人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 貴方は、自分が救える人はどれだけいると思いますか。


24話 終幕

 

 床に落ちる生き物だった物の上を飛び、こよみは一つの扉の前に着く。明らかに他の部屋とは違う分厚さを持った扉は既に開かれており、その先には延々と下に向かう螺旋階段が続いている。所々に置かれたランタンが、階段に残された赤い道をぼんやりと照らしている。

 そして、その先から祭囃子が聞こえてきている。

 こよみはその暗闇を睨む。地上に音の発生源があると思っていたが、そうでは無かった。地上にあるならこの下から音は聞こえないはずだ。ただ、それでもどうやってあれだけ街に響かせているのか。その疑問は残る。覚悟を決め、階段を降りようとしたとき。

 

「あなた1人じゃ無謀よ」

 

 背後から声を掛けられる。こよみが振り返るとそこには紅白の巫女服。

 

「霊夢」

 

 さとり曰く、この幻想郷でも有数の実力者。博麗神社の巫女。手にはお祓い棒を持っている。

 

「貴方、足。怪我してるでしょ」

 

 霊夢がそのお祓い棒で足元を指し示す。確かにそこは、先程こよみが蜘蛛によって噛まれたはずの場所だった。

 

「すごいな。わかるもんなのか」

 

 けろりとしているこよみ。しかし、その傷は毒蜘蛛による咬み傷だ。実際には毒も回っている。ただ、それをこよみは自らを騙す事によって一時的に無かったことにしている。

 

「分かるわよ。それくらい。で、この下に行くのよね」

 

 霊夢もその地下へと続く道を見る。明らかに何事もなく、音を止めることは出来ないだろう。

 

「あぁ」

 

 霊夢の疑問にこよみが振り返る事もなく応える。未だに宙に浮いている身体からは未だに血が滴っている。

 

「私も行くわ。ここに来てばかりの貴方に全部任せるのも申し訳ないしね」

 

「ありがとう」

 

 そうとだけ言って、先頭を行くこよみ。霊夢は、その後を付いていく。そして、血に塗れたこよみを見る。

 彼女がこよみの後を追った理由は一つ。こよみが傷を負っていることに気づいたから。

 血に塗れている為、傷の場所まではわからない、ただ恐らくは足だろうと言う予想はついていた。その証拠にこよみはずっと飛んでいる。ここは館の中、少なくともずっと飛ぶ必要はない。

 そんな状態でまだ何かがいるかもしれない場所に一人で向かわせる事は出来ない。そんな見殺しにするような事は霊夢には出来なかった。

 冷たい石畳の階段。それをゆらゆらと天井から掛けられたランタンがかりかり音を鳴らしながら照らしている。その道をふらふらとこよみが飛び、その後ろを霊夢が続く。相変わらず、祭囃子は聴こえてくる。

 しばらくすると少し開けた空間に着く。長方形の空間の左右にはランタンを置く場所があり、置かれてはいるが、赤い血によってその光はさらに乏しくなっていた。そして、その部屋の先に身体に焼かれた様な跡のある妖怪の遺体が両開きの木製の扉に寄りかかっていた。

 こよみは周囲を見回し、その扉に手を掛けて止まる。

 

「この先に何があるんだ?」

 

「知らないの?灼熱地獄よ。と言っても、元。だけどね。ここの住人の空が管理してるはずよ。こうなってくると彼女も心配ね」

 

 空と聞いてこよみがその手を止め一度思考する。確かに、彼女の姿を見ていない。こいしも心配だったが、おそらく彼女は能力とさとりの話からして地霊殿にいなくてもおかしくは無い。だが、あの空と言われていた黒い羽の生えていた少女はどうか。

 無事でいてくれと願いを込めて、こよみが扉を開く。

 そこには、地獄があった。周囲を白く照らすほどの光と熱。恐らくは地熱発電に使っているのであろう機械。その機械の上に見覚えのある機械が置かれていた。

 

「は.....?」

 

