人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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誰も気づかぬ嘘があるならそれは真実となる。


39話 氷の妖精

 

 赤い霧に包まれた空を2人の少女が飛んでいる。眼下には広大な森が広がっていた。先ほどの場所からまだ数分。赤い霧は一向に晴れず、フランドールの話によればまだ目的地には時間がかかるらしい。

 そんな中、2人は特に会話することもなく目的地を目指していた。その気まずい静寂をこよみが破る。

 

「この霧毒とかないよな」

 

「貴方なら大丈夫。妖気が混ざってるから村の人間だと毒」

 

 衝撃的な真実に慌てて口を覆うこよみ。様々な死に方があるが、その中でも毒で死ぬのだけは嫌だった。ついでに溺死も嫌だった。

 理由は単純、辛いから。

 

「いや俺元人間なんだが。大丈夫なのか」

 

「実際今元気なら大丈夫」

 

 にこやかに笑うフランドールにこよみは一つため息を吐き、口から手を退ける。そして、その横を何かが掠める。

 

「なんだ」

 

 それは背後から飛んできていた。慌てて振り返ると今度は真下から何かが飛んでくる。咄嗟に避けるが間に合わず、腕を掠めた。それは、氷だった。ただし、その先端を鋭利に尖らせた氷。そして、流れ出るべき血はまるで時が止まったかのように凍結している。

 

「フランドール」

 

「簡単には行けないってこと」

 

「そうじゃなくて。こっちに寄ってくれ」

 

 こよみはフランドールを抱き寄せると右手の指を鳴らす。それに呼応して点々と空に光が産まれた。赤い空に星空が生まれる。

 そして、こよみの目配せひとつで、その星は眩い星光でもって地上を焼き払った。

 

「は......?」

 

 降り注ぐ光によって焼き払われた木々は炎上し、大地には穴が開く。逃げようと飛び上がった鳥はその羽を穿たれ地に落ちたのちに脳天を射抜かれた。生きようと森を走る狐の家族は子供が穿たれ、親が助けに踵を返した瞬間その手足を焼き切られた。

 その地獄にフランドールはただ絶句していた。しかしその様をこよみは心底不思議そうに見つめて言い放つ。

 

「何を驚いてるんだ。こうするのが一番早いだろう?」

 

「貴方......」

 

 見る限り、空に姿は見えない。上にも見えない。となれば眼下の森が一番怪しい。それは当然の帰着だ。だからこそ、古明地こよみは森を攻撃した。例えどこに隠れていようと終わりを迎えるように。

 しかし、その攻撃では死ななかったらしい。地上には巨大な氷が生まれ、攻撃から森を守っていた。その氷から1人の少女が現れる。空色のワンピース。腰まで伸びたラムネのような青い髪。背中には透き通った氷でできた翼が生えている。

 

「外の世界から来たってヤツね。最強の私が相手だ」

 

 腰に手を当てて立ち塞がるその少女を見てこよみは微笑を浮かべる。

 

「空飛んでるだけのやつを突然攻撃しておいて、正義のヒーロー面はキツいだろ」

 

「うるさい。私を、バカにする奴はみんな凍らせるんだ」

 

 こよみは集積した記憶を探る。たった一つだけヒットした。それはルーミアの記憶。彼女にとっては友達だったらしい。だが、記憶と少し風貌が違う。

 

「何が起きてるんだか」

 

 こよみは大きくため息を吐くと未だに抱き寄せていたフランドールを離す。

 

「そういえば、フランドール。お前は戦えるのか?」

 

「勿論。悪魔の妹と呼ばれる程度にはね」

 

「十分だな」

 

 正直能力も何もかもまだわからないし、知ろうとも思わないが。悪魔と呼ばれるのであればそれだけの何かがあるのだろう。

 

「なら自分の身は自分で守ってくれ」

 

 こよみは右手に光剣を携え、周囲に光でもって作られた武器を生成する。

 

「私の記憶のチルノと違うなぁ」

 

 ルーミアの記憶にあったチルノはもっと幼く、髪も短く、そして背には、氷のかけらがあった。朧げな記憶ではあるが、少なくとも、こんな竜のような翼だという記憶はない。

 

「あたいは会った事ないよ。古明地こよみ」

 

 チルノもまるでこよみを真似るかのように右手に氷でできた直剣を握り、その周囲を氷の破片が舞う。

 

「はは、俺のこと知ってるならいいじゃねぇか」

 

 そう言ったこよみが右手をかざした瞬間に氷と光が衝突する。お互いに動く事はない。冷静に相手の攻撃に対して自分の攻撃を合わせるだけ。

 

「まぁ、あたいの勝ちだけどね」

 

 突然チルノが右手を握る。すると、まるで内側から現れたかのように突如こよみの腕を氷の棘が貫く。運が悪いのがその腕が利き腕の右だった事だ。握っていた武器は地面に落下していく。それに驚いた隙を逃す事なく、突如こよみの周囲から氷の礫が現れる。

 

「これも記憶外だな」

 

 そう呟いたこよみの身体に殺到する氷の礫。氷の衝突音が響き、砕けた破片でその姿は掻き消える。

 

「正義は勝つのさ」

 

 勝ち誇ったように腰に手を置き、威張るチルノ。しかし、その状態でもなお礫はぶつけ続けていた。気付けばそこには巨大な氷が形成されていた。幾重にもぶつけられた氷によって内部は見えないが、生存が絶望的だろうという事は誰の目にも明らかだ。

 

「キュッとして」

 

 その様を見ていたフランドールは右の掌をその上にチルノが見えるように広げる。

 

「ドカン」

 

 その手のひらが握られた瞬間にチルノの体が砕けた。

 

「危ないなぁ。貴方も悪いヤツ?」

 

 しかし、チルノは砕けたまま話し続ける。そして、氷が集まったかと思うと再度身体を形成する。その影響でこよみにぶつかる氷の礫は止まったが、砕いた程度では致命傷にはなり得ないらしい。

 

「思った以上に面倒......」

 

「わかるー」

 

 あっけらかんとした声が響く。それは、氷の礫の中から聞こえてきている。

 

「まだ生きてるの?」

 

「閉じ込めたくらいじゃ死なないさ」

 

 苦笑する声が聞こえると同時に氷から闇が溢れる。氷の全てを飲み込んだそれが明けるとそこには古明地こよみだけが残っていた。

 

「やぁ」

 

 その右腕は既に何事も無かったかのように戻っている。

 

「ラウンド2と行こう」

 

 そして、軽々と宣言する少女のその髪は、月の様に輝いていた。

 

 

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