人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います 作:黒犬51
「いやー、良い人だった」
あの後勇儀と少し話したが本当にいい人だった。分け隔てなくいろんな人に平等に接している者というのはたまに居るが本当にすごい才能だと思う。人にはみんな才能がある。世界に同じ人は二人としていないし、同じ事ができる人間もいない。全てが別だ。それは全て才能という者で区分されているのだろう。
「彼女はとんでもなく強いですから。それ故にどんな能力を持っていようが恐れる必要がないんです」
今はさとりと共に地上に出る場所へと向かっている。勇儀は他の妖怪に飲みに誘われて少し前に去っていった。
「そうであったとしてもだよ。自分が強いと大抵それに酔っちゃって傲慢になったりするもんさ。でも勇儀は違った。それだけでも良い人間だったという証明にはなる。まぁあの一瞬で理解したっていうのは傲慢だけどね」
「そうですね。ただ、今のあなたなら傲慢ではないんじゃないですか?」
ふと能力を思い出す。まるで自分が一般人のように語っていたが、もう違っていたのだった。今は、能力を持った人間だと言えるのかわからない物。
「確かに、今の俺なら傲慢ではないかもね」
ただ、それは........自分がもう絶対に外に帰れないということの証明になってしまう。こんな能力を持った人間はあちらにはいれない。それを理解する前ならばきっとそうはならなかったが、今となってはもう、隠すことを意識してしまう。
もし隠し通すことに成功したとして、それはとても.......生きづらいだろう。
「そうなんですよね。能力を持っている。それを理解した瞬間もう外では暮らせなくなるんです。彼らはおそらくあなたを許容できない。人間は弱い種族です。自らが危険になるような可能性は排除する」
「そうだよね。知ってるよ。でも大丈夫。俺はここで暮らすってもう決めたから。そこに二言はないし、復讐でここを壊そうなんてことも考えてない。ただ、自由にここで生きていこうと思ってる。だからそんなに警戒しなくていいんだよ。俺が生きていけるのはもうここしかないんだからさ」
古明地さとりに人の心が読めるように、こよみは人の心を調べることができる。そしてどちらもそれを隠す術は持っていない。彼女たちの会話は真実しか内包できない。だからこそ、古明地さとりは彼女の言葉が真意を隠していることに気づいていた。
「貴方、騙す能力は使わないんですか?」
但し、こよみに関しては騙す術を持っている。これを使えば恐らく古明地さとりを欺くことは容易いだろう。そうなればこよみだけが一方的に心を調べることができる。
「うーん。正直使いたくなくてさ。こう見えて結構いい奴でありたいと思ってるから他人を騙すのは本当に必要な時だけにしたいなって」
「というのは嘘で?」
こよみが苦笑する。そう、嘘も誤魔化しも通じない。これが決定されたこの二人の関係性。お互いに本音で話す他ない。彼女が何かを隠したいとそう願うまでは。
「いやー、折角隠してたのに。もし、本当に騙したくなったときに疑われちゃうからだよ。必要な時に使えないと困るからね」
「合理的ですね」
そうかな、とつぶやいて周囲を見渡すと町はすでに抜けかけて、周りには砂漠が広がっていた。
「少し飛びますよ、ここからは少し危険なので」
さとりに同調し、ふわりと身体を浮かせる。先ほど飛んだおかげか想像以上にスムーズに飛ぶことが出来た。自分の思った方向へ、まるで鳥のように移動できる。空から飛んで見下ろす世界というのは砂漠と言えど、新鮮だった。
その後は特に会話もなく、ただどこかを目指して飛ぶさとりの後を追った。時折、砂漠から不自然に砂が吹き上がったり、何かが移動しているのであろう砂ぼこりが舞い上がったりしているのが見えた。大きさ的にも尋常ではないものがこの砂漠の下にはいるらしい。
「もし、一人で来るようなことがあっても絶対にここは上を飛んでくださいね」
「明らかにやばいのいそうだもんね」
視線を上げるとそこには巨大な穴。目を細めると先に少しの光が見える。なるほど、これを登れば地上という事だろう。空を飛べるかの確認はここを浮上する際に必要だったからと。空を飛べなければこの高さは登れないはずだ。
「地上楽しみだな」
先行して地上を目指すさとりを追って光へと向かう。一体どんな世界が広がっているのか。それを考えるだけでとても楽しい。ここに来てから起きることは全て新鮮だ。
