人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います 作:黒犬51
いつか報われると信じて、
しかし、報われることはなかった。
故に私は、思うように生きる事にした。
冷たい石畳に囲まれた空間。ポツンと一つ置かれた玉座に、1人の少年が座っている。光る一つ刺さない暗闇の中で、ぼんやりと周囲の喧騒を聞いていた。
「うるさいな」
ぽつりと少年が溢すが、それを聞いてもなお周囲からの声は止まない。もし、それが歓声であれば気分が良いだろうが、それは喧騒でしかない。怒り、嫉妬、歓喜、羨望、まとまりの無い感情の乗った声。
その出所は彼が座る玉座のある空間の外側。この城は彼にとって一種の防壁だった。ただ、その防壁も正直なところはあまり意味を成していない。
「呑気に暮らすってのも。無理あるよな」
自嘲気味に笑う少年。しかし、それに対しての返答はない。ただ、延々と続く喧騒だけが嘲笑うかのように響く。
「いつか、慣れるだろ」
少年は玉座で目を瞑る。
***
そこは、幻想郷の村。人々がのんびりと過ごしていたはずの村。しかし、それは闇によって飲み込まれた。
そして、その闇を一つの炎と、一つの光が照らして消した。
だが、
人々の心の闇は、消せなかった。
多くの人間が闇に溶けた。所々で火の手が上がり、何かに溶かされたかのような穴が家家には空いている。
「あいつは何処に行った!」
怒号が響く。武器を手に、人間達が村を探す。
「絶対近くにいる筈だ。空を飛んだら撃ち落とせ!」
彼らの手には黒い機械が握られている。そして、運の悪いことに、その村に妖精が来てしまった。
腕には傷だらけになった友人を抱えている。ラムネ色のワンピースに、ラムネ色の髪。
「大ちゃん、もう大丈夫だから。もう人里に着く、そこで妹紅に永遠亭まで案内してもらおう」
腕に抱かれた少女が動かない。息はあるが、このまま待っていても埒が明かない。
「いったい何が」
人里からは黒煙が上がっている。所々、大地は抉られ、何かに削り取られたかのような人間の死体が転がっている。
「おい、撃ち落とせ!」
人間の声、一体何を撃ち落とすのかと周囲を見渡した瞬間。何かが爆発するような音と共に、足に鋭い痛みが走る。
何が起きたのか、それを確認する前に、身体を丸めて氷で周囲を包む。しかし、何かは容易に貫通し、体を貫いていく。
少しずつ、透明な氷が赤く染まっていく。
「すごい、すごいぞ。これなら俺たちも妖怪に勝てる!それにあの妖精はあの妖怪と仲が良かったはずだ。落とせ!」
「ごめん。大ちゃん」
氷の中で、1人の少女は庇っている少女を守るために、一際大きな氷を作り、自分は外へ。そのまま氷を残して、村の人間達に向かって飛ぶ。
すでにラムネ色の服は赤く染まっている。
「やめて、私達はただ永遠亭に行きたいだけなの。妹紅は何処?」
見た目だけで言えば、チルノは小学校低学年。そんな少女が血みどろになれば、少しは善意が痛んだのか。
それを聞いて、人間達は少し何かを話し合う。そして、村の外れの家を指差す。
「よかった。ありがとう」
上空から救いたい少女を下ろして、再度抱えてその小屋へと向かう。少し歩こうとして、足が動かないことに気付き、空をフラフラと飛んでいく。そして、その背に向かって、人間は、容赦なく、何かを撃った。
それは、チルノの足を容易に貫通し、地面に倒れさせる。
「なん...で」
地面に落としてしまった大切な親友を庇うように前に立ち上がり、人間達に向き直る。
「もう、許さない」
氷を使って、どうやって殺すか。チルノは思考する。ここでの能力の使用は強く止められている。ただ、それでも使わなければ殺される。
そうして、構えた瞬間に、人々の持つ、黒い機械のようなものから爆音が響く、氷を出す間もなく、足が貫かれ、腕が貫かれ、地面に倒れる。
「一体何が」
遠くから人間が走ってくる音がする。地面が温かい。このままだと死んでしまう。ただ、それでも、親友は守らなければいけない。地面を這いながら、親友に向かって進もうとする足を人間に掴まれて引きずられる。
「やめて!なんで!私は何も!」
「何もしていない?ふざけるなよ。お前らがいるから俺たち人間はいつも怯えて暮らしてるんだ。だが、それも今日で終わりだ」
1人の男が叫ぶ。その手には、黒い機械が握られている。
「手始めに、お前を使って俺たちの村を襲った妖怪と庇っている奴を殺す。それまで、お前には俺たちのストレスの捌け口になってもらう」
そういった男が、私の服を掴み、破る。血みどろになっている肌と傷が晒される。
「え......?」
ここで、何が行われようとしているのか。それに気づいた瞬間。恐怖が思考を支配する。
「いや...だ。こんな、やめて!私達は本当に何もしてない!」
必死に叫ぶが、その声は届かない。次々と服を破られていく。
「おい、人外も身体の作りは一緒らしいぞ」
下着を刃物で切り取られ、生まれ落ちたままの姿になった私を男達はゲラゲラと笑う。動けないように、四肢に1人ずつ男が乗ってその手で身体を弄り始める。
地面に転がされたままでも能力は発動できる。道連れにしてやろうと思った矢先。
「あぁ、そういえばお友達を助けたかったんだっけか」
