人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 一つの画用紙がある。そこに描かれた絵を塗りつぶすように虹の絵を描く。そこにあったはずの絵は一体何だっただろうか。とてもきれいな虹の下に埋もれた絵は二度と見つかることはない。


2話 身体が女の子になるってことはいろいろ問題ありませんか?

 今、とんでもない問題が起きていた。さとりはもういない、地霊殿のトイレや風呂などの位置の説明をひとしきりした後に自室に帰っていた。そして起きている問題というのが...尿意だ。トイレに行きたい、だがトイレに行くという事は自動的にみるということになる。することに慣れているならまだしも正直座る事くらいしか知らない。それに加えて今は問題ないが風呂もある。俺は正真正銘男だ。身体は女だが、心は男だ。いや...なんかおかしいな。だが今はそんな事を考えている場合ではない。

 

「いやマジで、本当に笑えない」

 

 もう、どうせ女として生きていくなら慣れてしまった方がいいのか。だが、家族以外の初めて見る異性の体が自分とは何とも言えない気持ちになる。

 

「覚悟決めるか」

 

扉を開いてトイレへ向かう。

 

少ししてベッドに座る少女の顔は少し陰鬱だった。

 

「......」

 

 見てしまった。見ざるを得なかったから仕方がないと自らに暗示のように唱え続ける。こんなことなら彼女作ってみるべきだったかな。ここまで考えて、顔もよくなければ根本的に女性が苦手だった俺には無理かとあきらめた。

 悲しみを背負いながら部屋へと戻る。微かに薔薇の匂いがする部屋に戻ってきた。にしても本当にすることがない。外の世界では暇なときにゲームをしていたがこの世界にはまだない。スマホはさっき確認したが、電波が入っていなかった。その上、今は充電することが出来ない。下手に使いすぎて充電がなくなれば、電気が通るまでの間使うことは出来なくなる。それは避けた方がいい。写真を撮りたい時にでも使うことにしよう。

 

「あーまじで」

 

 頭を様々な嫌な思い出がよぎる。それは恥ずかしい思い出だったり、単純に痛い思い出だったりと。様々だ。昔から記憶力が少し良かった。勉強には使ったことはない。怖い先生の授業の時などには使ってはいたが覚えたくないものはあまり入ってこなかった。入ってきたのは嫌な思い出。日常のふとした瞬間に想起する。何かトリガーがあるわけではない。ただ、まるで空を見たら偶然妙な形の雲があったようにふと現れる。そしてしばらく後に消えていく。

 

「どうしました?」

 

 いつの間にか部屋にさとりが居た。ベッドに腰をかけている。トイレに行っている間に入って来たらしい。

 

「いや、暇すぎてね。あっちだとゲームしてたんだけど、ないからさ。なんかすることある?あ、まってそういえばさ。俺の能力ってなにさ。あの言い方なら多分あるでしょ」

 

 少しの静寂。なんとなく、本当にただ何となく嫌な予感がした。

 

「ああ、そのこと...ですか。お伝えする前に、あなたがなぜ地底に連れてこられたのかから説明します。いうなればここは隔離場所です。他人に害を及ぼす妖怪が連れてこられたり、自ら来る。そういう場所です」

 

 彼女の説明からするに、恐らく俺は良い能力を持っていないのだろう。それだからこそ、ここへと連れてこられた。いや、良い能力かもしれないが他人を傷つけるようなものと理解することもできるか。

 

「なるほど。覚悟はしてねってことか。いいよ聞く」

 

「理解が速くて助かります。能力というのは基本一つですが、あなたは特例で二つです。一つは同調する程度の能力。そしてもう一つが、騙す程度の能力」

 

「おー。厨二心をくすぐる良い能力。ただ、確かになかなか他人には恐ろしい能力だね。騙すのは言うまでもないし、同調って下手したら心を読むよりも嫌われそうだ」

 

 自嘲気味に笑う少年。だが、目は笑っていなかった。他人にはあまり分からない差だが心を読むさとり妖怪だからこそ分かったことがある。彼は極端に感情の起伏が少ない。少ないというよりか、ないといった方がいいのかもしれない。彼は笑うし、感情の起伏もありげなのだが心の底からではなく、表面上だけで笑い、感情を表していた。