「貴方、純粋なのかそうじゃないのか」
「同調なんて能力あったら純粋ではいられないでしょ」
当然、全ての人間が悪人だったわけではない。心の底からいい人間もいた。だが、大抵の人間はそうではなかった。人は基本的に悪人で、そこに稀にいい人間もいる。それが彼女の得た結論だった。
「君が新人?」
気づくと横に並走している少女がいた。空を飛んでいる分足音がないので意外にもかなり接近されるまで気付けなかった。茶色のワンピースにこげ茶のリボンで団子のようにまとめられた金髪。恐らくは人間の類ではないだろう。
「どーも、古明地こよみです」
さとりが停止しなかったので上へと飛び続けたまま会話を続ける。それに合わせるように少女もついてくる。
「私は黒谷ヤマメ、よろしくね!」
最初の印象は元気な女性という感じだ。内心も大体同じような物。この世界の妖怪の心は調べてきたが、表裏があまりないと言う印象を抱いた。見えてしまう人間からすればかなり生きやすい。
「にしても地上に何しに行くの?お祭りとかあるっけ?」
「ないですよ。彼女はまだ霊夢さんに会っていないので一応挨拶に行こうかと思いまして」
「私もまだ会ってないんだけど....」
ヤマメが少し不満げに告げるがさとりは気にしていないようだ。不自然に飛び出している石を避けながら光を目指す。
「地底の人々は彼女が生きていれば勝手に会いますしね」
「それもそっか。それじゃまたね」
ヤマメは飛ぶのをやめて落ちていく。止まったわけではなく恐らく落ちている。一瞬死んでしまうのではないかと救う方法を考えたがヤマメが手首から白い糸のようなものを出してどこかの蜘蛛男のように移動して行ったのをみて安心と共に驚いた。
「えぇ....スパイダーマンじゃん」
「彼女は大蜘蛛という妖怪ですから。ところで体調が悪かったりしませんか?」
「大丈夫だよ。下はあんまり見れないけど」
昔から若干の高所恐怖症なのでこの高さから下を見ると少し怖い。だが、自分で空を飛べる今その恐怖はそこまで大きくは無かった。
そのまま彼女たちは地上へと向かっていく。所々に生えた危険な石を避け、数十分するとついに地上へと出た。そこに広がっていたのは緑。人間に手をつけられていない自然の姿だった。不思議と空気が綺麗に感じる。眼下に生い茂る木々と大きな山。少し先には地下で見たような町が見えた。空は晴れ渡っていて、所々にある雲が風に乗って流れている。
「おお....凄いな」
外の世界にもこのような場所はあるのだろう。だが、そこに行くのは簡単ではない。言語の壁、金銭面、時間。いい意味でも悪い意味でも人間は何かに縛られている。何かをしたい、でも時間がない、それを買うお金がない、行ってみたい場所はあるが言葉が通じない。全ての物事には壁があり、それを越えられるかどうかでそれの可能不可能が決まる。だが、人間はその全てを可能にすることはできない。圧倒的に、時間が足りない。人が満足に動ける60年程度で自分のしたいこと全ては行えない。
「そうですね。でも長く生きるというのも簡単な話ではないですよ。貴方ならわかると思いますが、時間があるということはそれだけ嫌なこと、他人の醜い場所を見る機会も増えるわけですから」
「そうね。ただ、それだけ良いこともあるかも知れない。どっちが多いかなんて俺は知らんけどね」
「人によるでしょうね。ただ、貴方の能力と、貴方の下した決断からすれば。どちらかと言えば」
「この話はやめよう」
こよみが何かを言いかけたさとりを遮る。まるで子供が苦手な野菜から目を背けるように。
嫌な事を思い出した。人間は醜い。そう決断するに至った数多の事象がフラッシュバックする。倒れる人を気にもせず通り過ぎていく民衆。人間は、自分が一番好きなのだ。本来足りない時間をより有意義に過ごすためならばなんでもする。その結果、他人が傷つこうとも。どうでもいい。
だから、だからこそ。
同じ人間である自分も、どこまでも醜悪で、残酷で。
「やめた方がいいですよ。それに貴方は」
「あんたが最近来たっていう外来人か!なぁ、外の世界のことを教えてくれよ」
何かを言いかけたさとりを遮るようにして一人に少女が現れた。いったい何を。
「ココとは全部違うしなんともね」
細かく見るまでもなく魔女だろう。一般に魔女の服と言われる白黒の服を着て、ダメ押しに箒に乗っている。肩の少し下まで伸びた金髪が日光を反射し輝いている。感情は興味に満ちていて、純粋で、まるで子供の様だ。
「色々聞かせてくれよ」
