人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 何とか何かを退けた妖怪のもり、ただ人間がいなくなったわけではない。この争いはいつ終わるのか。
 そんな森を1人、何かが歩いていた。



61話 願いを叶えるもの

 

 どこへ向かっているのか。自分がどうなっているのか。自分が一体何者なのか。何もわからない。ただ、

 

 帰らなくてはいけない。

 

 その意思だけがそれを動かしていた。周囲からは悲鳴や銃声が聞こえているが、誰にも会わず誰にも見つからない。ただ、その身体を引き摺って、歩いていた。

 

 偶然、それの進行経路の前に人間が飛び出す。右手には銃を持っており、左手には妖怪の首を持っている。

 人間の目に映ったそれは、不和だった。2本の足はある。ただ、その上には黒い靄がかかっている。そしてそこから、複数の声がする。怒声、悲鳴、応援、鳴き声、笑いそれらが不協和音として撒き散らされている。それを見てしまった人間は突然、笑顔になる。しかし、とめどなく涙を流していた。そして銃声とともにその人間は倒れた。自らの放った銃弾によって撃ち抜かれた頭から脳漿と血液の混ざった半透明の液体が溢れて地面を濡らした。

 そんなものに気を止めることもなく。何かは歩みを進める。次に、それが会ったのは傷ついた仲間を抱えた白狼天狗だった。胸に抱いている女の白狼天狗は白狼とは言えないほど赤く染まり動かない。

 

「お前なんなんだ。人間か?何でも良い、助けてくれ。こいつ、俺の幼馴染なんだ。俺を庇って人間に撃たれて」

 

 白狼天狗は必死にそれに願いを叫ぶ。

 

「俺に、願うのか?」

 

 願いを叫ばれた瞬間、それが徐々に形を取り始める。少しずつ形が整い、人型になった。全身は白い鱗で覆われており、まるで甲冑のように体を覆っている。

 

「ああ、誰でも良い。こいつを助けてくれ」

 

「わかった」

 

 それだけ答えるとそれは少し歩き、赤に染まった白狼天狗に触れる。すると少しずつ、赤が白くなり目を覚ます。

 

「あれ、わたし」

 

「お、お前。大丈夫なのか」

 

 腕に抱かれたまま目を覚ました女は少し状況を確認する。目の前には幼馴染の顔があった、泣きすぎたようで目が腫れている。私も正直死んだと思っていたし、彼が生きていて良かったと思った。ただ、あんな傷を負ってどうやって、

 

「良かったな。俺はこれで」

 

 突然聞こえた声に反応して女がそちらを向くとそこには、おそらく生物がいた。白かった鱗が少しずつ剥がれて体が見えて行く。まるで蛹が羽化するように露わになった体は男のものだった。上半身の鱗が外れた所で男は動き始めた。

 

「おい、待ってくれ。あんたは一体。」

 

 歩いてどこかに行こうとするそれに白狼天狗の男が声を掛ける。

 

「俺は...何だろうな」

 

 何か少し考えたようでそれの歩みが止まる。少し考えたのちそれはまるでこぼしたように告げた

 

「レキ...レキだ。機会があったらまたどこかで会おう」

 

 何か白狼天狗の男が後ろから話しているようだがもう男は振り返らずに歩みを進めた。

 思考がまとまらない。俺は一体なんなのか。さっきは何となくレキと名乗ったが自分の名前もわからない。ただ、どこかに帰らないといけない事は分かる。まぁ、とんでもなく酔っていても気付けば家のベッドで寝ていたことも多かったしきっと大丈夫。

 あぁ、なんか寒いと思ったら、俺裸じゃねぇか。ついでに服を見つけないと。一つ目的が出来た。どこかに服がないかぼんやりと周囲を探しながら歩いていると木に服が掛かっていた。

 

「おいおい、こんなの教科書でしか見たことないぞ」

 

 そんな愚痴を吐きながら服を着る。にしても、全く何も聞こえないし、ここは本当にどこなんだ。誰かに聞かないと。あぁ、さっきのやつに聞いておけば良かった。戻る...?いやあんなこと言った手前戻るのもダサいな。