 

「実はまだ続きがあって、あなた外でも能力を持ってましたね?同調の方を」

 

「もしそうだったとしても俺がそれを認識することは出来なかったよ」

 

これは真実だろう。私が彼にあまり能力を教えたくなかった理由がある。それは彼が善人か悪人かが分からないという事。彼の能力は私の能力からすれば脅威だ。騙されてしまえばば心は読めない。心情が本当かどうかを判断するすべはない。だが、彼は同調でこちらの大まかな考えは読んでくる。この能力は嫌いだ、けれど無いとなるとそれはそれで恐ろしい。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。俺はさらわれたことに対して恨んでもないし、報復を考えてもない。実際にそんな能力があるんだとしたら俺はここに連れてこられて当然だよ。逆にそれを知られてたら俺はきっと迫害されてた。ある意味では感謝してる」

 

 その発言に恐怖を覚えた。これは恐らく彼の優しさだ。不安になっている私に同調しての発言だろう。彼の能力の存在を知らなければそこまで何も感じない。だが知ったうえでこの状況なら話は違う、彼は私に同情した。という事は無意識下であったとしても能力を使いこなしている可能性が高い。外の世界でも同じように使っていたのだろう。

 そしてこの能力はどこまでも優しくて、どこまでも自虐的だ。彼はそれに気付いているのだろうか。

 

「そう..ですか。ところで河童に会うなら明日私と地上にいきましょう。貴方を地上の博麗の巫女という人に合わせておきたいので」

 

「巫女さんか。おっけー、ところでご飯とかって妖怪は食べない感じ?」

 

「お腹空きましたか?」

 

 ちらりと時計を見ると5時を回っていた。

 

「もうこんな時間なんですね。準備してもらいますか」

 

 ドアが開き一匹の黒猫が入ってくる。耳には黒いリボンがついており、尻尾が2本あった。猫が開けられるようなドアではない気もするが。容易に開いていた、開けやすい造りなんだろうか。

 

「さとり様、ご飯の準備ですか?」

 

「猫が喋った?!」

 

「失礼な奴ですね。死にます?」

 

「いや、こっわ」

 

 愛くるしい見た目に反して恐ろしい事をいう猫だ。そういえば尻尾が二つの猫の妖怪がいたような。二又だったっけか。

 

「ふふっ、二股...猫又ですよ。ふふふ」

 

 耐えきれないと言ったようにさとりが笑い始める。

 古明地さとりが俺の心の中を言語化したせいで、明確に猫からの殺意が増した。多分これはさとりの悪癖だろう。にしても今からこの猫が食べるご飯を食べて俺は無事なんだろうか。死にはしないだろうか。

 

「さとり様......この女やっぱり殺して良いですか?毒殺とかで」

 

「ダメですよ。この子は私が引き取ったので仲良くしてください」

 

「いや、俺猫アレルギーだから多分近付いたら死ぬ」

 

「それはいい事を聞きました」

 

 そういうと猫は俺に向かって突進。身体を俺に擦り始める。あぁ....死んだな。そう思うのも束の間。当然くしゃみと涙が止まらなくなる。同じアレルギー持ちなら理解してくれると思うが本当に辛い。それを見ていたさとりはと言うとめっちゃくちゃに笑っていた。許せない、許せないが、不安が消えたようで何よりだ。

 

「ねぇ、めっちゃスースーするんだけど」

 

「それがスカートですし」

 

 俺は猫の毛まみれになった服はもう着れず。洗っている間は他の服を着る事を強要された。当然外に世界から服を持ってくることはできない。もし出来たとして。今は身体が女になっている。ただでさえ持っている服が少なかったから着れるものは更に少ないだろう。ということでさとりの服を着ていた。薄桃色のスカートに、白いフリルが付いている。上は、気を遣ってか薄桃色ではあるもののシャツにしてくれていた。ただ、シャツと言っても襟や袖がフリルになっている女性用のものだ。ただ、胸元がきつい。

 

「似合いますね」

 

「嬉しく無いなぁ...」

 

 鏡に映る女の自分を見て絶妙な顔をする。と言うか未だに自分が女になったことは理解できていない。息子はいなくなり胸もできたが心はしっかり男だ。

 

