人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 罪を贖うのなら。裁判をしても、何をしても、意味はない。それを許せるのは自分しかいないのだから。


12話 呑気に暮らしたい

 闇の中。目の前にある木製のドアをノックする。返答はない。ノブを手首とくるりと回し、中へ。しかし、彼は全てが見えているかのように歩みを進め、様子を見るように周囲を見回すように歩く。

 

「まだ無理か。できる限り早急に治ってくれよ。俺はあんまり女が得意じゃないんだ」

 

 目を覚ます。相変わらず陽の光はない。まだの外からは相変わらずの喧騒。どうやら今日は祭りも行っているのか祭囃子も聞こえる。

 起きあがろうと体を起こそうとするが動かない。腰のあたりに白い手が回されている。一瞬ギョッとするがそういえば昨日こいしに強制的に添い寝をさせられていた。俺が寝ている間に抱き枕代わりにしていたのだろう。耳をすませば確かに寝息も聞こえる。わざわざ起こすのも流石に気が引ける。だからといって起こさずに手を外すのも難しいだろう。今のうちの状況を整理するか。

 未だにこよみは復活しない。何時ごろ復活するのかわからない、もしかすると二度と起きないという可能性も最悪あるのだろうか、そうなれば新しいこよみを作る必要がある。どんな人格であったのかは少しは覚えている、それを基にすれば作れない事もないだろう。

 困った事になった。ただ、今ある問題はそれだけではない。俺というのは男として創られた人格、当然女性というのは異性という認識だ。これまでの距離感でいられれば当然動揺もする。そして、古明地さとりは心が読める。あの性格からして動揺を知られれば何か悪戯をしてくる可能性が高い。それに近々俺の服を探すために着せ替え人形にすると言っていた。正直、女性の服を着る事に抵抗があるし、正直女性自体があまり得意では無い。俺がこよみ越しに見たこの世界は男が非常に少なかった。というか、ほぼ女性だった。俺だとこよみのように気楽に話すことが出来るかどうか。とりあえずは出来るだけ交流を抑えつつ、今後の対策を練るか。

 

「おはよー」

 

 なんとなく今後の動きが決まったところでこいしが目覚める。まるで計ったかのようなタイミングの良さだ。一瞬心を読んでいる可能性を考えたが、こいしは心を読めないはずだ。偶然だろう。

 

「ああ。おはよう」

 

「その感じはまだお兄さんだね」

 

 とても大きなため息をつく。わざわざこよみの口調に変えるのも億劫だ。その上こいしには俺の存在がバレている。隠すだけ無駄、だが口封じはしておくべきだろう。

 

「そうだ。だが、一つ約束して欲しいことがある。俺の存在は秘密だ」

 

「二人だけのヒミツって事だね」

 

 本当に理解しているのか不安になる軽さだ。バレると心底面倒な事になるから本当に黙っていて欲しい。

 

「ああ」

 

「いいね。私とお兄さんの二人だけのヒミツ」

 

 意味ありげな言い方をし、嬉しそうに笑うこいし。惜しむように抱く力を強めた後にこいしの手が俺から離れる。

 

「まぁ、さとりにはすぐにバレるだろうけどそれは仕方がない」

 

 寝台から起き上がり、大きく伸びをする。ここにきてからというもの?やけに肩が凝る。胸というのもあるだけお得というものでも無いらしい。実際女になってみないとわからないことがわかったのは収穫と言えば収穫だろうか。

 とりあえずこいしには黙ってもらうとしてそういえばにとりの方は順調なのだろうか。携帯などがあれば簡単に連絡が取れるがここにはそんなものは恐らくない。実際にあそこまで出向き、話してみる必要があるだろう。ただ、地上は広かった。俺は正直方向感覚に自信がない。帰って来れなくなり、そのまま餓死みたいなオチが容易に想像できる。それに俺が直接出向くのはまずいだろう。行くならこよみだ。

 

「で、お兄さんは今日何かするの?」

 

「いや、何もしない。寝直す事も割と考えてる」

 

 家事は全て燐が行っている。前に手伝おうかと聞いたら大丈夫だと言われ、それならペット達と遊んでくれと言われた。だが俺は動物と仲良く遊べる自信はない。本当にすることがない。こんなことならさっさと八雲紫に外の世界からゲームを持って来てもらうべきだった。

 

「あれ、どうしたんだろ」

 

 唐突にこいしが外をみる。相変わらず祭囃子は止んでいない。

 

「祭りでもしてるのか?」

 

 こいしが眺める外を追うようにして見ると街の方で何かがあったようで煙が上がっている。

 

「火事か?」

 

「わかんない」

 

 何か嫌な予感がする。何故、こんな状況でも祭囃子が止まらないのか。

 

