人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 自分が自分であるために。貴方は一体何をする。


25話 英雄とは

 

 こよみは、あの異変を解決した後に霊夢によって無事に永遠亭に運ばれ、なんとか一命を取り留めた。やはり、毒が回ったまま無理に体を動かした代償は大きく。彼女は一週間ほど眠る事になった。

 その後、目を覚ますと目元を泣き腫らしてクマを作っていたさとりに抱き付かれた後にさとりと医者である八意永琳に元人間なのだから本当に無理はするなとひどく説教を受けた。

 実際に、心配をかけたのは事実であったし、そこに関してはしっかりと謝った。ただ、こよみの言うべき事は、それで終わりではなかった。

 永琳が部屋を出て、さとりと2人きりになった瞬間を狙い、彼女は長い眠りでやる気を無くした体を無理やり起こして看病に来てくれたさとりの目を見る。

 暖かな斜光の射す病室、少し開けられた窓から入る穏やかな風がカーテンをしなやかに踊らせている。

 

「俺は、ペット達を守れなかった。本当に......ごめん」

 

 風が止まり、踊りが止まる。まるで次の瞬間を待つかの様に室内から音が消えた。

 ただ、そんなこよみを見て、さとりは優しそうに笑う。そして、こよみの身体を抱き寄せた。

 

「いいえ。貴方は守りましたよ」

 

「優しいな。でも結果として俺は誰も守れてないんだ。さとり」

 

 悲しそうに笑うこよみ。それを聞いたさとりは一層こよみを強く抱居た後に離し、こよみのその悲しげなを瞳を見つめる。

 

「確かに多くは死にました。ただ、貴方のおかげで救われた者も居ます」

 

「妖怪の子供か。でも俺が救えたのはそれくらいだ。間に合わなかった。それに、あまりにも多くを殺した。流石に帳尻が合わない」

 

 自らの両手を見つめながらこよみは言う。既に治療によって一切の汚れもないが。彼女の目には何か違うものが見えているのだろう。

 

「貴方は私も救いましたよ。燐も。それに貴方はだれも救えなかったと言っていますが。実際は子供のペットたちも救いました」

 

「子供のペット?」

 

「そうです。大人になったペット達は子供のペットを風呂場に匿って居ました。貴方が守ってくれていなければ彼らも全員殺されていたでしょう。だから、私は貴方に感謝しているんです。十分貴方は頑張りましたよ」

 

 白い病院服を鳴らしながら、こよみはさとりに抱きつく。そして、嬉しそうに笑う。ただ、その心の曇りはいまだに晴れない。

 

「そうか......本当によかった。でも俺は結局あまりにも多くの妖怪を殺した。その罪はどうやって償えばいいんだ。それに俺は、彼らが地霊殿に向かっていたのは音の発生源を止めるためだったんじゃないかって思ってるんだ。なら、俺がやった事は......」

 

 さとりはこよみの表情を窺い知る事はできない。ただ、それでも読心を使うことすらなく。こよみが心に罪悪感を抱えていることは理解できた。

 

「それは大丈夫です。妖怪は畏れから生まれると言いましたね。なので、一度殺されても時間が経てば、人々が畏れを抱く限り、この世に生まれることができます。それに、地底の妖怪は人々、そして妖怪から畏れられたもの達ばかりです。きっとすぐにいつもの喧騒が戻りますよ」

 

 それを聞いたこよみが少し安堵した様で苦笑いする。

 

「......妖怪ってのはなんでもありだな。ただ、そうであったとしても俺は彼らが音を止めに行ったのならひどい事をした」

 

 こよみと離れてさとりがゆっくりと話し始める。それは、過去からの膨大な時間の中で導いた、弱いが故に全てを多くを救うことの出来なかったさとりの結論だった。

 

「私が思うに、救えるのはその手が届く限りだけなんです。なんでも救おうとするのはやめた方がいいです。貴方が、もしも妖怪を通せば子供のペットは死にました。それに貴方もただではすまないでしょう。妖怪は復活できる。しかし、貴方とペットは復活出来ない。なら、貴方の行動は間違っていない。そうは思いませんか?」

 

「......それも。そうだな」

 

 さとりの説得にこよみは未だに腑には落ち切っていない。そんな気持ちを抱きながらも、それを心に伏せて。確かにあの時できる最適解だったのかもしれないと。そう......願う事にした。

 

「号外ですよ〜」

 

 突然、庭の方からそんな明るい声が聞こえる。聞き覚えのある声だった。それはいつだったか取材をして来たあの新聞記者の声。こよみは自分自身のことについて書いた新聞を読んでいない事を思い出し、話をしようと動こうと思うが、体が思った様に動かない。それを見たさとりが慌ててこよみを静止する。

 

「安静にしていてください。どうしたんですか」

 

「あぁ、ごめん。ちょっと射命丸と話したいと思って。にしても一週間寝続けた事はなかったけど。こうまで筋力無くなるか」

 

 大きくため息をついたこよみ。身体が重い。流石に一週間も眠るとかなり筋力が落ちるらしい。

 

「残念ですが、彼女すぐに飛んで行っちゃうので多分間に合いません。あと、力が入らない件についてですが......いえ。なんでもないです」

 

 明らかに何かを言おうとしたさとり。しかし、その喉元まで出てきた言葉は紡がれない。

 こよみがそれについて問い詰めようとしようとした時。病室の扉が開かれる。入ってきたのは鈴仙。その手には恐らくあの記者の作った新聞が握られていた。

 

「貴方についての新聞が出ました」

 

「俺について......?」

 

 さとりを経由してこよみに新聞が渡される。紙でできた新聞独特のインクの匂いが鼻につく。幼い頃にこの匂いが好きでよく父の新聞を嗅いでいたことを思い出すが、そんな郷愁はその一面によって片隅に追いやられた。

 

「あの野郎......」

 

 ため息と共にこよみの口から戸惑いが混ざった様な言葉が漏れる。

 結論ととして。彼女は英雄となっていた。新聞の一面にはいつ撮ったのか寝台で寝ているこよみとその上に大きく、『地底を救った外来人の英雄』と書かれている。

 

「あなたは英雄なんですよ」

 

 その記事を見たさとりが未だにうなだれているこよみの頬にキスをする。

 

「だから、元気を出してください。私の英雄さん」

 

 そうとだけ言ってさとりはまた来ますと言って踵を返す。家族とは言ってもここまで直接的な愛情表現をされたことの無かったこよみはその後ろ姿にありがとうと言い残すことしか出来なかった。

 その後、少し脈拍などを検査した鈴仙は師匠に呼ばれたと言って部屋を出て行った。誰もいなくなった部屋でこよみはもう一度横になる。

 何故か異常に身体が重く。眠い。

 

「英雄か.....」

 

 新聞を寝台の横の机に乗せて目を瞑る。微睡んでいく彼女が居る室内に再度微風が流れ込む。そしてまるで新しい音楽が始まったかの様にカーテンがまた踊り始めた。穏やかに、淑やかに。

 





 ここまでありがとうございました。作者です。
 物語はここでひとまず一区切り。と言ってもただ地底編が終了というだけです。
 私自信4月から社会の歯車になってしまうので更新ペースが遅くなるかと思いますが。どうかお付き合い頂けると嬉しいです。
 ではまた、彼女の物語でお会いしましょう。
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