同じことになってしまうんじゃないか。もしもそうなら、誰も幸せにはなれないままとなってしまう。

 欲望があっても救われず、欲望を消しても救われないかもしれない。どう考えたって俺のそういった苦しみは、世間の大半の男が無縁でいる物なのに、どうして俺だけはこんな有り様なんだろう。

 狭い家の中、気を紛らわすために、ハイエのことを今は忘れるために、スマホを取り出して動画サイトを開く。向こうからおすすめされて来る動画の数々は、ほど良くくだらない内容ばかりで、垂れ流しているだけで心が落ち着いた。どの動画も、性の概念と縁遠い内容ばかりであることがありがたい。

 ……けれども、性との決別の難しさについては、広告として挟まる漫画やゲームの類がお節介に教えてくれてしまうものだった。美少女キャラが云々という広告に、また俺の暗い欲望が思い出されてしまう。

 ……それから数時間が経ったと思われる。寝転がったまま俺も人形のように動かず、ただスマホに熱中し続けた。そしてある時、急な眩しさを感じることで初めて、窓の外で太陽の角度が大きく変わっていたことに気が付く。

 いくら動かなくても、人間は飯を食わずにはいられない。苦しむ人間も死にたい人間も皆そうだ。意図的に食わないという選択肢は、事実上存在しない。それを選べる者は、選ぶよりも先に死んでいることだろう。

「おーい、ハイエ」

 呼びかけてみるが、やはり反応はない。人から人らしさを引き算するという計画は、もう十分完成しているように見えた。今の時点ですでに相当人らしくなんかない。彼女は二度と動かないんじゃないかとさえ思えてくる。確認すると、呼吸だけはしていたけれど、それが何だというのだろうか。

 けれどそれは「何をしても良い」を意味したりはしない。誰でも分かることだ。例えば植物状態になった人間の体を弄ぶことは、度し難い悪だと。

 腹が減ってきたからレトルトカレーを作って、二人分並べた。

「ハイエ」

 彼女は動かない。

「…………あ?」

 ハイエはこれからの一週間をどうするつもりなのだろう? 訝しみながら、自分の皿からスプーンを口に運ぼうとした時、とんでもないことに気が付いた。

 一分、二分、彼女の目を見つめ続ける。五分、十分……。流れ星を待つみたいにして、彼女の瞳の中を覗き続けた。黒い瞳の中にあっても青白く、不健康な顔の男の醜さばかりが、時の経つごとに目立っていく。

 ……ハイエは一度も瞬きをしなかった。

「…………」

 瞬き。それは、努力で消すことの出来る「人らしさ」だろうか? 彼女の瞳を覗く間に自分が瞬きをした回数は、数える気にもなれないほど多くあったのに。

 らしい、らしくない、という段階の話ではなく、ハイエは実際に、人間ではないのではないだろうか? 心を読み、瞬きをせず、もしかすると飯を食うことも必要としない女神様。それがハイエなのではないか……?

 ……そうか、そうだったのか。初めから彼女は人間じゃなかったのか。なるほど、それなら辻褄が合う。心を読めることも、俺のような人間に近寄って「助ける」だなんて言うことも、それを異常な手段で実行しようとすることも、全部。彼女が人間でないのならと考えれば納得出来る。なぜなら人間に人間以外の物の(例えば道具の)常識が当てはまらないように、人間以外のものには人間の常識が当てはまらないから。

 そうだ、そうに違いない。ハイエは人間じゃない。確信して、そうとなれば遠慮なく、人ならざる者であろうその女の頬に触れてみた。

「うっ」

 瞬間、飛び退くように手を離す。熱い物に触れた時のような、その瞬発力は反射だった。

 ハイエの頬に触れると、俺の手のひらは、「人間」を感じ取ったのだ。触れた瞬間に全てを思い出した。人間の何たるかを思い出した。

 瞬きをしないからといって、飯を食わないからといって、特殊な力が使えるからといって、頭のおかしい振る舞いをするからといって、それで人が人でなくなるわけじゃない。彼女の頬の、その柔らかさと熱に触れてみれば分かることだ。その感触は、人間の物でしかあり得ない。

 人形のように動かなくなった彼女の頬の触り心地は、人形には程遠く、正しく生々しい物だった。思わず後ずさってしまう。心が読める彼女には全てが見透かされているはずだ。

 どんな気持ちなのだろう。目の前の男が、自分のことを「これは人間ではないのではないか」と考えた瞬間に、無遠慮に触れてきた時の気持ちは。女性を性処理道具として扱いたいなんて口走っていた男に触れられた時に、それでも決して動かない彼女は何を思ったのだろうか。……俺には分からない。ハイエは、時が止まったように微動だにせず、ただそこに存在している。

 その時頭の中に過ぎった言葉は、彼女の受け売りだった。そしてその言葉を頼ることに俺は躊躇しない。なぜかそんなことばかりが、心に引っかかるよりも先に衝動のまま行えてしまう。

 内臓どころか、身体中の筋肉までもが、上へ上へと押し上げられるような緊張感。動揺と焦燥。それらに身を任せて、ハイエに背を向けて、俺はまた逃げ出した。靴のカカトを踏み潰して外へ出た。

 リカバリーするには、物理的に離れればいい。今縋れる物はその言葉だけだった。

 今日一日だけで、何回逃げるつもりなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 行くあてもなくふらふらと、見飽きた道をさまよい歩く。ほんの数分で、体調の問題はあっけなく解消された。

 もうそういう時間帯だろうか、向こうから子どもが何人か走ってくる。家路に着くであろう子どもたち……彼らはランドセルを背負っていなくても、見るも明らかに小学生だった。彼らは楽しそうに、キャーだのギャーだのウワーだのという奇声を上げてじゃれ合いながら、俺のすぐ横を通り過ぎて行く。

 こんな男の傍を、事も無げによく通り過ぎれるものだ。鏡を見なくとも、自分の顔がひどい有様になっていることの自覚はある。とても正しく生きている大人には見えないだろう。

「…………」

 子どもはロクな理由も無しにはしゃいで騒ぐ。狂信者のように叫んで、暴れて、時々その不注意が大事故を起こすと、すぐに泣き出しそうなくらいおとなしくなる。……という風に自分の目からは見えるが、その認識は本当に正確なのだろうか。

