人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 強襲された人間と妖怪。崩れ始めた均衡。
 何かがが、双方の恨みと不信を養分に地に根を張りはじめてしまった。

 その何かを防ぐため、博麗の巫女が動き始める。


63話 人里へ

 

「いくらなんでも殺しすぎよ。人間を殺すということがどういうことなのかは分かっているはずよね」

 

 妖怪の山。その頂上付近。雲に隠れたその屋敷の中で博麗の巫女が苛つきを露わに天狗の上司である大天狗を問い詰めていた。

 しかし、大天狗の彼女も全く引く様子はない。

 

「だが、殺さなければ我々が死んでいた。人間を守ろうとするのは大変結構だが、この幻想郷にとって重要なものが人間だけだと思っているなら考えを改めるべきだ。それに何度も言うが、我々は君の情報ほど殺していない。あくまで正当防衛の範疇だ」

 

 人間とは、幻想郷において資源だった。妖怪への畏れ、神への信仰。神への信仰は妖怪でも生み出せるが、人間の方が信心深い者が多いこともあり重要視されている。

 そんな人間を殺すと言うのは幻想郷の命を削ることに他ならない。故に必要以上の殺生は禁じられている。だが、今回の件で相当な数の人間が減ってしまった。残ったのはほぼ体の弱い男と女子供。

 

「それにだ。今回は人間が攻めて来た。こちらに報告するか、止める義務があるんじゃないか。それとも、まさかとは思うが把握出来ていなかったのか」

 

 何も言えなかった。実際に、私は人間の動きを把握出来ていなかった。少なくとも、あんなに大規模な攻撃が行われるなら私が気付かずとも、誰かが気づいて、誰かが私に報告しても良いはずなのに。

 そんな私を見透かすように天狗は告げる。

 

「だが、君を攻めたところで何も生まないのは分かっている。そこでだ。我々は今回の首謀者と思われる人間を知っている」

 

 思わず耳を疑う。私も知らない人間の情報を何故妖怪が知っているのか。

 

「何が言いたいのかしら」

 

「簡単なことだよ。手を組もう。妖怪が行けば警戒されるが、博麗の巫女である君であれば問題ない。それに、君にも十分利点がある」

 

「今のところ、妖怪にしか利益がないように思えるけど?」

 

 天狗は嘲笑し、その口元を扇子で隠す。

 

「まだわからないのか。もうこれは妖怪と人間の問題ではない。今、人間は一体何を畏れ、信仰しているのかな」

 

「まさか」

 

「その様子だと、守矢神社のこともきいていないらしい。あそこの神は倒れたよ。君のところは大丈夫なのかな?」

 

 博麗神社には実体化した神がいない。だからこそ、現状は不明。八雲紫に聞けばその回答は得られるが、近頃、八雲紫は何処にも現れていない。

 

「分かったわ。情報ありがとう。幻想郷の危機であるならば、私が傍観していることはできない」

 

「ああ、頼んだよ。博麗の巫女」

 

 都合よく利用されている事はわかっているが、それでも私が動く以外の選択肢が見えなかった。

 そのまま、妖怪の森を後にする。いつもであれば、八雲紫から情報が来る。また、妖怪との橋の役割も彼女がしていた。故にこれまで私が主体的に動く事はなかった。だが、今彼女はいない。何処に行ったのかも不明。あの女の事だから万が一の事はないと思うが。天狗の持っていた首謀者と思われる男の情報が気になる。

 

「まさかね...」

 

 記憶の中に1人だけ、それに該当する男がいた。人間と妖怪の今の関係を築くに際して活躍した男。妖怪も人間も分け隔てなく、困っているものには手を伸ばす。まるで物語の英雄。だが、弱者を救済するという事は、強者から疎まれることになる。故に今の一定の平和を樹立した後に忽然と消えたと聞いている。理由など見え透いていた。

 だが、彼は人間だったと聞いているし、話の通りであればこんな虐殺めいた事はしないはずだ。

 けれど、ここは幻想郷。人間だったからと言って死んだら終わりとは限らない。

 

「そんなことしないわよね」

 

「浮かない顔してどうしたんだ」

 

「魔理沙」

 

 気付けば横に魔女帽子を押さえながら白黒の魔法使いが並走していた。真昼に星を掃いている箒に跨り、こちらをみている。

 

「何でもないわ。そういえば、化け物と戦ったと聞いたけど」

 

「化け物...ね。確かにアレは化け物だった」

 

 竜のような鱗を纏った人型のナニカ。それが、彼女の抱いた印象だった。

 

「そのことで相談したくてな。ひとつ言っておくと、私はアレを倒せていない。撤退させる事が出来ただけだ。だからまだ何処かにいる」

 

 少し悔しそうに言った魔理沙の表情を見る。別に、想定外ではない。

 

「そうなのね。戦った感想は?」

 

「異常に硬い。それしか分からなかった。そもそも攻撃もされなかった」

 

「そうなのね。一つ聞くけど、もし攻撃してきたとしたら、どうなっていたと思う?」

 

 魔理沙は少し考える素振りをした後、諦めて笑う。

 

「ここに居ない」

 

「なるほど」

 

 つまりは、次元が違うという事だ。もし、その化け物に敵意があったら。魔理沙は無事ではなく、被害が人間だけで済んだのかも分からない。

 

「全く...次から次へと」

 

 人里にいると言われた今回の首謀者。魔理沙と戦闘した化け物。人間を殺戮したナニカ。問題が乱立しているが、化け物とナニカ居場所が分からない以上。早急な対応が必要なのは、人里の首謀者。

 

「魔理沙、私は人里に行く。もし帰らなければ古明地さとりとレミリアに妖怪の山の件、首謀者は人里にいると伝えて」

 

「1人で行かせない。と言いたいところだけど、私以外頼れないんだろ」

 

 少し笑って頷く。そう、これは彼女にしか頼めない、思えば長い付き合いだった。幼い頃からよく遊びにきていたし、多くの異変も解決した。

 ただ、今回については、私しか出来ない。今回の潜入は人間の味方である博麗の巫女として動く必要がある。そこに妖怪との関係値が高く、人里から離れた人間が行けば面倒になる。

 

「間違っても死ぬなよ」

 

 それだけ言い残し、魔理沙は箒に乗って消えていった。

 

「死なないわよ。貴方をまた1人にはしない」

 

 気付けば目の前まで来ていた人里に降り立ち、門を叩く。中が少しざわめくが、何かの掛け声と共にすぐに扉は開けられた。

 

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