人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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もしも、


55話 泡沫に揺蕩う

 

 真っ直ぐに、さとりと共に街に戻った。祭囃子といつも以上の喧騒、度々破壊された家は修復され、町人たちは想い想いに楽しんでいる。中央を流れる川を背に酒を飲み交わすもの。屋台で料理を作るもの、それを食べるもの。

 

「平和だな」

 

「こっちが日常ですよ」

 

 こよみはそれもそうかと笑う。さとりの経験でも、あんな事件はほぼ無かった。少し伸びをして、街を歩く。こいしとフランはこの祭りを楽しんでいるだろうか。

 

「こよみ。お酒でも飲みますか?」

 

 振り返るとさとりの手には鬼つぶしと書かれた一升瓶が握られている。

 

「良いけど、何処から持ってきたんだよ」

 

 外の世界で売っていた日本酒の安酒かと思ったが、よく考えれば名前が違う。冷静に考えればあれはまぁまぁまずい名前だ。特に実際に鬼がいる世界だと。

 

「貰いました」

 

「貰えるもんなのか......」

 

 そういえば、ここは色々サービスが良かった。各々がしたいと思ったことをしている関係で、金なんてあってないような物なのだろう。

 

「ただ、さとりは強いのか?明らかに強そうな酒だが」

 

 少し不安そうにさとりをみると徐に蓋を開けた。その様を呆然と見ているとさとりは一回深呼吸して、そのまま瓶をひっくり返し、口に流し込んだ。

 

「は?ちょ、一体何して」

 

 突然の奇行に慌てて日本酒の瓶を取り上げる。

 

「妖怪はみんな強いんです。人間とは違うんですよ」

 

 だからって急にそんな飲み方をしなくても、と思った言葉をねじ込んで。そうか、と笑う。

 

「何してるんですか?次はこよみの番ですよ」

 

「はい?」

 

 思わずそんな声が出る。外でもそんなにお酒に弱いわけでは無かったが、あの量は流石に問題有りだ。度数なんて知らないが、名前からして恐らく日本酒。となれば度数は大方10%は超えている。

 

「お酒は嗜むものであってそんな水みたいに行くものでは」

 

「うるさいですね。それっ」

 

 話している途中の口に突然瓶が突き立てられる。そして重力に従い、液体が流し込まれていく。口に入った瞬間に鼻をつくアルコールの匂いで、この量を飲んではいけないものだと理解した。想定していた日本酒なんかよりもずっと強い。慌ててさとりの手を掴んで口から離した時にはもう遅かった。酔うには十分すぎる量が流し込まれている。

 

「そっちは妖怪かもしれないけど。俺は微妙なとこなんだぞ」

 

 酔いが回っている時特有の水の中に入れられて無限に浮かび続けるような、そんな感覚。自分を騙すにしても騙す自分の理性が酔っていれば意味が無い。こんなところで弱点に気づきたく無かった。

 

「意外と弱いんですか?良いことを知りました」

 

「たまに出るその小悪魔は何なんだよ」

 

 頭を振ったりしながら酔いから覚めようとするが、そんな事に意味がないのはわかっている。

 それを見ているさとりは顔色ひとつ変えていない。そのまま残った酒を全て飲むと手を引いて街を歩き始めた。

 

「どこに行くんだよ」

 

「お店ですよ」

 

「マジかお前」

 

 こよみはそのまま手を引かれて街の中に消えていく。だが、その表情は暗く無かった。まるで、懐かしい過去、もうきっと訪れることのない思い出に浸るように。

 

 

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