 親の心子知らず、という言葉には二通りの意味がある。子どもが大人の心を理解出来ないように、大人も子どもの心を理解出来ない。だから大人の目からは、「意味もなく騒ぐ」と、そう見えてしまうのではないか。子どもたち本人からすれば、理由も無しに騒いだりはしないのかもしれない。笑って泣いて叫んで走り回る子どもたちには、本人にだけ分かる明確な理由があるのかもしれない。

 けれど、そうだったとしても、俺には彼らの気持ちなどほんの少しも理解出来ない。ハイエの頭の中がどうなっているのか、想像もつかないことと同じように。

 改善された体調に反して、頑なに沈んだままの心が、家に引き返すタイミングを見失っていた。

 車道と歩道が分けられてさえいない道。狭い道路が、あみだくじのように引かれた住宅街。道の左側に寄っている自分とは左右逆の向こうから、今度は買い物袋を持った年配の女性が歩いてくる。袋は大きく膨らみ、見る者にその重さを想像させる。

 けれども俺には、その指に食いこんでいるであろう袋の持ち手が、どの程度の苦痛をその女性に与えているのかなんてことは、これもまた少しも分からない。上手く想像することが出来ない。今までの人生で何度も味わったはずの、重い袋を持った時の痛みを、今の俺はすっかり忘れているのだ。まるで、自分にその苦痛が降りかからない限り、その記憶は必要ないのだと言わんばかりに。

 むしろ、俺がビニール袋を見て思い出すのは、ハイエと名乗る頭のおかしな女の顔だけだった。顔……あるいは顔を隠されて、落書きを書き込まれた白い肌、肉体。……あの落書きは当然、まだ服の下に残っているのだろう。それさえも、こうして記憶を振り返るまでは、忘れてしまっていたかのようだった。

 自分が他人に何をしてしまったのかを、上書き保存の形式で、俺はどんどん忘れていってしまう。罪は、人の心の傷は、まさかそんな風には消えてくれないのに。

 俺を追い抜かすように、道路の真ん中を車が通り過ぎていった。その運転手がどんな気持ちでハンドルを握っているのか、俺には分からない。分からないのだ、何事も、他人の心という物は全て。

 そしてその分からなさは、誰だって同じなはずである。ハイエは言った、人は、他人を自分と同じ「人間」だとは思えないから、ひどいことが出来るのだと。しかし、もしも本当にそうならば、良心の呵責なんて概念は夢物語になって、この世は世紀末と化しているはずだ。その理屈なら全ての人間が、全ての人間に対して悪意を持ち、ひどい行いをするはずだ。

 だけど、実際はそうなっていない。実際には、世界には悪意と同じくらいの善意があって、弱肉強食というには優しすぎるくらいで、女性を性処理道具扱いしたいなんて願望を持つ男は、ステレオタイプじゃない。いや、本当は心の奥底で、俺と同じような願望を持つ男が多く存在しているのかもしれない。だけどそれでも、それを実行に移すのは極一部の人間だけだ。ほとんどじゃない。

 おかしいのは、ほとんど俺だけなのだ。そこに許されるべき理由なんてない。

 ……カアカアと頭上でカラスが鳴く。遠ざかる音をなんとなく目で追いかけ、空を見上げた。黒い鳥の飛ぶ空は、綺麗な夕焼けが赤色に照らしていた。遠くで、建物の後ろへと沈み行く太陽が、一際大きく見える。

 ……そう、例えば夕焼け。そういう物を見ると、少しだけ死にたくなる。……なぜだろうか? 綺麗な物を見るとそうなるのだろうか。いや違う。昨日、公園のトイレで吐いていた時も、あの時もやっぱり、死んでしまいたい気持ちがあった。今と同じくらい、間違っても実行には至らない、ケチな希死念慮が。

 それはいつでも出てくる。だけどそれはしょうもない物、気のせいみたいな物だから、いつでも出てくるけれど、いつでもあるわけではない。スマホをいじっている時、飯を食う時、風呂に入る時、仕事へ行く時、帰る時、働いているその真っ最中、休憩時間、眠る前……どこにでも、死にたいような気持ちは現れる場合があり、現れない場合もある。そしていずれにしても、それはすぐに霧散してしまう。

 夕焼けを見ている時にも、それは出てくるものだった。一瞬だけ、夕焼けとは一日の終わりを象徴する物であり、それが心を突つくのかと思ったが、すぐに思い違いだと気付く。……何せ大人になるほど、自分の一日という物は、夜にこそ有る物になったのだ。なのに、昼間が生活のほとんど全てだった子どもの頃は、夕焼けに「終わり」の印象などこれっぽっちも抱かなかった。

 そしてもちろん、あの頃は死にたいと思うことも、女性を性処理道具扱いしたいと思うことも、一切なかった。俺だって普通の子どもだったように思う。普通に……そう……傍から見れば狂ったかのように、騒ぎ回りながら友達と走っていたかもしれない。そう、あの頃は友達がいたのだ。

 あの頃の俺はもう死んだ。死にたいと願う間もなかった。

 ……帰ろう。踵を返して家へ戻る。行きと同じ道を通って帰ることが退屈に感じられた。

 通りがかりに、夕日に照らされた家の窓から、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。大人も子どもも男も女も入り混じった団欒の声。……俺は、それを羨ましく思うことすら、満足に出来やしなかった。

 ふと、自宅はもぬけの殻になっているのではないかと思った。ハイエと、それから金目の物が、綺麗さっぱり消えているのではないかと。

 疲れているのだろうか。仮にハイエが本当に俺の財産を奪い消えていたとしても、そのことに関して何かを思うことが、今の自分には出来そうもない。なんというか、そんなことでは、俺は今の状態から何も変わらないのではないか……という気がした。

 驚くほど冷えきった頭で、数分前には逃げ惑い鍵もかけ忘れた玄関のドアを開く。変わらずその中にいたハイエは、見る限りほんの少しも動いていないように思えた。

 いざその姿を前にすると、彼女は俺の帰還に対して何を思っているのだろうかと、不安で仕方なくなってくる。そのせいでまた頭痛がしたが、希死念慮と同じく、それも気のせいだと思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 それからハイエは一週間もの間、何も食べず何も飲まず、呼吸以外は本当に何もしなかった。一度もトイレに行かなかった。一度も瞬きをしなかった。一度も眠らなかった。時が止まったように、いやむしろ時から切り離されたかのように、彼女はずっと同じ場所に座り続けていた。