「火事は多いのか?」

 

「多くない」

 

 日常的なことなら気に留める必要もない。だが、そうではないとなると。一体何が起きているのか。

 

「様子を見てくる」

 

 返事を聞く事もなくこいしの横を通り、自分が通れるサイズに窓を開く。窓に足をかけてそのまま空を飛び、現地へと向かう。会話をする気はない。単に様子だけを確認するつもりだ。眼下では妖怪が音楽に合わせて踊っている。一体どこからこの祭囃子が聞こえているのか。

 

「やぁ、こよみじゃん。久しぶり」

 

「そんなに久しくは無いと思う」

 

 空を飛ぶ俺を見てかヤマメがどこかから飛んでくる。バレるわけにはいかない。いい具合に演技をしながら下の状況を探ろう。

 

「ところであの煙はなに?」

 

「わからない。でも大したことじゃ無いでしょ。今は踊ろう」

 

 そのまま手を掴んでくるヤマメの手を後ろに飛ぶことで躱す。そんなことをしている暇はない。身を翻し、煙の立ち登る方へと向かう。

 

「待ってくれよー」

 

 後ろからヤマメが追ってきているようだが気にしない。前回橋の上で襲われかけたのを覚えている。下手に捕まるのは良くない、それに今に状況では尚更まずい。

 煙の立ち上る所へ向かうと別に火事というわけではなく。数人の妖怪がキャンプファイヤーを囲んで踊っていた。ただの杞憂だったらしい。胸を撫で下ろし、地霊殿へと向かう。何事も悪い方へと考える癖はやめたほうが良さそうだ。そんなことを考えながら帰路についていると腕が後ろに引っ張られる。

 

「は?」

 

「捕まえたよ」

 

 未だに後ろから俺を追っていたヤマメが手からいつか見た糸を吐き、俺の腕を捉えていた。

 

「逃げるなんてあんまりじゃないか」

 

「あー、ごめんね。先に煙を確認しておきたかった」

 

 元々俺は虫が好きだったし、ヒーロー系の物語も好きだった。そうなれば、虫が蜘蛛の糸が太いということがどのような事を表すのかは知っている。

 

「前回は逃げられちゃったけど。今回は逃がさないよ。一緒に踊ろう」

 

 糸が引き寄せられ、徐々にヤマメに引き寄せられる。力が強い。正直、さとりやこいしの比ではない。服を脱げば一時的には逃げられるだろうが、そのあと蜘蛛の糸をぶつけられるのが目に見えている。おそらくそう簡単に躱せる代物ではない。同調すれば蜘蛛の糸をどこに放つかはわかるかもしれないが。同調したところで俺の身体能力が上がるわけではない、来ると分かっていても銃弾が躱せないようにおそらく回避はできない。

 

「いいよ。踊ろうか」

 

 諦めて踊ることにしておこう。人格についてバレないかは不安だが、手がない。ただ、貞操に関しては全力で守ろう。俺としての人格のままそんな目には空いたくない。せめてこよみの人格で...もよくない。

 

「いいね。素直な子は好きだよ」

 

 先ほどから感じている異常。それは、妖怪たちの感情。どうも不自然だ。どうも幸せすぎる。良いことではあるが、みんながみんなこんなにも幸せになることがあるだろうか。そして、それ以外の感情を調べられない。

 

「あの音楽っていつから聞こえてる?」

 

 俺の目の前まで来たヤマメに一つ問う。今あるいつもと違うものはあの音楽くらいだ。となれば原因はそこにあると考えるのが一番自然。

 

「目が覚めたら聞こえてたよ」

 

「なるほど」

 

 まずはこの音の発生源を調べない限りは始まらない。だが、俺の能力では見つけることはできない。なんとかして自力で見つけるしかないだろう。

 

「おかしいな。君って、こよみだよね」

 

「え?ああ、そうだけど」

 

 バレるような要素はあっただろうか。何か失言をしたか必死にこれまでの発言を遡る。

 

「雰囲気変わったねぇ」

 

「ちょっとずつここに慣れてきたからね」

 

 どうやら何かしらの手段で俺がこよみではないと感じているらしい。思い返しても今のところ失言はしていないはずだ。

 

「あーね。まぁ、色々あるんだろう。あえて問い詰めないよ。辛そうな能力ではあったしね」

 

「良く気づくな」

 

 ふわりと糸が切られる。まるで先ほどまでの強靭さが嘘のようだ。

 

「私たち妖怪はかなり長く生きてる。それに、妖怪は人間よりもその本質を見てるから」

 

「そういうことか。なら仕方ない。そこまで確信に近いと騙すのもキツそうだし」

 

