人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 他者を、救済せよ

 他者を、救済せよ
 
 例え、


38話 紅霧

 

「アンタの方が十分強そうだけど?」

 

 闇の晴れた世界で妹紅がこよみを迎えた。その腕にはルーミアがおり、先ほどまでこよみが羽織っていたローブを被せられている。

 

「わ......俺にはあんな不死身技ない」

 

 苦笑いしながらこよみは周囲を見回す。その心に残っているのは後悔だ。村だった周囲は原型を留めていない。炭になり、闇に溶かされ崩れている。人がもう一度暮らせるようになるにはどれ程掛かるだろうか。

 何もかも、ルーミアをあの時すぐ戻って止めていれば起きなかった悲劇。

 

「ありがとう。おねーさん」

 

 驚いて振り返るとそこには見た目10歳程度の子供。

 

「......妹紅。ルーミアを頼む」

 

 その子供を無視するようにしてこよみはルーミアを妹紅に預ける。そして、重力に逆らい森の方へと向かって飛んで行く。

 

「おい、アンタ......」

 

 その背に妹紅が声を掛けるが、こよみは一切の反応を示さない。まるで何事も無かったかのように村の外へと消えていく。

 

        **********

 

 森を1人で歩くこよみ。その顔色は悪い。幽鬼の様な足取りで森の中を進んでいく。周囲に漂う赤い霧は未だに何なのかは分からない。ルーミアがああなった理由も。自分がどうしてこんな事になっているのかも。ただ、こよみはただ一つ理解していることがある。それは今は人間に会ってはいけないということだ。

 今のこの精神状態には思い当たる節がある。恐らくルーミアにあそこまで過度な同調を行ったためだ。ただ、あれ以外に打開策は無かっただろう。妹紅では火力が出しきれない。裂け目でルーミアを移動させるというのは現実的ではない上に、あんな大勢に俺の能力を見られる訳にはいかない。

 結果がこれだ。妹紅の後ろ、村の端から現れた人々を見た瞬間。衝動に駆られた。それは悪意、それは殺意。そして絶望的なまでの飢餓。

 人を見て異常に空腹なった。信じたくはないが、なってしまったものは仕方がない。咄嗟に村から逃げたから良いものの長居すれば今度は俺がルーミアと同じことをする所だった。そんな確信がある。

 

「お姉さん。辛そうね」

 

 木に手をつき、荒い呼吸を繰り返すこよみは慌てて振り返る。人間でないことを祈りながら。

 そこには1人の少女が立っていた。それは半袖の白いシャツと赤いドレス。頭にはナイトキャップを被っている。ただ、それは人間ではないだろう。その背にはねじられた枝のような翼が生え、装飾の様に七色の宝石が吊り下げられている。ただ、それは翼というには心許なく、装飾というにはあまりに生々しい。

 

「人間じゃないな。何用だ」

 

 身構えるこよみを見て、少女が笑う。ふわりと黄金色の髪と、背中に釣られた七色の宝石が揺れる。

 

「すごい敵意だね。でも私は貴方と戦う気はない。私はフランドール・スカーレット。幻想郷に住む吸血鬼にして、レミリア・スカーレットの妹」

 

 ドレスの端を掴みながら仰々しい挨拶をする少女。

 

「今度は吸血鬼かよ。何だ、血でも吸いたいってか」

 

 頭が痛いとでもいいたげにこよみは頭を抑える。そして、服に手をかけ、首筋を露わにする。

 

「へ......変態」

 

 その恥じらいを含んだ声にゆっくりと顔をあげるとそこには顔を真っ赤にしたフランドールがいた。ただ、その瞳は一心に首筋に注がれている。

 

「あー、そんな感じか。漫画で見たな」

 

 薄ぼんやりと、ここに来る前に来た漫画の吸血鬼が首筋を露出されると顔を赤くするシーンを思い出した。

 

「でもダメ。私はあの子からしか吸わないって決めてるの。浮気になっちゃうわ」

 

 目を瞑り、耐えている彼女を見て流石に申し訳なくなり、首筋を隠す。

 

「で、お願いって何だ」

 

 こよみは心に渦巻く憎悪に対して自らを騙して対応する。自分は怒ってなどおらず、腹も減っていない。人はただただ人であると。食べ物ではない。

 

「アイツを止めて欲しい」

 

「アイツ?あー、お前のお姉さんの事か。前に起こした異変を繰り返している上に様子がおかしいと。なるほどな。この霧はそれなのか。となると霊夢が村にいなかったのはそういう事か」

 

 一瞬何も言っていないのにも関わらず全てを仕立てたことにフランドールは疑問を感じるが、すぐに新聞で見た古明地こよみの能力を思い出す。

 

「それが同調。さとり妖怪と本当に似てるわね」

 

「そういう事だ。あんまり長話をしている余裕もなくてな」

 

 こよみの身体からは黒い靄が漏れ出していた。まるで内包する何かが限界に達したかの様に。

 

「一回離れてくれ。話はそれからだ」

 

 その声に応じてフランドールはその身体を浮かせる。背から生えている翼は飾りなのだろう。それで飛んでいる様な様子はない。あんな物で飛ばれても困るわけだが。

 古明地こよみは大きく深呼吸。拳を固めたところで止まる。そして、何を思ったか再度大きく息を吸うと身体から力を抜く。

 

「これでも良いわけか」

 

 自重気味に薄気味悪く笑ったこよみ。その身体からは靄は既に出ていない。

 

「もう。大丈夫だ」

 

 上空で飛んでいるフランドールを呼び戻し、こよみは少女を前にして再度問いを投げる。

 

「で、私の望みは叶えてくれるのかしら」

 

 その問いに、こよみは顎に手を当てて考える。何を考えているのかを理解できるのはさとり妖怪くらいのものだろう。

 

「まぁ、吸血鬼がどんな物なのか。それに関しては結構興味がある。ただ、俺の予想では博麗の巫女がすでに向かっていると思う。彼女は最強だと聞いているんだが、俺は必要なのか?」

 

「ええ。貴方は必要よ。何せ博麗の巫女では今回は力不足」

 

「なら、俺が行っても無駄だと思うが」

 

 博麗の巫女。それは聞いた話によれは最強の一角。地底で助けてもらった時にこよみは勝てる気がしなかった。もし、本当にそれで敵わないのであればこよみが勝てる道理はない。

 

「博麗霊夢は最強ではないわ。彼女が最強なのは結局のところ弾幕ごっこ。でもアイツが始めようと捨てるのは違うの」

 

 一体何を、こよみがそう聞く前に能力によって一つの回答が得られた。

 

「なるほどな」

 

 古明地こよみの手に入れた回答。それは、新しい世界。

 それを理解したと同時に舌打ちする。

 

「あぁ、俺はただ呑気に生きたいだけだったのになぁ」

 

 ぽつりとそんなことを呟く。それを聞いたフランドールがその手を握る。

 

「ごめんなさい。でも、貴方にしか出来ないことなの。もうわかってるんでしょう?」

 

「あぁ、わかってる。俺が何のために生きるのか。なんてな」

 

 古明地こよみは空を舞う。1人の少女を連れて。赤い霧で染められた幻想郷を。

 他者を救う。この幻想郷を救う。その行動の果てに何が待っているのか。それを明確に理解しながらも。

 

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