人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います 作:黒犬51
あなたは人類をその根本は素晴らしいものだと思いますか。
3人の少女が地底へと続く長く暗い洞窟を抜けて地底にたどり着く。砂埃の舞う砂漠の先に見える町からは祭囃子がかすかに聞こえ、至る所から黒煙が狼煙の様に地底の天井へと立ち昇っている。
「霊夢」
「ええ。行くわよ。魔理沙」
箒に両足を乗せて飛行する黒のとんがり帽、ゴスロリの服。いかにも魔女という様な格好をした少女とそんな彼女に霊夢と呼ばれた赤と白の巫女服を纏った少女が目を合わせる。
そして3人目である兎耳にセーラー服といういつも格好の鈴仙に目配せして、一気に加速。地底の町へ急ぐ。近付くほどに祭囃子に混じって悲鳴と慟哭が太鼓の様に聞こえ始めた。
町に到着した一行は、その地獄を見て絶句する。
皆血を流している。道では妖怪たちが骨や筋肉を露出させてなお、雄叫びを上げながら殴り合い、動かなくなった妖怪の四肢を食いちぎっている。その影響か、道にはまるで小石の様に妖怪の一部が転がっており、地面はその血を吸って赤く赤黒く染まっている。穏やかだった町の中心を流れる川は、薄桃色に染まり、臓物が泳いでいた。
その惨状を見た鈴仙が街の先に佇む地霊殿を見据える。
「こよみさんが無事かどうかが気になります。まずは地霊殿に向かいましょう」
霊夢と魔理沙、この2人が頷いたのを確認し、鈴仙は未だに惨劇の続く地上からの襲撃に警戒しながら町の上空を飛ぶ。ただ、魔理沙と鈴仙。この2人は彼女の生存は絶望的だろうと考えていた。
彼女はまだ幻想郷に来たばかり、そんな元人間がこんな地獄を目にして正常でいられる訳がない。そして、もし正常でいられたとしても、その後生き残ることが出来るかと言われれば首を縦には振れない。しかし、そんな重い空気を霊夢が破る。
「先に言っておこうかしら。私は彼女、元彼って言った方がいいのかしら。無事だと思ってるわ」
ただ、博麗霊夢。彼女だけは彼女の生存に肯定的だった。突然の発言に2人は驚いて霊夢を見る。
「おいおい、私は一回あったけど。アイツはただの人間って感じだったぞ。なんでそう思うんだよ」
博麗霊夢は彼女に初めて会った時を思い出す。
こよみは古明地さとりと地上に挨拶回りをしている際に一度会っており、短いながらも会話した。そこで感じたのが、神でも、妖怪でも、神霊でも、人間でもない。けれど、その全ての気配がある。その曖昧さ。
「彼女、今まで会った全部の生物の中で1番気味が悪かったのよ」
それを聞いた魔理沙が豪快に笑う。おいおい、と言って腰に下げた小さなポーチの中から8角形の手で握り込めるサイズの筒を出す。
「気味が悪い?ヒドイこというな。私と会った時はそんなこと無かったぞ。霊夢が怖くて腰が引けてたんじゃないか?」
それを聞いていた鈴仙は何も言わない。ただ、納得もしていた。初めて会った時、そしてさっき会った時。ずっと感じていた違和感。それは彼女という生物が一体なんなのか。それがわからない。会うたびにその性質は移ろいでいた。
「鈴仙はわかってくれているようで良かったわ。でも、私はこれが思い違いであって欲しいのよ」
霊夢は、その先も何かを言おうとしたが、首元まで出たそれを飲み込む。
それを見た魔理沙は大きく一つため息を吐き、先程取り出した8角形の筒を一層強く握り込む。
「鈴仙もわかってるのかよ。なら、これが終わった後に教えてくれよな」
目の前には地霊殿が迫っている。すでに破られた門の前にはピンク色の山が白い脂と赤い液体を垂らしている。地面には染みることの出来なかった脂が広がり、白い薄膜を形成していた。
門の中ににはそこまで死体はないが、綺麗な水を噴き上げている筈の噴水には肉だった筈のものが浮いている。
綺麗に咲いていた筈の花々も跡形もない。そして、最も目を惹くのが転がっている巨大な蜘蛛の体だ。所々にやすりに掛けられたような傷があるが、それでもその大きさは計り知れない。
そして、その一行の足元を抜けて、館に入ろうと駆け込んだ妖怪の首元と足を2つの白い軌跡が切り裂く。
「ほらね」
そういった霊夢の指し示した先には館のすでに破壊された門の前に浮いたこよみがいた。ただ、その全ては赤黒く染め上げられている。髪は血と脂で固まり、元の色がわからない程に染め上げられた服は既に服としての役割は二度と果たせないだろう。その横にそれを護るかの様に白く輝く1本の剣が浮いている。
「いや、無事......なのか……?」
魔理沙が止まり、一行が止まる。
一体何が行われたのか。そんなこと、誰にでもわかる。あの少女が、あの前の肉塊を作ったのだろう。外から来て間もないはずの人間が。
「......ちょっと、無事なの?」
その姿を見て、何か思うところがあったのか。霊夢だけが2人を置き去りにこよみの元へと飛ぶ。その後を警戒しながら2人が追う。
「博麗霊夢、だったっけ。
含みのある言い方。既に破られた扉の中を霊夢が覗く。そして、ただごめんなさいとだけ言って。魔理沙に向き直る。
「これをどうやって解決するかよね」
相変わらず流れる祭囃子。合いの手は絶叫と慟哭。博麗霊夢は長年の勘でこの音楽に原因があるということは朧げに理解していた。しかし、だからといって何かが出来る訳ではない。
「それについては、にとりに任せてある。そろそろ音の発生源がわかるはず」
示し合わせたかの様に窓が開く音がしたかと思うと、そこから青い作業服の袖が手を振っている。恐らく、にとりだろう。
「おーい。無事かい?やっと発生源を見つけた。それで、位置なんだけど。って大丈夫なの?血塗れだけど….」
身体をのり出すにとり一仕事終えた筈の彼女だが、その表情は暗い。こよみを見てからではなく、身体をのり出す前から。それに気付き、何かとても嫌な予感を感じたこよみは同調で一歩先に情報を得ると、血相を変えて身を翻し、館へと飛び込む。
「お、おい。どこ行くんだ?!」
それを見た魔理沙が後を追おうとするが、それを霊夢が制する。
「私が追うわ。鈴仙と情報を聞いてその場所に向かって、多分同じ所に向かうでしょうけど」
そう言い残し、霊夢は、館へと入って行ったこよみの後を追う。
血塗れのこよみが館に飛び込んでいったのを心配そうに見つめていたにとりに魔理沙が声をかける。
「にとり、霊夢がいれば大丈夫。わかってるだろ?続けてくれ」
「あ、あぁ。場所は、ここの地下だ」