人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 壊れたものは戻らない。


13話 おもいおもいのおもい

 昨晩、彼女の部屋に行った後、部屋に帰って眠り。起きた私はいつもの机に座って仕事をこなそうとしていた。だが、全く手につかない。

彼の心は、完全に崩壊していた。初めてだった。心を読んだ時、いくつもの文字が一枚の紙に殴り書きされたようなものしか見えなかった。あそこまで行けば、確かに自分を見つけるなど不可能だろう。それ以前に自分というものがまだ存在しているのかすら怪しい。あの能力、同調、それによって幾重にも繰り返された自分への他人の投影。だが、それでも一つ疑問があった。何故、そこまでして同調を繰り返したのか。自らを壊している行為だというのは自分自身が一番わかっていたはずだ。優しさ。という言葉で片付くものではない。一体なぜそこまでして他人に尽くしたのか。

 

「貴方は...」

 

「おねーちゃん!」

 

 慌てて前を向くとそこにはこいしが立っていた。いつ扉を開けたのかなど気にはしない。彼女の無意識を操る程度の能力であれば何の問題もなく可能なことだ。気にすべきはそこではない。彼女がとても慌てていることだ。

 

「お兄さんが!」

 

 お兄さん。という言葉に引っ掛かるが恐らくはこよみのことだろう。昨晩の心にいた彼は男で、こよみが戻るまでは俺が代役を務めると言っていた。こよみの中身が今は彼であることをこいしは何らかの手段で知ったのだろう。

 

「どうしたの?」

 

 ペンを置き、慌てるこいしに駆け寄り、なだめながら状況の説明を求める。

 

「お兄さんが、外がおかしいからって1人で様子を見に行っちゃったの。今考えると確かに外はおかしくて、でも私は一緒に行けなくて、」

 

 確かに耳をすませば外から祭囃子が聞こえる。いつも賑やかではあるが、今回はまるで祭りでも開かれているような騒ぎだ。外に目を向けると確かに煙が上がっていたり、誰も彼もが踊っていたり。異常と言われれば異常だ。何より、今日祭りがあるなどという話は聞いていない。

 

「私たちも様子を見にいきましょう。こよみも一緒に探します」

 

「うん」

 

 ドアを開け、廊下を走る。彼はただの人間だ。私たち妖怪よりもずっと弱い。飛行に失敗すれば普通に死ぬだろうし。妖怪に攻撃されればタダでは済まないだろう。そんな彼が異常が起きている街に繰り出すなどあまりにも無謀だ。

 

「街の何処に行ったのかは分かる?」

 

「ううん。わかんない」

 

 気づけば玄関まで来ており、驚くペットたちを気にもせずそのまま飛び出し、飛び立つ。彼が行きそうな所を思い浮かべるが何も浮かばない。だが、彼が頼るとすれば一度でも会った妖怪だろう。もし彼のままなのであれば秘密を守るためにもそうするのが合理的だ。ふと後ろを振り返るとこよみの部屋の窓だけ開いていた。あそこから飛び出したのだろう。

 

「ヤマメさんを探しましょう」

 

 だが、これだけの妖怪の中から一人の妖怪だけを探すというのは現実的に厳しい。まず、目星をつけて探すのが一番効率的だろう。彼女のいそうなところを必死に思い浮かべるがあまりに出てこない。もとより彼女は自由奔放、どこにいてもおかしくは無い。なら、いつも定位置にいるヤマメと親しい妖怪に聞くべきだ。それなら一人、心当たりがあった。橋姫である彼女であればいつもの位置に居るだろう。すぐにこいしを連れて橋を目指す。何よりも早く彼を見つけ出さなければ。

 しばらく飛んだのちに喧騒を尻目に橋の中央で街を眺めている橋姫、嫉妬を操るという能力と、あまり人に関わりたくないという理由で地底に降りたパルスィさんを発見する。

 

「パルスィさん」

 

「あら、さとり妖怪。珍しく焦ってるわね、どうしたのかしら」

 

 こちらの焦燥を気にすることなく彼女はのんびりとこちらに視線を移す。宝石のような金髪が動きによって揺れ、深緑の瞳がこちらを捉える。黒いワンピースの上に法被のような服をきた彼女は和風ではあるが、金髪のお陰かいつもどこか少し周囲から浮いている。その浮いている理由というのは彼女が持つ能力も影響しているだろうが、今はそれを気にしている時間はない。

 

「ヤマメさんを見かけませんでしたか?それか、こよみを」

 