 何も食べなければ一週間で、何も飲まなければ三日で、人間の命は危機に瀕するらしい。なのに、それでもハイエの口に無理やりにでも食べ物をねじ込もうとはしなかったのは、飲まず食わずの数日を経ても、彼女の様子が何ら変化していないように見えたからだった。

 彼女の目がこの世の法則に逆らって、瞬きせずとも潤い続けることと同じように、彼女はただ空気を吸うだけで、生命維持に必要なエネルギーの全てを得ているかのようだった。そして一週間が経った日の朝、何事もなかったかのように「よいしょっと」とハイエは立ち上がり、俺の推測の正しさを証明した。

 一週間という時間の経過に、もしかしてと身構えてはいたつもりだった。それでもハイエが動き出した時には驚いて飛び上がってしまった。だけどそれは些細なことだ。俺はそうする必要のない相手に対して、尊厳を踏みにじるような方法であれこれと世話を焼かなくてよかった、と心底思う。

「ちょっと話が難しくなってきたなぁ」

 彼女だけが一週間丸々時を飛び越してきたんじゃないか……というくらい、何のブランクも無しに、あまりにも自然体な口振りで言う。知り合ってたったの一週間、すでにその声は懐かしく聞こえた。

「何が……? やっと動いたかと思えば……」

「湊くんの言う「人間」の定義についてだよ」

 それは、言われるまでもなく、なんとなく想像は出来ていることだった。ハイエが目を覚ましたら、真っ先に話題にすることだろうと。

 俺はハイエのことを人間だと思っている。彼女が飲まず食わずで生きられるのだとしてもそれは変わらない。心を読むとか、冗談抜きで人形になりきるとか、彼女は普通の人間には出来ないことを平然とやってのける。だけど、それでも彼女は人間だ。「そういう人間」なのだ。例えば彼女が不老不死だったとしてもそうだ。それは「頭がおかしいこと」と同じような、単なる個性でしかない。

 人の人たる所以は、こうすれば死ぬだとかこうしなければ生きられないだとか、普通はこうだとか〇〇が出来るはずがないだとか、そういった箇条書きの特徴じみたところには無い。どんな特徴を足されようと、どんな特徴を引かれようと、人間は人間でしかない。道具扱いしても、人らしさを引き算しても、人が人であることに変わりないように、人智を超えた力を持った人もまた、人であることには変わりないのだ。

 そんなことは、自分の手で、少しでも本人に触れてみれば分かることなのだ。そこからは、他の人間と全く同じ感触を得られるだろうから。

 ……だけど、そうは思わない人間も多いだろう。俺の思うような感覚とは相容れない価値観の持ち主が、世の中には大勢いる。大勢の「すぐに人を人でなしと見なす輩」の存在……それくらいはさすがに想像出来るものだ。

 そしてその上で俺は、ハイエは人間であると確信している。

「どう考えても人間じゃない……と私は思うけどなぁ。逆に、失礼だよ。これだけ色々見せてあげても、よりにもよってこの私を、人間なんかと同列に扱うだなんて」

「同列かはどうだろう……。正直、普通の人間よりすごい……とは思わされた。この一週間で」

 一週間前のハイエが言った通り、途中から、俺は生きた人形がいる生活に慣れた。平日になり、朝から出勤して夜に帰宅すると、一切動いた形跡はなく、息だけはしているハイエが部屋にいる。そのことに意外と早く慣れてしまった。まあ、それでも何かと精神的な不便はあったが……。

 例えば、風呂上がりの着替えは風呂場の前までちゃんと持っていくだとか、そういう不便があった。

「襲っちゃえばよかったのに。湊くんの言い分にも確かに一理あるよ? 脆弱な人間の精神なんかじゃあ、道具扱いには普通耐えられそうもないよね。でもさ、私はどう見ても大丈夫でしょう? なんで襲わないのさ。湊くんは何が怖いの……? 何をされても怒らないし、傷つかないのに、私は」

「ああ、そうなんだろうな、たぶん」

 心の底からそう思う。趣味の悪いエロ漫画に出てくるような無茶苦茶な内容を、全部ハイエに試してみたところで、きっと何も問題は起こらないのだろうと、半ば確信している。

 だけど、それはあくまでも表面的なことだ。

「でも、痛みを感じないわけじゃないんだろう」

「え?」

「ハイエだって例えば殴られたら痛いだろうって」

「それはまぁ、全く痛くないと言ったら嘘になるけど……」

 怒らないからといって、腹が立っていないわけじゃないように。眉一つ動かさないからといって、苦痛を感じていないわけじゃない。全ての人間の心の内は分からない。だから俺は、人を道具扱いすることが出来ない。「〇〇だから大丈夫」という理屈は、全て薄っぺらい物でしかないから。

 俺自身が漫画のキャラクターのように、人の心その物を踏みにじれるようにならなければ、俺の望みは叶えられない。どうすればそれが出来るのか分からないから、どうにも出来ず苦しいのだ。

 だから、正直なところ、ハイエのやり方は的外れだった。

「我慢出来るから大丈夫って理屈じゃあダメなんだ。それで済むなら、風俗で済むだろ」

「大丈夫なだけじゃダメ、か……」

 そう、むしろ、大丈夫じゃない相手を平気で傷つけられるくらいでないと。そうならないと、俺は望みを叶えられない。

「つまり湊くんは」

 何でもない風に、まるで雑談の一環として、ハイエが言う。

「もしも本物の道具に心があったら、その道具のことも使えなくなるってこと?」

「道具に心……?」

 不思議なことにその言葉は、意味を理解するよりも先に、心に突き刺さった。心に突き刺さり、脳みそに突き刺さり、目の前が真っ暗になるかのような感覚に陥る。信じていた物が崩れ去るような感覚……。

 本物の道具に心があったら……。そんなシチュエーションをシミュレートするよりも早く、俺は答えを出していたように思う。その答えの正しさを、シミュレートが後から追いかけて証明しようとする。

「それはそうだ」

 確信を持って言う。

「そんなことが本当にあったら、……地獄だ」

 例えば、アダルトショップで買えるような普通のオナホール。あれに心があったとしたら。テレパシーか何かで、ハイエのように「大丈夫だから。わたしを使って」と喋りでもしたら……。

 仮に本当にそんなことになってしまったら、もうお終いだ。そうなってしまったオナホールは、それは悲劇的にも「人間の心」が移植されてしまった道具である……ということになる。そんな存在と付き合っていくことは、お互いに耐えがたいことだ。

