人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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隠せていると思う秘密。
それは本当に隠せていますか?


26話 月光の下

 

 美しい彫刻技術によって円形に掘られた窓から月光が薄いレースにカーテンを通し、部屋を青白く照らす。部屋には患者が使うために置かれた簡易な木製の机が置かれており、その上には赤く染まったバラが手紙と共に置かれている。

 こよみはそんな病室の寝台で目を覚ます。手触りの良いシーツは何故か未だに太陽の匂いがする。身体のだるさもさとりと会った時よりかはマシになった。体を起こし、シーツを払い、地面に足をつく。木でできた床は冷水のように冷たい。近くにスリッパが無いかと見回すがそれらしきものがなかった。

 流石の寒さに耐えかねて、こよみは館を徘徊する幽霊の様に身体を浮かせて引き戸を引く。

 そのこよみを静かに囁く笹の音が迎え入れる。月光に照らされた枯山水は笹の音も相まって本当にせせらいでいるかのようだ。

 

「起きたのね」

 

「まるで出待ちしてたみたいだな」

 

 その枯山水の庭に建つ永遠亭。その縁に博麗霊夢が腰掛けていた。その顔は空に浮かぶ白い月に向けられている。

 

「全然起きないから。外で待ってたのよ」

 

 霊夢が初めて振り返る。その手には湯気を立てる湯呑みが握られている。

 

「それは......悪かった。結構身体がきつくてな。あったかそうで良いな。なんか話すことがあるんだろ?」

 

 霊夢の横にこよみが腰掛ける。霊夢は湯呑みをこよみの座った方とは逆に置く。

 

「紫の身になにがあったの」

 

 こよみは迷うことなく霊夢に同調する。その心にあるのは不安と、疑念だった。

 

「今、紫はどうなってるんだ?」

 

 霊夢はそれ以上なにも言わない。こよみは霊夢と心を重ね続ける。ただ、言葉選びを間違えない為に。

 これが彼女がまだ彼だった時の、生き方だった。

 

「呼吸はしている。心臓も動いている。けど、起きない。目を覚さない」

 

 こよみを見ていた霊夢から唐突に殺意が溢れ出す。しかし、それを受けて尚こよみは逃げることも動くこともしない。

 こよみが同調によって得た情報。そこには、博麗霊夢と八雲紫の関係性もあった。結論だけ言えば、こよみにとってさとりが大切な様に、彼女にとっては八雲紫がそれほど大切だった。

 故に、こよみには彼女の質問に応える義務があった。

 

「そして、最後、紫は貴方に弾幕を教えていて、その時に橙に化けた何者かに貴方が襲われたと聞いたの。なのに、紫は目を覚さず、貴方は今こうして、無事に生きている。なにがあったのかしら」

 

 こよみは月を見上げる。能力によって分かりきっていた質問。そして、その回答によっては博麗霊夢と敵対することになるかもしれない重要な分岐点だ。正直、それは避けたかった。ただ、だからといって嘘を吐く。ということもしたく無かった。きっと能力を使えば騙し続ける事はできる。ただ、それをしたく無い。

 そうしてこよみは一息ついて話し始める。

 

「結論だけ言うと、俺は恐らく紫を今の状況にした本人と話をした。俺は色々と聞いたが、そいつが一体どうやって紫をその状態にしたのかは聞いていない。ただ、聞いたこともある。紫がここを作る上でなにを犠牲にしたのか。そして、俺をなんでここに連れて来たのか......とかな」

 

「なるほどね......紫をなんとかする方法を貴方が知らないと言うことはわかったわ。ただ、それを聞いて貴方はどうするのかしら。もし、ここの敵になると言うなら。今すぐにでも」

 

 霊夢が立ち上がり、懐からお祓い棒を取り出し、その先端をこよみに向ける。夜風に揺られて笹と共に、取り付けられた紙が音をならす。のどかな風景とは言え対照的に今にでも戦闘が始まりかねない緊迫感が場を支配する。

 

「落ち着いてくれ。俺は今のところ。敵になる気はない」

 

 それに対してこよみは両手を挙げ、降参の姿勢をとる。

 

「ただ、俺は地底に籠るのは辞める。地上に出て、色々する事にした。何故かはもう博麗の巫女様ならもうわかるだろ。いや、お前も事前に知ってたのかな。どうやらお互いにすごく信頼している様だしね」

 

 霊夢はお祓い棒を下ろす。そして何か不気味なものをみる様な瞳で目の前の白い病院服に身を包む少女を見る。一方のこよみはゆっくりと立ち上がる。

 

「貴方、どこまで理解しているの?」

 

 その問いにこよみは笑う。鈴を鳴らしたかの様な音がして。こよみは笑顔を辞める。そして何かを思い出しているのかぼんやりと笹の隙間から囁く星々をぼんやりと見つめる。

 

「さぁね。ただ、俺の能力は同調と欺瞞。それ俺は君と違ってちゃんと誘拐された」

 

 博麗霊夢が一歩引く。まるで何かに警戒するかのように。そして自分の動きに気付いたのか、急いで引いた足を戻す。

 

「貴方......一体どこまでその能力を」

 

「ごめん、色々思い出しちゃってね。ガキっぽかったな」

 

 こよみは目を見開き、警戒を解けない霊夢を気に留めず、目を瞑りゆっくりと上空に上がる。そして永遠亭の庭の上で止まると大きく深呼吸。

 

「ちょっと夜風を浴びてくる」

 

 そのままさらに上空を目指す。ゆっくりとではあるが着実に空を目指すその姿を黒い闇が覆った。一瞬霊夢はその姿を追うために闇に向かって飛び上がったが、がその闇から見えた金髪を見て踵を返して静かな闇夜に消えていった。

 

「初めまして、最後に会ったのは貴方の方だよね」

 

 自らの出した暗闇に溶けた黒いワンピースの端を掴み。異国の王女のように淑やかにルーミアが挨拶する。呆れたようにそれを聞いたこよみが笑う。

 

「ハッ。どいつもこいつもよく分かるもんだな。これなら隠すだけ無駄か。その通り、俺がお前らを逃した方の古明地こよみ。まぁ、ここで名乗る名前は無いわけだが。そんなことはどうでも良い。何用だ?」

 

 まるで全てはお見通しだと言いたげに言い放つこよみ。

 

「吸血鬼が貴方を呼んでる」

 

「今度は吸血鬼。ねぇ......本当に何でもいるんだな。わざわざお呼ばれしているわけだし、折角なら謁見させて貰うか。ただ、行くのは明日だと伝えてくれ。今日はもう寝る。準備もあるしな」

 

 こよみはそういうと飛行を辞めたのか背中から真っ逆さまに地面に自由落下する。慌てて能力を解いて月光の下照らされる永遠亭を見るとそこには既に枯山水に降り立ったこよみの姿があった。そのままゆっくりと館の中へとその影は消えていく。

 それを見送ったあと、ルーミアもまた静かな月光の下。静かな空を闇を率いて飛び去った。

 

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