「こよみ?あぁ、あの勇儀が言ってた子ね。顔も見たことないし知らない。でも、ヤマメならさっきあっちの方に行った」

 

 祭囃子はうるさいが話を遮断するほどではない。役目を終えたことを理解してか、パルスィさんはまた橋の中央で真下に流れる川を鑑賞し始める。

 

「ありがとうございます」

 

 そうとだけ言い残し、先ほど言っていた方向へと向かう。にしても本当にこの祭囃子はなんなのだろうか。踊る妖怪たちも、どこかおかしい。心を読んでも楽しいという感情しか感じ取れない。

 

「おねーちゃん、あれ!」

 

 突然声を上げたこいしが指を刺す方向を見ると見覚えのある金髪が目についた。茶色のリボンでポニーテールにまとめた金髪。蜘蛛のように膨らんだワンピース。ヤマメさんで間違いなかった。彼女は何かを探すように上空を飛んでいる。

 

「ヤマメさん。こよみを見ませんでしたか」

 

 柄でもなく、大きな声を出す。驚いたようにこちらを見た彼女はこちらに向かって飛んでくる。

 

「どしたの」

 

「こよみを見ませんでしたか?」

 

「見たよ。でも、さっき地霊殿に戻って行ったと思うけど」

 

 彼女は不思議そうにこちらを見る。彼女の記憶を覗くが、異変解決の誘いを断った後、地霊殿に確かに飛び去るこよみを確かに見ていた。

 

「追おうかと思ったんだけど。向かったのが地霊殿だし大丈夫かなぁと思ってね。何かあった?」

 

「いえ、なら安心しました。一人で行くものですから不安になって」

 

 安心した。ただ、すれ違っただけのようだ。地霊殿に戻ればきっと私たちを探しているこよみを見つけられるだろう。

 

「うん。ならよかった。でも、本当になんだろうね。これは、」

 

 眼下を見るヤマメ。そこには相変わらず踊る妖怪たち。楽しそうではあるものの、同時に不気味でもある。そんな彼女たちの横を風が吹く。誰かが通り過ぎたような風だった。

 

「そうですね。博麗の巫女に相談した方がいいかも知れませんね。こよみを見つけ次第連絡したいと思います。地上の様子も知りたいですしね」

 

「うん。よろしく」

 

 ヤマメはこちらに手を振り、彼女の居場所である洞窟の方へと飛んでいった。いつもならまだ遊んでいるような時間だろうに不気味だったんだろう。

 

「こいし。帰りましょう。こよみも帰ったみたいですし」

 

 飛び去ったヤマメに背を向け、地霊殿へと戻る。こよみのためにも早く帰った方がいいだろう。

 少し飛んだ後に私の部屋の窓が空いていることに気づく。それと対照的にこよみの部屋の窓は閉まっていた。ただ、こよみがまた私たちを探すために開けたとすればなんの問題もないこと。ただ、何故か不安が襲う。そんなにもすぐに探しに行くだろうか。ヤマメさんの記憶からすれば本当に入れ違いのような状況だろう。私たちがパルスィさんと会話している間に戻ったのだろう。それに、探していると言うなら焦っているとはいえ、いくらなんでも気が早すぎる。私たちも探していると言うのは簡単に想像がつく筈だ。

 

「おねーちゃん」

 

「あの窓から入りましょう」

 

 窓から入るのは作法的に間違っているというのは理解している。ただ、今はそんなことを言っている場合ではない。何かとても嫌な予感がする。窓から入ると鉄の匂い。ベッドの横には血痕があり、何かを防ぐように立てかけられた机にはナイフが突き刺さっている。

 

「こいし!離れないで」

 

 背中を合わせて部屋を隅々まで確認する。窓も開いていたが、ドアも開いていた。恐らく襲われたのはこよみ。お燐やお空であれば多少の抵抗は出来るはずだ。もっと部屋が荒れる。そして不意打ちで一撃で仕留めたのなら机で守るなどという事はできないはずだ。お燐とお空以外のペットであれば机を壁に立てかけ、攻撃を防ぐなんて真似は出来ない。

 

「お燐!」

 

 呼びかけるが返答はない。虚しく部屋に残響した。気づいていないだけだと信じたい。

 まずは寝台を探すが残された血痕以外のものは何一つ見つからなかった。だが、こよみも居ないとなれば逃げている可能性もある。だが、同時に連れ去られたと言う可能性もある。そのままクローゼットを開くが、やはり誰もいない。私の服がいつものように掛けられていた。

 