 女神様と呼ぶに足る力を持つハイエも言うように、普通、人の心は道具扱いには耐えられない。それはその通りだと思う。だから人にとっての地獄とは、心はそのまま、自分が道具になってしまうことだろう。

 そして道具とは、道具として扱われるからこそ、道具なのである。だからもしも、人の心と道具が組み合わさってしまったら、そこに生まれる物は地獄以外にあり得ない。

 だから俺には無理だ。地獄を作ることに加担する度胸がない。

「地獄ね……」

 ハイエは悩むような素振りを見せる。女神のイメージに似合わないことだった。彼女はいつだって全てを即断即決する……あるいは思いつきで行動するのかと思っていた。

 だからそれは俺が見る限り初めての、彼女に人間らしさが足された瞬間だったように思う。

「湊くん。改めて聞くけど、君は本当に女性を性処理道具扱いしたいんだよね……?」

「……答えなきゃダメか?」

「ダメだよ」

 いつになく厳しい口ぶりだった。

「望みが叶えられなくて苦しいのは嫌でしょ? 幸せになりたいでしょ?」

「それはまあ……」

「だったら方法を探さなきゃ。でも湊くん、自分の言ってることの意味、分かってる?」

「分かってるよ」

 少しイラっと来て、こちらも語気が強くなる。

 分かっているとも。自分の醜い望みが、自分自身の中で矛盾していることくらい。何せ地獄作りには加担したくないのに、俺のやりたいこととはつまり、自分にとっての天国を得るために、誰かにとっての地獄を作ることなんだから。

 でも、しょうがない。どうしようもない。性癖と性格は別なんだ。矛盾したとしてもそれが現実なんだ。しかしそうだったとしても、性癖と性格をどちらも尊重したまま、なおかつ矛盾からは解放されたいと願って何が悪い。願うことくらいは誰にでもある権利なんじゃないのか。

「難しいね……。心があったらダメなのに、あれだけ動かずにいても、湊くんはまだ私から心を感じてしまうのかぁ……。湊くんの言う「心」の定義って何なんだろう……?」

 まるで生きた人形に戻ってしまったかのように、ぶつぶつと呟きながら、ハイエは俯いたまま硬直してしまう。

 言われてみれば不思議だ、と自分でも思う。俺は、マネキンに心があるとは思わない。けれどハイエの肌が本物の人形のように無機質な物になり、人形のような球体関節が現れたとしても、そんな変わり果てた姿のハイエを見ても俺は、まだ彼女を人間だと認識しそうだ。

 心というのはそれだけ重い。道具だったはずの物に後から心が入れば、それはもはや「変わり果てた人間」になってしまう。そして元々人間であるものから如何に人間らしさを引こうとしても、結局は人間であるという事実から逃れられなくなる。先天的でも後天的でも、一度でも心があったものは、全て人間になってしまう。

 ……いや、そうでもないか。例えば俺だって、死体には心がないと思う。だけど「性処理道具扱いしたい」という目的に限って言えば死体はそもそも論外だ。マネキンに対して勃つことがないように、死体に対して性欲は湧いて来ないだろうことが容易に想像出来る。

「心の定義……。俺にも、はっきりとは分からないな」

「そうだよね……。それが分かっていれば、取り除き方も選べそうなんだけどね」

 それはまるで、自分を知ることが幸せへの近道だと、そう言わんばかりの台詞だった。別の人が別の状況で言っていれば、ありがたくだって聞こえたのかもしれない。

「あっ、そうだ」

 俯いていたハイエが、バッと勢いよく顔を上げる。ポンと手のひらを叩いていてもおかしくなさそうな、それは激的なひらめきの様相だった。俺はそれを見て、やっぱり彼女は思いつきの人なのだと確信する。

「よし湊くん、行き詰まったところで、初心に帰ってみない?」

「初心……?」

「うん。つまり君は……ノーマルなセックスなら普通に出来るのか、それを確かめようよ」

 答えを口に出す前に、彼女はもう服を脱ぎだしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 目を釘付けにされる感覚と、目のやり場に困る感覚が、半分ずつあった。部屋の電気を消したのは全裸になった後の彼女の手だった。

「ちゃんと見たければ電気つけててもいいよ」

「えっ」

 つけるべきか、やめておくべきか。一瞬のうちに爆発的な速度で逡巡を繰り返したことに、暗闇の中それを読み取ったであろうハイエが笑う。結局、部屋は暗いままにした。なんとなく、それが俺の知る「普通」だったから。

 人の心が何だのと哲学かぶれなことを言って結局それか、と笑う人もいるだろうか。俺は、ハイエの前で下心をもって裸になることに躊躇いを持たなかった。

 ぶっちゃけた話、俺だって、普通のセックスなら普通に出来る。同意の上で相手を労りながらやるセックスは、地獄とは無縁の物だと心から思えるからだ。

 とすれば、初心に帰るとはつまり、普通のセックスではなぜ満足し切れないのかを考える、ということだろう。それを知る必要は確かにあるのかもしれない。考えてみれば俺も今までは、本命の望みを叶えたいがために、少し道を急ぎすぎているきらいがあった。

 よく考えれば幸せへの道筋は二つある。どうにかして醜い欲求を満たせるようにする道と、どうにかして人並みで普通な欲求を満たすことによって満足出来るようにする道。後者が可能ならそれに越したことはない、誰も地獄を味わわなくて済むのだから。

 ……そして何より、正直なところ俺が「初心に帰ること」に乗ったのは、度し難い性癖やそれに矛盾した良心と同じくらい強く、人並みの性欲という物が自分の中にあるからだった。

 女を道具扱い出来ないなら、そもそも女なんて必要ない……とか、そんな風に極端になれるほど俺は強くないし、狂ってもいない。ハイエのような相手から、普通のセックスを同意の上で……と申し出されたら、逆らいかねるところがあって当然なのだ。

 が、知り合ってからまだ一週間しか経っていないこと。唯一否定的な要素として、その事実がある。しかし、ハイエに関連した出来事は全てが濃く、異常で、類を見ない物だったせいか、俺は時間の感覚をほとんど故障していた。会って間もない……という言葉が、彼女に対してはどうしようもなくふさわしくない気がしたのだ。