「にしてもなんですかこれは」

 

 後ろからさとりに胸を掴まれる。

 

「痛いんだけど?!」

 

 冗談抜きに痛い。シンプルに。つねられるようなそんな感触。掴んでいるというよりかは鷲が掴んでいるといった方が正しいだろうか。初めて見たときは筋力はなさそうだと思ったが力が強い。たまにいる握力ゴリラの類だろうか。

 

「失礼過ぎません?」

 

 力がさらに加わっていく。失念していた、彼女は心が読める。

 

「イタイイタイ痛い痛い!もげるって!急にどうしてそんな暴力的になるのさ」

 

 やっと手を離したさとりから距離をとる。そして目線を下にそらし、なんとなく理解してしまった。にこりと笑ったさとりが近づいてくる。

 

「笑ってるの?それ、邪悪な感じすごいんだけど」

 

 少しずつ距離を取り、背中が壁に触れたその瞬間。

 

「ご飯ですよさとり様。って何してるんですか....」

 

 ドアを開けたのは黒髪の女性、朱い髪、黒い耳には黒いリボン、二本の尻尾と声からさっきの猫だと断定できる。服装はなんだこれは初めて見た柄だ。ワンピースだとは思うが、緑のフリルに表現できない柄がついている。靴はバレエ靴のような、真黒なもの。くつひものかわりに黒いリボンがついている。

 

「因みに私は猫又ではなくて火車です。知ってます?」

 

「いや全く」

 

 猫又ならまだしも火車は全く知らない。その少女は嘆息してまぁいいかとでも言いたげに笑う。

 

「......まぁいいよ。一応名乗っておくね、もう敬語とか要らないでしょ。私は火焔猫 燐。ここでさとり様に使えてる従者だと思っていいよ」

 

「敬語マジで使われるの苦手だからありがたいな。お願いだからさっきみたいなことはやめてな、死ぬかと思った」

 

 事実敬語は苦手だった。過去に後輩がいたことがあったが、彼らにも俺だけには敬語を外してくれといった覚えがある。敬語はどこか距離を感じる。

 

「はは、それは失礼。ところであなた名前は?私は名乗ったよ」

 

「そう。それなんだけどさ。新しい名前くれたりしない?俺元々男だったのに女になるわ能力あるとか何とかで折角なら名前変えとこうかなって。心機一転ってやつ」

 

 前の名前が嫌いだったとか、忘れたとかそういう話ではない。ただ、なんとなく。本当に心機一転。それだけだ。新しい自分の人生、それに過去を持ち込みたくない。それに名前を呼ばれるたびに家族のことを思い出しそうだ。

 

「いいですね。ご飯食べながら考えます」

 

 そういって、さとりは部屋を出る。その背を慌てて追う。スカートまじで動きにくいな。

 そのまま食卓へと向かう。なんとなく察してはいたが、この屋敷は大きい。外の世界でいうところの宮殿程度の大きさはあるだろう。家というレベルではない。

 

「めっちゃ大きいな」

 

 歩くこと数分、やっと食卓に到着した。並んでいたのは豪勢な食事。鳥、肉、豚、様々な調理をされた料理と、空腹を誘うにおいで充満していた。

 

「今日はお客様が来たからね。ちょっと豪華にしてみたよ」

 

「すげぇ...ドラマとかでしか見たことないぞこんなの」

 

 椅子の多さからしてそれなりの人数がいるのだろう。彼女たちの座る席は元から決まっていたようで迷いなく座る。先ほどはいなかった背中にカラスのような羽を生やした少女もいる。長い黒髪を緑のリボンでポニーテールにしている。だが最も特徴的なのは胸もとにある巨大な赤い宝玉か眼のような石だ。雰囲気からしてなんとなく天然な気がする。

 椅子はすべてで5個、余ったさとりの横ではない方の席に腰掛ける。

 

「今日も来ませんね」

 

「そうね、でも待ってもきっと来ないわ。食べましょう」

 