まぁ、誰かいるだろ。

 あ、少しだけ聞こえるようになってきた。何だ、イヤホンつけすぎて耳が悪くなったという自認はあったけど、ここまでとは。でもってうるさいな、花火と悲鳴?あー、アトラクションでも近くにあるのか。て事は遊園地でも近いのか。

 

「人間。お前、1人とはいい度胸だな。仲間の恨み、ここで晴らす」

 

 突然声をかけられたことに反応して男は振り返る。そこにいたのは1人の白狼天狗だった。

 

「やっぱ遊園地か。申し訳ないんですが、ここは何処なんですかね。迷ってしまったようで」

 

「ここが何処か...だと?ここは、俺たち妖怪の山だ!」

 

 怒声と共に白狼天狗は急接近、腕に持っていた鉈のような刀を振り下ろす。直撃の感覚はあった。

 

「そんなに気に障ったのか。俺はただここが何処かを知りたいだけなのに」

 

 刹那白狼が感じたのは後悔。目の前にいるモノは人間だと思っていた。だが、違った。直撃した刀は砕け散っている。手に残されたのは使い物にならない武器だけ。

 

「お前、なんだ」

 

 人間がこんな力を持っているわけがない。ではこいつはなんなのか。

 

「俺はレキ。ただの迷子。早く帰りたいんだ。だからここが何処か教えてくれないか」

 

 敵意はない。それどころか悪意すらない。突然凶器を振り下ろされたというのに。

 

「何処と言われても俺には幻想郷の妖怪の山だとしか言えない」

 

「げんそうきょう?ようかいのやま?何だそれ、聞いたことねぇ...何県とかそういう情報はない?あとは....そうだな出口とか入り口とか」

 

 幻想郷も妖怪の山も知らない?止まると本当にこの正面にいるのは何者なのか。ただ、こいつを引き入れることが出来れば我々は有利になる。あの武器でダメージ受けないのであれば、人間の武器のダメージも意味がないはずだ。

 

「わかった。少し上に確認してみる。ただ、お願いがある」

 

「願い...?」

 

「そうだ。ここにいる人間を殺して欲しい」

 

 突然の発言にレキは戸惑いの表情を見せる。だが、

 

「まぁ、願いなら仕方ないか」

 

 そう言って、あっさりと承諾した。それに白狼天狗は驚き、目を丸くした。

 

「いいのか?」

 

「あぁ、別にお願いなら聞いてあげたほうがいいだろ」

 

 あっけらかんと笑うレキにありがとうとだけ言い残し、白狼天狗は飛び去った。

 

「まぁ、お願いなら仕方ないよな。と言ってもどうやって殺そうか」

 

 レキが迷っていると目の前に人間が現れる。その手には銃が握られており、手には白狼天狗の首がぶら下がっていた。

 

「おい、お前は何人殺したんだ?」

 

 人間は醜悪な笑みを浮かべながらレキに近付いてくる。

 

「何人って言われても...まだ1人も殺してない」

 

「おいおい、冗談だろ。日々の恨みを晴らす二度とない機会だぞ」

 

 その発言にレキはやれやれと笑い、男に近づく。そして一言。

 

「安心してくれ。すぐに殺すから」

 

「おいおい、強気だな。いいじゃねーか。頑張れよ」

 

 レキは相槌をうって、ゆっくりと手を伸ばすと、男の首を掴んだ。

 

「は?何のつもり」

 

 レキはその腕にゆっくりと力をこめていく。手に硬いものが潰れる感覚が伝わってくる。

 

「何って、お前で1人目って事だ」

 

「お...お前...」

 

 口から垂れた涎が赤くなって行く。男はその腕から逃れるためにレキを殴るが、殴った男の腕から血が吹き出す。

 

「ごめん、苦しいよな。でも白狼天狗も可哀想だったから。少し我慢しような」

 

 申し訳ない。そういいたげにレキは少し笑う。そして釣り上げられた魚のように暴れる男が何かが折れる音と共に動かなくなったのを見て手を離す。

 

「まず1人、一体何人いるんだか」

 

 ため息をついてレキはまた森を歩き始めた。今度は、人を殺す為に。

 

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