 ただセックスがしたくて、そう思っただけなのかもしれないけれど。

「あ、いいよ別に」

 ゴムを付けようと梱包を破きかけた時、なぜかそれをハイエに止められる。

「いいって?」

「人間と違って、避妊くらい自由に出来るから」

「なるほど……?」

 ハイエの体に関しては、何があってもおかしくないとは思う。避妊を意思だけで行うことだって、本当に出来るのかもしれない。今さらそこを疑う意味があるのかは疑問だったけれど、しかし、

「付けたかったら付けて」

 そう言われたことで、結局はゴムを使うことにした。なんとなくそれは、意思だけでは避妊を行うことが出来ないような、ハイエの言うところの「下等生物」特有の儀式みたいなものだった。

 思えば、大した前戯も必要とせず彼女が濡れていたことだって、そういった女神の特別さの一部だったのかもしれない。

 ……彼女に挿入した時の感想は、真っ先に、懐かしさだった。口に出せば怒るだろうけれど、女の感触というのは、大体誰でも……。

 ……と、「口に出せば」という前提が何の意味も成していないことに腰を振りながら気が付いた、その瞬間だった。

「んっ、あぁ、あんっ……湊くん気持ちいい……?」

 ハイエが俺に問いかけてくる。

 女神様の声が、人並みに艶っぽくなっていて安堵させられた。……とはいえ、心が読めない俺には、彼女の喘ぎ声が本物なのかは分からないけれど。

 うん、と返すのも、気持ちいい、と返すのも、何か違う気がして、俺は問い返す。ロクな意味はなく、義務を果たすためだけにあるような問いを。

「そっちは……?」

「……えっ?」

 暗闇に慣れない目でも、彼女の顔から微笑みが消えたことが分かった。

 絶望したような震え声が、いつでも余裕しゃくしゃくだったはずの女神様から聞こえてくる。

「湊くん……。そんな、それで……」

「…………」

 同意の上のセックス……という概念は、星の瞬きほどの間に消えてしまったようだった。不穏な空気を感じて、数秒前まで性欲に昂っていたことも忘れて、俺の心臓は凍りつく。

 何かは分からない。けれど確実に、何かまずいことをしてしまった。どうすればいい? 何が起こったのか分からず謝りようもない。それとも心を読む力にはラグがあって、あの失礼な感想が、今彼女に伝わってしまったのだろうか。

 ごめん……と言って許されるものだろうか? またそんな余計な思考を、心の中に浮かべてしまう。とにかくまずは謝らなければ、と思ったその矢先。

「うおっ」

 突然腕を引かれて、無防備に倒れかけベッドに手のひらをつく。自然、覆い被さるような、ハイエを押し倒すような姿勢になった。

 そしてハイエは、困惑する俺を、強引に引き寄せるようにして抱きしめた。

「湊くんごめんね……。私は、答えを急ぎすぎたよ……」

「…………」

 何が何だか、困惑の言葉も出てこない。

 なのに、どうしてだろう、いや、理由なんてないのかもしれない。俺は、なぜかこのタイミングで、また少しの死にたさに襲われた。……ハイエの肌が暖かい。

 子どもの頃には、これっぽっちも死んでしまいたいなんて思うことはなかった。覚えている限りの記憶に、当時の自分の心情は、今やそれしか残っていない。はたして、年齢が二桁にも満たない頃の湊秋人少年は、何を感じ、何を考えて生きていたのか。それはもはや、人として普遍的な自動システムによって闇に葬られた過去のことであり、誰も知る由はない。

 だから、ハイエの抱擁に「母親」を感じたことが正しかったのかどうか、答えの出しようはなかった。

「湊くんは、セックスが楽しくないんだね」

 きっと最大限の哀れみをこめて、彼女はそう言ったと思う。

 

 

 

 

 

 

 服を着ることが億劫だった。お互いの輪郭は追える程度の半端な暗闇でも、羞恥心の類を怠惰にさせるには十分な物だった。

 二人とも壁を背にして、足を伸ばして座り、しばらく惚けた。部屋の反対側の同じ壁を、何もない場所を、一緒に見つめていたことになる。

「結局、心を読める力っていうのは、どのくらい読める物なんだ」

 初めの頃、彼女は実質的に「君は性癖を周囲の人間から否定されるのではないかと怯えている」と言い当てた。それで俺は深層心理まで……記憶に等しい部分までハイエには見透かされているのだと思ったが、それは間違いだったのだろうか。

 俺の見るに堪えない臆病な心を読んで、今初めて、彼女は困惑しているらしかった。もちろんそれは、今さっき初めて俺の中に生まれたような物ではない。

「あれは占いみたいなつもりで言ったんだよ。湊くんみたいな趣味の人が自分を肯定し切れていない時は、大抵負い目を感じているものだから。セオリーで考えて、当てはまりそうなことをね」

「ああ、そうか……」

「私が魔法で分かるのは、その人がその時に思ったことだけだから」

 つまりは、まんまと騙された。

 ハイエはあの時言った、自分の望みを叶えられないせいで苦しんでいるだろうと。けれど、望みを叶えられないことがなぜ苦しさに繋がるのかを、彼女は本当は理解していなかったのだ。

 嘘を吐く時は真実を混ぜると良い、自分のことを賢いと思っている人間ほど騙されやすい。そんな定説がいくつも頭をよぎる。ハイエが今知ったこと、それを俺は、初めから当然見透かされている物だと思っていたし、それが特別重要なことだとは思わなかったから、口にも出さなかった。

 事の本質は、如何にして俺から良心を取り除くか、ということだと思っていた。ハイエはそれを、俺自身から何かを取り除くのではなく、相手(つまり彼女自身)から「人らしさ」を取り除くことで実質的に達成しようとしていた。それが的外れであることに途中から気付いても、きっとそれは彼女なりの考えによる最善なのだろうと思い込んでいた。

 けれど本当は、彼女は俺のことを知らなかったのか。俺の「女を性処理道具扱いしたい」という思いが、どれだけ強いのか、分かってくれていなかったのか。女神様のくせに。

「湊くんは、人に気を遣うことに疲れて、人を道具扱いしたいと言っていたんだね」

「……まあな」

「エッチする時の君の頭の中は、不安だらけだった。失敗したくない、失敗したくない……って」

 そんな風に、ハイエは知ったようなことを言う。今初めて知ったことを、それで全て理解したというように。

「ああ、その通りだよ。だけど問題はそこじゃないんだ。だって考えてもみろよ、「失敗したくない」っていうのは、それは皆そうだ。誰しも思うことだ。なのに俺だけが……」

「えっ!? まさか!」

 セックスという物はコミュニケーションである。当然そこには、相手を思いやり労る気持ちだとか、我を抑えて円満な関係を築く努力だとか、そういった心づもりがお互いに必要になってくる。その双方向的な性質を放棄してしまったら、それはセックスとは名ばかりの、相手の体を用いただけのオナニーとなり果ててしまう。

