人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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他人から感じる優しさ、それは貴方にとって不都合でないという事。
都合のいい言葉、都合のいい態度、それを人は優しさと呼ぶ。


3話 舞台の裏では

「どうしてこうなったかなぁ...」

 

 俺は地霊殿にある大浴場にて湯船に浸かっていた。あの屋敷の広さからしてもなんとなくは予想できていたが、とんでもなく広い。上の近くにあった銭湯などとは比べ物にならない広さだ。ただ、風呂は一つしかない。掃除が大変だからだろうか。

 だが今はそれどころではない。

 

「湯加減はどうですか?」

 

 この事態を招いた張本人、古明地さとりは俺を風呂場に誘い、あろうことか一緒に入っている。今は体を洗っているのだろうが、それでも家族以外の女性と風呂に入るのは緊張する。

 

「湯加減は大丈夫、なんだけどね」

 

 後ろからさとりの声がした。当然生まれたままの姿だろう。彼女は本当に俺が心は男という事を理解しているんだろうか。

 

「理解してますよ」

 

「身体洗い終わったのね」

 

 水音と共に隣に座ったさとりから視線を逸らす。無心だ、無心になれ。風呂から登る湯気に集中するんだ。

 あーーーー湯気ぇぇぇぇ。無理だ。

 

「頑張りますね。別に私は見られてもいいんですが」

 

 さとりがどんな表情をしているかはわからないが、多分今悪い顔をしている。悪魔だ。

 

「俺が良くない」

 

「はは、悪戯したくなりますね」

 

「頼むからやめて、俺は家族以外の裸とか現実で面と向かっては見たことないから。見るとしてもちょっと覚悟が」

 

 当然そういうビデオとかでは見たことがある。俺も一般的な大学生だった。だが、女性関係を持ったことはない。持てるだけのスペックがなかったというのが一番だが。正直あまり欲しくもなかった。と言うのも俺は昔から自由が好きだった。彼女を作るということはその時間をある程度は彼女に費やさなければいけないと言うことになる。俺にはそれが出来そうになかった。だからこそ、作る努力すらもしなかった。それに作ったなら、それだけ彼女に愛を手向ける必要もある。俺にはそれをする自信が無かった。

 

「いくつか聞きたいことがあるんですけど良いですか?」

 

 さとりが声をかけてくる。

 

「もちろん。ただ、アダルティなのはなしで。経験ないから」

 

 補助線を張っておく。ないとは思うが、念のためにだ。昔からそう言った話題は得意ではない。

 

「大丈夫ですよ。では、」

 

 意味ありげに一拍置かれた。白い湯気が幕開けとでも言いたげに立ち昇る。

 

「貴方は、私と同じような能力を持っていますね。その上で、人間ってどう思いますか?」

 

「なるほど」

 

 心の中で、人間がどう言うものか。それは結論が出ていた。能力があったからとかそういう話ではなく。一人の人間として。

 

「元は悪い奴らだと思ってる。自分の生きやすいように全てを変える。そこに発生する犠牲に関しては目を向けず。仕方なかったとか正義のためだとか言って納めようとする。けど、全員が悪いやつだとは言わない。その悪性を抑えようとする奴もいた。世間はそれを偽善と言ったけれど俺はそれでも立派だと思った。だって、偽善だと吠える奴は何もしていない。俺は人間のそういうところが嫌いだった。だから」

 

「いっそのこと、滅んでしまえばいいと思った」

 

 さとりが俺の代わりに言葉を紡いだ。一瞬驚いたが恐らく心を読んだのだろう。確かにそれが俺の下した結論だった。ただ、俺にそんな力はない。俺はそう願った、ただそれだけだ。

 

「オチまで言わせてよ。ただ、この結論は見なくてもいい裏を見てしまったからこその結論。俺の能力の話が本物なら俺は他人なら見ていないような場所を見ていることになる。例えるならテーマパークの着ぐるみの中のおじさんを見るような感じかな、だからきっとこれは正しくない。真実であったとしても」

 

「そうですね。その通りです。でも、人間が醜いというのが事実であればあなたの結論はきっと間違ってないと思います」

 

「やさしいね」

 

 笑顔を浮かべながら内心では嫉妬を、泣きながら内心では嘲笑い、怒りながら快感を得る。表情には出ていない、本来ならば理解し得ない人間のそれをこの二人は理解してしまった。そうなればこの結論は必然なのかもしれない。

