人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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37話 今日も月は、夜の闇にただ1人

 

 人々の悲鳴と嗚咽が狂想曲のように響いている。赤い霧に包まれた村の中で家家は倒壊し、炎に包まれた。助けを求める声が響いて、大きく家が崩れた瞬間に消える。誰も彼もが逃げ惑っている、逃げる場所などないのに。外には妖怪がいる。人間にとって、この村は唯一の安全地帯だった。

 そんな村で、炎と闇が衝突する。その中心には2人の少女がいた。1人は足まで伸びた白髪をなびかせながら腕に炎を纏って闇に向かっている妹紅。そしてもう1人が、身体から噴き出す闇を服の様に身体に纏ったルーミア。その瞳からは絶えず涙が流れており、うわごとのようにごめんなさいと呟いている。

 妹紅が一度空へと急浮上、全身に炎を纏うと急降下。一つの大きな火球が闇と衝突する。空気を焦がす炎と全てを溶かす闇。衝突は数秒続き、最終的には闇から火球が離れる。

 

「面倒な能力だな」

 

 炎をを解いた妹紅の足は無くなっていた。しかし、妹紅が自らの喉を手に持った短刀で掻き切ると血液が蒸発するほどその体が炎上し、その炎が消えた頃には妹紅の傷は跡形も無くなっていた。

 それを見届けてから再度闇が襲いくる。妹紅は業火で対応するが、徐々に押されつつある。そしてその理由に妹紅はすぐに気付く。

 1つはルーミアが妖怪であるということ。これだけの惨劇を生み出されれば人々は畏れる。畏れを集めれば強くなる。それが妖怪の本質。

 もう1つが人々が遠くに逃げた事だ。これまで人間を狙っていた攻撃が妹紅を狙っている。だが、ここで何処かに退避出来るわけではない。恐らく人間は村の外には出ていない。村の外には多くの妖怪が居る。いくら慧音がいたとしても守り切る事はできない。

 要は、妹紅はここでルーミアを止めなければいけない。しかし、苛烈になっていく攻撃は徐々に妹紅の業火を超えてくる。

 

「一手足りないな」

 

 現状妹紅の抱える問題は一つ。人手不足。あの闇に妹紅の攻撃は有効。しかし、ルーミアに届かせることが出来ていない。原因はあの闇の防御力の高さ。1vs1では炎が闇に溶かし切られてしまう。

 周囲を焼き切る勢いで燃やせば闇を突破できるかも知れない、が。ここは村。そんなことをすればどうなってしまうのかは想像に難く無い。しかし、全力を出さない限りはルーミアの闇を突破できそうきないと言うのも事実。

 

「一手欲しいだろ」

 

 空から声が響く。そこには深淵から湧き上がって来たような闇。慌てて妹紅は回避行動を取る。

 直後、二つの闇が激突、お互いにお互いを喰らい合う。しばらくするとその闇から何かが産み落とされる。産まれたての子供のように闇に濡れているそれは風に舞う絹の様に妹紅の横に降り立つ。

 そこにいたのは黒いフードを纏った誰かだった。ただ、そのフードはまるで生きているかのように空気の流れを無視して揺らめいている。

 

「アンタは......いや無粋か」

 

「あの時はありがとう。手伝ってくれるか?」

 

 顔を見せることはなく、ソレは静かに告げる。腕と足には何故か鎖が絡みついていた。闇そのものであるフードとマントを羽織ったその姿も相まってまるで獄中から抜けて来た罪人だ。

 

「こちらこそ、頼む」

 

 しかし、それを気にもせず妹紅は共闘を願い出る。その回答を聞いたフードは静かに頷くと再度口を開く、刹那2人を目掛け飛んできた闇を妹紅の炎が打ち消す。

 

「アレを倒せる様な技はあるか?」

 

「あるにはあるが、場所が悪い」

 

「なるほど。わかった。横に飛べ」

 

 フードの指示で2人は同時に横に飛ぶ。刹那、地面から闇が針のように飛び出す。

 

「なら、隙を作れるか」

 

「任せろ」

 

 少し距離があるためか、お互いに声を張る。対象が2人になった事もあってか闇の攻撃が分散し、処理が容易になった。今なら反撃もできる。

 妹紅は胸元から一枚の札を出すとそれは彼女の炎によって燃え尽きた。そして、彼女の身体もまた業火に包まれるそれを見送った誰かは呼吸を整えてルーミアをその相貌で捉える。

 

「パゼストバイフェニックス」

 

 業火は不死鳥を形取り、大地を焦がしながらルーミアに猛進する。大量の闇が応戦するが妹紅には届かない。いや、正確には届いている。しかし。その全てがダメージにはなっていない。いくら喰らおうともその不死鳥は死なない。その名の通りに。

 

「1人で勝てるんじゃねぇか?」

 

 誰かはそんな事を不平気味に呟き、祈り子のように両の手を重ねる。

 

「暗い、昏い、星月夜を喰らう。光は月光を守ることを選んだ。取り残された1人、私はたった一つの願いを告げる」

 

 詠唱の完了と同時に世界は急激に黒に染め上げられる。そこには取り残された一人ぼっちの月。そして月はその手を祈り子のように重ねる。

 

「闇に喰われた星月夜。光に飲まれた朧月。私はたった一つの願いを告げる」

 

 その詠唱によって少女の前に立つ誰かを鎖で繋ぎ止める。そしてそのフードを剥ぐ。そこにいるのは古明地こよみのはずだった。しかし、そこにいたのは。闇の中で光り輝く月だった。そして、その腕には先程繋いだはずの鎖がない。

 

「なんで......」

 

 そう呟いた瞬間その月が闇に溶ける。

 

「私は1人。願い続ける。全てを闇に帰した夜よ」

 

 その背後から、聞き覚えのある声で詠唱が完了される。突如として量の手足を鎖で繋ぎ止められる。

 

「こよみ......?」

 

「裁きを」

 

 静かな宣告が、闇の中に響く。

 精一杯振り返るとそこにはフードを翻しながら、急接近して来ている古明地こよみの姿があった。その髪は、月のように輝いている。

 

「ありがとう」

 

 刹那一閃。鈍い音が響き、闇が晴れる。そこにいたのは古明地こよみによってフードをかけられ抱き上げられているルーミアだった。その髪は、先程が嘘のように黒く染まっている。

 

 

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