「魔法はないね。あとは、凄いでかい建物が多くて地面はほぼ全部舗装されてる。土なんてなかなか見れないよ」
かなり郊外に出ない限りはあの世界にはここまでの自然はない。どこもかしこも人間が手をつけ、変えてしまっている。立ち並ぶ巨大なビルと固い人工物。そこに自然の面影はない。
「さとり妖怪もいるのか、最近はちゃんと外に出てるのか?」
「いいえ、あまり必要もないので」
さとりは無愛想に笑うこともなく静かに告げてはいるが、この魔法使いへの負の感情は調べられない。恐らく悪いやつではないんだろう。
「ところで名前なんていうの?俺は古明地こよみ」
「一人称俺か。見た目と違って男勝りだな。私は霧雨魔理沙、この幻想郷最速の魔法使いだぜ」
たしかに見た目は本当にただの少女になっているので一人称が俺というのは少しおかしいかもしれないが、今更20年近く使っていたものを変えるのは大変だろうし面倒だ。
「外では男だったからね。ここに来たら女になってた」
「それは初めて聞くなぁ。色々実験してみたい」
「パスで」
実験されるのはお断りだ。何をされるのか分かったもんじゃない。外ならば薬を打たれるやら、解剖やらだろうが、彼女は魔法で実験してくるだろう。恐ろしいことが起こる気がする。
「まぁ、気が変わったら教えてくれよ」
残念そうにそう言って魔理沙は箒に跨ってどこかに飛んでいった。最速を名乗っていただけある様で一瞬にして消えて行く。どんなに頑張ってもあの速度は今のところ出せなそうだ。
「行きましょうか」
「嵐みたいなやつだったね。行こうか」
眼科に広がる広大な自然。所々から聞いたことのない生物の鳴き声がするが恐らくは妖怪の類なんだろう。
飛んでいると確かに下を見るのは怖いがそれ以上に爽快感があった。地底ではそれほど感じなかったが、空の下を乗り物に乗るわけでもなく飛ぶというのは前から吹き付ける風と、見える景色の二点から圧倒的に異なるものがある。
「あれです」
さとりの指差す先には山の上に建てられた赤い鳥居と境内。大きい神社では無いが神社だと認識するのに困らないサイズがあった。
「あそこに巫女さんがいるんだよね」
「そうですよ。気が狂っても戦おうとはしないでくださいね。確実に勝てないので」
「俺はそんな戦闘狂じゃ無いよ」
そんな冗談を交えながら境内へと降り立つ。特に特別な点はない。境内では一人の巫女が箒を持って掃除をしていた。
「さとりじゃない。彼女がその外来人?」
少し訝しげにこよみを見る巫女服の少女。
「男と聞いていたんだけど」
「俺もそうだと思ってたんだけど気づいたら女になってた」
スカートをひらひらとさせながら苦笑いを浮かべる。彼女自身もその理由はわからない。男に戻りたいと言った様な欲も無いが理由は気になっている。
「まぁ、そんなこともあるのかしらね。とりあえずようこそ幻想郷へ。私はこの博麗神社の巫女。博麗霊夢よ、最強だからこの世界で変なことしない様にね」
「挨拶が怖いな。俺は古明地こよみ。地底に引き篭もると思うしそんな会うことないだろうけどよろしく」
恐らく自称最強には偽りがないんだろう。調べても嘘は見つからない。それどころか自信に満ち溢れている。こう言う人間が壊れてしまった時というのが一番怖いのだが、それ程までに強いのであれば大丈夫だろう。
「たまには出てきなさいよ。私結構暇だから歓迎するわ」
「それならまだ来て2日とかだしここに慣れたらお邪魔するよ」
「挨拶も済んだことですし河童のところに行きましょうか」
「そうね」
軽く霊夢に手を振って先に飛んださとりの後を追う。
「今更なんだけどさ。なに隠してる?」
先ほど何かを言いかけたとき、魔理沙が来たというのもあるのだろうが。それ以上に言おうか言うまいか悩んで言わなかったといったような感じがした。もし、これで何もないならそれに越したことはない。だが、今思えばこの物語は最初から全てがおかしい。俺が生きているのは現実だ。ヒーローが現れてすべてを救ってくれるような創作物ではない。これは夢でないのなら、俺をわざわざここにさらった理由があるはず。未だに俺はそれを知らない。世界はすべてに理由があって、自分に理由もなく幸福が起きる時は大抵裏に凄惨な現実が待ち受けている。
「聞きたいですか?」
「多分それが俺にとって大事だしね」
空から彼女たちを見守る太陽は一切表情を変えずに大地を照らす。眼科に鬱蒼と茂る木々は時折吹く風に揺られ葉を落とす。空を渡る雲はどこかも分からぬ果てに意味もなく流されていた。