 それは、こよみのスマートフォンだった。そこから何本ものコードがのび、スピーカーに繋がり、地上に向けて祭囃子を流している。そしてその機械の前に空が倒れていた。周囲には妖怪の死体がある。そのどれもが体のどこかが溶け落ちていた。

 慌てて飛ぶこよみ。空に声をかける。返事はない。慌てて首元に蜘蛛の糸が付いていない左手を当てて脈を取り、問題がないことを確認する。

 

「霊夢、運ぶのを手伝ってくれ。魔理沙は後から来るのか?」

 

 後ろから周囲を警戒しながらこちらに来た霊夢に左肩を任せ、空を運ぶ。

 

「ええ、その筈よ。そろそろ来ると思うわ」

 

 2人よりも空は一回り大きく、背に生えた大きな黒い羽が少し煩わしいものの、妖怪となったこよみと、幻想郷最強の巫女の2人にはそれほどの負担ではなかった。

 

「こんばんわ」

 

 そんな2人の背後から聞き覚えのない少女の声。こよみと霊夢は目を合わせる。

 

「知り合い?」

 

 振り返るとことなく小声でこよみに話しかける霊夢。それに対してこよみは首を横に振る。

 

「わからない。聞いたことのない声だ」

 

「空を任せるわ。あの階段まで運んだら手伝いに来て」

 

 こよみは一瞬自分が戦うと言いたげな顔をする。しかし、この世界で知り合いが多く、異変の解決という点でも圧倒的な霊夢にこの場を任せることにして空を背負う様に持ち直すと自分達の入ってきた扉へと向かう。

 

「貴方は一体誰かしら」

 

 背後を振り返った霊夢が息を呑む音がした。こよみは速度を上げて扉へと向かう。

 次の瞬間背後で何かの衝突する音が響く。扉に到着し、空を一度壁に寄り掛からせるとそこに魔理沙と鈴仙が階段から降りてくる。鈴仙に空を頼むとだけ言い残し、振り返り魔理沙と共に霊夢の戦っている方へと戻る。

 霊夢は、雪の様な白い髪を肩まで垂らした黒い修道女の様な服を着た少女と戦っていた。特徴的なのは修道服もそうだが、その顔につけた白い面だ。一切の凹凸もないそれは面と表現していいのかすらわからない。ただ、目と口元だけが開けられているそれはまるで子供の工作の様だ。

 お互いの得物は霊夢はお祓い棒、対する女は薙刀。リーチの差は歴然。それでもこれまでの圧倒的な経験値の差からか、戦闘は霊夢に有利に運んでいく。少女は少しずつ距離を詰められていた。順調に事が進む中、背後から悲鳴。慌てて振り返ると鈴仙が目覚めたのであろう空にその手につけられた六角形の筒を向けられていた。その先端に光が集まっている。

 それを見た魔理沙が手に持っていた箒にまたがると急加速、空に体当たり。大きく標準のズレたそれから放たれた一発の光は壁に直撃するとそのまま壁を赤く染め上げ、赤熱の液体へと帰す。

 一方、それを見るために一瞬視線を外した霊夢に修道服の少女が手をかざしたかと思うと霊夢が突然ぐらりと揺れる。しかし、倒れる直前に足を出して耐えると再度得物をぶつけ合う。ただ、そこに先程のような余裕はない。今度は霊夢が押され始める。その表情は何かに耐えているようで、口元からは血が垂れていた。

 しかし、こよみはそれを見ても、空の方にも霊夢の方にも向かわずに、一直線に自分のスマートフォンの方へと向かう。それを確認した白髪の少女が今度はこよみに手をかざす。

 その瞬間こよみが膝をつく。突如身体中を倦怠感が襲っていた。頭の中で祭囃子が反響する。瞼が重い、地面に足が着いてしまい、毒に侵された身体では立つことが出来ず、そのまま座りこむ。足に伝わる地面の冷たさが心地いい。

 