 誰もそのことからは逃れられない。セックスがしたければコミュニケーションをするしかないのだ。そして俺には人並みの性欲がある。セックスがしたいという欲求を消すことはどうしても出来ない。コミュニケーションをするしかない。例えそこにどんな障害があろうとも。

 それをちゃんと頭で分かっているのだから、俺の「女性を道具扱いしたい」という欲求は、ただの性癖だということになる。それは味覚の好みと同じように、思想だけではどうすることも出来ない物だ。どうしようもないからこそ矛盾だって引き起こす。

 と、俺はずっとそう思い続けて、生きてきたのだけれど。

「湊くん。相手を気持ちよくさせなきゃ……っていう義務感を持ちながらセックスする人は、湊くんが思うほど多くないよ」

 ついさっきと同じくらいの、非常に哀れみのこもった声で、人の心が読めるという女はそう言った。その言葉には、女神を名乗る彼女がいわゆる「人間」を見下す時よりも、もっとずっと強い哀れみがこめられていた。

 それは人間という種族に対してではなく、俺という一個人の人格に対する同情のように思えた。

「それこそまさかだ。人の心を踏みにじるようなことをするやつは、そんなに多くいるはずがない。ハイエのそれは偏見だ。そりゃあ男は性欲が強すぎる奴ばかりかもしれないけど、それでも多くの人はちゃんと相手を気遣って」

「違うよ、湊くん」

「まだ言うのか」

「ううん。相手を気遣ったセックスをする人たちが多いっていうのは、私もそうだと思う。でも湊くんは、それを義務だと思ってやってるでしょ?」

「……どういう意味だ?」

「うん。……あのね、大抵の善い心を持った人たちは、相手を気遣うこと自体を楽しんでいるんだよ。義務だから気遣っている、というわけではないの」

「……………………は?」

 頭の中の、想像の世界で、何かがあっけなく崩れた気がした。その世界の俺には、砕けた天井から、重い瓦礫のような物がバラバラと降ってくる。けれど上を見上げても、そこに見える物は、青い空でも太陽の光でもない。

 固定概念が崩れた先にある物は、決して希望ではなかった。

 ハイエは嘘しか言わない。こいつは嘘つきだ。俺はそう思った。だってそうだ、彼女は心を読める力があると言って、本当は読めていないのに、人の深層心理を見透かしたようなことを言った。世界には善人が尽きないのに、人間は他人を人間とは思えないから暴力も振るえるのだと言った。ハイエは嘘つきだ。

 人への気遣いを楽しんでいる奴らばかりが、幸せなセックスをしているだなんて、そんなこと嘘に決まっている。だって幸せなセックスをしている人間は、「普通」と表現してしまっていいくらい、この世に大勢いるんだから。

 気遣いを楽しめる人間だと? そんな奴らが、そんなイカれた野郎が、「普通の人間」であってたまるか。ハイエの言っていることは大嘘だ。

「上手く出来てるかな、何も失敗してないかな、って、童貞でもないのにそんなことばかり気にしていたから、変だなと思ったんだよ」

「変なもんか! そりゃ個人差はあるだろうが、多少なりとも誰しもがそういう頭でヤってるだろう!」

「そうかな。大抵の人は、幸せ、気持ちいい、って思いながらヤってるよ。ハッピーな頭になってヤってるよ。不安なんか霞んじゃうくらいに」

「そんなわけがない!」

 セックスとはコミュニケーションだ。努力なくしてコミュニケーションは成立しない。片方だけでも自分勝手なことをすれば、そこで関係は破綻してしまう。だからハイエだって「気持ちいい?」と俺に聞いてきたんだ。ああいったことも「努力」の一例なのだ。そういったことの積み重ね、そういったことだけの、積み重ねがあって、ようやくセックスは成立するのだ。

 その努力を忘れて、ただ快楽に浸っている人間が大多数であり、その人たちが善たる「普通」であるなんてことは、それは絶対にあり得ない。あり得るわけがない。セックスはコミュニケーションなんだから。コミュニケーションとはそういう物なんだから。

「湊くんは、相手が気持ちよくなってくれて「嬉しい」って思ったこととか、ないでしょ」

 それは、如何にも占いらしい響きの言葉だった。「おそらく」の話を、まるで見てきたかのように確信を持った断言として、言い放ってくる。

 そしてハイエの占いは、当たる。

「……ないな、確かに」

「だよね、そうだよね。だからやっと分かったんだ、湊くんの悩みの本質が。……湊くんはずっと地獄にいたんだね」

「俺が……?」

 地獄。それは例えば閻魔様のいるあの世のことではなく、俺の欲求を押し付けられた相手が見る世界のこと。現実に存在しえる物だ。

 しかし、むしろ他人を地獄へ突き落としかねない欲求を持っているような俺自身が、湊秋人の方が地獄にいるとは、いったいどういう意味だろう。心の読めない凡人は、女神様がその言葉の意図を説明してくれることを期待して、ただ続きを待つことしか出来ない。

 が、次にハイエが口を開いた時、彼女の言葉の意図に対する謎は、倍に膨れ上がってしまった。

「湊くんは、掃除機をかけたことはある?」

 

 

 

 

 

 

 暗い部屋、裸になった人間の(つがい)が話題にすることが、掃除機……?

