人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います 作:黒犬51
貴方の人生は、どのような物語ですか。
「八雲紫。お久しぶり」
そこにいたのは、ひらひらと手を振りながらにこやかに笑っている古明地こよみと名付けられた1人の少女になった人間。私は寝台に寝かされているようで目覚めた私を見て、藍と橙が少し離れた所で泣いている。
「どれくらい寝ていたのかしら」
「俺はわからない。式神に聞いた方が良い」
彼女の発言に一瞬違和感を感じる。長い間寝ていた体はまだ完全には起きておらず、その理由には気付けなかった。
ただ、ぼんやりとそれに従い、式神に目を向ける。ただ、その回答が来る前に、こよみが口を開く。
「でだ。賢者さんに頼みがある」
「はい?」
彼女は何も言っていない。しかし、その考えが流れ込んでくる。私がいない間に幻想郷に何があったのか。そして、彼女がどうやってそれを解決しようとしているのか。
「まぁ、ざっくりとこんな感じだ。あとはそっちも好きに動いてくれ、おれを邪魔しないようにな」
そう言って、こよみはスキマに消えていく。
「確かにこれは私の望み.....ただ、これでは」
式神が駆け寄ってくる。しかし、八雲紫の心は暗い。既に、消えていったこよみのいた場所を眺める。彼をここに引き込んだのは私。そして、その結末を望んだのも私。ただ、それは、こんな形で迎えると思っていたものではない。
八雲紫は、何も、彼に不幸になって欲しいわけでは無かった。
「私は......」
その身を焦がすような罪悪感に苛まれながら、八雲紫は式神に抱擁を返した。
***
「お帰りなさい」
「ただいま」
スキマを使って、地霊殿の自室に戻る。少しずつ見慣れてきた。やけに豪華なベットと、優雅なシャンデリア、一つ置かれた円卓には、昼にどうぞと渡されたお菓子が置いてある。
「どこに行ってたんですか?」
「あー、野暮用でちょっとね。何事もなく終わった」
未だに少し慣れない豪奢なベッドにさとりが腰掛けている。
「なら良かったです」
にこやかに笑うさとりは恐らく心を読んでいない。読まれても問題ないように対策はしているが。それは信用なのか、諦観なのかはわからない。
「そういえば、明日地底でお祭りがあるんですよ。一緒に回りませんか?」
祭り、地底の祭りはあの祭囃子の一件であまり良い思い出は無い。ただ、興味がないかと言われれば嘘になる。外にいた時は、そう言ったことに赴こうともしなかったし、誘ってくる友人も居なかった。祭りに行くくらいならゲームをすると、そんな輩ばかりだった。
ただ、俺はそんな環境が、そんな輩とゲームをするのが好きだった。この世界に来て、八雲紫にゲームを頼んだのもその為だ。あいつらとはもう出来ないとしても、その思い出に縋りたかった。
ただ、そんな想いは心に隠し、さとりに告げる。
「祭り。楽しそうだけど、俺結構殺して回った過去あるけど大丈夫なのか?」
懸念点はそこだった。地底の妖怪は俺が殺した過去がある。もうすでに復活済みというのは聞いているが、それでも殺された相手を多少は恨んだりするかも知れない。
「その点は大丈夫です。彼らにとって死は身近なので」
「身近って言っても殺したってのは罪の意識がな」
すでに罪の意識なんてものはわかっていないが、気づけばそんな言葉を漏らしていた。ただ、それが自分の本音なのかはいつも通り分からない。
「こよみ。少なくとも貴方を恨んでいる者は少ないですよ。あのままであれば、事態はもっと悪化していたでしょうから」
それは否定のできない事実だ。俺が何もしなければ、状況は悪化の一途を辿っただろう。ただ、もし、俺が違う方法を取っていれば。
もしかすると、殺さずとも気絶させることが出来たのではないか。
もしかすると、先にあの音源を止めることが出来たのではないか。
全ては結果論で、イフの話だ。考えるだけ無駄ということもわかっている。ただ、どうしても考えてしまう。
より良い選択があったのではないか、と。
「貴方は優しいですね」
心を読んだのであろうさとりが、悲しそうにこちらを覗き込む。いつの間にやら寝台から立ち上がり、正面に立っていた。
そんなさとりを見て、はっきりと言い切る。
「いや、これは優しさじゃない。自己保身だ」
これは自己保身。もし俺が、あの時、ああしていれば、今より苦しまなくて良かったのに。これが俺の思想の原点だ。
こうすれば傷つく人が少なかったなんて綺麗なものではない。
反吐が出るほどの自己愛からくる保身の為の思考回路。
「こよみ」
突然さとりに抱きつかれる。
「さとり」
「私達のような。心あるものの醜悪を知る者は時にそう思います。ただ、これだけは覚えておいて下さい。最後に貴方の人生がどうであったかを決めるのは貴方ではありません」
心を読める者は、その真意を気にしてしまう。表面ではそう言っていても、その真意はこうだとわかってしまう。しかし、多くの人にとって、表面こそが真意である。何せ、実際にどんな思いで言っているかなどわかりはしないからだ。故にわざわざそんな事は考えない、相手のしてくれた事、相手の言っている事を受け止める。
時にそうでないものもいるが、心を読める者たちからすればそれは滑稽でしかない。本来はわかりもしない情報を、真実だと思い込んでいるに過ぎないからだ。
「あぁ、そうだな。ならこれは、俺とさとりだけの秘密だ。俺の行為だけ残るのであれば、俺の人生がどうなったかはもう確定している。だからさとりだけは知っていてくれ」
ゆっくりとさとりを抱き返す。
古明地こよみは、もう本当の家族の元には帰れない。帰る家はここにしかない。
それは残酷であるか、彼という元人間の人生でもある。