人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 運命とは、自らの選んだ分岐点に過ぎない。


57話 狼煙

 

 スキマを利用して飛び出したこよみが見たのは、地獄だった。大方、射命丸から調べられた通りだ。鬱蒼と茂っていたはずの木々は焼かれ、周囲からは花火のような音と混ざって悲鳴が聞こえる。何よりもひどいのは、明らかに木ではない何かが焼かれた臭いだ。

 

【世界は純粋であり、生物は廻天する。狂い果てた世界は切断する他ない】

 

 耳鳴りというには明瞭に聞こえすぎた呪詛にこよみは周囲を見渡すが、誰もいない。ただ、銃声と硝煙が漂っているのみだ。

 こよみは、苛立ちを含んだ表情のまま地上に降りる。そこでは複数名の妖怪が人間と戦っていた。ただ、劣勢なのは妖怪だ。周囲を囲まれ、人間が何かを放つ度に妖怪が1人、また1人と倒れていく。

 

「銃...?」

 

 撃ったことはない。ただし、その破壊力は知っている。人類が敵を殺すために作った武器。火薬の推進力で飛来する鉄は容易に強靭な肉体どころか、軽い走行程度であれば容易に貫く。だが、そんな銃がなにかといった話は、今となっては問題ではない。

 問題は、なぜ銃がこの世界にあるのかだった。

 ただ、そんなことをのんびりと考察する時間的余裕は、こよみにはあっても襲われている妖怪にはない。

 地上めがけて急降下。風を巻きながら突然現れたこよみに銃を持った人間は目を見開くが、すぐに銃口を向けてくる。

 

「なんか使い慣れてるな」

 

 こよみが吐露した瞬間に、3,4人の人間の銃が音を鳴らす。その瞬間に世界が止まる。

 

「これでもギリか」

 

 眼前まで銃弾が迫っていた。恐らく被弾しても、致命傷にはならないだろうが、当たらないことに越したことはない。

 後は、処理だけだ。停止した時間の中で、一人を残し、銃弾を放った人間の眼前にナイフをおいて、少し押す。

 色を取り戻した世界が一斉に人間を処理した。たった1人残された人間を掴み、目を合わせる。突然赤く輝いた彼の瞳を見た人間は奇声をあげて銃口を自分に向けて自殺する。

 

 情報は取れた...が...

 

 意味のわからないことが多すぎる。こよみは疑念を抱きつつも、再度飛翔し、妖怪の山の頂上へと向かおうとして切り返す。頭を過った1人の河童と名乗った空色の少女、その安否を確認しなければいけない。

 助けた妖怪たちが何か言っているのを、全てを無視して少し飛び、スキマを通って消えた。

 ただ残された妖怪達は肩を寄せ合って震えている。まるで、追い詰められた人間のように。

 

「河城、いるか」

 

 こよみは山を流れる小川の横に現れた。無事であって欲しいという思いはあるが、小川が桃色になっているあたり厳しいかもしれない。ただ

、それが諦める理由にはならない。

 少し昔に調べた記憶を頼りに河城にとりの家を目指す。その間にも、周囲からは人間か妖怪か、どちらのものかはわからない悲鳴と銃声が響いている。

 小川の上流に少し飛ぶと洞窟にぶつかった。入り口には何かに潰されて肉塊となった元生き物と機械だったのであろうものが落ちている。

 恐らく機械は河童の物だろう。調べた所だが、河童は技術が進んでおり、機械を使えるらしい、であれば先の妖怪ほど簡単に殺されることはないだろう。想定される最悪が起きなければ問題ないはずだ。

 だが、こよみが洞窟に入ろうとした時、背後から声を掛けられ、背中に冷たいものが当たる。

 瞬間時間を止めて振り返る。いたのは犬耳の生えた少女。気付かぬうちに背後に回られた

 

「誰だお前。いや、椛か」

 

 バックラーのような盾に椛のマークがあるから椛と言うわけではないのか。そんなことをぼんやりと思う。少なくとも敵ではない。

 

「私は初めましてですが。貴方は?」

 

 相変わらず、武器をこちらに向ける椛を不思議そうに見つめた後、少し考えてこよみは頭を抱えた。

 

「すまない。初対面だったな。俺は、古明地こよみ。射命丸から聞いていると思うが、外来人だ」

 

 それを聞いてもなお、椛は警戒を解かない。

 

「私は犬走椛。白狼天狗です。貴方はここに何をしに?」

 

 軽い自己紹介を済ませて椛は向けていた太刀を背に納める。

 

「射命丸から情報をもらって助けに来た。一体何があった?人間は妖怪より弱いと聞いていたが」

 

「私も分かりません。急に人間があの武器を持って攻めてきた。すでに多くの仲間が死にました。私達とあの武器は相性が悪すぎる」

 

「なるほど。確かにその太刀が武器なら厳しいな」

 

 あえて武器については口にしないことにした。現状俺は無関係の上、あの武器がどうして入ってきたかもわからない。無駄に知識をひけらかせば、妙な疑いをかけられる可能性がある。

 

「となると人間を先に削った方が良いか。だが、妖怪としても人間を殺しすぎると不味いんだろう?」

 

「元人間何でしょう?よく知ってますね」

 

「元人間ってだけで今はもう妖怪だしな。知っておかないと」

 

 妖怪は人間からの畏れがある限り復活できるが、人間が減れば相対的に畏れも減り、復活も遅くなるか、最悪復活自体が出来なくなる。これはこの世界において人間を一定数保つ意味でもある。

 

「何にせよだ。まずは今いる妖怪の安全を確保したい。河城はこの洞窟の中か?」

 

「そうですね。この中です。少し怪我をしているみたいですが」

 

 そこまで聞いて時間を停止。こよみが白黒の世界で動く。理由は単純。人間の追手が迫っていた。ただ、驚くべきはその武器だ。拳銃ではない。もうそれはスナイパーライフルだった。

 犬走のはるか後方300メートル。木々の隙間からトライポッドで銃を固定し伏せた人間がこちらを狙っていた。犬走りを抱えて洞窟の中へ。充満する血の匂いからして、明かりがなくとも何が転がっているかはわかる。一本道を右へ左へ進んだ先に見覚えのある少女がバリケード越しに同じ青い作業服をきた少女と向かい合っている。

 その横まで進んで能力を解除、世界が色を取り戻す。突然現れたこよみに驚く河城と未だ状況が把握できていない犬走。

 

「ここもダメだ。今から地底へのスキマを開くから一旦逃げろ。俺は可能な限り妖怪を助けて地底に送る」

 

 答えを待つことなく、2人を押し込んでスキマを閉じる。不気味な目が閉じたのを確認してもう1人の河童に向き直る。肩まで伸びた白髪には見覚えがあったが、同調で正面の少女が何者か、こよみは確信していた。

 

「どういうつもりだお前。これもお前が原因か?」

 

「悲しいですね。今回私達は関係ありません。逆に驚いているんですよ」

 

 警戒を強め、周囲に武器を展開するこよみ。妖力によって生成された様々な武器が暗がりを照らす。

 

「なら別の質問だ。池底の音楽による暴走。あれをやった理由は?」

 

「貴方のためですよ。別に質問するのは良いですね。ただ、申し訳ないけれど、私が犯人ではない以上早く解決させた方が良いと思いますよ」

 

 妙な説得力のある言葉だった。実際、音楽は聞こえていなかった以上、こいつの能力ではないのは確かだ。

 

「急がないと、手遅れになりますよ」

 

「お前はいつか必ず捕まえる」

 

 こよみは吐き捨てるように言い残し、スキマに消えた。

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