「あぁ......クソ」

 

 意識が落ちる直前。こよみは自らの太ももに弾幕で作った短剣を突き刺す。しかし、毒の影響か痛みを感じない。そのまま深呼吸してその短剣を握り、突き刺さったまま捻る。流石に感じた激痛によって一時的に睡魔から逃れると、飛び上がり、スマートフォンのある位置へ向かう。

 能力の影響下に置いたにも関わらず動き続けるこよみを見て、目を丸くしている白髪の少女に霊夢が札を掲げると、そこから数本の鎖が放たれる。その全ては意志を持ったかの様に少女の四肢を縛り上げた。

 

「終わりよ。何のためにこんなことしたのか吐いてもらうわ」

 

 お祓い棒を拘束した少女に向けて、霊夢が勝利宣言。

 その間にこよみはスマートフォンの位置にたどり着く。そのままスマートフォンを手に取り、接続されていたコードを半ば千切るかの様に外すとそれと同時に崩れ落ち、鳴り響く祭囃子が止まる。

 それによって背後で行われていた空と魔理沙と鈴仙の戦闘も幕を閉じる。突然糸が切れたかの様に倒れる空を2人が支えている。

 

「はぁ、残念」

 

 鎖によって縛り上げられていた少女の面の下からそんな言葉が漏れると周囲に白い煙が立ち込める。

 しばらくするとそれは、視界の全てを白く染め上げる。その霧が晴れる頃には、鎖に拘束されていた少女の姿は消えていた。霊夢は小さく舌打ちすると倒れたこよみに歩み寄る。

 

「大丈夫?」

 

「あぁ。終わったのか?」

 

 霊夢に手を引かれてこよみが起き上がろうとするがそれは叶わず、上半身だけが起き上がる。

 

「悪い。一気に気が抜けたみたいだ。なんかよくわからない蜘蛛にも噛まれたし、もしかするとここで俺のお話終わりか?」

 

 血まみれになって既に感覚のない足を見てこよみが自嘲気味に苦笑いする。なんにせよ。これでもうこれ以上被害が広がることはないだろう。

 そして、自らの手で殺した妖怪達の顔を思い出す。今になって罪悪感が押し寄せてくる。他者を殺したことなんて当然なかった。仕方が無かったといえば確かに仕方が無かった。ただ、だからと言って罪が許される訳ではない。俺はきっと地獄行きだ。

 

「そうはならないわよ」

 

 そう言って霊夢がこよみを背負う。入口の方では魔理沙と鈴仙が空を先ほどのこよみと霊夢の様に抱えていた。

 

「はぁ、もっと沢山救いたかった」

 

 霊夢の背でこよみがぽつりと呟く。この異変、結局こよみが救えたのはにとりとさとり、妖怪の子供だけ。それ以外は救えず。挙句、多くを自分の手で殺した。

 

「一応異変解決の先輩として言っておくと。救える数なんてね、その手が届く範囲までなのよ。それ以上は救えない。そして、今の貴方の手が届いたのはここまでだった。その怪我を見れば分かるわ。限界まで頑張ったんでしょ。なら、胸を張りなさい。それが、貴方の殺した妖怪達のためでもある」

 

 遠のく意識の中で。霊夢の言葉を反芻する。たしかに俺は頑張った。外ではここまで頑張った事はない。何事も中途半端にやって、それで目標か、その下に到達出来た。そんな人生だった。

 

 そして、そんま生き方に嫌気が差していたが、それでも改善しなかった。結果、何よりも自分自身に嫌気が差していた。

 

「あぁ、ありがとう。確かに俺は結構頑張ったわ」

 

 こよみは霊夢の背で力なく笑う。確かに出来るだけに事はした。と。

 

 ただ、それでも。そうであったとしても。

 

 この結果を俺は頑張ったからと、素直に受け入れること。それはこよみには出来そうに無かった。

 

 





 そんなの、どれだけ考えても最終的には。
 結果論にすぎない。
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