人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 愛とは狂気であり。

 狂気とは愛なのだろう。


41話 愛

 

 古明地こよみは森の上を飛ぶ。風を切り、ただ視線の先の湖を目指す。

 

「チルノちゃん?」

 

 その背後には、闇の様に黒く潰されたワンピースを着た少女。エメラルドの髪が、赤い霧の中で燻んでいる。そして、背には純白の翼。

 その全てを無視してこよみはさらに速度を上げる。

 

「なんで逃げるの?」

 

 ただ、逃げ切ることができない。それはこよみがまだ翼に慣れていないためか。ただ、力の差があるのか。

 

「逃げるんだ。そうやって。私はこんなにも愛してるのに」

 

 刹那、こよみは翼を畳み、地面へと急降下する。重力に置いて行かれた髪が突然切断され、赤い霧の中に混ざってこよみと共に落ちていく。

 

「洒落になってねぇな」

 

 速度では勝てない。湖に行けば策が無いわけではないが。十分な希望があるかと言われれば否だ。まだマシになるかもしれないと言うだけだ。 

 葉と枝の層を抜け。地面の足がつく直前で飛行を再開。森を飛んで距離を取ろうとすると左右の木が突然ズレる。まるで自らが切断された事に気づけなかったかの様に倒れていく。

 それを片目にこよみは森を抜ける。周囲で木々が倒れ、その大木が、枝が、彼女を襲うがその全てを無視して駆け抜ける。流石に視界を切れば当てられないのか運良く刃は当たらなかった。

 そして、視界が開ける。目の前に広がる湖に、こよみは飛び込んだ。飛行すると言う行為は止めないままに。

 湖に向かって大量の風が殺到するが、大きな飛沫を上げるだけでこよみには届かない。そして、当たらない。それが風であるならば、水中では可視化され、浮力によって速度は遅くなる。そんなものがこよみに当たるはずは無かった。

 

「チルノちゃん。溺れちゃうよ」

 

 空から湖を眺める少女はこれ以上の攻撃は無理だと判断。先の攻撃で濁ってしまった湖では水中の様子が分からず位置は把握できない。だから少女は待つ事にした。まるで恋人を待つ少女の様に。

 だが、ここで想定外の事態が起こる。既に水面は静まり返り、濁りすらも消え始めた。ただ、まだ上がってこない。

 頭の中に最悪の想像が浮かぶ。

 死んでしまったのでは?

 あれだけの怪我で水に入れば意識を失ってしまうかもしれない。でも、なら何故浮いてこないのか。何かに引っかかっている?なら助けなければ。

 ぐるぐると思考を巡らす。そして、一つの答えに辿り着く。もしこのまま死んでしまったら。

 その瞬間に体が動いた。彼女は私の最愛の人。それを自らの手で殺したとなればきっと。壊れてしまう。そう考えて、水面に近づいた瞬間。少女は溺れた。既に恋には溺れているが、少女が溺れたのは水だ。だが、別に落下したわけでも潜ったわけでもない。まるで意志を持ったかの様に水が少女を捕まえる。逃げようとどれだけ動いても水から逃れられない。次第に意識が遠のいていく。

 その先で見たのは、水面から上がってくる。知らない女だった。

 

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 水面から上がってきたこよみは水ごと少女を陸に叩きつける。その後にゲホゲホと水を吐きながら立ち上がる少女の顎を掠める様に拳を振るえば、少女は地面に倒れ伏す。

 

「一体何者?」

 

 どこからかチルノが現れる。その背の翼は先ほどの不恰好なものから、既に先ほどの様な整ったものになっている。

 それに対してこよみからの回答はない。ただ、一瞥した後にふらりと森に向かうと何かを吐き出す音がしばらくした後に帰ってきた。

 

「俺は...元人間。ここで呑気に生きたかっただけのな」

 

「貴方、何のつもりよ」

 

 森からもう1人。少女が出てくる。先ほど逃したフランドールだった。どうやら逃がされたのが不服の様で、不満げにこよみを見ている。

 

「悪いな。タイマンしたくてな」

 

 さも当然とでも言いたげに苦笑しながら言い放ったこよみを、フランドールは憎々しそうに睨む。

 

「私を守ったでしょ」

 

 それを聞いて、こよみは少し考える様な表情をする。

 

「否定しても無駄よ。最初から助ける気なら戦えるかなんて聞かないでしょ」

 

「否定はしないさ。ただ、俺は今こんなだけど」

 

 両手を少し広げてほら見ろとでも言いたげにシャツの上からでも分かるほどに、女になった身体を見せる。

 

「元は男で、可愛い子いたら目の前で傷ついて欲しくないんだわ」

 

「ッ。かわ......うるさい。次やったらアイツより先に貴方を倒す。わかった?」

 

 少し紅潮した頬を隠す様に一気に後ろを向くフラン。その動きに合わせて鞭の様に背中の枝の様な翼が空を切る。危うくそれが当たりそうになって避けるこよみの表情は死んでいた。

 

「ねぇ。」

 

 そんなフランドールを横目に、チルノはこよみを見つめる。その瞳には、彼女の表情が映っている。未だに水で濡れた髪。ただ、服は全く濡れていない。

 

「なんだ」

 

 こよみは大きくため息を吐くと。右手に光を集めて短剣を作ると。背中まで伸びていた髪を肩に掛からないところまで異常な切れ味でもって切る。水に濡れた髪が地面に落下する。

 

「何やってるの?!」

 

「なんだよ。元男に長い髪は少し邪魔なんだ。それに......いやなんでもない」

 

 こよみは右手を握るとガラスが割れる様な音と共に光の短剣が壊れて粒子となって消えていく。

 

「フランドール。あの館だろう。さっさと行こう。次は門番だ」

 

 こよみの視線の先。紅い霧の中。血で染められた様な紅一色で染め上げられた館が、まるで歓迎する様に、鎮座していた。

 

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