 さとりは何かに悲しんでいるようだが、いったい何のことかは分からない。俺にできるのは同調まで、悲しんでいれば悲しんでいるというのはわかるが、一体何を悲しんでいるのか、それを理解することは出来ない。この考えはすべて美味しそうだなご飯という物に偽っているので恐らくさとりには読まれない。もしこれで読まれるようであれば、さとりの前でこの謎について頭の中でも触れたり、この先触れることがるかもしれない本人が本気で嫌がるような話題には触れないようにしよう。

 それから食事が始まった。先ほどの少女が霊烏路 空という事を教えてもらったり。やはり雰囲気どおりの天然だったり。和気あいあいと食べているような雰囲気ではあったが、さとりだけは心のどこかで本気で楽しんではいなかった。横の空席からしても誰かを待っているのだと感じた。恐らくそれに従者と名乗っている二人も気づいているがあえて触れていない。

 

「あー、まじで」

 

 ベッドに転がりながら天井を眺める。食事を終えた後、俺は割り当てられた部屋へと帰っていた。そこでまた嫌な思い出を思い出す。

 正直、騙す程度の能力に関しては想定外ではあったが、同調に関しては彼女の言った通り、言われてみれば思い当たる節があった。心が読めたりするわけではない、ただ何となく感じる。相手の喜怒哀楽が感じ取れる。会話をしている最中に、他人の横にいるときに。自分ではない何かの感情を感じる。そしてこれはとても...気持ちが悪い。その時抱えていた感情を上から他のもので塗りつぶされるような。腹の中を虫に蹂躙されるような、そんな感覚だ。そして、それが過ぎ去ると自分が何を思っていたのかを忘れる。真っ白な紙になって帰ってくる。

 

「こんばんわ」

 

 ノックの音で、体を起こす。

 

「どうぞってあれ、どうしたの」

 

 ドアが開き、さとりが入ってきた。突然の訪問、そのままベッドに座る俺の横に座る。

 

「外の世界、暮らしにくくなかったですか?その能力私のものとすごく似ていて悩みがわかるというか、何というか」

 

 要は心配してくれているのだろう。優しいな。

 

「まぁね。でも、悪いことだけでもなかったよ。相手が本気で嫌がることも喜ぶこともこれのおかげでわかったんだと思う。それに俺、友達とかも少ないタイプだったからさ。疲れることもなかったし」

 

 自嘲的に笑う。嘘はない。実際友達は少なかった。大学でも、高校でも陰キャと分類されていただろう。実際、この能力を使えば友好関係は簡単に広がる。小学生のころふとした気の迷いで友達をたくさん作ってみたことがあった。でも、その引き換えにとても疲れた。肉体的にではなく、精神的に。その時は向いてないんだなと思っていたが今思えば心がすり減っていたのだろう。

 

「なら、良かったです。ところで、一緒にお風呂に入りませんか?いろいろと外の物とは違いますし、お教えしようかと」

 

 思考が止まる。この少女は今なんと?

 

「一緒にお風呂に入りましょうって言ったんですよ」

 

「いや、俺は男なんだけど。身体はこれでも心はしっかり」

 

「でも身体は女の子じゃないですか。なら何も問題ないと思いますが」

 

 正直、さとりはかわいい。さとりだけでなく、この世界に来てからあった人々はみんなかなり顔立ちが良かった。個人的な趣向としてはさとりが一番かわいいと思った。だが、それならなおさらその人とお風呂に入るというのはダメではないだろうか。身体は女であっても心は男だ。少なからず興奮もするだろう。いやだが、それはこの状況だと所謂百合になるのか...?俺は端から見れば一人称が俺の女だ。男風呂か女風呂どちらに入るのが正しいかと言われば女風呂だろう。さとりの裸を見たくないかと言われればそれは嘘だ、俺だって男、かわいい女の子の裸は見たい。でもこんな欲望を今の状況を利用して発散するのは.....

 考えれば考えるほどわからなくなる。どちらの判断も同じくらい正しい気がしてきた。

 

「じゃあ。私が一緒に入りたいので入りましょう。これならいいですか?」

 

「え。あ、うん。え、よろしく、お願いします?」

 

 今後はどうせ女子風呂に入るほかないのだ。あきらめる他ない。俺は女の子だから.....。

 そんな言い訳をしつつ、さとりとともにお風呂セットをもち風呂場へと向かった。

 

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