 

「にしても白いね。外出てるの?」

 

「あれ、もう見てるんですね。立ち上がりましょうか?」

 

「やめて」

 

 覚悟を決めてみたのはいいが思ったよりも興奮しなかった。心も女になりつつあるんだろうか。同性の裸体見ても興奮しないだろう。風呂場で弟の裸を見たようなそんな感覚だ。

 

「質問ばっかりだし俺からもいい?」

 

「そうですね。どうぞ、ただアダルティなのはやめてくださいね」

 

 くすくすと笑いながら俺と同じ言葉を吐く。そんなさとりにため息を吐き、最初の印象とは若干違ったななどと思う。

 

「答えたく無かったら答えなくて全然良い。食事の時に待ってたのは誰?」

 

「あー、その事ですか」

 

 少しの逡巡。そんな彼女の姿を見る。白肌はまるで絹のようで、健康的とは言えないが、俺も言えた事ではない。身体はとても豊満とは言えないが、幼げな顔立ちと似合っている。ここまで言えば恐らく怒られない。

 

「つらつらとよくもそんな恥ずかしい単語が出てきますね」

 

 思考を読んださとりをニコリと笑いながら眺める。彼女の顔は明らかに風呂のせいというだけではなく真っ赤だ。

 

「貴方性格悪いって言われません?」

 

「そうねぇ。まぁそこそこは」

 

 お返しだよ。と心の内で笑う。俺はやられたらやり返すが主義の人間だ。あんなに一方的に恥ずかしい目に合ったら相手にも相応の目には合ってもらう。にしても慎ましくはあるが女性を感じる。

 

「ストップです。ストップ。あぁ、もう。感情を読まれるっていうのもなかなかやりにくいですね...あの時の空席は妹です」

 

「それを心読める人に言われてもね。にしても妹か。家出とかされてる感じ?」

 

「いえ、そういうわけではないんですが。とても()()で」

 

 自由か。ここでの自由は恐らく能力的なものだろうと推察は出来る。まだ俺が知っているのは自分のふたつの能力にさとりの心を読む能力だけ。推測するだけ無駄だろう。それにこれ以上は土足で踏み込む意味はない。

 

「自由ねぇ。てことはたまには帰ってくるの?」

 

「そうですね。たまに帰ってきます」

 

「俺も妹居たし、年上の気持ちは分からんでもない。めっちゃ不安になるよね」

 

 彼女は不安を抱えていた、事実気持ちもわかる。大切な家族が帰ってこないというのは不安にもなる。誰かに襲われていないだろうか、もう二度と帰ってこないんじゃないだろうかなど、最悪の想定はいくらでも浮かぶ。こういう時に楽観的に考えることはなかなかできない。

 

「貴方は優しいんですね」

 

「そんなことないよ。俺はそんなにいいやつじゃない」

 

 断言した。優しいとそう感じるのは俺が感情を感じれるから。これがなければ俺はきっと。優しい言葉をかけられない。どんな言葉をかければいいのかすら分からない。

 

 

「そういえば、名前決めました。古明地 こよみってどうですか?」

 

「ネーミングセンスあるね。変な名前来るんじゃないかとちょっと構えてたんだけどよかった」

 

「私のことをなんだと思ってるんですか。結構しっかりしてますよ」

 

 しっかりしている人は自分のことをしっかりしてるとはいわないよなぁ。と思いながらも名前を反芻する。古明地 こよみ...か。いい名前だと思う。そしてこれまで共に歩んできた名前に別れを告げた。多くの思い出がある。だが、それは捨てなければならない。弟や、妹、両親、友人と会うことももうない。俺という人間は古明地こよみという人間として生きていくしかない。

 

「そうね。さとりはしっかりしてるよ。明日河童のとこ行くんでしょ?ならもう寝とこうかな。慣れない環境で疲れたし」

 

「そうですか、わかりました。お燐にパジャマを置いておくように言ったのでそれを着てください」

 

「了解」

 

 こよみは湯船から上がり、風呂場を後にする。残されたさとりは一人、湯船で妹を思った。今どこにいるのか、元気ならそれで構わない。けれど、たまには顔をみたくなる。私のただ一人の家族。

