人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います 作:黒犬51
苦しいと理解しながらなぜ生きる。
「私の能力でチルノが攫われた?」
こよみに起こされてすぐに、藤原妹紅が訪問してきた。そして、現れるなりチルノが私の能力で攫われたと言う。まずはその者の特徴などを聞き出して、私は考え込んだ。
目の前では毛を逆立てて怒っている橙がいる。
「紫様はずっと眠っていたんです。そんなことできない!」
「いえ、これは私の責任よ。私の仕業出ない事は真実だけど。私の能力を使われたのは事実」
ただ、私は淡々と事実を告げる。あれは、私を眠らせたあの少女による物だろう。恐らくチルノを攫った者の背後にはあの少女がいる。こよみを攫った時、彼女は私の能力を使っていた。
その数日後、橙は無事に我が家に帰ってきたらしいが、その時には私は眠っており、藍と2人で看病をしてくれていたと言う話を聞いた。
「ただ、危惧すべきはそれだけじゃないわ」
人里に現れて人間を殺した人外。それは藤原妹紅の火力でも一つの傷もつけられなかったという。ただ、私が最も警戒しているのは、人間が銃を使ったという事。銃は外の人間の武器だ、なぜそれが入ってきているのか。あの武器が忘れられる事など無いはずなのに。
「チルノはどうでもいいのか」
妹紅は私の発言が気に障ったようで、立ち上がり、机を叩く。それに私は少し謝る。背後から、藍が殺気を出しているので目配せをして橙と共に下がらせる。
「残念ながら。場合によってはチルノが消えた事よりも危機になりうるわ。話を聞く限り、あの人間が使っていた武器は、外の世界で今も利用されている武器。銃と呼ばれるものよ」
「銃...?なんでそんなものが」
「理由はわからない。ただ、銃があれば、人間は簡単に妖怪を殺せるようになる。そうなれば、もう畏れる事がなくなってしまう。私が危惧しているのは、これよ。畏れとは妖怪にとって存在を証明するもの。それが無くなれば妖怪の力は弱まり、幻想郷の均衡が崩れる」
「でもなんでそんなものが急に」
「おそらく、幻想郷に銃を持ち込んでいる奴がいたのね。その出所を掴まない限り、脅威は無くならない。それに、そんなに都合よく忘れるものかしら、人間もその武器があれば畏れなくてもよくなる事を分かったでしょうし。騙しているという可能性もある」
静寂が場を包む。妹紅も人里の人間を思い出して何も言わなくなった。古明地さとりのような能力を持っていない限りは、人間が嘘を吐いたかなどわかりはしない。
「それに、貴方の攻撃を受けて無傷の人外も気になるわ。発生した事案全てが無視できない物なのよ」
そして、人外だ。藤原妹紅の攻撃は幻想郷でも屈指の火力を誇る。人里のため多少は火力を抑えたとしてもそれで無傷なのは気になる。
「それは...確かにそうだな。悪かった。少しカッとなった」
「いえ、教え子を襲われたのであればその反応が正常よ」
やはり、問題点が多すぎる。ただ、人外に関してはどうしようもない。チルノが攫われた場所の特定もこの幻想郷どこかだろうというのは想像がつくが、見つけるのは現実的ではない。なら、心を読めば解決できる人里の問題から片付けるのが得策。
「それは、さとりではなく。俺がやろう」
突然、最初からいたとでも言いたげに。少女の声が響く。
「...こよみ?」
部屋の隅に、気付けば彼女はいた。音も気配もないもなかった。
「いつ入った?」
「いつでも入れる」
そんなくだらないことを聞くな。そう言いたげにこよみは苦笑する。
「ただ、聞いたところは銃で間違いない。俺も実物は撃ったことがないが、ヤバい武器だという事は知ってる。この世界の構造としても存在してはいけない武器だ」
本当に話を、想いを全て見透かしたかのような発言に私はゾッとした。私が眠っている間に彼女、いや彼に何があったのか。起きてから一度会ったとはいえ、この在り方はもう人間のそれではない。
「とりあえず。俺が対応する。紫には、人間の記憶を一部消すなんて芸当が出来るやつが幻想郷に居るのかを確認して欲しい。妹紅は、人里で人間を守ってくれ。妖精とはいえ、被害を受けた時点で妖怪が黙っているとは思えない」
それじゃ。とだけ言い残して、こよみの姿が掻き消える。
「は?」
正しく消えた彼女。それに妹紅は動揺する。そして、1つ呟く。
「なぁ、あいつがここに銃を持ち込んだんじゃないか?」
「それは可能性として否定できないわ。ただ、それは無いと思うわ。メリットがないはずよ」
「確かに、メリットはない。だが、人間は時にメリットなんて考えずおかしな行動をする」
古明地こよみ、彼女であれば確かにこの世界に銃を持ち込むことができるだろう。ただ、そんなことをするメリットがない。彼女は古明地さとりの家族だ。幻想郷の破壊は、、ここまで考えて思考は止まる。
破壊しても、さとり妖怪は生きていける。
ただ、そうであったとしてもメリットはない。
「何にせよ私は村に戻る。あいつの言っていた事は正しい。妖怪が恐怖から人間を襲ってもおかしくはない」
「えぇ、わかったわ」
手をかざし、人の村までのスキマを開く。闇の中から覗く幾つもの目が白髪の少女を歓迎して、消えていった。
部屋に藍と橙が入ってくる。そして、聞き耳を立てていたのであろう藍が自らの主人に意見する。
「私も、古明地こよみはやっていない。と思います。ただ、確実にやっていないとも言えないのが現実です。彼女は歪すぎる」
歪。それは今の彼女を表すのに最も適した言葉だろう。様々な思いが存在が、常時渦巻いている。
「ただ、私は彼女、いや彼を信じるしかないと思うわ」
私の出した結論はこれだ。彼は私に信じろと言った。
そして、先ほど会った瞬間に感じた。彼はもう、止められない。