「無事でいてください」

 

 願うように告げる。だが、その願いが叶っているのかは彼女にはわからない。

 

「おねーちゃん。お兄さんは大丈だよね」

 

 部屋の真ん中でこいしは立ち尽くしている。こいしにとっても彼は家族、過去ではそれを失うことは日常茶飯時だったが、最近は全くなかった。そんな私たちはだからこそ、家族愛が他の妖怪よりもずっと強い。それをなくすというのは付き合いが浅いとはいえ大きな心へのダメージになる。

 

「ここにいないということはきっと逃げてる。きっと無事」

 

 きっと、多分。そうとしかいえない。だが、人間である彼が妖怪の追撃、追走を振り切れるかと問われればかなり厳しいのが現実だ。当たれば致命傷、反撃は出来ず、逃げる速度も無ければ逃げる能力でもない。となれば....

 考えるのことをやめる。どうやっても逃げ切れるイメージが湧かない。

 

「お燐を探しましょ」

 

 一縷の可能性もとして、お燐やお空。ペットたちが撃退、看病を行なっている可能性がある。急いで部屋を後にしようとした時、背後から視線を感じる。

 

「古明地さとり」

 

「八雲藍さんですか。何用ですか?」

 

 そこにいたのは九尾のきつね。といっても狐の尾を9本持つ、漢服のようなゆったりとしたロングスカートの服に青い前掛けがついた服を着こなした狐耳の生えた金髪の女性と判断するのが正しいだろうか。

 

「彼、いや彼女はどこでしょうか」

 

「こよみの事ですか?」

 

 彼女は少し不思議そうな顔をするが、すぐに何かに気づいた。

 

「そうです。ただ、この様子だとそれどころではなさそうですね。まさか彼女に何か?」

 

 彼女は八雲紫の使者だろう。ということは私かこよみに何かを伝えにきたのだろうが、彼女の言う通り今はそれどころではない。こんな会話をするよりも先にこよみを探しに行きたい。

 

「恐らくこよみが何者かに襲撃されました」

 

 部屋を見れば誰でもわかる情報だ。凶器も血痕もその場に残されている。

 

「安否は確認できていますか?」

 

「いいえ...」

 

 今すぐにでも駆け回って探したい。だが、このタイミングでの八雲藍の訪問はタイミングが良すぎる。何かあるはずだ。それになんのヒントもなしに探し回ったところで見つかる可能性はほぼない。

 

「そうですか。私は今回紫様の使者としてではなく、ただ感謝を伝えようと思っただけなのですが。取り敢えず、紫様にこの件を伝えてきます。あの方としてもこよみさんは重要人物でしょうから」

 

 家族のことを他人に頼るのは歯痒いが、能力を考慮すれば八雲紫が探した方が確実で、早い。こよみは間違いなく怪我をしている。そんなプライドに身を任せ手遅れにはなりたくない。

 

「よろしくお願いします。私たちも探しますのでこれで」

 

「ではこれで、また何かあれば連絡します」

 

 そう言い残し、八雲藍は煙のように姿を消す。

 

「こいし!」

 

 声を掛けるがこいしはもういない。部屋には静寂だけが残される。恐らく無意識を利用してこよみを探しに行ったのだろう。

 

「私も」

 

 一人の少女が部屋から駆け出す。残された凶器は冷徹にもテーブルに突き刺さり、赤い液体を垂れ流している。

 

______________________________________________________________________

 

 

「なんなんだよ.....俺はただ呑気に生きたいって思っただけじゃねぇか」

 

 腹部を押さえながら幻想郷の空を飛ぶ、既に地底からは脱出した。空には朧げに三日月が上っている。あの時あの瞬間、咄嗟の判断で相手を騙してテーブルを俺と誤認させた。だが、刺した結果何も滴らなければ、刺した感触がテーブルでは騙せはしない。だから、俺の身体を掠らせるつもりだった。だが、そう上手く事は運ばなかった。思った以上に深々と横腹を切りつけられてしまった。あの後、窓を開き逃げる程度には動けはしたが、出血は酷い、服を濡らし終えた血液は足から地面に垂れている。どこかで出血は取り敢えず押さえろと言われた気もしているので押さえているが意味があるのかはわからない。それに加えて、とんでもない激痛が走っている。だが、痛いからと言って逃げる足を止めればいつ捕まるか分からない。死ぬ方がマシな痛みというわけではない。なんにせよ、どこか身を隠せるような場所を探さなければ。だが、身を隠すと言っても眼下は森、さとりの話では地上にも妖怪がおり、人を襲うと聞いた。怪我を負った人間を一晩見逃すほど甘くないだろう。

