人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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68話 Reason

 

 あの日から、レキ。という名の少年は地霊殿に住んでいる。だが、ある日突然少年が少女になっていた。その風貌は、古明地こよみそのままだった。こいしはやっぱりと喜んでいたが、私は心の底からは喜べなかった。

 

「さとり。どうしたの」

 

 目線を落としていた本から顔を上げるとそこにこよみが立っていた。

 

「少し眠くて。今日は早めに寝ますね」

 

 悲しそうに笑って部屋を後にしたこよみの背を見送り、立ち上がって部屋の明かりを消し、寝台に横になる。

 きっとこよみには気づかれてしまっている以上、私は残酷なことをしている。それはわかっている。

 見た目も記憶もこよみ。考え方もこよみと同じ。それでも私は彼をこよみとは思えなかった。

 おそらく、彼が言っていたリセットが入ってしまったのだろう。リセットが入ると、その影響で彼は消えると言っていた。

 けれど、私は彼から聞いていた話と少し違うと感じていた。

 そもそも、彼は、自己を堅牢な要塞で守っている。これは大量の他人の情報を自分に蓄積する彼にとってある種の自己防衛の手段だった。彼の能力、同調は言うなれば相手になる能力。相手の過去、経験、全てを無意識に調べて自身に蓄積、力にする能力だった。

 だが、そんな感情と記憶の情報の濁流に耐えられる生物はいない。人は一生を過ごすだけでも多くの歓喜、憤怒、哀愁、悦楽、恐怖...様々な感情を味わう。それをまるで貯めた水を一気に流すように一つの精神に浴びせれば一瞬で流れて消えてしまう。

 だからこそ、彼は自らの心に堅牢な要塞を組み上げた。その濁流で破壊されないために。彼の言っていたリセットとはその要塞の再構築を意味しているのだろう。要塞は同調をするたびに削られていく、その為、彼は完全に破壊される前に再建しなければいけない。だが、それを行うとこれまで外部に見えていた要塞はリセットされる。それが彼の言っていたリセット。

 けれど、心の読める私に見えていたのは要塞ではなく、その内部の彼だった。もし、私の想定が当たっていれば、彼のその部分は変わらないはず。けれど戻ってきたこよみの中に彼はいなかった。言うなれば主人のいない要塞のような状態。

 では私の知っているこよみはどこに居るのか。こよみはそれを明かすことなく消えてしまった。

 そもそも、私の想定が違っている可能性もある。けれど、それでも私は...

 

 私は微睡の中、窓が開けられた音で目を覚ます。こんな時間に窓が開くとは考え難い。そもそもこいしやこよみならドアから入ってくるはず。

 

「誰ですか」

 

 起き上がり、部屋を見回すと窓際に人影が見える。それはじっとこちらを見つめた後に、口を開けた。

 

「氷の妖精」

 

「チルノさん...?」

 

 背には、見覚えのない羽が生えている。前までは、氷のかけらのようなものだったはず。

 

「何か御用でしょうか」

 

 警戒は解かない。こよみの記憶から、チルノさんは強くなったという情報は手に入れている。

 

「古明地こよみについて教えに来た」

 

 一体何の目的でここに現れたのか。それを探ろうとサードアイを向けるが、全く読めない。

 

「残念だけどそれは対策済み。でも、それをするってことはまだ知らないってことだね」

 

 心が読めないことなどこの際どうでも良かった。私にとって今こよみの情報は何よりも価値のある情報だった。

 

「何を知ってるんですか」

 

「知っているというか貴方の知ってる古明地こよみから伝言を頼まれてね」

 

 ここで大きくため息。嫌に間を取って、妖精は口を開こうとしてまた閉ざす。それを数回行った後、諦めたように話し始めた。

 

「あたいが聞かされたのは彼の役割。ただ、これを彼の家族だった貴方に話したく無い。聞いたところで貴方にできることはないし、彼もそれを望んでいない。なら言うなよって話なんだけど。彼と約束してしまったからね。貴方が知りたいなら、言わないといけない」

 

 八雲紫から聞いていた話。私はそれしか知らない。それも非常に端的だった。古明地こよみは役割を持っている。たったそれだけ。

 それに、こよみの心からも読み取れなかった。だが目の前のチルノさんの言い振りからすれば、私の知らない彼の情報を知っている。大方、これを聞くことで私は幸せにならない。けれど、なにも知らないでお別れは嫌だった。

 

「教えて下さい。彼のことを」

 

「いいよ。なら話そう。結論から言うと、彼は今、幻想郷の今後を決める役割を担っている。そのために、彼は出会った人の情報を集積して、今後の幻想郷にとって何が最良かを決断しないといけない。その決断を下した後、彼は消える」

 

 彼がずっといてくれていると思ってはいなかった。でも、こんな終わりは悲しすぎる。気づけば私はどうしようもないのに、チルノさんに詰め寄っていた。

 

「なんでそんな、いったい彼が何をしたっていうんですか。彼はただの呑気に暮らしたい人間だったんですよ。でも、外の世界では苦しかった。これから幸せになるべきなのに」

 

「あたいもそう思う。彼はいいやつ。でも、彼が役割を果たせないと、幻想郷が壊れてしまう。知ってるでしょう、人間が外の世界の兵器を作れるようになって、妖怪への攻撃を始めた。結果、妖怪に対する畏れが減って幻想郷の根幹が崩れ去ろうとしてる」

 

「だから彼に犠牲になれと、私の家族に犠牲になってくれと?」

 

「そんなこと言われても、俺にもどうしようもない。それに彼はもう覚悟を決めてる。だから、どうか邪魔しないであげて」

 

 そういって、立ち去ろうとするチルノさん。その背に違和感を覚える。気付けば去ろうとするその背中に声を掛けていた。

 

「待って」

 

「なに?もうあたいの用は済んだよ」

 

 少し不機嫌になったのか、振り返ることもしない。

 いくつか疑問はあった。それが少しずつ確信に近づく。

 

「貴方、本当はこよみなんじゃないですか」

 

 

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