人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います 作:黒犬51
生きることには意味が必要だ。
暗い暗い城の中。冷たい冷たい石畳。そこにぽつりと置かれた玉座。そこに1人の少女が座っている。クラシカルな黒いワンピースを来た少女は、王というにはあまりに若かった。そして、そばに仕える者も無ければ、崇める者も誰もいない。
そんな彼女の視線の先、そこに突如裂け目が現れる。その侵食を止める為、黒いリボンで止められたそこから闇が覗き、次に大量の瞳が覗く。
そしてそこから、赤く染まったシャツを着た1人の少女が現れる。
「やぁ、久しぶり。リリィ」
「随分と酷いことになってるね」
赤く染まったシャツと黒いチノパンは所々が千切れ、肌が露わになっている。ただ、その肌に傷の形跡は無い。まるでハロウィンの仮装のような服装だが、体から噴き上がる非現実的な黒い蒸気がそれを否定している。
「聞かなくてもわかってるよ。それの解消方法だよね」
玉座に座りながら、年相応に顎に指を当てて少し考える素振りをする。しばらくするとひとつ答えが出たようで、静かに待っていた少女に対して口を開く。
「わかってると思うけど、必要なのは体に流れるその力の発散。私が考える方法は2つ。1つは、自傷。その回復に力を使えばいいからね。もうひとつは正しく発散。能力を使ってみればいいんじゃ無い?」
玉座の上で妖しく微笑む少女。それは、中学生のような見た目に反して、あまりにも、邪悪だった。
「なるほど。これから先。長い......」
こよみの言葉が止まる。いったい何を考えたのか、こよみは自嘲気味に笑う。そして、再度言葉を紡ぎ始めた。
「いやなんにせよ、付き合っていくとになるなら。まともに使えた方がいいのは間違いない。にしてもここまでなったの初めてなんだけど、理由はある?なるのは仕方ないとして可能な限りこの状況は避けたい」
こよみはため息をついて再度ポーチから青い薬を取り出して口に放り込む、それによってこよみから噴き出していた蒸気が少し抑えられた。
その様子ではなく、こよみのその言葉が意外だった様で、未だに玉座に腰掛けるリリィは少し目を見開いた。
「あ、これまでなった事ないんだ。多分自分に能力があることを知ったから、無意識下でも想いを集めやすくなったのが原因だろうね。警戒しても想いを集めるという貴方の本質自体はどうしようもないよ。だから、なんとかして発散していくしかない。水の入った箱からどうやって水を抜くのかって事だね。自然に蒸発なんて待ってられないでしょ」
「結局そうなるのか」
一つ大きなため息をついてこよみが石畳に腰を掛けた。そこで胡坐をかいて、リリィを、見据える。
「なら、練習が必要なわけだ」
「私は嫌だよ。君の相手するの」
まるでその次の言葉を見切ったかのようにリリィが釘を刺す。
「はは、振られたか。まぁ色々試すさ」
まるで、まさか振られると思っていなかった。そう言いたげに、こよみは笑って立ち上がる。そしてそれに応じるかのように、黒いリボンで止められた裂け目が現れる。多くの瞳が、まるで監視するかのように2人を見据える。
しかし、こよみがその空間に入る直前。リリィが彼女を止めた。
「あ、まって。理由ならもう1つあった」
「聞こうか」
裂け目は出したまま。こよみがリリィに振り返る。まるで2人を監視するかのように裂け目の中から視線が2人に注がれる。
「なんて言えば良いかな。悲しみ、怒り、畏れ。そう言う負の感情は、他者に影響を与えやすい。そして、後を引きやすい。同調できる君なら分かるんじゃない?」
「確かに、それは俺も分かる。悲しみとかの感情は後を引く。主人公が悲惨な目に遭う物語を読んだ後、怒りに任せて他者を殴る男。そんなのを見た後はその1日は辛い。ただ、これはみんなも感じることだろう?」
こよみは笑う。何を言っているのだと。ただ、その表情は何かに気づいて固まり、そのまま自重気味な笑みに変わった。
「残酷だけど。君はみんな側。じゃないんだよ」
こよみには既にわかっていた事。何度も自分に言い聞かせて納得させた。ただ、まだ。他者から言われると言うことには慣れない。
そんなこよみをリリィはまるで捨てられた子供を見るように、玉座から見下ろしている。そして、見かねてかそのそばに行くために、玉座を立とうとした。
「あぁ、わかってる。にしても、あれのひどい版って事か」
こよみは背後に出現していた裂け目を閉じる。リリィは何も言わない。ただ、その様をじっと見ている。しばらくの静寂。
「そうだよ。ごめんね。私も君にこんな役目を負わせたくないし。傷ついて欲しくはないんだよ」
本当に愛しいとでも言いたげにリリィはこよみを見下ろしている。ただ、それを見たこよみは不思議そうな顔をして言い放つ。
「俺お前に腹貫かれたんだけど」
「でも死ななかっただろう?急所は外したさ。それにあの時は、君がこんなに簡単に私の方に来てくれるなんて思っていなかったからね」
「いや、もっと別の方法あるだろ」
そのツッコミを無視してリリィは玉座から立ち上がるとこよみに駆け寄る。
「だから頼むよ私のヒーロー。私のためにも、この世界を審判しておくれよ」
こよみに一心に向けられる瞳。そこにあるのは残酷なまでの狂信だ。もう彼女には、古明地こよみというヒーローしかいない。それ以外はもう、何も居ない。こよみはそれ理解している。
そして、理解していないこともある。それは、何故自分が選ばれたのか。どこにもこよみが彼女のヒーローという確証も証拠もない。もし、彼女の狂信が本来別人に向けられるべきものだとしたら。こよみの行動は彼女の人生を破壊している。
ただ、それでも。
「あぁ、俺はお前のヒーローらしいからな」
目の前にいるひとりぼっちの少女を見捨てることができなかった。
これは傲慢な選択だろう。
ただ、もしここで違うと言って、救えなかったと後悔をするくらいなら。彼女のヒーローであった方が気が楽だった。