「掃除機をかけている時、タンスの角にゴツンとぶつけちゃっても、掃除機は何も言わないよね」

「何の話だ」

「湊くんに見えている世界の話」

 女神様は、至って真面目な様子でそう言った。人権無視の無茶苦茶な扱いを自ら買って出る時よりもずっと真剣に、余裕をひけらかした微笑みはもうずいぶん長い間引っ込めて。

「もしも道具に心があったら。掃除機は、うっかりタンスの角にぶつけられた時、「痛い!」って叫ぶと思うんだよね」

「…………」

「鉛筆もパソコンも、食べ物だって、そういう意味ではただの道具だよ。動物は「声」や「動き」で感情を表現するけど、それをしない物は全て道具も同然。花も石ころも、ラーメンもライターも、ぜんぶ道具」

「だから、何が言いたいんだよ」

「道具から声が聞こえたら地獄だ、ってことを言いたいの。……ぶつけられた掃除機から「痛い!」って悲鳴が聞こたり、仕事が捗ってきたところでパソコンから「疲れたよ〜辛いよ〜もう休みたいよ〜」という声が漏れ出てきたり、持ち帰る際に割ってしまった卵からはすすり泣く声と、それを慰めるまだ無事な卵たちの声がしたり、短くなった鉛筆が自分の寿命を想像して「あとどれくらい生きられるのかな……」と悲観を呟く声が、本当に「音」として聞こえてくる世界。……そんな世界は、幻聴でしかあり得ないっていうこと」

「いや、意味が分からない」

「幻聴は精神のまいってしまった人が聞くものだけど、もしも万が一、健康な状態の人に幻聴が聞こえてしまったら……。その人は結局、そのうち精神がまいってしまうんじゃないかと思うんだ。……それで「その人」っていうのは、湊くんのことだと思うの」

「俺は道具の幻聴なんか聞いてない」

 気持ちだけは、分からないでもない。どうしても仕方がなくて消費期限を切らしてしまい、食べ物を捨てる時の、あの罪悪感。あの類の重い罪悪感から、もしかすると幻聴を聞く人が現れたとしても、信じられないとまでは言えないだろう。

 が、実際のところ、俺はその類の幻聴を聞いたことがない。無駄にしてしまった食べ物、壊してしまった道具、捨ててしまった服……どんな時にも人一倍の罪悪感があった自覚はあるが、幻聴が聞こえるほどではない。

 ましてやそれが、人の人権を踏みにじりたいという、救いがたい望みの原因になっているわけもないだろう。むしろそれなら、人を傷つけたくないと願うようになるはずだ。

「湊くんは、相手に喜んでもらったら自分も嬉しいとか、そういう感覚はないんだよね」

「まあ……冷たい人間だと自覚はしている。だからひどい望みだって持ってるんだろ」

「違うよ、湊くん。逆だよ」

 子どもに言い聞かせるような慈愛と切実さに満ちた様子で、女神様が言う。

 外の夕焼けは沈みきって、月と交代に消えた。天井の明かりが消され静まり返った、お互いの輪郭その物が影のように見える、どこか重苦しい空気の真っ暗なワンルーム。そんな二人だけの世界にあるベッドの上で、修学旅行の夜みたいに話す俺たちは、自分たちが裸であることをもう忘れかけていて、慈愛と切実さの中に、拭いきれない「こちらを見透かしたような雰囲気」を含んだハイエの声が、闇の中に溶け込んでいく。

 この時も、ハイエはいつでも優しかった。

「湊くんはすでに、女性のことを道具だと思っているんだよ。その道具に心があって、喋るから、苦しくて仕方がないんだよ」

 趣味や性癖が、矛盾を生むほどの凄まじい勢いで思想を追い越して行くように……。理屈など関係なしに、俺は、唐突に「真実」に突き当たった。

 道理でいくら探しても見つからなかったはずだ。自分の苦しさの原因は、灯台の真下にあったのだ。

 

 

 

 

 

 

 思い出したことがある。あれはそう、ちょうどハイエと同じくらいの見た目をした、若い女の先生だった。

 生野菜が苦手な俺が給食のサラダを残していると、担任の先生が言ったのだ。

「野菜さんが「食べてもらえなくてかなしい」って言ってるよ?」

 無論、俺は当時から現在までに渡って一度たりとも、野菜の声なんかが聞こえた試しはない。喋るはずのない物の声など聞こえはしない。

 けれどあの時の俺は、そう言われたことで猛烈な罪悪感が湧き上がって、そのまま衝動的に野菜を頬張ったのだった。……そしてどうしようもなく苦手なその味を体が受け付けられず、そのまま成す術なく嘔吐した。その瞬間に先生の態度が急変して、おろおろと途端に弱々しくなったことまで、一度記憶が呼び覚まされれば、こと細かに思い出せるものだった。

 あの時、俺は思ったのだ。吐き出された野菜は、まだ悲しんでいるのだろうかと。そのまま捨てられることと、吐かれて捨てられることと、どちらがより悲しいのだろうと。本当は野菜に感情なんて存在しないのに、そんなことを思ったのだった。

 そういえば俺が罪悪感によって体調を崩すようになったのは、あれ以来起こり始めた現象だったようにも思える。

「つらかったね、湊くん。苦しかったね。道具から声が聞こえたら、誰だって耐えられないよ。かわいそうにね……」

 ベッドの軋む音と共に、気付いた時にはされるがままに、ハイエから熱く抱擁されていた。そこにあった物は母性だったのかもしれないが、それは俺の知る「母親」の感覚には程遠かった。

 母に裸で抱きしめられた記憶なんかない。ハイエはハイエだ。

「かわいそうなもんか。人を道具としか思わないクズが、勝手に苦しんでるだけってことじゃないか」

「ううん、そんなことない。言ったでしょ、苦しまなきゃいけない人なんて、この世に一人もいないんだよ。苦しんでいるってだけで、湊くんは、誰かに助けてもらう権利を持っているの。だから私が絶対に助けてあげる」

「……女神様だから?」

「そうだよ。この私が哀れな人間に、救いの手を差し伸べてあげる。それくらい出来て当然なんだから」

 まさか、本気で彼女のことを神様だとは思わないけれど。なのに、それでも彼女の言うことが、全て正しいように思えてしまった。……いや、そう思いたいから、そう思うのだ。

 道具から声が聞こえてしまうと、道具に心があることを感じ取れてしまうと、世界が地獄と化す。それが俺の苦しさの本当の理由なら、一週間もの間人形のようになっていたハイエを見て、どうして俺は自由になれなかったのだろう? 人形とはまさに、声のしない道具であるはずなのに。

 きっとそれが幻聴の恐ろしさなのだと、人肌の温もりを感じたまま、ハイエの肩越しに暗く殺風景な壁を見ながら思う。

 道具を道具と信じられる条件。それは、一度も声を聞かないことだ。道具の声を一度でも聞いてしまったら、同じ状況に出くわす限り、その一度の体験が延々と頭の中に、新鮮な状態で帰ってきてしまうだろう。まさに幻聴が聞こえるのだ。痛い、苦しい、疲れた、死にたくない、もうやめて……と。