 湯煙の中、一人きり。妹も大事だが、今は彼も大切だ。彼を古明地として迎え入れたのには理由がある。心に何か影響を及ぼす能力は物理的には強くない。その割に周囲への影響が強い。そのため能力がバレれば周りの者達から簡単に攻撃を受けてしまう。そしてそれに抵抗する術はない。そのため、危険だけれど地底の私達の家に招待した。ここは元々地上から追いやられた妖怪が住む場所、相当な強者か、同じような境遇の者が多い。心を読める程度では地上ほどは恐れられない。それに彼を妹と同じような目には合わせたく無かった。

 けれど彼がここにきたのはそれだけが理由というわけでもない。彼のもう一つの能力。騙す程度の能力。それを彼を連れてきたあの妖怪。八雲紫が恐れたから。騙すと一言に言っても問題はどこまで騙せるかだ。その範囲によっては彼は幻想郷にとって悪魔になり得る。だからこそ、そんなような動きがあれば心を読む事で知らせる。それが私の役目。

 今日見た感じでは、異常はない。普通にここでの生活を楽しんでやろうという意思を感じれた。このままいけばここに馴染んでくれる日も遠くはない筈。幻想郷を破壊したくなるような事件が起きない限り彼は味方でいてくれる。敵であれば脅威ということは味方につければそれだけ心強いと言うことになる。だからこそ彼とは早めに友好的な関係を築いておきたい。彼にできるように私も感情を読み、それに応じた言葉をかける事ができる。

 

「また難しい顔してるね。おねーちゃん」

 

「あら、こいし。お帰りなさい」

 

 そこに立っていたのは古明地こいし。私の最後の家族にして最愛の妹。エメラルドグリーンの髪は肩まで伸びていた。

 

「髪切らなきゃね。今回はどんな土産話があるのかしら?」

 

「えっとね!またこころちゃんと遊んだの」

 

─────────────────────

 

 古明地さとり。とても良い人だった。少々小悪魔的な部分もあるが、それでも悪い人ではない。

 こよみは悟りの言っていた通り、置いてあったパジャマに着替え、寝台で横になっていた。

 こうしているとここにくる前と余り変わらないような気もするが。能力があるだの、妖怪がいるだの。信じられない話が余りに多い。今でもこれは夢なんじゃないかと思う。ただ、恐らくは現実だ。夢だと思いたいが、所々でリアリティがありすぎる。それにあまりに長い。

 

「お邪魔するよ」

 

「ん?」

 

 身体を起こすとドアが開き火車を自称していた少女が入ってきた。

 

「さとりかと思った。燐か。どしたの?」

 

「いや、ちょっと気になってね。家族と離れ離れにされたって聞いてさ。大丈夫かなって」

 

 一度俺をアレルギーで殺しかけた少女とは思えないセリフだ。

 

「流石に辛いよ。でも、仕方ないと思ってる」

 

「帰りたいとか思わないのかい?」

 

「帰りたいけど帰っても俺のこと忘れてるらしいからさ。それってつらいなって」

 

 燐が嘆くような顔をするが、すぐに悲しそうな笑みに変る。

 

「もし本当に無理になったら言ってくれ。胸貸すよ」

 

「はは、今は大丈夫。もしまじで辛くなったら借りるよ」

 

「借りなそうだねぇ」

 

 笑いながら燐が戸を閉めて廊下を歩いていった。

 窓から外を見る。そこでは未だに賑やかな喧騒が続いていた。外の世界でも喧騒はあったが、機械的なものだった。車や飛行機、そんなものはここにはたぶんない。あるのは楽しそうな笑い声と、歌。

 

「平和なのかね」

 

 外の世界では、俺のいた国ではなかなか見ることのできなかった景色だ。サークルでいった居酒屋ではこういったことはあったが、みんな何から逃げるために酒を飲んで、酔っていた。平和そうに、楽しそうに見えて、それは表面上だけで、中は違った。

 

「あー、まじで」

 

 ゲームをしていないとこういうことを考えてしまう。目を背けたい事実。触れるべきでない、世界の舞台裏。彼にとってゲームは逃げだった。他のことをしている間はその事を考えなくて済む。

 

「ゲームしてぇなぁ」

 

 灯を消して、布団へと潜り込む。花のような良い匂いがした、かなり整えてくれたようで寝台は雲のように柔らかく、眠りにつくことは難しくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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