人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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64話 彼

 

 ランタンの光だけがぼんやりと照らす部屋に置かれた豪奢な寝台に、2人の少女が座っている。その目線の先には一つの扉。それは音を立てながらゆっくりと開き、ジーパンに白シャツという格好の1人の男が現れた。

 

「やぁ、久しいね。幻想郷はどうだい?」

 

 旧友にあったかのように笑い、男は気さくに少女に話かける。しかし、少女2人はその男を無視する。

 

「え...なに、俺のこと忘れた?」

 

 男は戸惑いながら少女達の前まで歩いて何かに気づく。

 

「あー、そうだね。心配をかけてごめん。戻ったよ」

 

 男が手を広げると2人の少女が飛び込んできた。想定外の行動に男は後ろに倒される。頭が床にあたり、ひどい音がしたが、それでも2人の少女は気にしていない。

 

「お帰りなさい。ヒロ」

 

 その言葉を聞いて、男は幸せそうに笑う。

 

「あぁ、本当にただいま。2人とも大きくなったね」

 

 ここで初めて男は2人を抱き返す。ここで初めて男は幸せそうに笑う。

 

「ただ、あんまり再開を喜んでいる時間もないんだよね。幻想郷の状況を教えてくれるかな」

 

 先にリリィが離れ、追って奏が名残惜しそうに離れる。何事もなかったかのように寝台に座り直す少女を見て相変わらずだなといいながら少年は頭を摩りながら立ち上がる。

 

「幻想郷は崩壊の危機。人間が外の世界の武器を持って、妖怪の山を襲った。銃と呼ばれるそうだけど、それを使って人間が妖怪を蹂躙出来てしまった。結果、人間からの畏れと神への信仰が無くなるところだった。けれど、正体不明の何かによって妖怪の山に進軍した人間はその全てが鏖殺された。結果、減少量は抑えられたけど人間が減ったこともあって十分過ぎるほどに減った」

 

 本当に何事もなかったかのように話し終えた少女に白い視線を向けながら、顎に手を当てる。

 

「銃か...あれを作るだけの技術は幻想郷の人間にはないはず。妖怪を含めて考えても良いなら、河童なら出来そうだけど。聞いている感じ、妖怪の山が襲われているならその節は消えそうかな。となると、外来人か」

 

 外の世界の知識を持ち込んだ奴がいる。極めて妥当な結論。だが、もし人間がそんな発明をすれば八雲紫が黙っていない。開発の段階でその人間は処理される。

 

「ええ、外来人は私の知る限り1人きた。ただ、彼女の犯行ではない」

 

 なぜそんなことがわかるのか。一瞬そう言おうとして男はため息をつく。

 

「あー、ちょっかいかけたのね。となると人間に能力者が生まれたか。ただ、それでも八雲紫が止めそうだけど」

 

 男は何かに気づき、リリィを見つめる。八雲紫は何があっても幻想郷を守る。少なくとも俺の知る限り彼女はそういう妖怪だった。ではなぜこんな状況を許しているのか。意外にも導いた答えは近くにあった。

 

「奪ったのか」

 

「そうよ」

 

 静かに告げた少女。それを見た少年は頭を抱える。リリィの能力は与奪。彼女が八雲紫の能力を奪ったのであれば辻褄が合う。

 

「正直、君の気持ちはわかる。八雲紫は君の宿敵と言っても過言じゃない。でも、だからと言って幻想郷を危機に陥れて良いわけじゃない」

 

 少年はとても悲しそうに少女を見つめる。リリィが何かを言おうとした時、それを遮ってこれまで無言を決め込んでいた少女が口を開く。

 

「これ以上の犠牲は出せないの」

 

 部屋を照らす灯りが少年の動揺を表すように、揺れる。

 

「犠牲?」

 

 想定とは違った回答に男は少し目を見開く。

 

「八雲紫は、人探しをしていたの。そのために何人もの人が犠牲になった。そして、ついに見つけた。ただ、過度な外の世界とのアクセスは幻想郷の崩壊を早めた」

 

「一体何を」

 

 そこまで言って、男は何かに気づく。思い当たる節があった。

 八雲紫が、そんなことをして、幻想郷の寿命が更に縮まることがわからない訳がない。つまりは、幻想郷の寿命を削ってまで達成したい目的がある。

 

「まさか」

 

 少女たちが静かに頷く。

 

「本人はそれを知っているのか」

 

「理解しているはず。だけど、その外来人が行方不明になった」

 

「頭は痛くなってきた。ただ、無難に考えれば人間を殺した何か、人間に武器を提供した誰か。このどちらかが、その外来人だろうな。俺の予想している八雲紫の目標が正しければ、外来人としても受け入れられないはず。聞いている感じ人間の襲撃に巻き込まれて死ぬような奴じゃないんだろ」

 

 2人は頷く。

 

「となると戦闘力も十分か。最悪の場合、戦わないとか。能力もわかってる?」

 

「同調する程度の能力」

 

 それを聞いて男は大きく息を吐く。

 

「八雲紫の目標達成には完璧な能力だね。にしてもとんでもないのを見つけてきたもんだ」

 

 そんな能力、幻想郷で扱えばどれだけ強力かなど考えるまでもない。同調とだけ聞けば、読心の延長程度だろうが恐らく実際は違う。相手のこれまでの人生に同調出来るのであれば、相手の能力、経験値、その全てを蓄積できる。そもそも心が持つのかという問題があるが、外来人の能力は外での世界の特性を反映する以上。ある程度の耐性はあると考えるべきだ。

 そこまで考え思考を一旦止め、2人に少女に向き直る。

 

「まぁ。一旦は人里の問題を解決しよう」

 

 

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