 だから、もはや俺はどう足掻いたところで、女性を心底道具扱いすることなんて出来やしないのだ。

「無理だ、どうしようもない。幻聴は消せないんだ。ハイエが人形みたいになっても、もう消せないんだよ」

「それなら、幻聴の中で幸せになれる方法を探そう」

「無理だ」

「諦めないで。絶対に出来るよ。私が絶対に見つけてあげるから。……よいしょっと」

 おもむろに立ち上がったハイエが、羽織る程度に適当に服を着ていく。それでギリギリの体裁を得た彼女は、玄関とは真逆の位置にある窓を開けた。足元まである大きな窓、それは洗濯物を干すためだけに都合上存在している、狭さを極めたベランダへと続く扉だ。

 凍えるような夜風と一緒に、ハイエの声が流れてくる。

「私、昔ね、レイプされたんだ。夜の公園だった」

 こちらに背を向けて、空を眺めながら、彼女はどこか楽しそうに言ってのける。安いだけが取り柄のワンルームと、悲痛さ以外の何があるわけでもないはずの話題と共にあっても、なぜだかその時のハイエの姿は、この上なくロマンチックなものに見えた。

 ハイエの心を読む力は、相手が視界に入っていなくても効く物なのだろうか? 不意打ちのカミングアウトに、俺の頭の中はまためちゃくちゃな大騒動を起こす。

 そして結局、その騒動は何も生まない。言葉の引き出しをあちこちひっくり返しても、めぼしい物は見つからないのだ。

「……なんて言えばいいのか」

「別に何も? だって心が読めるのに、危ない人に近づくわけないでしょ。私が望んだことだったよ」

「じゃあ何で」

「そうすることでしか、その人を幸せに出来ないと思ったから」

「幸せにって……」

 まさか、女性をレイプしたいと願っている男がいたから、させてやったとでもいうのだろうか。俺に対して「人から人らしさを消そう」と提案して、それを手当たり次第に実行した時みたいに。

 ……実に一週間ぶりだった。改めて、彼女のことを「頭がおかしい」と思ったのは。

「湊くん、星は好き?」

 夜空を見上げるハイエが言う。俺は布団で全身を包んで、自分だけ温もりを得ていた。

「いや、星はあんまり」

 あんまり……どころか、毛ほども興味がない。砂時計のような形をしていた星座の名前がなんだったのか、夏の物だったのか冬の物だったのか、何一つ覚えていない程度には。

「私も興味ないんだ」

 振り返って、彼女がはにかむ。女神を名乗る彼女の、余裕たっぷりな彼女らしい笑顔だった。そしてどうしてだろうかその笑顔は、落ちれば痛いでは済まない高度を背後に備えていると、どこか不安を呼び起こされるような物になる。

 こちらの全てを見透かしたような微笑みは、いっそ神秘的だからこそ、今すぐに消えてしまっても不思議ではないような希薄さを感じさせてくるのかもしれない。

「でもね、押し倒された時に夜空が見えて、あることを思い出したの。男の人が女の人にエッチなことをする時に使う、「天井の染みを数えている間に終わる」って言い回しがあるでしょう? 私、あれに納得がいかなくてね。だって染みなんてすぐ数え終わっちゃうから」

 言葉の意図は一切読めなくても、次に彼女が言うことは分かった。

「でも、星なら数え終わらない」

「そう、そうなんだよ。それでね、私は星に興味なんかなかったのに、いざ数えてみると面白いの。……星ってこんなに綺麗なんだって、その時は本当にそう思ったんだよ。でもやっぱり、興味は持てないんだよね。星座とか、どの星の名前が何だとかって」

「あー……つまり何が言いたいんだ?」

「湊くんにも星を数えさせてあげたいの」

 凡人には理解出来ない領域なのだろうか、ハイエの言葉はまわりくどくて、ほとんど意味が分からなかった。……けれど、それを悪くないと思い始めている自分がいる。

 夜風に髪を揺らすその自称女神様は、俺を救済する全能の神様なんかじゃない。美人は美人だけれど絶世の……というほどではなくて、間違っても「道具」などではないれっきとした人間であって、所詮はそれなりにどこにでもいるような「探せば見つかるくらいの美人」が、よく分からないことを言いながら、俺に向かって微笑んでいるだけなのだ。

 でも、それを手放すことだけは、絶対にしてはいけないと感じた。

「私が湊くんの数えきれない星になるんだよ。天井の染みを数えるのと違って、星を数えていればきっとそのうちに、どんなに辛い人生だって終わっちゃうから」

 ベランダから戻ってきた彼女が後ろ手に窓を閉めて、この部屋は再び二人だけの物になる。他の何も立ち入らない、傍から見れば、後ろめたくて暗い物ばかりが溜まる場所に。

 彼女は再び服を脱ぎ始める。そして俺から布団を剥いだ。

「私のことだけを見て? ずっと気を紛らわそう? 次はプラン……プラン……なんだっけ。D? E?」

「……さぁな、忘れた。でも、思い出したことがある」

 そのまま自分からハイエの体を抱きしめると、やはり罪悪感に襲われた。それは、もはやどこが出どころなのかも分からない、女性という存在に対する罪悪感だった。

 でも、耐えられないほどではなかった。ちょっと頭痛がするくらいのもので。

「家に帰ったらハイエがいた時、出て行ったハイエが帰ってきた時、たぶんいつも思っていたんだ」

「思っていたって、何をだろう?」

 心が読めるくせに、そんなことを聞いてくる。女神様はいい性格をしている。そして俺は、そんな彼女を手放したくない。絶対に、しがみついてでも、星を数えていたい。

「…………嬉しかったんだよ。よかった……って」

 口に出すと、途端に、それが俺の真実だったのだと分かった。まさかそうなることが分かっていて、ハイエは俺にわざわざ聞いてきたのだろうか? ……いや、どちらでもいいのだ、そんなことは。心を読まれてもいい、意地悪な質問をされてもいい、俺がハイエに求めるものは……。

「大丈夫だよ、湊くん」

 トン……と肩を押されて、さっきとは真逆の構図、俺が彼女に組み敷かれるような状態になる。背中を受け止める柔らかなマットレスが、その感触に似合わない耳障りな軋みを鳴らす。

「湊くんの気を紛らわせるための星は、ずっとここにいるからね」

 きっと幸せになれる。そんな気がした。

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。