人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います 作:黒犬51
各々がさまざまな個性を持つ世界は素晴らしい。
ただ、その全てを混ぜた場合。
何が生まれるだろうか。
痛い。いたい。イタイ。居たい。会いたい。消えたい。
様々な感情が出ては、消える。まるで、モグラ叩きの様だ。違う点と言えば、出てくるのがモグラだけではないという事くらいだろうか。可愛い小鳥から人殺しまでより取り見取り。
定まらない自分の心に嫌気がさすが、その嫌気すらも別のものに置き換わる。
「だからもう。やめとけって」
ため息を吐く古明地こよみ。紅い館の中。赤い灯と赤い床、赤い天井を眺めるその手には銀髪の少女の首が握られている。豪奢なメイド服は大量の切り傷でボロボロになり、この館の様に赤に染められている。一方のこよみは、対照的に無傷だ。無感情に傷だらけの少女を見つめている。
「私はメイド長として、いえ。1人の人間としてお嬢様を守らなければならないの」
首を掴んでいる腕に、何処からか取り出した銀に輝くナイフを突き立てる。しかし、その刃はこよみに通らない。鉄を切ったかの様な音が鳴り、刃が折れた。
「どーでも良いよ。勝てないんだから諦めろ」
少しずつ、首を握る力を強める。その姿をフランドールは呆然と見ていた。
「殺すの?」
まるで、溢れた様に呟く。
「いや、リタイアしてもらうだけだ。人殺しは趣味じゃない」
そう言ったこよみの腕に上空から斧が振り下ろされる。それは正確には足だった。竜の刺繍が施された緑のチャイナ服に腰まで伸びた髪を持つ少女がこよみの腕をへし折った。大きな衝撃に思わず腕を離してしまい。その瞬間メイド服の少女が消えた。
「わざわざ起きてくるなよ」
パラパラと突き破られた天井から建物だった物が落ちてくる。先ほど侵入する際に門の前で爆睡していた少女を睨みながら腕を回す。
異常な方向に折れ曲がったこよみの腕はもう何事もなかったかの様に回復していた。
「こういう戦いなら私の方が得意です。咲夜さんはお嬢様に報告を」
こよみは、視界内には居ないが、咲夜と呼ばれたメイド服の少女は何処かに行ったのだろうと確信する。
そして、次の瞬間。その宣言をした少女の腹に握り込んだ左腕を叩き込んでいた。おもちゃの様に吹き飛ぶ少女は、壁に衝突する。ヒビは入らないものの、肉が叩きつけられる音が響く。
しかし、それだけの攻撃を受けて尚、少女は何事もなかったかの様に立ち上がる。
「なるほど。あの再生能力とそのスピード。厄介ですね。でも、時間くらい稼がせて貰いますよ」
「あぁ、確かにお前みたいなタイプ苦手だわ」
憎らしげに言葉を溢した刹那こよみの姿が消える。停止した時間の中で距離を詰め、拳を振りかぶり直撃する直前で時間を再度動かす。
絶対必中。回避不可。そんな攻撃は重ねた腕によって防がれた。
「正気かよ。どんな瞬発力だ」
「ネタはわかっているのでね」
こよみは防がれた拳を下ろす。そしてそのまま数歩下がる。天井だったもののを踏みながらゆっくりと。
「めーりんねぇ。漢字はよくわからないけど。君はきっと良い人だ。なら、少なからず俺が止めに来た理由も理解できるのでは?」
そんなことを言いながらこよみは周囲を見回し、西洋の宮殿にしか無い様な豪勢なソファーに向かう。上に散っている屋根だったものを払い、そこに腰掛けた。
そんなこよみにめーりんと呼ばれた少女は追撃をしない。ただ、見送った。
「ええ、わかっていますよ。ただ、それでも私は従わなければならない」
そして、めーりんは構え直す。それを見て、こよみは腕を伸ばし欠伸をする。まるでもう飽きたとでも言いたげに。
「俺としては、君に、フランドールとここで待っていて欲しい」
挙げ句言い放ったのはそんな言葉だった。めーりんと呼ばれた少女は呆気に取られる。
「そんなに驚くことか?君とフランドールは結構仲が良いらしいし。あまり目の前で傷つけたく無い。それに嫌いとか言ってるけど、俺はフランドールの姉と戦うわけだろ。多分お互い無傷では済まないだろうし。あんまり見せるのもねぇ。だからここで待っていてくれよ」
すらすらと、さも当然の様に少女の口は動く。悪い提案では無い。きっとソファーに座っている彼女に私は勝てない。時間は稼げると思っていたけれど、正直のところそれも怪しい。少しでも怯ませるために行っただけだった。
「もし嫌と言ったら?」
「君が勝てると思っているなら良いけど。俺、君を殺すよ?」
分かりきった答えを待っているかの様に。こよみは妖しく笑う。
「それでも、私は」
構えを取り直し、ソファーで寛ぐ少女を見据える。
「あー、わかったわかった」
ソファーで寛ぐ少女は、仕方がないと言いたげにため息を吐く。そして、その姿が消える。どんなトリックを使ってか、瞬きの間に構えを取っていた少女の真横に現れ、その耳元に何かを囁く。それを聞いた少女は何かを言おうとして、口をつぐむ。そして、構えを解いた。
「それで良いんだよ。て事でフランドール。ここでお留守番していてくれ」
優しく、柔らかく、朗らかに。こよみは笑う。ただ、対照的に、美鈴は警戒を緩めない。
「私も行くわよ」
「駄目です」
背を向けて歩き始めたこよみを追おうとしたフランドールを美鈴が遮る。
「なんでよ」
邪魔をするならどうなるか分かっているのかとでも言いたげに。フランドールは美鈴を睨む。
ただ、それでも美鈴は動かない。
「アレは妹様を」
何かを言いかけた美鈴。しかし、その声は館の奥から響く轟音によってかき消された。そして、メイド服の少女が飛んでくる。自分の意思ではなく、何者かの悪意によって。
「咲夜さん!」
美鈴はそれを受け止める。骨は折れていない。ただし、もう意識は無かった。先程見た外相以外に傷は見えない。
「貴方達。何してるのよ」
轟音の収まった館の中に紅白の巫女がついにやってきた。