人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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67話 開戦

「何のつもりか教えてくれるかしら?」

 

 聞き覚えのない声で目を覚ます。身体は大の字のまま、腕は地面に杭で打ち付けられているようで身動きが取れない。

 

「逃げてきた。俺の正体は知ってるんだろう?レミリア・スカーレット」

 

 床も天井も壁も全てが紅い。そんな部屋に置かれた豪奢な椅子に1人の少女が腰掛けていた。蝙蝠の羽、黒いドレス。手には湯気を立てている紅茶の入ったマグカップ。

 

「ええ、でも私の質問に答えなさい。外来人」

 

 不愉快そうに鼻を鳴らし、床に打ち付けられた男を見る。

 

「本当に逃げてきただけだ。人間は何かによって恐ろしい速度で進化している。博麗の巫女も人間の駒になった。妖怪が生きていけなくなるのも時間の問題だ」

 

「で、私たちに何をしろと?」

 

「死なないで欲しい」

 

 少年ではないものから言葉が発せられる。すると突然、男が現れた。

 

「なるほど、リリィ。やっと動くか」

 

 それを見て、少年は杭ごと腕を抜き、立ち上がる。

 

「お前が、ヒロか」

 

「初めましてかな。こ...いや違うのか」

 

 何かを言おうとして詰まる。そして、人畜無害そうな笑みでヒロと呼ばれた男は少年を見る。

 

「じゃあ、ジョンくんにしようか。」

 

「ジョン...?あぁ、わかった」

 

 何かを察した少年は笑って目を瞑る。すると、何もなかったと言いたげに彼の体の傷が消えていく。

 

「やめなさいよそれ。気味が悪い」

 

 彼に杭を打ったレミリアにそんなことを言われて、少年はため息を吐く。

 

「なら最初から杭で打つんじゃねぇよ。わかってたんだろ」

 

「うーん。すごい能力だ。流石だね」

 

 それを見てパチパチと手を叩くヒロを片目で見る。

 

「お前が出てくると言うことは、俺に協力すると言う認識で構わないのか」

 

「話が早くて大変助かるよ。私も人間をなんとかしたい。このままでは妖怪がこの世界からいなくなってしまう」

 

「それは間違いない。まぁ、作戦も理解した。不満はあるが...俺が適任だな。決行は?」

 

 ヒロは目を細めて笑う。

 

「今晩」

 

「わかった。俺はお前らの作戦通りに動く。だが、人間がどこまで進化しているかわからない上、俺の能力はバレている可能性がある。どこまで耐えられるかはわからない。なるべく早く済ませてくれ」

 

 矢継ぎ早に言って、ジョンと呼ばれた男は伸びをする。合わせて骨が鳴った。

 

「え、急すぎない?私に出来ることはないの」

 

 目の前で突然現れた男と、その作戦に同意する男。全く意味がわからずルーミアがジョンに声をかける。

 

「そうだな。この館を守ってくれ、ここも安全じゃない」

 

 その発言に今度はレミリアが反応した。

 

「どう言う意味かしら」

 

「人間は妖怪に復讐したい。妖怪の山は襲撃済みで正直人間の勝利。なら次、どこを襲う。選択肢は地底かここだ。だが、地底は猛者が多い上に、地下に潜る必要がある。その道中で襲われるリスクもあるならもっと進化してからのほうが安全だ。なら、現状一番襲いやすいのはここだ」

 

 そう言って足元を指差す。その瞬間、外から戦闘の音が聞こえた。

 

「な?」

 

 ため息混じりにジョンは歩いていく。

 

「どこにいくのよ」

 

「あいつらにここには化け物がいるってわからせた方がいいだろ」

 

 刹那、彼の体が闇に包まれたかと思うと、まるで竜のような装甲が露わになる。

 

「やめなさい。それは主人である私の仕事。それに、私も十分化け物」

 

 ジョンが振り向くとそこには真紅の槍を携えたレミリアが立っている。

 

「それに、貴方今晩には去るんでしょう?そんな戦力抱えたくないのよ」

 

 そのまますれ違う。ゆっくりと歩くその姿は小さい背中ながら大きく感じた。

 

「確かに、俺が出るのは得策ではないか」

 

「その通り、君が居るってなったらここに大量の人間来るだろうしね」

 

「私も行ってくる。死なないでね。こ...ジョン」

 

「ありがとう。お前も無理はするなよ」

 

 その背中を送り出し、ヒロに向き直る。

 

「あれ、どうかしたかな」

 

「茶化すな。お前の目的はなんだ」

 

 そこで初めてジョンは明確な殺意をヒロへ向ける。それを見てジョンは突然吹き出したように笑い始めた。

 

「なにが面白い。お前の能力であれば、俺から隠すことはできるだろ」

 

「能力に頼り切っているというわけでもないんだね。ただ、人間を止めるという目的は同じ、少なくとも今回は協力しようよ」

 

 相変わらずヘラヘラとしているヒロに苛立ちながらも、ジョンはそれ以上の追求は諦める。

 

「ということで、私はもう行くよ。下準備も要るからね。もう陽が沈む。よろしくね」

 

 そこまで言い残してヒロはスキマに消えていく。あいつについて、複数人の記憶で見た事がある。過去、幻想郷に訪れ災禍を防ぎ、それ以降行方不明になった。なぜこのタイミングで現れたのか。あいつに対して同調ができない以上、今は知る手段がない。ただ、今はあいつの言葉を信じるしかない。

 外からは戦闘の音が聞こえている。俺がここにいても協力はできないし、見つかって援軍がきても面倒だ。目の前にスキマを開き、移動する。先は人里がギリギリ視認できる妖怪の山上空。ここから、であれば見つかることはないだろう。先に暴れる場所を見つける必要がある。前のように森の中だと狙撃される可能性がある。だが、視認できる限りではそんな場所は見えない。

 

「仕方がない。合図を待つか」

 

 少年はまだ少し硝煙の匂いがする森の上で、闇に身を包む。約束のその時まで。

 

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