人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 時は誰も待ってくれない。


52話 時は進む

 

「おい、何だあいつは」

 

 星々の煌めきが届かない暗黒からそれは突然現れた。一対の漆黒の翼。全身を覆う黒い鱗に、黒い鉤爪、宇宙の闇が生んだ黒い龍。

 その前に数匹のウサギの耳を持った少女が立っている。

 

「龍....?何でこんなところに」

 

【特段理由など必要ない】

 

 鈍く光る赤い瞳、その口が少し開いたかと思うと声が聞こえた。それは、男の声だった。しかし、女のものでもある。

 無理もない。それは実際には音を発していない。10人に聞けば、10人が違う回答を出す。それは、何か声とは別の手段で声を届けている。

 

「最強の月に挑んだことを後悔させてやる」

 

 一斉に各々が、獲物を構えて龍に襲いかかる。しかし、その攻撃は通らない。正確には、その直前で全てのウサギは気絶した。あるものは絶叫し、あるものは恍惚の声をあげて血を濡らしている。あるものは怒声をあげて味方に襲い掛かろうとした所を味方に止められる。

 

「一体何を」

 

 絶望の表情で竜を見上げるウサギの前で、光が竜を焼き尽くす。

 

【ただでは、いかないか】

 

 右手に刀を持った少女、扇子で口元を隠す少女。2人が月にそびえる建築から飛んできていた。

 

「お前はもう終わりだ。あのお方に勝てるわけがない」

 

 先ほどまで絶望に歪んでいたウサギ達の表情が希望で満ち、喝采が上がる。それはまるで、既に勝利を確信したかのような。

 だが、すぐに静寂は訪れる。光が徐々に翳り、漆黒の闇が漏れ出し、光を打ち消した。そして、その中から黒竜が現れる。

 

「効かないか」

 

 薄紫の髪を後ろで纏め、漆黒のワンピースを纏った少女と、純白のワンピースを着た亜麻色の髪の少女が竜の前に立ち塞がる。

 そして、亜麻色の少女の手に持っている扇子が竜に向けて振るわれる。

 

【通してくれるだけで良いんだがな】

 

 突如、竜の周囲を突風が舞い地面のウサギが宙を舞う。

 

「通すと思うのか?お前のようなやつを」

 

【仕方ないのか】

 

 竜は吼える。宇宙に輝く星は、それを拒絶するかのように光を消していく。そして、最後その光が月を照らした時、そこにいたのは異物だった。そこにあってはいけないもの。この世界にあってはならない物。

 

「なるほど。行きます」

 

 刹那、闇を掻き消すように、少女の刀が光を灯す。そして、一筋の残像を残しながら、それを強襲した。煌めきは、闇を穿ち、瞬きの間に裁断した。細切れになり、地面へと向かうそれは、闇に溶けていった。

 

【あぁ、噂通りのチートか】

 

「結局こんな物か」

 

 つまらない。そう言いたげに、少女は刀を納める。そして、その表情が絶望に歪む。振り向いたところにあったのは、突然生まれた木に埋められた姉の姿だった。

 

「は...?」

 

 そして、その姉が何かを伝えようと口を開いた瞬間、その中に木が生物のように入り込んでいく。その瞬間助けようと木に切り掛かるが、それを邪魔するように木が前を塞ぐ。目の前では姉が嗚咽を上げながら涙を流している。

 絡みついてくる木々を打ち払い、姉の口から入る木を切断し引き抜こうとした瞬間。姉の腹から飛び出した木に腹部を貫かれる。

 出来てしまった穴から徐々に木が侵入してくる。体内で異物が蠢き、激痛が走る。それでも手を伸ばした先の姉からは、木が生えていた。

 眼球のあった部分から白い花が咲いている。ただ、その脈は生物の物のように赤いものが流れている。

 

「そん....な」

 

 その言葉を吐いた瞬間に口から木が飛び出し、眼球に突き刺さる。

 そして、そのまま意識が落ちた。

 

「一体何をしたのよ」

 

 目の前で突然妹が苦しみ出したかと思うと、地面へと落ちていく、慌ててそれを追って地面にぶつかる直前で掬い上げる。

 そして顔を上げるとすでにそこには何もいない。

 

「まさか」

 

 妹を地面に起き、背後にそびえる館に飛んでいく。失敗した。既に侵入された。だが、一切の悲鳴も喧騒も聞こえない。

 少なからずまだ兵は居たはずだ。あんなものが侵入したとなれば少なくとも誰かは反応する。

 

「一体なんの目的で......」

 

 慌てて地面で警備にあたっている兵に声をかける。

 

「何かが侵入しなかった?」

 

 兵士たちは顔を合わせる。

 

「いえ...先ほどから侵入者への警戒を行っていましたが、何も見えませんでした」

 

「そう...」

 

             *******

 

「やぁ」

 

「あら、貴方は見た事がないわね」

 

「そりゃそうだ」

 

 少年の声で苦笑が聞こえる。しかし、そこには何もいない。空には昼にも関わらず、広がる星々と、不自然に浮いた大地。その上に、ポツンと一つ建っている家屋の外で、椅子に座った女性が何かと話している。

 

「にしてもよく来れたわね」

 

「場所さえわかれば来れるのさ」

 

「そう。で、もう用は済んだのでしょう?ここには誰も来ないから、もう少しゆっくりして行ったらどうかしら」

 

 少しの間、風の音だけが流れて、突然と男が現れる。まるで最初からそこにいたとでも言いたげに。

 黒いパーカーに黒いチノパン、その辺りを歩いていそうな素朴な顔。

 

「そうだね。こんな機会もないだろうし」

 

「あら、意外と素直」

 

「失礼だな。俺は純粋無垢な男の子だよ」

 

「それだけは無いと思うけど。良いわ、幻想郷はどうだった?」

 

 男が指を鳴らすと何も無い場所から椅子が現れる。そして、そこにゆっくり座る。

 

「良いとこだ。感動すらしたよ」

 

 青空に瞬く星を男は眺める。そして、何かを想うように目を瞑る。

 

「だからその道を選ぶのね」

 

 少し間が開いたのちに少年から笑みが溢れる。

 

「その通り、世界は常に大勢の幸福と少数の不幸によって成り立っている。だからこれで良いのさ」

 

 女は何も言わない。2人の間に風が何度か吹いたのち、男が立ち上がる。

 

「あら、もう行くの」

 

「あんまりに長居するとね」

 

「そう。ならさようなら。ヒーローさん」

 

「そんな良いもんじゃ無いさ」

 

 男はそれに対して一言だけ残し、再度消える。再度訪れた静寂。瞬く星々の間から1人の少女が落ちてくる。

 

「あら、クラウンピース。今日も元気ね」

 

 ゆっくりと、だが確実に時間は流れていく。

 

 

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