人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います 作:黒犬51
生きるとは苦しみである。
ただ、それでも人々は生きようとする。
黒い黒い闇の中、悲痛な声を上げながら、1人の少女が蹲っている。それを1人の少年が見下ろしていた。
「さよならの時間だ」
頭を抱えて蹲り、叫ぶ少女の頭を1人の少年が撫でる。
「俺は弱いからさ。夢を捨てられなかった。だから、お前は呑気に生きろ。俺がこれを背負うから」
闇が閉じる。そこに光はない。闇だけが残る。うずくまる少女も闇に消えた。
*‘**
「さとり。ただいま」
見覚えのある景色、それほど長くいたわけでもないのに、懐かしいと思ってしまう。門の前には大量の死体があった。でも、もうそんな物で心は動かない。
胸を穿たれて虚な瞳で世界を映している妖怪の死体の上を飛び越えて扉を開けて館に入る。
「誰だ!」
扉を開けると共に、槍を持った死体が前方を遮る。エントランスの上からは見覚えのある少女が見下ろしていた。
「お燐か。久しぶり、元気そうで良かった」
少し笑う少女。それを見たお燐の顔は引き攣る。
「こ....よみ?」
「そうだ。戻ってきた」
一体何に顔を引き攣らせたのか。そんな事に興味はない。
「パルスィ、たしか嫉妬の妖怪だっけ、大暴れしたらしいけど、この感じだとさとりも無事かな。会いたいんだけど、大丈夫?」
「大丈夫だけど。その前に、何をする気だい?」
「大丈夫。傷つけるなんて事はしない。ただ、挨拶しにきただけだよ」
瞬きもしていないにも関わらず、こよみはいつの間にかお燐の横に立っている。お燐がこよみに怯えた理由。それは、その存在の異常性に、だ。
「一体何が」
「色々」
にこりとわらって、こよみは再度消える。
お燐の感じた異常性。
それは、こよみの存在。
こよみが何なのかが分からなかった。元は動物の彼女は他の妖怪よりも悟る能力に優れている。そこで感じたのは混合だった。どこか人間で、どこか妖怪で、そしてそれぞれが一つではない。地上の吸血鬼かと思えば、すぐに人間に戻る。
「さとり。ただいま」
「こよみ....?」
「そう」
養生中なのか、寝台で横になっているさとりの横にこよみは現れる。
「お帰りなさい」
「ただいま」
横になっているさとりの頭をこよみが撫でる。まるで宝物を撫でるかのように。
「見つけたんですか」
「そうだね」
淡々と、言の葉を紡ぎ合う。同調と読心。似通った2つの能力。2人の間に余分な言葉は必要ない。
「後悔は無いんですか」
「俺が強ければ無いと言い切れるんだけどね」
「なら」
何かを言おうとしたさとりの口にこよみの人差し指が押し当てられる。
「揺らぐからダメ。でも、ありがとう。俺って中途半端だから認められるって経験が少ないんだけど。さとりには認めてもらえた」
「そんな私のお願いでも駄目ですか?」
寝台に腰をかけて、こよみはどこか悲しそうに笑う。
「わかってる癖に」
一息ついて、少しの間2人を静寂が包む。お互いにお互いを悟っているからこその静寂、例え何を言ったとしても彼女の思いは変わらないという確信がそこにあった。
「はは、まぁ。そうだな」
その静寂に耐えきれなかったのか、こよみは笑って誤魔化す。そして、寝台から立ち上がった。
「でも少しは地霊殿にいるよ。もう何かがあっても守れるし」
そのまま、扉の方に歩いて向かうこよみの背中にさとりが抱きつく。
「びっくりした。どうしたのさ」
「このまま」
「俺は....」
何かを言おうとしたこよみは口を閉じ、心臓の拍動と熱をゆっくりと感じる。どれだけの時間だろうか、2人はそのままお互いを感じ合っていた。
「ありがとう」
「良いよ。減るものではないしな」
「少し、感情を隠すのが下手になりましたか?」
扉を開こうとしていたこよみの背に向かって、さとりが笑って投げかける。それを聞いた、少女の歩みが止まる。何を感じたのか。何を思ったのか。
「そうかもしれない」
背を向けたまま、少女はそうとだけ言い残して、部屋を後にする。見覚えのある廊下を歩く。血に塗れていた時が嘘のように綺麗に清掃されている。
少し歩いて、懐かしい自室の扉を開けると、そこには1人の少女が立っていた。
「穏やかじゃ無いな」
2人の死体がこちらに武器を構えている。その奥で、お燐が札を構えていた。
「何をしに戻ってきたんだい」
「家族のいる所に戻ってくるのがそんなに不思議か?」
淡々と、こよみは告げる。後ろ手で、ドアを閉めて黒いチノパンのポケットに突っ込む。まるで敵意はないと言いたげに。
「あんたを試す。表に出なよ」
しかし、お燐は静かにこよみを視界に入れ続ける。敵意は解かない。前とは何かが違う。その確信を持って。
「わかった。行こうか」
窓から2人は空に向かう。未だに血肉が散っている町の上を飛び、砂漠に降り立つ。
「あたいと勝負しな」
お燐は降り立つと少し離れた場所に降りたこよみに告げた。それを聞いたこよみは眉ひとつ動かさずに口を開く。
「弾幕ごっこか?」
「そうだよ」
「スペルカードとか使ったことないが。まぁ良いか」
胸元を探るが、こよみの探していたものはそこには無く、大きくため息を吐いた。
「と言っても、殺す気だけどね。猫符 キャッツウォーク」
そう宣言した瞬間、地面から腕が伸び、こよみの足首を掴む。そして、動けないこよみに向かって赤く光る槍のように尖った弾幕が殺到する。
「そうか」
大量のの弾幕が砂を巻き上げていく、周囲が砂煙で見えなくなり、砂煙が周囲を包む。そのまましばらくして、お燐は大きく息を吐き、撃ちやめる。
風が吹き、ゆっくりと砂煙が晴れていく。そこには、無傷のこよみが立っていた。その足にはまだ操っていた死体の腕が残っている。それを腕で掴み、こちらに投げて来た。少し手前でそれは落ちる。
「弾幕ごっこのルールも知らないの?」
警戒を解くことなく、次のカードを準備する。
「当たっていないから問題ない」
あの攻撃を動かずに避けた?お燐は思考を走らせる。確かに、避けることが前提の弾幕であえて避けないことが最適解とする弾幕を使う事はある。ただ、あれは違う。避けなければいけない弾幕だった。
「嘘だね。あたいは騙されない」
ただ、弾幕が当たった様子がないというのもまた事実だった。弾幕ゲームは申告制ではない。当たれば、撃った側にわかるようになっている。
その感覚はない、ただ、避けれる筈もない。
「もう、体力切れだろ。引き分けにしよう」
あまりにも撃ちすぎた。妖力が減ったことによって視界がボヤける。その燐にこよみはゆっくりと歩み寄ってくる。その体から溢れる力は未だに歪んでいる。人間が見ればただ、歩み寄っているだけだ。だが、妖怪にはそうは見えない。そして、それをお燐以外に確認していた者がいた。
「何してるの?」
「お空」
空から、巨大な黒い鴉のような翼を持った少女が降り立つ。それを見て、お燐の表情が固まる。