 

「あー、くっそ。マジで。拐われて、さとりに会って.....家族になって。突然襲われて」

 

 舌打ちする。もう....視界がぼやけている。限界は近いのだろう。気絶で済んだとしても生きて目覚める事はないだろう。詰んでいる。それに今こうして飛んでいる空も安全とは言い難い。妖怪も空は飛べるはずだ。早急に安全地帯に行く必要があるが、地底は戻ったところであいつが待っている可能性がある。それに戻ればさとりも危険に晒されることになる。さとりは腕力が強くない、凶器を持った人間なのか妖怪なのか分からんあいつに勝てる確証はない。町の妖怪は様子がおかしかった。鬼だと見ればわかる勇儀であれば勝てる可能性があるが、この怪我で逃げながらあの街の中から見つけるのは厳しかっただろう。もし見つけられたとして、この世界のルールとして能力というものをあの女も持っていると考えるのが妥当だ。とすれば誰でも確実に勝てる確証はない。せめてもう少し情報があれば良かったが、そんな余裕はなかった。

 

「いてぇよ.....クソ」

 

 唯一の救いはこの飛行は脱力したままでも行えることだろうか。こんな怪我で走って逃げるようなことになればここまでは逃げることも出来なかっただろう。ぼやける視界の先に煙が見えた。気づけば眼下には竹林が広がっている。妖怪も火をおこすだろうが、それだけ理性的な妖怪がいるのだろう。もしかすると匿ってくれるかもしれない。わずかな希望ではあるが、それにかけるほかない。だが、警戒するに越した事はないだろう。少し高度を下げ、竹の上から様子を確認する。

 そこにいたのは足首まで白髪の伸びた人影、人外というわけでもないだろう。上空からは赤と白のリボンも確認できる。またまた女性だろう。雰囲気もおかしくはない。一か八かに掛けて声をかけることにした。高度を降下などしないようにゆっくりと下げる。顔に笹の葉が当たるがそんな事は気にしてられない。

 

「こんばんわ」

 

 白髪の少女の後ろに降りるが、足に力が入らず、座り込んでしまう。飛んでいたから気づかなかったがすでに色々と限界らしい。

 

「こんな夜遅くに一体何の用だい?」

 

 ゆっくりと振り向く少女。白い髪が炎を反射して輝いている。焚き火に触れてしまわないか少し心配になるがそれどころではない。

 座り込み、赤い血で濡れた身体を見た少女が慌てて駆け寄ってくる。

 

「いや、一体何があったんだ?ここにくるまでに妖怪に襲われたのか?いや、あんた見覚えあるな.........そうだ。あの天狗の新聞で見た地底の外来人か!」

 

 あの黒い羽の生えた天狗の新聞記者の新聞を読んだのだろう。確か名前は....文だったと思う。俺はまだ見ていないが、すでに発行されていてもおかしくはない。俺には届かないから未だにできていないのだろうと思ったが、地底は遠い、届けてくれと言ったが、色々と問題もあったのだろう。

 

「あぁ...たぶんそれで合ってる。でだ、唐突なんだけど、できれば匿ってくれないか、変なやつに急に襲われたんだ。この傷が塞がるまででいい」

 

「あんた、人間だろ?その傷は自然に治る前に死ぬぞ」

 

 間違いない。この出血量からして包帯などの適切な処置をしなければ出血多量で死ぬ。だが、ここに外の世界のような施設はないだろうし、俺もそれに関する知識はない。どうしようもない。地が止まらなければ死ぬ、それだけだ。

 

「そんな気はするけど、どうしようもない。治らなかったら死ぬってだけだ」

 

「諦めが早いな。ただ、運が良かった。私がその傷を治せるやつの居るところまで案内しよう。そこまでの道のりで死ぬなよ。ついてきな」

 

 俺の運も捨てたものじゃないな。だが、すでに体は限界、そこまでの道中で死んだら意味がない。正直、想像を絶するほど痛いし、体は重い。もうここで絶えてもいいかと思うレベルだが。ここで死ねばさとりに申し訳なさすぎる。もう、別れも告げずにさよならはしたくない。

 少女の体の少年は、激痛の最中、ただ家族を悲しませない為だけに飛ぶ。前を行く少女は笹の葉の隙間からこぼれる月明かりだけで前に進み続ける。静寂に包まれた竹林の中で、一人の足音だけが響いていた。

 

 

 

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