人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 自由とは存在しない。

もしあるとするならば、世間の全てを知らない赤子の手の上のみに存在する。

 故に無知こそが真の自由である。


40話 wind of fear

 

「ラウンド2と行こうか」

 

 宣言と共に、こよみの周囲に光の剣が並び立つ。まるで闇に飲まれるかの様にその髪は黒に戻っていた。

 

「今の......」

 

 何かに気づいてかチルノは呆然とこよみを見つめている。

 

「どうしたんだ。俺を倒すとかなんとか言ってただろ。まぁ、来ないなら。こっちから行くが」

 

 しかし、その宣言通りの行動はこよみには出来なかった。振りかざした手が地面に落下していく。

 

「は?」

 

 続けてもう一つの手が、次々胴体を置いて落ちていく。同時に走る激痛に備えて能力発動。痛みは騙したが、今はそれどころでは無い。

 腕のあった位置から血を地面に垂れ流しながら周囲を見回す。こよみの背後、その先に翡翠の髪を腰まで伸ばした少女が飛んでいた。

 

「クソが。今はタイマン中だろ」

 

 視線の先でその少女が手を掲げる。攻撃の種類すらわからない。闇で防げるのかは怪しい。この状況でわざわざ俺を狙うか。

 答えが出ると同時にフランドールを開いたスキマに蹴り飛ばし、自分の周囲を闇で囲う。

 しかし、その闇を何かは切り裂いた。咄嗟に上空に飛ぶが、回避が間に合わず両の足首が切断される。

 

「なるほど」

 

 地面に降りても走れない。出血は絶望的だが止める手がない。だが、攻撃できないわけではない。

 

「もう誰も見てねぇからな。お試しだ」

 

 今この状況で勝つにはどうすれば良いか。簡単だ。武器があれば良い。そして、俺はその武器を作る手段を持っている。何も手に持つ必要などない。なら。

 しかし、その思考は叫んだチルノによってかき消された。

 

「大ちゃん!」

 

 そう叫び、友人であろう大ちゃんと呼んだ少女にチルノが飛んでいく。少しずつ明瞭になってきたその姿は黒いワンピースに翡翠の髪。という合わない組み合わせ。

 

「?」

 

 こよみは一瞬思考する。何かがおかしい。何がおかしいかはわからない。ただ、自分ではない何かがおかしいと叫んでいる。

 その疑問符が消える前に。目の前を通り過ぎたチルノの翼が切り落とされた。小さな悲鳴と共に飛行能力を失ったラムネ色が赤を散らして落ちていく。

 すぐにチルノは翼を作るが不完全なためか飛び上がれない。

 

「は?」

 

 とっさにこよみは落下していくチルノを追う。しかし、手がない。その方法も、伸ばす物も。故に、追いついたとして救えない。スキマを使ってもあの速度を緩めない限りは助けることはできない。あの速度で地面に叩きつけられればただでは済まない。妖精であればその程度の傷は問題ないかもしれないが、そんなもしもで殺したくは無い。

 そして、こよみの視線の端に映る少女が再度手を振りかざす。防御不可、視認不可、回避も難しい。目の前には助けたいと誰かが叫ぶ少女。

 

「俺は......」

 

 こよみは自らを裂け目でチルノの前方に飛ばす。そして背中から落下するチルノを支える。勢いがついた翼が腹部に突き刺さり、臓腑をゆっくりと切断しながら後ろに抜ける。口からは止めどなく血が溢れる。こよみは一瞬顔を顰めるが、次の瞬間には再度裂け目で視界の遥か先へと飛ぶ。

 周囲に目を回すと鬱蒼と茂る森の中だった。ここであればすぐに見つかると言う事はないだろう。

 

「早く抜いて逃げろ。友達だかなんだが知らんが殺されるぞ」

 

 こよみは腹の上に翼を突き刺したチルノに告げる。

 

「なんで」

 

 チルノはゆっくりと翼を抜き、四肢が落ち、腹部から止めどなく出血している少女を見つめる。氷だったのが幸したか、臓物が溢れる事はなかった。しかし、誰の目にも限界だ。

 

「なんでだろうな。俺も知らん。ただ......生きて欲しかっただけだ。だから逃げろ」

 

 こよみの口から血が溢れる。しかし、それを拭き取ることが出来ず一瞬溺れるようにもがき、身体を横に倒す。

 

「そんな体で」

 

「それは大丈夫だ。俺はこれじゃ死なない」

 

 あろう事かその身体のまま空中へと浮き上がる。既に腹部の穴は塞がり。真紅に染まった服だけが残っている。

 

「毎回毎回これだ。たまには綺麗な服で行かせてくれよ」

 

 こよみはため息をつくとその周囲を闇が覆う。それが晴れる頃には服は新品のように戻っている。既に足と腕からの出血も止まったようだ。

 

「手も足もないのに勝てるの?」

 

「あー、どうだろう。ただ、あいつの攻撃に関しては思い当たる節があるし、なんとかなるんじゃないか。て事で続きは後でな」

 

 こよみは森の中にチルノを残し飛び立つ。何かを言われかけた気がするがその全てを無視する。その背には紅霧の中で光を反射する氷の翼が生えていた。

 

「こいつは便利だな」

 

 水中を駆ける魚には鰭があり、草原を駆ける馬には脚がある。では、空を舞う鳥には何があるか。それは翼だ。空で生きると決めた者たちの標準装備。ならば、空を飛ぶのにこれ程までに素晴らしい追加装備は他に無い。彼女の翼から変化を加え、まるで竜の様になった翼を羽撃かせる。その度にいつも以上に風が頬を切る。着想はあっちでやっていたゲームの竜から持ってきた。形も大方そんなものだ、あれは火を吐くが俺はきっと氷を吐くのだろう。

 ところで話は変わるが、鎌鼬という妖怪の話を聞いたことがあるだろうか。風というのは実際に妖怪となるほどに人々から畏れられた。現実でも車から外に手を出したら空気によって皮膚が裂けたなんて話も聞いた事がある。不可視故に不可避。それが風だ。だが、常に不可視というわけでは無い。

 

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