人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います 作:黒犬51
勇者とは、英雄とは、一体何だと思う?
幻想郷、その中で佇む博麗神社。その境内で2人の少女が向き合っている。1人は紅白の巫女服に枝箒、対する少女は赤く染められ、所々が裂けている。
だが、その身体に傷はない。その矛盾が彼女の服装を仮装のように仕立て上げていた。
「私からすれば貴方って要注意人物なの。ここで死んでくれた方が幻想郷にとっては吉かもしれない。紫の件についても何も話さないしね」
こよみは忘れていた。あの夜。博麗霊夢とは敵対とまでは行かずとも、関係が悪くなった。相手からすれば、紫の情報を持っているにも関わらず何も言わない正体不明の外来人。そんな奴に助けてと言われたところで助ける義理も理由もない。
逆に弱ったところを拷問にでもかけて情報を引き出す可能性すらある。
それを理解した上でこよみが引かない。背後から迫る闇を指刺して言う。
「でもあいつ止めないと人が大勢死ぬぞ。様子もおかしかった」
こよみがここまでルーミアを引いてきた理由は被害の抑止だ。その中で、ルーミアを傷つけずに済むには博麗霊夢が最適だと判断した。
しかし、本人は助けないと言う。更には、
「貴方、自分が特別強いとか思ってない?ルーミア程度、人里でどうとでもできる。余計なお世話よ。貴方が止めるのは勝手だけど、私は興味ないわ。それにルーミアは最近人を食べてなかった。おかしくなる理由もある」
そんな言葉を吐き捨てる。
自分を強いと思ってる。その言葉にこよみは一瞬詰まる。確かに、あの地底での一件の後、自分はなんでもできるんじゃないか。と思っていた。ルーミアの件もそうだ。こよみは確実に勝てるとわかった上で話を進めている。傲慢だと言われればそれまで。
ただ、それでも。
「そうであったとしても犠牲が出るだろ。お前が戦ってくれれば解決するじゃないか」
誰も傷付かないはずが無かった。実際あのまま放置すればあの小屋の子供は死んだだろう。人が殺されるとわかっているなら止めるべき。それがこよみの意見、そして。恐らく、古明地こよみはそれを止められる。ただ、地底の戦いを見る限り、自分自身が戦うよりも、彼女が戦った方が確実だ。それを彼女は理解している。そして、人の味方である彼女ならばそれを救うと確信していた。ただ、帰ってきたのはこよみにとって意外な答えだった。
「人は死ぬでしょうね。それで?」
「は......?」
2人の間に一瞬生まれた静寂。こよみがもう一度後ろを振り返ると闇はどこかに向かって動き始めていた。慌てて目線を腕に向けると、彼女の腕は既に何事もなかったかのように治っている。
「貴方に、一つ教えてあげる。ここではね。妖怪が人を殺すのは悪じゃないのよ。彼らは人間からの畏れで出来ている、だから時に恐怖を思い出させないといけないの。その一番簡単な手段は殺すこと。流石に限度はあるけれど、ルーミア程度の力じゃ大した問題にはならないわ」
「だから。犠牲には目を瞑るのか?」
どこかおかしいということは薄々わかっていた。ただ、それでも尚、こよみは食らいつく。
それを見た博麗霊夢はまるで呆れたかのように大きくため息を吐く。
「あー、なるほど。紫が貴方をここに連れてきた理由が分かった。聞くけど、貴方は誰の味方でありたいのか。それだけ教えて」
「......それは」
答えられない。無理もない。これが、こよみの抱える強欲さであるからだ。そんなこよみに霊夢は箒を向ける。
「わかってる?誰かを助けるって事はね、誰かを見捨てるって事なのよ。私は今回は人間を救わない。私が守りたいのは幻想郷だから。でも貴方は?」
「俺はルーミアも、人間も守りたい」
こよみは迷いなく答える。ただ、その答えを聞いた霊夢は貶すように笑う。
「そんな貴方に朗報」
「朗報?」
明らかに朗報ではない。それを予期したこよみが身構える。
「もし、ルーミアが過度に人を殺したら。私は制裁を加える。それは、ボコるだけかも知れないけど。状況によっては......殺すわ」
冷静に冷酷に残酷に、霊夢が言い放つ。その瞳は本気だった、そして彼女であれば容易にそれを行うことが可能だという確信もある。
「だからね。もし本当にルーミアを守りたいと思うのなら貴方が止めた方が良いと思うわよ。ただ、貴方がこれから先も止め続ければ、ルーミアは飢えて死ぬわ」
「なるほどな」
こよみは仕方がないと息を吐く。光の粒子が集まったかと思うと数本の光剣がこよみの周囲に展開される。それは少女の背丈ほどはありそうな大剣から、取り回しの良さそうな短剣。使い勝手の良さそうな直剣と、大小様々な武器が並ぶ。
「結局そうなのね。自分が矛盾してるってわかってるの?」
振り返り、飛びあがろうとするこよみの背に霊夢がそんな言葉を投げかける。
「もちろん。ただ、俺は自分勝手だからな。俺が後悔しないように動くさ」
こよみが巨大な闇へと向かって飛び去る。その後を光によって作られた武器たちが流れ星の様に追う。
「八雲紫。貴方は一体なにを考えてるのよ」
そんな言葉をこぼす博麗霊夢。彼女の表情はどこか暗い。
「彼は、もう死んだのよ」
博麗神社に1人取り残された紅白の巫女。その視線の先には光を連れた少女の姿がある。もう覚悟は決まったらしい。止まる様子も振り返る様子もない。
そしてその先にあるのは、光さえ飲み込む漆黒の闇だ。