人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 自分がなんのために生きるのか。それを直視したことはありますか?


31話 宵闇の妖怪

 

 こよみは森を飛んでいた。既に黒い蒸気は無くなっている。外では感じられなかった新鮮な空気。そして、自ら風を切る感覚。初めてではない行為だったが、それを今となっては異常なまでに新鮮に感じていた。

 木々の隙間を縫い、寸前で枝を避ける。それを繰り返しながら目的地を目指す。

 

「あそこか」

 

 ただ、こよみは意味もなく遊んでいるわけでは無い。森の中で香った血の匂い、それを追っていた。少し飛ぶと、血の匂いが一層濃くなる。そして、赤が広がる。ただ、その赤は自然由来のものではない。艶やかに光を反射するそれは血液だった。

 何かが爆発したように少し開けた場所に出る。なんらかの衝撃に耐えた木々には血液と樹皮のように白い脂肪がこびり付いている。腸が蔦のようにぶら下がり、目玉が地面を転がっている。そしてその全てが、未だにハエも集らないほどに新しい。

 そしてそれは、まだその惨劇を起こした本人が近くにいるということを意味する。刹那こよみの真横を一本の闇が通り過ぎる。

 

「えっと、訳を聞いても良いかな。ルーミア」

 

 そこにいたのは、黒いワンピースを着た少女。その血に染まった金髪を赤いリボンが止めている。

 

「ねぇ、貴方は食べても良い人類?」

 

「悪い冗談だな」

 

 冗談だと信じたいが、そうではないと言いたげに。悪意、憎悪。その感情が、こよみに流れ込む。

 

「あぁ、なるほど」

 

 こよみは困ったように笑う。昨日のルーミアは正常だった。初めて会った時のような、優しい。良いやつだった。ただ、今のルーミアはこよみをこよみと認識していなかった。ただの憎悪の対象。悪意をもって屠る対象でしかない。

 

「あいつか」

 

 こよみの頭に、1人の少女の姿が映る。その顔には白い仮面が付けられていた。そして、耳障りな笑い声が響く。

 

「ただ、音楽は聞こえない。か」

 

 こよみは耳を澄ませるが、音楽らしきものは聞こえない。先ほど遭遇した奏の能力であれば、音を聞かせなければ意味がないはずだった。

 

「ルーミア。俺はお前を傷つけたくないよ」

 

 しかし、その言葉と裏腹にルーミアは近づいてくる。こよみは見ず知らずの妖怪を殺した、そこに慈悲も同情もなかった。ただ、目の前にいる少女は違う。少なからず恩がある相手だ。そして、友達と呼ぶのはおこがましいかもしれないが、この幻想郷にいる者たちの中では関係があった方だった。

 ただ、その瞳には、こよみではなく、ただの食べ物が映っている。そして、それを解決する手段がこよみには無い。

 

「勘弁してくれ。頼むよ」

 

 こよみの悲痛な声も通じることはなく。ルーミアはこよみへと距離を詰めてくる。

 こよみは手元に一本の剣を出す。が、その手は震えている。弾幕で作られたそれの威力はもう地底で見た、上手く当たればただでは済まない。

 

「ねぇ、食べてもいいの?」

 

「ダメだ」

 

 最終的にこよみの下した結論。それは、逃走だった。正面から戦う事もできなくはないかもしれない、ただ、それをすれば相手を傷つけるかもしれない。あれだけの殺しをしていたとしても、やはり友人は傷つけたくなかった。

 大きく空に飛ぶ。ルーミアが追ってくる様子はない。ただ、少し視線を先に飛ばすと、一つの民家が見える。

 

「は......?」

 

 そこに向かって、黒い闇が前進していた。そして、その民家に子供が入っていくのを見てしまった。恐らく親も家族もいるのだろう。だが、だれもその異変には気づいていない。そして、ルーミアは人食い妖怪だ。あの森の惨状も恐らく、誰かが犠牲になった結果。

 

「見なきゃよかったッ......!」

 

 こよみは、苦しそうに言葉を漏らすとその闇を負い越してその民家へと飛ぶ。運のいいことに闇の動きは遅く、まだ猶予はあるタイミングで到着し、戸を叩く。

 

「おい!開けてくれ人食い妖怪が来る!逃げないと殺されるぞ」

 

 必死に戸を叩くが、中から反応はない。耳をすませば、民家の中からは子供の悲鳴と啜り泣く声が聞こえる。冷静になれば、わかる事だった。知らないなにかが、突然戸を叩き、妖怪が来たと騒ぐ。そうなれば、畏れられるのは来るかもしれない妖怪ではなく。扉の前にいる何かだ。

 

「くっそ、そうだよな。ただ、そうなると」

 

 後ろを振り返る。森の奥から周囲の明りを食らう様に闇が迫ってきていた。

 もう時間は残されていない。里があると聞いていたのに、こんな辺鄙な場所に住んでいる、それだけでどんな状況にいるのか。頭をよぎるのはさとりとリリィの過去。

 彼らがやっと得た平穏を壊すことは出来ない。彼らにとってこの平穏は、やっとの思いで手に入れた暇なのだから。

 

「わかった。なら。出てくるな」

 

 こよみは、扉から離れる。そして大きく深呼吸した。その右手には、いつの間にか、再度白く光る弾幕の剣が握られている。

 

「さぁ、来い。ルーミア。お前が好きなのは、これだろ?」

 

 そして、その剣で自らの腕を切り裂く。溢れ出る大量の血液。しかし、こよみは全くそれに動じない。まるで、全く痛みを感じていないかのように。

 森を飲み込む闇が、こよみに向かって前進を始める。それを確認するとこよみは民家と逆方向へと走り始める。そして、空へと向かう。その姿を追って巨大な球体となった闇が昇る。

 それがしっかりと追ってきていることを確認し、こよみは方向転換。背後の闇にギリギリ追いつかれない速度である場所を目指す。その間にも、腕からは血が流れ、地面に落ちる。ただ、その治りは早い。数分もすれば血は止まり、傷も消える。こよみはその度に自らの腕を切り付けて闇の気を引き続ける。

 そのまま逃げ続け、こよみは遂に目標地点を見つける。そのまま一気に加速し闇から飛び出してきた槍を避け、着地する。

 

「霊夢!」

 

 そこにあるのは赤い鳥居。少し古くなった境内、そこで1人の巫女が箒を持って落ち葉を掃いていた。

 

「何よ。って貴方またひどい怪我ね」

 

「今はそれよりルーミアを止めてくれないか。様子がおかしい」

 

 博麗霊夢。幻想郷でも最強とさとりから聞いた。そんな彼女ならルーミアをなんとかできるかもしれない。そんな淡い期待を抱いたこよみをを見て、博麗は言い放つ。

 

「え、嫌よ。私貴方のこと嫌いだし」

 

「は?」

 

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