人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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なんのために生まれてなんのために生きるのか。


58話 硝煙

 地上には相変わらず地獄が広がっていた。綺麗だったはずの空気は硝煙鉄の匂いで満ちている。人が、半獣の妖怪が各々風穴や刺し傷を受けて赤い塊となって転がっている。

 正直なところどうすればいいかわかっていない。こよみは地上の惨状を眺めて顔を歪める。これを見て辛いと思うだけの環境はまだあったらしい。

 だが、今はそんな感傷に浸っている時間はない。俺としても、こよみとしても。

 考えられる手は大きく2つ。1に人間を殺すこと。これは可能だろう。ただ、相当数の人間が敵対している以上、それをすれば幻想郷に悪影響が出る。できれば取りたくない策だ。2つ目は可能な限り地上の妖怪を地底に逃すこと。これもできるだろうがどれだけ救えるかわからない上に、そもそも地底に送って良いのか。という問題がある。地底は忌み嫌われた妖怪の居場所だ。それを壊すことに成りかねない。

 

「記憶を操作する能力でもあれば話が違うんだが」

 

 そんな言葉を吐き捨てるが、俺の知る限り幻想郷でそんな能力を持ったやつに会った事はない。つまりは俺もそれを使えない。

 

「一旦、八雲紫か」

 

 こよみは踵を返すと隙間を開き場所を変える。そこは花畑だった。そしてその中央には一つの家が立っている。幻想郷の賢者、こよみが知る限りはもっともここに詳しい女、八雲紫の家だった。

 ただ、八雲紫はそこにはいなかった。いたのは花畑の中央、そこで静かに何かを考えている。

 

「八雲、どうする。人間を処理するか、妖怪をどこかに逃すか。お前には策があるんだろう?」

 

 八雲紫が知らないわけがない。それを確認した上での発言。

 

「ええ、一旦白玉楼に逃して頂戴。場所は私を調べて」

 

 永遠に咲かぬ桜。眠りについた親友。深々と積もる雪。バラバラと様々な感情と情報が流れ込み、こよみは場所を把握する。

 

「了解した」

 

 しかしこよみは戻らない。それを見た八雲紫が手に持った扇子で口を元を隠す。

 

「あまり聞きたくないが、優先順位はあるか。これからは、戦争になると思う、キーマンは抑えておきたい」

 

「そうね。なら、貴方の知っている人は何があっても助けて貰おうかしら」

 

 それが誰か聞くまでもなく理解したこよみは頭を抱える。

 

「それに神社から離れても大丈夫なのか?それに俺は嫌われてるが、仕方ないか」

 

 こよみは振り返り姿を消す。1人取り残された八雲紫はいなくなったこよみの背につげる。

 

「あなたの結論はそれだったのね」

 

 目的ができれば仕事は早い。救うべきは巫女、八雲紫は神よりも巫女を優先するように伝えた。

 それがなぜかも理解した。確かに、この展開であれば救うべき面子だ。それに人間は何も妖怪の山だけを襲っている訳ではないらしい。今となっては幻想郷は地獄と化した。選別をしなくてはいけない。俺は全てを救えない。

 誰かを救うとは誰かを救わない事になる。救済とは、そういうものだ。

 

【本当に?】

 

 頭が痛い。最近多くなった。何となく理由はわかっている。他人を調べすぎだ。過度な情報は人を壊す。少しは耐性があると思っていたが俺も限界が近いらしい。

 境内へつながる階段でこちらに銃口を向ける人間の腑を作り上げた光の刀で切り裂く。白かった剣が返り血で赤く染まる。そのまま、人間に前蹴り。まるで冗談のように後方に吹っ飛び、木に衝突。スイカのように体液を散らして弾けた。

 

「ここか」

 

 本来であれば、直接スキマで飛びたかったが、何故かできなかった。だが、実際にこうしてみると理由がわかる。神のご加護と言うやつだろう。何か薄い膜のようなものが貼られており、人間から放たれた銃弾を弾いている。

 だが、これでは俺も入れない。境内の中では背まで伸びた緑の髪を持つ巫女服の少女が、祈りを捧げている。

 

「なるほどあいつが。だが、神はどこに行ったんだ」

 

 こよみが結界に対して攻撃している最後の1人の腕を落とす。悲鳴が上がるがまるで炉端に落ちている珍しい石を見たかのように一瞥するだけで結界に向き直る。

 一旦これで安全になった。だが、境内の少女はこちらに気づいていない。それに結界と言うらしい障害物も解除される気配もない。結界内に直接スキマで入ることも考えたが、何故かできない。恐らくはこの結界は外部からの侵入を完全にシャットアウトするものなのだろう。全力で破壊を狙えば壊せないこともないだろう。フランドールの能力を使えば恐らく一瞬だ。

 しかし、そのあとが怖い。結界がある以上は人間も入って来れない。つまりはあの巫女の安全ということになる。壊せば人間の侵入を許すことになる。

 だが、だからと言ってこの場を放置して行くのも怖い。恐らくこれは無限ではないからだ。いつまで持つのか、そもそもあの巫女がそのタイミングで解除するのか、それがわからない。外部から巫女に同調できれば良いが、それもできない。

 

「なんでそんなに守っていると思う?」

 

 突然背後から声を掛けられ、こよみは咄嗟に振り返る。そこにいたのは本来この結界の内側にいるべき神だった。

 小さな体に一対の目玉がついた帽子を被った子供の見た目の少女と、背に丸く整えた注連縄を背負った女性。どちらも戦闘後のようで服には返り血がついている。

 神が外にいる以上、巫女の狙いは自己防衛だろう。恐らくは神による指示だが、いや何かが。

 こよみが何かに気づいて構えると同時に、その腑を何かが貫く。

 

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