 諦めよう。とりあえずはこの音がなんなのかを調べたい。これが原因でこいしやさとりに何かしらの影響ができるなら早急になんとかしたほうがいい。

 

「で、俺がどうやらこよみではないということがわかったみたいだけど、それでも踊るか?」

 

「うーん。男っぽいこよみもすごく良いけど遠慮しとこう。それに私もこの状況はおかしいと思ってるから」

 

 感動にも似たような声を漏らして笑う。どうやら最初からそこまで本気で俺の貞操は狙っていなかったらしい。ただの戯れだよとでもいいたげな態度だ。だが、俺はヤマメに縛られ、色々と触られたのを覚えている。

 

「でもこれが異変だとして、私たちが解決することではない気もするし。何より、今の所なんの問題も起きてない」

 

「何か起きてからじゃ遅い場合もあるけどな」

 

 想像はつかないが、嫌な予感はする。もし、あの妖怪たちが暴走するようなことがあればさとりとこいしでは何もできない可能性が高い。ただでさえ腕力はないと言っていたのだ、数で押されればあっという間に殺される可能性がある。その可能性は排除しておきたい。

 

「それもそうだけど、みんな楽しそうだし」

 

「まぁ、間違いない」

 

 この間にも永遠と祭囃子が聞こえ、眼下の妖怪たちは踊り続けている。その様は誰がどう見ても楽しそうではあった。

 

「でも、異常なのも確かだろ」

 

 眼下に視線を落とす。それにそうようにヤマメも視線を下ろす。彼らは楽しそうであると同時に、異常でもあった。それは理解できているはずだ。

 

「間違いない」

 

「それに誰も彼もがあんな風に踊り出したら本当に最後だ。だれも止められなくなる」

 

 異常な舞踏とそれを助長する狂想曲のように祭囃子が響く。今俺は踊りたいとは思えないが、いつまでそうかはわからない。この音楽に異常性があるのならこれを聴いている俺もいつああなるかわからない。

 未だに協力しようか迷っているヤマメに何か決定打を与えたい。正直、こう言ったトラブルを解決するのは初めてだ。暴力沙汰になった場合、俺には抵抗する手段がない。簡単に制圧されてしまうだろう。

 

「多分、そんなに重大な問題じゃないだろうし。私は楽しいから解決は任せた!」

 

 そう言って地上に戻って背に手を伸ばすが諦める。仕方がない。どうやっても協力してくれそうな雰囲気は無かった。とりあえずは飛び回ってこの音の発生源を出来るだけ早く見つけよう。ただ、見つけると言ってもどうするか。

 眼下には街が広がっている。どうやっても一目で発生源がわかるような広さではない。だからといって何か目印があるわけでもない。しらみ潰しに飛ぶのもなしではないが現実的とは言えない。

 相変わらず、眼下では妖怪達が楽しそうに踊っている。そこでふと考える。俺は解決を目指しているが、これは俺が手を出す必要のあるものなのだろうか。俺は腕力もそこまで強くない。能力も戦闘向きとは言えない。専門家に任せる方が得策では無いだろうか。

 

「あー、マジで」

 

 ぽろりとそんな言葉が溢れる。嫌な事を思い出した。良かれと思ってやったことが結局他人の迷惑になる。その時に向けられた周囲からの想い。それはどれもが俺に対する否定的な意見だった。だが、それで二度としないようにするというものまた違う。それが善意であったなら、余計なお世話だと、偽善だと罵られようと行うべきだ。

 何故なら俺は()()()人間であろうと決めたから。

 

「まずはさとりに聞いてみるか」

 

 身を翻し、地霊殿へと向かう。今起きているこれが異常であるのは確かだが、対処すべき事柄かどうかはこの世界に昔から住むさとりに聞くのが最も手っ取り早いだろう。下にいる妖怪に聞くのもアリではあるが今後こよみが関わる可能性のある者に接触はしたくない。そうなると選択肢は自動的にさとりかこいしになる。雰囲気で気づくというなら他の一度でも会った妖怪でも良いが、わざわざ俺の存在を伝えるべきではない。俺はいつかは消える者だ。関係を持てば俺を認識し、ここのお人好しの住民であれば俺との別れを悲しむだろう。なら、下手に俺の存在を知らせるべきではない。

 自分が出た窓から再度部屋へと入る。重力を感じる瞬間が未だになれず転びそうになる。

 

「こいし」

 

 部屋を見回すが既にこいしの姿はない。机の上に置かれていた帽子がないあたり恐らくまた出かけたのだろう。窓を閉め、部屋のドアへと向かう。となると会いに行くべきはさとりだ。廊下に出る。やけに静かだ。ペットたちは眠っているのだろうか。日の差し込まないこの地底では時間感覚が全く機能しない。昨晩の記憶を頼りにさとりの部屋へと向かう。いくつかのドアの前を通り過ぎ、目的の部屋にたどり着く。

