人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います 作:黒犬51
これは、私のたった一つの願い
こよみは闇の中で目を覚ます。周囲に光はない。そこにはただ一つ。鎖に繋がれた月がある。
「なるほど。別れか」
いつかは来る。避けようのないものだ。ただ、そうであったとしても。別れ方と言うものがある。悲劇的な結末だった。本にでもすれば人気になりそうなほどには。
「これが貴方の能力」
鎖に繋がれたまま、ルーミアは呆然とこよみを見る。
「まぁ。そういうことだ」
こよみが指を鳴らす。すると光に溶ける様に闇が晴れる。しかし、それを溶かした空の色は紅い。
「今度はなんだよ」
空が、血に染められたかの様に紅い。いや、正確には、霧なのだろう。こんな空を白いシャツで飛んだらどうなるか。
そこまで考えて、自分の服がボロボロだったことを思い出す。まぁ、大差ないか。
「やめて!」
こよみがその声の元を見る。そこではルーミアが鎖に繋がれながらもがいていた。周囲に鎖の擦れる不快な音が響く。
「どうした?」
「違う。違う違う!私はそんなつもりじゃ」
誰かと話しているかと思い周囲を見回すが、誰もいない。だが、ルーミアの心は何かに荒らされている。
「落ち着け。あいつが死んだのはお前のせいじゃない。悪いのは、人間だろ」
少女が死んだ訳。そこまでを知ることは出来ない。ただ、想像は出来る。人喰い妖怪であるルーミア、見ていた限りは普通の人間だった女。その2人が仲良くすれば、周囲の人間は彼女を忌避する。
そして、その忌避感は、人々にある結論を招いたのだろう。
我々の安寧を妨げる人間など、殺してしまえと。
人間は平穏を望む生き物だ。だが、その生き様は平穏ではない。なぜなら、人間とは、それを手に入れるためならば何でもするからだ。
例え、それによって他の種族や、自分以外のものがどうなろうと。
自らが、平穏に、平和に。今の暮らしを続けられる様に。
だからこそ、その点人間というのは獣に最も近いのだと。そう思う。
「あ、あぁ。私が、あれ以上あの子と会わなかったら死ななかった」
ルーミアからどろりと闇が滲み出す。
その闇は、彼女を縛る鎖を蕩して、その身体を、全てを拒む様に包む。
「さっき通用しなかっただろって」
再度こよみは裂け目を展開。大量の水を全てを蕩かす闇にぶつける。しばらくの拮抗状態。そして闇は萎み始める。
ただ、こんなことを永遠と繰り返していては埒が開かない。それに、先のルーミアを見る限り、水を自ら飲んでいるわけではないらしい。あの量の水だ、飲んだのであれば体に変化が出ないのはおかしい。
「私が、この世界を裁くの」
闇から出てきたのはルーミアの筈だった。だが、本能が告げる。何かがおかしい。背中からは闇が炎の様に立ち昇り、黒いワンピースだった筈の服は跡形も無くなり、黒い闇が必要な部分だけを隠している。
「どこかのゲームじゃないんだから強くなると同時に服脱ぐなよ」
ため息を吐きながらこよみは構える。笑ってはいるが、余裕はない。それは彼女がしっかりと臨戦態勢入ったことからも明らかだ。そのこよみを見て、ルーミアは手のひらを重ね、頭上の赤い空を見つめる。
そして、祈りを捧げるかの様に目を閉じた。
「闇に喰われた星月夜。光に飲まれた朧月。私はたった一つの願いを告げる」
こよみの判断。それは様子見だった。ただ、次の瞬間、それが最悪の選択だった事に気付かされる。
それは一瞬迷った後の同調によっていやでも理解させられた。アレは、詠唱だった。元ゲーマーを名乗るなら理解するべきだったと後悔するがもう遅い。周囲の全てが闇に染められる。
「冗談キツいぞ」
目が、耳が、鼻が、全てを認識しなくなる。そして、闇が晴れた時、こよみの身体は黒い鎖によって四肢を拘束されていた。まるで先ほどの意趣返しだ。
そして、目の前には身の丈程はある闇を滴らせた漆黒の鎌を持ったルーミアがいる。
「私たちは願いを告げる。全てを飲み込む夜の闇よ、裁きをッ!」
空気すらも喰らいながら闇に濡れる鎌が振り下ろされる。しかし、その闇がこよみを飲み込むことは無かった。
「あぁ、死ぬかと思った」
こよみは見覚えのある寝台で目を覚ます。手や脚に巻きついた鎖は外れないものの自由を手に入れることは出来た。
「こういうのは大抵位置がバレてるとか攻撃できるとか碌な事にならないんだけど」
渾身の力を持って引くがそれでも鎖は外れない。
「無理か。にしても博麗霊夢。なーにがルーミアは村で何とかできるだ。あんなの本当に何とかできるのかよ」
整えられた寝台に倒れ込む。相変わらず、いい肌触りと、薔薇の匂いがする。
「結局帰ってきちゃったなぁ」
長居をするつもりはない。ただ、戻ってしまえばずっとここに居たくなる。
「にしてもルーミアに一体何があったんだ。音は聞こえてなかったしな」
寝台に埋もれながらこよみは思考を回す。
「あの白面のせいだと考えるのが一番楽。ただ、そうなるとあいつは音で相手を操ってるわけじゃないって事になる。そうなるとここでの異変の辻褄が合わない」
「あれ、帰ってきたんだ。おにーちゃん」
もそもそと寝台で独り言を繰り返すこよみの上に聞き慣れた声の少女が覆い被さる。突然の強襲におっふと声が出る。
「こいしか。久しぶり。その後地底はどう?」
「何もないっていいたいとこだけど。おねーちゃんがお出かけしてる間に勇儀さんがパルスィさんと戦ってね」
「勇儀とパルスィ?パルスィは何でそんな無謀なことを」
まだ上ににられているために、ほぼシーツに話しかけているがこいしもこよみもそれを全く気にしていない。
「と思うでしょ。実はね、勝ったのはパルスィさんだったの」
「は?」
そんなわけが、といいかけたところでこよみは言い淀む。たった1つ勝つ方法があった。
「俺が先に処理すべきはこっちか」
こよみは窓を開けて外に飛び出ようとする。そんな肩をこいしが掴む。
「まずはお風呂と服だよ。おにーちゃん」
「え、服はまだしも。風呂は」
何かをいいたげなこよみを手首に巻きついた鎖を持って、こいしが連行していく。