胸を揉んでいた男が周囲の男に声を掛け、動けない私の横に、大妖精を連れて来させて、その頭に黒い機械を当てる。
「抵抗したらお前のお友達から殺すからな」
未だに目は開かないまま、無抵抗に引きずられて来た少女の服が、裂かれていく。
何も出来ない。目の前で友達が汚されていくのに。
「おい、こっちの方が物がいいな」
抵抗をしようとしても動けない。私が弱いから。
「俺はこいつでやるわ。あー、最近たまってたんだ」
男が醜悪に笑う。
あぁ、全ては私が弱い所為で、私が強かったら。
少女はそんな夢を願う。
しかし、急に覚醒なんて都合のいいことは起きない。
「ごめんね。大ちゃん」
「おいおい、泣くなよ。悪いのはお前ら人外なんだからな」
無抵抗で、目を瞑ったまま、親友が、自分が汚されていく。
「誰か...」
抑えられて動かないままに、首を回して周囲を見回す。当然人間以外には誰もいない。それに気づいてか、男に突然唇を奪われた。
「誰もこねぇよ」
あぁ、なんで私が、私たちがこんな目に。希望が消えていく。
舌を噛み切ってやろうかと思ったが、抵抗をすれば、親友が死ぬ。世界が色を失った気がした。まるで全てが他人事のように思え始める。揺らされる身体に走る痛みも遠くなっていく。
その全てが、遠くなる直前、咆哮が轟いた。
「は?」
刹那、風が吹く。それは一瞬で通り過ぎると胸の上に、人間の男の首が落ちる。続けて、噴水のように血を噴きながら胴体が首の上に落ちた。悲鳴と共に、人間が手に持った機械を構えて撃つ。爆音に周囲が包まれる。腹の上の物を退けて、身体を起こす。
そこにいたのは、黒いフードを被った人外だった。姿形は人間のように見える。しかし、その右腕は人のものではなかった。それは、何かを切り裂く為に生まれたのだろう。5本の鋭利な爪が蜥蜴のような鱗に覆われた腕から伸びている。背には左肩から黒い翼が生えている。それは蝙蝠というには大きく、言うなれば、絵本に出てくる竜の物に近い。
「なんなんだ!お前!」
人間どもは黒い機械から何かを放っている。しかし、全く効いている様子がない。フードは全く揺れず、ゆっくりと歩いてくる。それに恐怖して、人間達が散り散りになって逃げる。しかし。その人外から伸びた影が、大妖精に黒い機械を突きつけていた男の足を掴む。
「おい、ふざけんな!」
その男に向かって人外が歩き始める。
「ルーミア?」
少し違う気もするが、能力は似ていた少女が頭に浮かぶ。
「、)8(-769」
「え...?」
その口から発せられたのは言葉では無かった。何を言っているのか何もわからない。ただ、そんな思考は男の悲鳴で消される。
いつの間にか、黒い影は檻のように男の周囲を囲っている。そして、その柵から棘が飛び出して男の足を貫いていた。
「9^_^-2:-!-」
相変わらず何を言っているのかはわからない。ただ、一つわかるのは敵ではないということだ。
「やめてくれ、おい!妖精!なんでもする、だからこいつを止めてくれ!」
当然首を横に振る。その反応を見てフードの人外はもう一本棘を刺す。
「おい、俺を殺すのか?その意味はわかってるんだろうな。ここまで殺したなら博麗の巫女が黙ってないぞ」
人外の左手には人間が持っていた機械が握られている。違うのはその大きさだ。人間の機械よりも一回りも二回りも大きい。ただ、驚いたのはそこでは無かった。その手が、人間のものだった。袖が長くほぼ見えないが、機械を持つ手は肌色で、人間の物のように見える。
「)-)-、943)-^_^ー」34759?」
男の主張は間違っていない。これだけ殺せば、博麗の巫女は動く。
「/-697!-4-」
人外は右手に握った機械を人間に向ける。そして、次の瞬間、人外が炎に包まれた。業火が全てを焼いている。しかし、聞こえる悲鳴は、人間の男のものだった。身を焼かれているはずなのに、棘は男を貫き続ける。
「何してるんだ。お前」
炎が止まったかと思うと、地上には大地の焼け跡、無傷の人外。そして、空中には背中から炎の翼を生やした妹紅がいる。
「-&-」
「何言ってるんだお前。その人間を解放しろ」
まるで聞こえていないようで、次の棘が男を貫き、悲鳴が上がる。
「やめろって言ってるだろ」
大地を蹴る音が響き、人外の頭に蹴りが入る。しかし、それを入れたのは妹紅ではない。2つの角が生えた人外。人間の街で暮らす教師。
「慧音逃げろ。こいつは、おかしい」
蹴りが入ったが、人外は微動だにしない。引き続き、男に悲鳴をあげさせる。急所だけは避けた棘によって、男の身体は檻の中でオブジェのように固められている。
「助け」
そう言った男の口にいつの間にか檻の前にいた人外の手に持った機械がねじ込まれている。次に何が起こるのか。そんなことは誰にでもわかった。故に、妹紅と慧音が止める為に走る。しかし、無慈悲にも
街に響く銃声と共に、男は機械によって後頭部を爆散させられ、脳漿を撒きながら死んだ。
「お前!」
妹紅の業火が人外を襲うが、今度は当たらない。目を開くと、それは私の前にいた。
「え....」
何も言えない。何も出来ない。殺される。そう思った瞬間だった。頭を撫でられる。それは先ほどの凶行が嘘のように暖かい。
「あ、あり」
たった一つ、感謝を伝えようとした瞬間。目の前からそれは消えた。