 

「さとり?」

 

 ドアを叩くが応答はない。寝ている可能性もある。ドアを開いて中を確認する。壁には相変わらず書籍が並んでいる。いつも作業しているであろう机にはいくつかの書類があるだけでさとりの姿はない。そのままベッドに視線を移す。一見居ないように見えるが、もしかするとその潜っている可能性もある。部屋に入り、ベッドに近づく。

 

「寝てるのか?」

 

 寝台には人が一人入れそうな膨らみがあった。それをめくり、中を確認しようとしたその時。

 

「こんにちわ」

 

 突然背後から声をかけられる。驚いて振り向くとそこにはみたことのない少女が立っていた。暗い室内で暗く輝く金髪とまるで不思議の国のアリスの主人公ののような白い服を着こなし、こちらを見ている。

 

「誰だ?」

 

 即座に能力を行使。相手を投影し、調べる。そこにあったのは無邪気さ。子供がおもちゃを見つけた時のような。俺が会っていないだけでこの地霊殿にいたのだろうか。となれば説明がつく。だが、そうでないなら。

 

「私?私に名前はないよ」

 

「名前が無い。まぁ、そんな奴がいてもおかしくはないな。ところで、さとりはどこに行ったか知ってるか?」

 

 名前が無い。という時点で相当嫌な予感はする。さとりであれば名前を付けないはずがない。俺にすら名前を付けてくれるような奴だ。ここにいた者ではないのだろう。となればこいつは一体誰で、ここで何をしているのか。

 

「ピンクの髪の人かな。そこのベッドで寝てるんじゃない?」

 

「そうか」

 

 一つわかった事がある。ベッドにさとりはいない。こいつは嘘をついた。さとりほど的確ではないが、簡単な嘘程度であれば俺の能力でも見切ることが出来る。そして、どうやら危害を加える気でいるらしい。

 寝台に進み、顔を確認しようとしたフリをし、身を捻る。ギリギリのところで背後に迫っていた少女の振ったナイフが空を切った。

 

「ざんねん」

 

 予想は出来ていたとはいえ、実際に刃物を持ちこちらに殺意を向けている存在と会うと足がすくむ。話には聞いていたがこれほどまでに怖いとは思いもしなかった。

 

「何のつもりだ?」

 

「わからないの?殺すつもりだよ」

 

 そりゃそうか。だが何で俺を狙うのか。特別強いわけでもない。特別何かを持っているわけでもない。ただ、生きていただけだ。

 

「何で俺なんだ?」

 

「君が特別だからだよ」

 

 こちらの話など聞く耳も持たないと思っていたが、そうではないらしい。それなりに話は通じる。

 

「特別って何がだ」

 

「それは秘密。君は私たちの計画に邪魔だからさ。今のうちに退場してもらおうかなーってね。それにこれは君のためでもあるんだよ」

 

「善意が歪みすぎてて怖いな」

 

 視線だけで周囲を探すが何も武器になりそうなものはない。これなら何か武術でも習っておくべきだった。今更ではあるが。

 

「無駄だよ。君はここでおしまい。恨むんなら八雲紫を恨むんだね」

 

「はぁ、なるほど。確かにそうだな。でもどうせ死ぬなら教えてくれないか。八雲紫をどうしてそんなに恨んでいるんだ」

 

 同調を行うがあまり情報が入ってこない。どうやって殺そうか程度の情報しか手に入らない。逃げるにしても足がまだすくんでいる。この状態で飛び去るというのは窓が閉まっていることもあって現実的ではない。選択肢はこいつを倒すか、死ぬか。上手くドアを開けるか、窓を開ける隙を作って逃げるしかない。

 

「あいつは私の家族を殺したからね」

 

 怨嗟が流れ込んでくるが俺ならば問題ない。それにそのおかげで伝播した怒りで足のすくみは収まりつつある。

 

「それは十分な理由だな。でも俺も死にたくない」

 

「ごめんね」

 

 悲しそうに笑う少女。その手に握られていたナイフが容赦なく彼の腹部に突き刺さる。冷たい鉄を伝って床に血が滴り落ちた。少女がナイフから手を離すと彼は数歩下がり、苦悶の声を上げながら腹部に突き刺さったナイフを抜こうと手をかけるが痛みが酷いのか、抜けないようだ。そのまま、壁にもたれずるずると崩れ落ちた。

 開いた窓から吹き込む風が仕事を終えた少女を撫でる。暗い室内で金髪が揺れ、濡れていた少女の頬に張り付いた。それは後悔か、懺悔なのか。ただ、動かなくなった少年の冷たい体がそれは許されることではないと冷酷に伝えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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