人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 幻想郷に流れ込んでしまった銃。それによって蹂躙される妖怪。目の前には神の姿の何か。古明地こよみは何を救うのか。


59話 キャパシティ

 

 腑から出たものが、地面に落ちると同時に世界が止まる。静止した時間の中で、力無く地面に倒れる。そして、激痛に歯を食いしばりながら妖力を全開にした。すぐに肉が焼けるような音と共に、肉が生え、臓物が形成される。残ったのは傷ひとつない肌だ。

 

「ふざけんな...」

 

 目の前にいるのは、間違いなく神。あの時に会った神だ。それが二柱、どちらも敵意をむき出しに目の前に立っている。おそらく会話は出来ない。同調も停止した世界では出来ない。だが、停止を解除しても同調する隙がないだろう。おそらく解除の瞬間に攻撃が飛んでくる。

 逃げるか。と一瞬考えるが、そては出来ない。なぜなら、この神が巫女の味方かわからないからだ。味方であれば、俺が逃げ切れば話は終わる、だが、敵だったら。おそらく結界は破壊され、巫女も殺される。

 

「時間切れか」

 

 苦虫を潰したような状況で空を仰ぐ。仕方がない。勝てる可能性は、未知数だがやるしかない。

 決意と共に世界が色を取り戻す。刹那周囲に武器を展開して急上昇、追ってくる正体不明の黒い触手を叩き落としながら距離を取る。まるで舞を踊るように避け切って、最後に回転しながら手に取った槍を投擲、狙いは小さい神、当然といいたげに身を逸らして躱される。しかし、神が避けたはずの槍は消えたかと思うと眼前に現れる。確実に仕留められそうな一撃だったが、神の眼前でそれは止まってしまい落下、光の粒子となって消えていく。

 能力がわからない以上、下手なことは出来ない。あのメイドの様に、即詰みとなる能力持っている可能性もある。

 そんな事を思考するこよみの視界の端で見覚えのない光と共に熱が肌を焼く。咄嗟にスキマで移動するが、一緒に流れてきた溶岩で足を焼かれた。少し家に飛びあがろうとした瞬間、黒い何かに足を掴まれ、地面に叩きつけられる。骨が砕けた音がする。体が動かない。直ぐに直して起きあがろうとするが、まだ脚に黒い触手が絡んでいた。

 そのまま空中に吊り上げられ、幾度も地面に叩きつけられる。

 

 腕の肉が裂けた。

 

 治した。

 

 痛い。

 

 足の骨が砕けた。

 

 治した。

 

 逃げたい。

 

 腹から出てはいけないものが出た。

 

 治した。

 

 痛い。

 

 眼球に医師が突き刺さった。

 

 痛い。何も見えない。

 

 治した。

 

 頭蓋が砕けて脳漿が溢れた。

 

 痛い。

 

 治さないと死ぬから治した。

 

 俺がここで死ねばどうなる。この神らしきものは誰が倒す。

 能力の出力を上げる。自分に他人を重ね合わせる。幾度も使って感覚は掴んだ。おそらくこれが本当の古明地こよみの能力。

 少しずつ自分が変わっていく。叩きつけられるのとは別に。肉が裂ける。骨が砕けて変わっていく。自分という形が何かに変わる。視界が流血で赤く染まる。

 

 そして、それ以上はなかった。地面に叩きつけていた触手が足から離れたのが分かる。目を開くとそこに居たのは、見たことのない化け物だった。妖怪ではない、神でもない、人間でもない。全身を黒い鎧のような鱗で覆った人型の何か。手には神だったものの首が握られている。そしてそれが地面に落ち、まるで解けるように黒い泥になった。

 

「お前は」

 

 能力は機能しない。いや、そもそもの能力が発動できない。その黒は、そんな俺を一瞥して消えた。飛んだわけでも移動した訳でもなく、目の前から消えた。理解はできない、ただ助けられたのは事実だ。気づけば悲鳴も止んでいる。

 何もわからないが、今はすすむしかない。傷を治しながら空を飛ぶ。現状、銃声も、悲鳴も聞こえない。何が起きたのかを理解しないまま射命丸に伝えられた天狗の屋敷に向かう。

 なんとか辿り着いた屋敷。まるで巨人が出入りするかのような巨大な戸を叩くがやはり音は聞こえない。

 少し押すと冗談のように扉が開く。一体どんな術を使えばこんなになるのかと内心笑って中に入ると、強風が彼を迎えた。

 

「行かせませんよ」

 

 まるで立ち塞がるように射命丸が上空から迎えていた。その足元には幾人かの白狼天狗がいる。そして、そのすべてがなぜか武器を抜き、その切先をむけている。

 しかし、古明地こよみには何もわからない。

 

 今一体自分がなぜ武器を向けられているのかも、正面にいる生物が何を言っているのかも。

 

 そして気づく、音がしなかったのでは無い。音が聞こえなくなっていた。回復しきれていなかったのかと考え、治そうとするが、何も変わらない。

 そして自分の耳を触ろうとした時に気付く。耳がない。何が起きたかわからない。そしてゆっくり視線を下ろす。そこにあったのは。人の物ではなかった。まるで甲冑を着た様に白い鱗に覆われている体。慌てて両手を確認すれば、振れば容易に肉を断ち切ることにできるであろう爪が生えている。

 一体何が起きたのか。わからない。一体何が原因で、一体どうしてこうなったのか。口を開けても声が出ない。代わりに地を揺らす様な声が漏れるだけだ。

 そして、目の前の兵士はその揺らぎを逃さない。不可視の刃がソレを襲うが、鱗に弾かれる。続けて兵士がその刃を振るう。犬の脚力に、妖怪の筋力、大木ですら切り裂く一振り、しかしそれは弾かれる。それ程までにその鱗は強靭だった。そしてソレは反撃もせずに自分の身体を見ている。

 

「マスタースパーク」

 

 刹那、上空から鈍い音と共に虹色の極光が大地を穿つ。巻き込まれたそれが光の中に消える。数秒間の照射、そして光が消えると上空から箒に乗った少女が舞い降りる。

 

「大丈夫か、にしてもこいつは一体なんだ。あれをもらっても無傷とは」

 

 燃え上がる様な色で溶けた地面の上で、それは立っている。ただ、無傷とは行かなかったようで白かった鱗が熱で溶けている。

 そして遂に、それがこちらに向き、口を開くと大地を揺らがせる咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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